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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2001.07196
Cabot et al. (2020)
Detection of neutral atomic species in the ultra-hot jupiter WASP-121b
(ウルトラホットジュピター WASP-121b の中性原子種の検出)
解析における Rossiter-McLaughlin 効果と Center-to-Limb 変化によるアーティファクトは無視できる.しかし,これらの効果がより慎重に扱われる必要がある場合について議論を行った.
今回の解析では,Hα 線での大気吸収の新しい検出を報告する.Hα 線でのトランジット深さは 1.87% である.また過去の Na I 二重項の検出報告を確認し,さらにモデルテンプレートとの相互相関を介して Fe I の新しい検出を報告する.
今回検出された Hα 線の吸収は,広がった水素大気によるものだと解釈することができ,おそらくは大気散逸を起こしている.また Fe I は惑星の光球での平衡化学過程の結果生じているものである.
Evans et al. (2016) では,ハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 を用いた観測で透過スペクトル中に水蒸気が検出されている.また Evans et al. (2017) では水の検出と,昼側の大気での温度逆転層の存在が,同じくハッブル宇宙望遠鏡を用いた熱放射スペクトルをもとに報告されている.ただし TiO と VO の検出については,その後のトランジットと二次食の研究では存在が怪しいものとされた (Evans et al. 2018,Mikal-Evans et al. 2019).
TESS を用いた可視光の位相曲線では,昼側の大気に温度逆転層が存在することが指摘されている.温度逆転の起源としては,大気中の H-,TiO,VO による吸収が原因と示唆されている (Daylan et al. 2019,Bourrier et al. 2019),ただしその他の様々な吸収体も原因となりうる.
Salz et al. (2019) は,近紫外線の広帯域の吸収は Fe II に起因する可能性を示唆した,これは後に Mg II と共に検出されている (Sing et al. 2019).広がった電離ガスの存在が示され,磁場に沿った大気散逸が発生していることを示唆している.また Sindel (2018) は透過スペクトル中に Na の二重項を検出している.
arXiv:2001.07196
Cabot et al. (2020)
Detection of neutral atomic species in the ultra-hot jupiter WASP-121b
(ウルトラホットジュピター WASP-121b の中性原子種の検出)
概要
ウルトラホットジュピターは中心星から極めて強い輻射を受けている巨大系外惑星であり,軌道と大気特性という点で特に興味深い存在である.そのうちの一つである WASP-121b は,ロッシュ限界に近い距離にある,大きく傾いた軌道を公転している.またその大気は温度逆転層を持つ.ここでは,過去の観測で得られた高分散可視光スペクトルを解析した.解析における Rossiter-McLaughlin 効果と Center-to-Limb 変化によるアーティファクトは無視できる.しかし,これらの効果がより慎重に扱われる必要がある場合について議論を行った.
今回の解析では,Hα 線での大気吸収の新しい検出を報告する.Hα 線でのトランジット深さは 1.87% である.また過去の Na I 二重項の検出報告を確認し,さらにモデルテンプレートとの相互相関を介して Fe I の新しい検出を報告する.
今回検出された Hα 線の吸収は,広がった水素大気によるものだと解釈することができ,おそらくは大気散逸を起こしている.また Fe I は惑星の光球での平衡化学過程の結果生じているものである.
WASP-121b について
WASP-121b はウルトラホットジュピターと呼ばれる種類の系外惑星であり,平衡温度は 2358 K である.F 型星を公転しており,軌道長半径はロッシュ限界のわずか 1.15 倍という近距離を公転している.そのためこの惑星は潮汐破壊の縁にいる.潮汐変形モデルでは,恒星直下点での惑星半径は 2 惑星半径に達すると見られる.Evans et al. (2016) では,ハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 を用いた観測で透過スペクトル中に水蒸気が検出されている.また Evans et al. (2017) では水の検出と,昼側の大気での温度逆転層の存在が,同じくハッブル宇宙望遠鏡を用いた熱放射スペクトルをもとに報告されている.ただし TiO と VO の検出については,その後のトランジットと二次食の研究では存在が怪しいものとされた (Evans et al. 2018,Mikal-Evans et al. 2019).
TESS を用いた可視光の位相曲線では,昼側の大気に温度逆転層が存在することが指摘されている.温度逆転の起源としては,大気中の H-,TiO,VO による吸収が原因と示唆されている (Daylan et al. 2019,Bourrier et al. 2019),ただしその他の様々な吸収体も原因となりうる.
Salz et al. (2019) は,近紫外線の広帯域の吸収は Fe II に起因する可能性を示唆した,これは後に Mg II と共に検出されている (Sing et al. 2019).広がった電離ガスの存在が示され,磁場に沿った大気散逸が発生していることを示唆している.また Sindel (2018) は透過スペクトル中に Na の二重項を検出している.
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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2001.07345
Addison et al. (2020)
TOI-257b (HD 19916b): A Warm sub-Saturn on a Moderately Eccentric Orbit Around an Evolved F-type Star
(TOI-257b (HD 19916b):進化した F 型星の周りのやや離心率のある軌道にある温暖なサブサターン)
トランジットシグナルは TESS によって検出され,Minerva-Australis telescope array を用いて視線速度観測を行い,惑星起源のシグナルであることを確認した.TESS の測光観測やその他の視線速度観測,および恒星の振動による星震学から,惑星は 0.134 木星質量 (42.6 地球質量),0.626 木星半径 (7.02 地球半径),軌道離心率は 0.242,軌道周期は 18.38827 日と特定した.
中心星は等級が V = 7.570 の,明るくある程度進化した晩期 F 型星で,1.390 太陽質量,1.888 太陽半径,有効温度は 6075 K である.
また,2 番目のトランジットしない 71 日周期のサブサターン質量の惑星の存在を,視線速度データから統計的に実証した.
この系は星震学を用いて特徴付けされた系外惑星系の数少ない一つである.既知の系外惑星の中では温暖なサブサターンは希少な存在であり,今回の惑星の発見は似たような惑星系の形成と移動の歴史の将来的な研究において重要である.
arXiv:2001.07345
Addison et al. (2020)
TOI-257b (HD 19916b): A Warm sub-Saturn on a Moderately Eccentric Orbit Around an Evolved F-type Star
(TOI-257b (HD 19916b):進化した F 型星の周りのやや離心率のある軌道にある温暖なサブサターン)
概要
温暖なサブサターン TOI-257b (HD 19916b) の発見を報告する.こでは,NASA の Transiting Exoplanet Survey Satellite (TESS) で取得されたデータに基づくものである.トランジットシグナルは TESS によって検出され,Minerva-Australis telescope array を用いて視線速度観測を行い,惑星起源のシグナルであることを確認した.TESS の測光観測やその他の視線速度観測,および恒星の振動による星震学から,惑星は 0.134 木星質量 (42.6 地球質量),0.626 木星半径 (7.02 地球半径),軌道離心率は 0.242,軌道周期は 18.38827 日と特定した.
中心星は等級が V = 7.570 の,明るくある程度進化した晩期 F 型星で,1.390 太陽質量,1.888 太陽半径,有効温度は 6075 K である.
また,2 番目のトランジットしない 71 日周期のサブサターン質量の惑星の存在を,視線速度データから統計的に実証した.
この系は星震学を用いて特徴付けされた系外惑星系の数少ない一つである.既知の系外惑星の中では温暖なサブサターンは希少な存在であり,今回の惑星の発見は似たような惑星系の形成と移動の歴史の将来的な研究において重要である.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2001.07667
Kirk et al. (2020)
Confirmation of WASP-107b's extended Helium atmosphere with Keck II/NIRSPEC
(Keck II/NIRSPEC による WASP-107b の広がったヘリウム大気の確認)
Keck II/NIRSPEC を用いて,この惑星のトランジットの近赤外線の高分散 (R ~ 25000) スペクトルを取得した.超過吸収のピークは,波長10833 Å の He I 三重項で 7.26 ± 0.24% (30σ) であった.
ヘリウム吸収分布の強度と形状は,CARMENES およびハッブル宇宙望遠鏡を用いて行われた過去の散逸するヘリウムの観測結果と非常によく一致する.このことは,2 年間にわたって惑星から散逸するヘリウムの特徴には有意な時間変動が存在しないことを示唆している.
今回の結果は,Keck II/NIRSPEC が系外惑星からの大気散逸を検出する能力があることを示し,地上からの He I の観測を用いて系外惑星大気の蒸発を更に理解するための便利な装置であることを示すものである.
この検出に先立って,準安定な中性ヘリウム原子の 10833 Å の吸収は系外惑星の透過スペクトルにおいて強い特徴になることが指摘されていた (Seager & Sas- selov 2000; Turner et al. 2016; Oklopˇci ́c & Hirata 2018).しかし初期の検出の試みは成功していなかった (Moutou et al. 2003).
WASP-107b でヘリウムが検出される以前は,惑星周りの広がった大気の検出は主に紫外線波長の Lyman-α 線での観測によって行われていた.これはハッブル宇宙望遠鏡でのみ観測可能な波長である.これらの研究では大量の水素の散逸が検出されていた,例えば GJ 436b では Lyman-α の吸収深さは 56.3% である (Ehrenreich et al. 2015).
しかし Lyman-α 線は星間物質による吸収に伴う減光によって強い影響を受けるため,50 pc 程度より近い惑星でないと観測が難しく (Jensen et al. 2018など),さらに地球コロナ放射の混入の影響も受ける.
近年では Lyman-α での検出に加え,Hα 線でも広がった大気の検出が行われている.しかし Hα 線は,準安定ヘリウムの検出に比べて中心星の活動により強く影響を受ける.そのため惑星の吸収と恒星活動を誤認する可能性がある.準安定ヘリウムの場合は,中心星が活動的な場合であっても検出が可能という点で魅力的である.
Spake et al. (2018) によるヘリウムの検出報告以降,6 つの地上からの検出と,1 つの宇宙空間からの検出が報告されている.しかし,4 つの非検出も報告されており,おそらくは恒星の XUV フラックスが重要であると考えられる (Nortmann et al. 2018,Oklopcic 2019).
WASP-107b は Anderson et al. (2017) で検出された温暖なサブサターンであり,0.119 木星質量,0.924 木星半径,平衡温度は 736 K である.
この惑星では散逸する He I の検出の他に (Spake et al. 2018,Allart et al. 2019),Kreidberg et al. (2018) がハッブル宇宙望遠鏡を用いて水蒸気を発見しており,またメタンが欠乏し,高高度に凝縮物があるという兆候を発見している.
arXiv:2001.07667
Kirk et al. (2020)
Confirmation of WASP-107b's extended Helium atmosphere with Keck II/NIRSPEC
(Keck II/NIRSPEC による WASP-107b の広がったヘリウム大気の確認)
概要
サブサターン惑星 WASP-107b の,広がった大気中のヘリウムの検出について報告する.Keck II/NIRSPEC を用いて,この惑星のトランジットの近赤外線の高分散 (R ~ 25000) スペクトルを取得した.超過吸収のピークは,波長10833 Å の He I 三重項で 7.26 ± 0.24% (30σ) であった.
ヘリウム吸収分布の強度と形状は,CARMENES およびハッブル宇宙望遠鏡を用いて行われた過去の散逸するヘリウムの観測結果と非常によく一致する.このことは,2 年間にわたって惑星から散逸するヘリウムの特徴には有意な時間変動が存在しないことを示唆している.
今回の結果は,Keck II/NIRSPEC が系外惑星からの大気散逸を検出する能力があることを示し,地上からの He I の観測を用いて系外惑星大気の蒸発を更に理解するための便利な装置であることを示すものである.
背景
サブサターン系外惑星 WASP-107b の広がった大気中の中性ヘリウム原子は,ハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 での観測を用いて検出された (Spake et al. 2018).この観測では,98 Å という広い波長幅のビンで 0.049 ± 0.011% の超過吸収が 10833 Å のヘリウム三重項において検出された.これは惑星が 1010 - 3 × 1011 g s-1 (あるいは 10 億年あたり 0.1-4% の質量) を失っていることを示唆している.この検出に先立って,準安定な中性ヘリウム原子の 10833 Å の吸収は系外惑星の透過スペクトルにおいて強い特徴になることが指摘されていた (Seager & Sas- selov 2000; Turner et al. 2016; Oklopˇci ́c & Hirata 2018).しかし初期の検出の試みは成功していなかった (Moutou et al. 2003).
WASP-107b でヘリウムが検出される以前は,惑星周りの広がった大気の検出は主に紫外線波長の Lyman-α 線での観測によって行われていた.これはハッブル宇宙望遠鏡でのみ観測可能な波長である.これらの研究では大量の水素の散逸が検出されていた,例えば GJ 436b では Lyman-α の吸収深さは 56.3% である (Ehrenreich et al. 2015).
しかし Lyman-α 線は星間物質による吸収に伴う減光によって強い影響を受けるため,50 pc 程度より近い惑星でないと観測が難しく (Jensen et al. 2018など),さらに地球コロナ放射の混入の影響も受ける.
近年では Lyman-α での検出に加え,Hα 線でも広がった大気の検出が行われている.しかし Hα 線は,準安定ヘリウムの検出に比べて中心星の活動により強く影響を受ける.そのため惑星の吸収と恒星活動を誤認する可能性がある.準安定ヘリウムの場合は,中心星が活動的な場合であっても検出が可能という点で魅力的である.
Spake et al. (2018) によるヘリウムの検出報告以降,6 つの地上からの検出と,1 つの宇宙空間からの検出が報告されている.しかし,4 つの非検出も報告されており,おそらくは恒星の XUV フラックスが重要であると考えられる (Nortmann et al. 2018,Oklopcic 2019).
WASP-107b は Anderson et al. (2017) で検出された温暖なサブサターンであり,0.119 木星質量,0.924 木星半径,平衡温度は 736 K である.
この惑星では散逸する He I の検出の他に (Spake et al. 2018,Allart et al. 2019),Kreidberg et al. (2018) がハッブル宇宙望遠鏡を用いて水蒸気を発見しており,またメタンが欠乏し,高高度に凝縮物があるという兆候を発見している.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2001.06060
Khain et al. (2020)
Dynamical Classification of Trans-Neptunian Objects Detected by the Dark Energy Survey
(ダークエネルギーサーベイで検出された太陽系外縁天体の力学的分類)
ここでは,外部太陽系の天体についてのアップデートされた力学的な分類方法を提案する.また,この方法を Dark Energy Survey (DES) で観測された TNO のデータセットに対して適用した.
この分類スキームでは,1 個が inner centaur,19 個が outer centaurs,21 個が散乱円盤天体,47 個が分離天体, 48 個が共鳴天体,7 個が共鳴天体候補,97 個が古典的カイパーベルト天体に分類される.
散乱円盤天体と分離天体のうち,検出した 8 個の TNOs は軌道長半径が 150 AU より大きい.
\[
T_{\rm J}=\frac{a_{\rm J}}{a}+2\sqrt{\frac{a}{a_{\rm J}}\left(1-e^{2}\right)}\cos i
\]
で表され,\(a_{\rm J}\) は木星の軌道長半径,\(a\),\(e\),\(i\) は小天体の軌道長半径,軌道離心率,軌道傾斜角である.
ここでは,\(T_{\rm}<3.05\) で近日点距離が q < 7.35 AU のものを Jupiter-coupled objects と分類すうr.ただし DES ではこのような彗星に似た軌道を持つ天体は検出しておらず,以降の議論や分類では省略する.
Centeur (ケンタウルス族) は,巨大惑星との強い相互作用を経験する天体を指す.ここではケンタウルス族を inner centaur と outer centaur の 2 つの分類に分けることを提案する.
Inner centaur は Gladman et al. (2008) で記述されている従来のケンタウルス族で,軌道長半径が海王星のものより小さい (30 AU 程度未満) 天体を指す.また outer centaur を,近日点距離が海王星の軌道長半径よりも小さいが,軌道長半径は海王星の軌道長半径よりも大きいものとして定義する.
どちらのタイプも巨大惑星が存在する領域で大部分の時間を過ごすが,惑星との相互作用の頻度は両者で異なる.Inner centaur は巨大惑星との強い相互作用をその軌道の大部分において経験するが,outer centaur は近日点周辺を通過する間のみ相互作用が発生する.また outer は inner より軌道周期が長いため,単位時間あたりの相互作用は小さくなる.
この違いは,軌道の不安定性のタイムスケールの違いにつながる.つまり,outer は inner よりも長寿命である.
この分類では,従来のケンタウルス族天体であるキロンなどは inner centaur となり,Drac や Niku と行った高軌道離心率の長周期天体は outer centaur となる.
現在の DES でのサンプルはこの分類の天体を含んでいない.
SDO は,現在海王星によって軌道が散乱されている天体であり,結果として軌道長半径において急速で大きな変化を経験するものである.Outer centaur とは異なり,SDO の軌道は巨大惑星領域からは完全に外れており,そのため海王星とはいくらか弱い相互作用のみをする.
Gladman の定義と整合的になるよう,積分時間にわたる初期の軌道長半径との違いが数 AU より大きくなるものと定義した (積分時間は a < 100 AU の天体では 10 Myr,100 AU 以上の場合は 100 Myr).
\[
\frac{\Delta a}{a}=\frac{{\rm max}\left(a\left(t\right)-a_{0}\right)}{a_{0}}
\]
とした時に
\[
\frac{\Delta a}{a}>0.0375
\]
となるものを境界とする.つまり,積分時間内における軌道長半径の最大変化量で区別する.この値は,40 AU における典型的な古典的 TNO に対して軌道の変化量が 1.5 AU となるものである.
一般的に,大きな近日点距離を持つ TNO が存在している.ここでは Gladman の定義に従い,軌道離心率が 0.24 より大きい,散乱されておらず共鳴もしていない天体を分離天体とした.これらの天体の大部分は海王星との 1:2 共鳴の位置 (47.7 AU) より遠方にある.
arXiv:2001.06060
Khain et al. (2020)
Dynamical Classification of Trans-Neptunian Objects Detected by the Dark Energy Survey
(ダークエネルギーサーベイで検出された太陽系外縁天体の力学的分類)
概要
外部太陽系は多数の小天体を持ち,これらは太陽系外縁天体 (trans-Neptunian objects, TNOs) として知られている.これらの遠方天体は異なる力学的な振る舞いを持っており.それぞれ似た軌道進化を経験した下位集団として分類可能である.ここでは,外部太陽系の天体についてのアップデートされた力学的な分類方法を提案する.また,この方法を Dark Energy Survey (DES) で観測された TNO のデータセットに対して適用した.
この分類スキームでは,1 個が inner centaur,19 個が outer centaurs,21 個が散乱円盤天体,47 個が分離天体, 48 個が共鳴天体,7 個が共鳴天体候補,97 個が古典的カイパーベルト天体に分類される.
散乱円盤天体と分離天体のうち,検出した 8 個の TNOs は軌道長半径が 150 AU より大きい.
太陽系外縁天体の新しい分類手法
ここで提案する太陽系外縁天体の新しい分類手法は,基本的には Gladman et al. (2008) での分類手法を適用するが,最近十年における進展を反映していくつかの変更を施したものである.いずれの分類手法においても,各カテゴリの境界はいくらか恣意的なものであり,これらのいくつかの力学的な特徴は広い範囲にまたがる.Jupiter-coupled object
Jupiter-coupled object は,小天体の木星に対するティスランパラメータ \(T_{\rm J}\) によって定義される.ティスランパラメータは\[
T_{\rm J}=\frac{a_{\rm J}}{a}+2\sqrt{\frac{a}{a_{\rm J}}\left(1-e^{2}\right)}\cos i
\]
で表され,\(a_{\rm J}\) は木星の軌道長半径,\(a\),\(e\),\(i\) は小天体の軌道長半径,軌道離心率,軌道傾斜角である.
ここでは,\(T_{\rm}<3.05\) で近日点距離が q < 7.35 AU のものを Jupiter-coupled objects と分類すうr.ただし DES ではこのような彗星に似た軌道を持つ天体は検出しておらず,以降の議論や分類では省略する.
Centaur (ケンタウルス族)
ここでのケンタウルス族の分類は,Gladman による分類との違いがある.Centeur (ケンタウルス族) は,巨大惑星との強い相互作用を経験する天体を指す.ここではケンタウルス族を inner centaur と outer centaur の 2 つの分類に分けることを提案する.
Inner centaur は Gladman et al. (2008) で記述されている従来のケンタウルス族で,軌道長半径が海王星のものより小さい (30 AU 程度未満) 天体を指す.また outer centaur を,近日点距離が海王星の軌道長半径よりも小さいが,軌道長半径は海王星の軌道長半径よりも大きいものとして定義する.
どちらのタイプも巨大惑星が存在する領域で大部分の時間を過ごすが,惑星との相互作用の頻度は両者で異なる.Inner centaur は巨大惑星との強い相互作用をその軌道の大部分において経験するが,outer centaur は近日点周辺を通過する間のみ相互作用が発生する.また outer は inner より軌道周期が長いため,単位時間あたりの相互作用は小さくなる.
この違いは,軌道の不安定性のタイムスケールの違いにつながる.つまり,outer は inner よりも長寿命である.
この分類では,従来のケンタウルス族天体であるキロンなどは inner centaur となり,Drac や Niku と行った高軌道離心率の長周期天体は outer centaur となる.
オールト雲天体
ここでは,軌道長半径が 2000 AU を超えるものをオールト雲の天体と分類する.軌道が非常に大きいため,主に銀河潮汐や近傍を通過する恒星による影響を受ける.現在の DES でのサンプルはこの分類の天体を含んでいない.
Resonant object (共鳴天体)
外部太陽系には,海王星と軌道共鳴に入っている天体が多数存在している.ここでは共鳴について Gladman et al. (2008) と同様に離心率型の共鳴を考慮した.ただし理論的には TNO は傾斜角型の共鳴も経験する.これは高次の効果であるため,傾斜角型の共鳴は将来的な研究での課題とする.Scattering disk object (SDO,散乱円盤天体)
ここでの散乱円盤天体の分類は,Gladman による分類との違いがある.SDO は,現在海王星によって軌道が散乱されている天体であり,結果として軌道長半径において急速で大きな変化を経験するものである.Outer centaur とは異なり,SDO の軌道は巨大惑星領域からは完全に外れており,そのため海王星とはいくらか弱い相互作用のみをする.
Gladman の定義と整合的になるよう,積分時間にわたる初期の軌道長半径との違いが数 AU より大きくなるものと定義した (積分時間は a < 100 AU の天体では 10 Myr,100 AU 以上の場合は 100 Myr).
\[
\frac{\Delta a}{a}=\frac{{\rm max}\left(a\left(t\right)-a_{0}\right)}{a_{0}}
\]
とした時に
\[
\frac{\Delta a}{a}>0.0375
\]
となるものを境界とする.つまり,積分時間内における軌道長半径の最大変化量で区別する.この値は,40 AU における典型的な古典的 TNO に対して軌道の変化量が 1.5 AU となるものである.
Detached object (分離天体)
分離天体は,力学的に海王星の影響から切り離された天体を指す.一般的に,大きな近日点距離を持つ TNO が存在している.ここでは Gladman の定義に従い,軌道離心率が 0.24 より大きい,散乱されておらず共鳴もしていない天体を分離天体とした.これらの天体の大部分は海王星との 1:2 共鳴の位置 (47.7 AU) より遠方にある.
Classical belt objects
古典的なカイパーベルト天体は,散乱されておらず離心率が 0.24 より小さいものを指す.論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2001.06269
Tan & Showman (2020)
Atmospheric circulation of tidally locked gas giants with increasing rotation and implications for white-dwarf-brown-dwarf systems
(増加する自転周期の潮汐固定巨大惑星の大気循環と白色矮星-褐色矮星系への応用)
しかし,白色矮星の周りを極めて短い軌道で公転する褐色矮星という,強い輻射を受ける天体の分類も存在する.これらの軌道と自転周期は 1-2 時間程度と短い.これらの天体における位相曲線とその他の観測は既に行われており,大気循環における惑星の自転速度の影響に関しては根本的な疑問が投げかけられている.
これまでに,大部分のモデル研究は 1 日を超える自転周期の惑星について考えてきており,これは典型的なホットジュピターを想定したものである.ここでは,潮汐固定された惑星の大気で,惑星の自転周期を 2.5 時間にまで減らしたもの (すなわち自転速度を上げたもの) を想定して大気循環を研究した.
惑星の自転周期が減少すると赤道の東向きジェットの幅が減少し,これは赤道の変形半径の減少による赤道の導波路が細くなることと整合的である.それに従って赤道のホットスポットの東向きのずれも減少し,赤道から外れた緯度での西向きの高温領域のずれは次第に顕著になる.また,高緯度領域では風は弱くなり,自転の影響がより支配的になる.天体の昼夜間の温度差は,自転の強い影響により大きくなる.
ここでシミュレートした大気は変動性を示し,これはおそらく不安定性と波の相互作用によって引き起こされている.典型的なホットジュピターのモデルとは異なり,高速自転モデルの熱位相曲線は,極大のフラックスは二次食のタイミングと揃っている.この結果は,ホットジュピターとは異なり,白色矮星を公転する多くの褐色矮星が赤外線のフラックスの極大が二次食と揃っていることを説明できる可能性がある.
今回の結果は,高速自転の潮汐固定された惑星の大気の物理現象への理解を助けるものとなる.
これらの系は,連星進化の生き残りであると考えられる.太陽類似の恒星が年老いて半径が拡大し,その近傍を公転する伴星を飲み込む.伴星の軌道はガス抵抗によって次第に縮小する.進化した恒星の外層はその後希薄になり,後には残骸の白色矮星と,近接して公転する低質量の伴星 (褐色矮星など) を残すと考えられる (Hellier 2001,Percy 2007).
このようにして形成された二次的な褐色矮星の多くは,その大気から白色矮星へと物質を供給しており,その観測的な特徴は降着円盤だけではなく,潮汐力によって褐色矮星が非球形に変形している影響により,しばしば複雑なものになる.
幸いにも,このような系のうちいくつかは白色矮星と褐色矮星が離れており,二次褐色矮星からの大気の流出が存在しないものがある.そのためそのような系は,3 次元の大気構造と循環の研究を行う良い対象である.
観測的な利点として,褐色矮星の方から放射された近赤外線の光子は,一般には高温の白色矮星から波長域としては分離しやすい (白色矮星のフラックスのピークは典型的には紫外線の波長域にある).典型的には褐色矮星は白色矮星よりも遥かに大きなエネルギーを赤外線で放射しており,そのため観測的な特徴付けが行いやすくなる.
このような系のいくつかにおいて,様々な波長での位相曲線が得られている.例えば,NLTT 5306 (軌道周期 102 分,Steele et al. 2013),WD0137-349 (116 分,Casewell et al. 2015など),EPIC 21223532 (68 分,Casewell et al. 2018),WD 1202-024 (71 分,Rappaport et al. 2017) である.
これらの位相曲線はしばしば大きな昼夜間の温度差を示し,二次食と輻射のピークの位相のずれがほぼゼロであることが分かっている.またいくつかのケースではフラックスのピークは二次食よりもわずかに後に見られており,これは大部分のホットジュピターの近赤外線の位相曲線では二次食の後に極大が来ていることとは対照的である.このことは,潮汐固定された天体の大気における全球的な循環と昼夜間の熱輸送には,自転の強い影響があるとする考え方に対して根本的な疑問を投げかけるものである.
白色矮星まわりの極めて近接した褐色矮星と,軌道周期が典型的には数日程度の一般的なホットジュピターの間には,軌道周期が 1 日程度かそれ未満で太陽類似星を公転するいくつかの巨大惑星や褐色矮星が発見され,特徴付けられている.例えば WASP-12b は軌道周期が 1.1 日,WASP-103b は 0.93 日,WASP-18b は 0.94 日,WASP-19b は 0.78 日,NGTS-7Ab は 0.68 日,TOI 263.01 は 0.56 日である.
Matsuno-Gill パターンは,ロスビー数が 1 程度で,赤道のロスビー変形半径が惑星半径と同程度になる低速な自転の場合に顕著に発生する.ロスビー変形半径は \(L_{\rm D}0\sqrt{c/\beta}\) で表され,\(c\) は重力波の速度,\(\beta=df/dy\) はコリオリパラメータ \(f\) の子午面方向の勾配で,これは北に行くほど大きくなる.またコリオリパラメータは \(f=2\Omega\sin\phi\) で,\(\phi\) は緯度,\(\Omega\) は惑星の自転率 (自転速度) であり,したがって \(\beta=2\Omega\cos\phi/a\) で表される.\(a\) は惑星半径である.また,赤道では \(\beta=2\Omega/a\) となることが示唆される.
鉛直方向に長い波長を持つ重力波の水平方向の位相速度は,\(c\sim2NH\) が良い近似である.ここで \(N\) はブラント・バイサラ振動数,\(H\) は大気のスケールハイトである.赤道の変形半径は \(L_{\rm D}=\sqrt{NHa/\Omega}\) と書ける.
Showman & Polvani (2011) では,同期自転する惑星での赤道ジェットの子午面の半値幅は,赤道の変形半径で近似できると予測している.
惑星の自転周期が減少するにつれ (自転率が上昇するにつれ),ロスビー変形半径は惑星半径に対して減少する.これに付随する定常波の子午面の広がりは小さくなると予想され,波の構造は赤道に近くなる.波の導波路を超えた高緯度での力の釣り合いは,摩擦力が弱い場合は圧力勾配とコリオリの力が主要になる.これは地衡レジームと呼ばれる状態である.
この枠組みに基づき,自転周期が短くなるにつれて 2 つの異なる振る舞いが出現すると予測される.定常波は引き起こされるが赤道に近い領域に制限され,高緯度では流れは急速に地衡風的になる.赤道のスーパーローテーションは依然として存在するが,子午線方向の広がりは赤道の変形半径が小さくなることにより減少すると予想される.
この循環パターンの変化は,熱位相曲線とその他の観測量に直接影響を及ぼす.低速自転の場合は東向きにずれたホットスポットが支配的であり,これにより二次食より前に惑星からのフラックスの極大が現れる.しかし高速自転の場合,つまり Matsuno-Gill パターンが赤道により近い領域に制限されている場合,赤道ジェットと東向きのホットスポットのずれは惑星の領域の小さい領域のみを占めるようになる.その一方で,赤道から外れたロスビー渦に伴った西向きにずれた高温領域と,地衡風レジームにおける非シフト-シフトのパターン (短い自転周期の場合惑星の大部分の緯度で支配的になる) が熱位相曲線に大きな寄与をし,そのためフラックスのピークの遺贈に影響を及ぼす.この効果は Penn & Valis (2017) において浅水モデルを用いて示されている.
過去の研究では,ホットジュピターにおける大気循環に対する自転の影響が調査されてきた.この研究には,同期自転するホットジュピターを想定したものから,同期から外れた状態まで自転周期を変化させたものもある.また,擬同期自転をしたエキセントリック・プラネットを想定したシミュレーションも行われている (Kataria et al. 2013).
一般に,自転が高速であるほど赤道ジェットは細くなるという描像が支持されている.しかし,非同期自転や恒星の日射の変化,離心率などの複雑な影響により,自転周期のみの影響の理解を複雑にしている.さらに,白色矮星・褐色矮星連星のような極めて高速で自転しているパラメータ領域の調査は行われていない.
arXiv:2001.06269
Tan & Showman (2020)
Atmospheric circulation of tidally locked gas giants with increasing rotation and implications for white-dwarf-brown-dwarf systems
(増加する自転周期の潮汐固定巨大惑星の大気循環と白色矮星-褐色矮星系への応用)
概要
昼夜間の熱強制と極端な恒星輻射を受ける潮汐固定された巨大惑星は,典型的には軌道周期は数日程度であり,大気循環における自転の役割はあまり大きいものではない.しかし,白色矮星の周りを極めて短い軌道で公転する褐色矮星という,強い輻射を受ける天体の分類も存在する.これらの軌道と自転周期は 1-2 時間程度と短い.これらの天体における位相曲線とその他の観測は既に行われており,大気循環における惑星の自転速度の影響に関しては根本的な疑問が投げかけられている.
これまでに,大部分のモデル研究は 1 日を超える自転周期の惑星について考えてきており,これは典型的なホットジュピターを想定したものである.ここでは,潮汐固定された惑星の大気で,惑星の自転周期を 2.5 時間にまで減らしたもの (すなわち自転速度を上げたもの) を想定して大気循環を研究した.
惑星の自転周期が減少すると赤道の東向きジェットの幅が減少し,これは赤道の変形半径の減少による赤道の導波路が細くなることと整合的である.それに従って赤道のホットスポットの東向きのずれも減少し,赤道から外れた緯度での西向きの高温領域のずれは次第に顕著になる.また,高緯度領域では風は弱くなり,自転の影響がより支配的になる.天体の昼夜間の温度差は,自転の強い影響により大きくなる.
ここでシミュレートした大気は変動性を示し,これはおそらく不安定性と波の相互作用によって引き起こされている.典型的なホットジュピターのモデルとは異なり,高速自転モデルの熱位相曲線は,極大のフラックスは二次食のタイミングと揃っている.この結果は,ホットジュピターとは異なり,白色矮星を公転する多くの褐色矮星が赤外線のフラックスの極大が二次食と揃っていることを説明できる可能性がある.
今回の結果は,高速自転の潮汐固定された惑星の大気の物理現象への理解を助けるものとなる.
白色矮星周りの褐色矮星
白色矮星を公転する褐色矮星は非常に短い軌道を持ち,軌道周期とそれに潮汐固定された自転周期は 1-2 時間である.これらの系は,連星進化の生き残りであると考えられる.太陽類似の恒星が年老いて半径が拡大し,その近傍を公転する伴星を飲み込む.伴星の軌道はガス抵抗によって次第に縮小する.進化した恒星の外層はその後希薄になり,後には残骸の白色矮星と,近接して公転する低質量の伴星 (褐色矮星など) を残すと考えられる (Hellier 2001,Percy 2007).
このようにして形成された二次的な褐色矮星の多くは,その大気から白色矮星へと物質を供給しており,その観測的な特徴は降着円盤だけではなく,潮汐力によって褐色矮星が非球形に変形している影響により,しばしば複雑なものになる.
幸いにも,このような系のうちいくつかは白色矮星と褐色矮星が離れており,二次褐色矮星からの大気の流出が存在しないものがある.そのためそのような系は,3 次元の大気構造と循環の研究を行う良い対象である.
観測的な利点として,褐色矮星の方から放射された近赤外線の光子は,一般には高温の白色矮星から波長域としては分離しやすい (白色矮星のフラックスのピークは典型的には紫外線の波長域にある).典型的には褐色矮星は白色矮星よりも遥かに大きなエネルギーを赤外線で放射しており,そのため観測的な特徴付けが行いやすくなる.
このような系のいくつかにおいて,様々な波長での位相曲線が得られている.例えば,NLTT 5306 (軌道周期 102 分,Steele et al. 2013),WD0137-349 (116 分,Casewell et al. 2015など),EPIC 21223532 (68 分,Casewell et al. 2018),WD 1202-024 (71 分,Rappaport et al. 2017) である.
これらの位相曲線はしばしば大きな昼夜間の温度差を示し,二次食と輻射のピークの位相のずれがほぼゼロであることが分かっている.またいくつかのケースではフラックスのピークは二次食よりもわずかに後に見られており,これは大部分のホットジュピターの近赤外線の位相曲線では二次食の後に極大が来ていることとは対照的である.このことは,潮汐固定された天体の大気における全球的な循環と昼夜間の熱輸送には,自転の強い影響があるとする考え方に対して根本的な疑問を投げかけるものである.
白色矮星まわりの極めて近接した褐色矮星と,軌道周期が典型的には数日程度の一般的なホットジュピターの間には,軌道周期が 1 日程度かそれ未満で太陽類似星を公転するいくつかの巨大惑星や褐色矮星が発見され,特徴付けられている.例えば WASP-12b は軌道周期が 1.1 日,WASP-103b は 0.93 日,WASP-18b は 0.94 日,WASP-19b は 0.78 日,NGTS-7Ab は 0.68 日,TOI 263.01 は 0.56 日である.
理論的なモチベーション
一般的なホットジュピター大気における昼夜間の輻射強制に対する主要な動的応答は,定常的な全球規模の赤道ロスビー波およびケルビン波である.赤道ロスビー波とケルビン波の重ね合わせ (いわゆる Matsuno-Gill パターン,Matsuno 1966,Gill 1980) は,高緯度から赤道へ東向きの運動量を送り込む渦速度の位相の傾斜を引き起こし,これが高速な東向きの赤道ジェット,もしくはスーパーローテーションを誘起する.赤道でのスーパーローテーションによる移流とケルビン波の東向きの伝播が組み合わさることによって,惑星のホットスポットを恒星直下点から東向きに移動させるのを助ける.Matsuno-Gill パターンは,ロスビー数が 1 程度で,赤道のロスビー変形半径が惑星半径と同程度になる低速な自転の場合に顕著に発生する.ロスビー変形半径は \(L_{\rm D}0\sqrt{c/\beta}\) で表され,\(c\) は重力波の速度,\(\beta=df/dy\) はコリオリパラメータ \(f\) の子午面方向の勾配で,これは北に行くほど大きくなる.またコリオリパラメータは \(f=2\Omega\sin\phi\) で,\(\phi\) は緯度,\(\Omega\) は惑星の自転率 (自転速度) であり,したがって \(\beta=2\Omega\cos\phi/a\) で表される.\(a\) は惑星半径である.また,赤道では \(\beta=2\Omega/a\) となることが示唆される.
鉛直方向に長い波長を持つ重力波の水平方向の位相速度は,\(c\sim2NH\) が良い近似である.ここで \(N\) はブラント・バイサラ振動数,\(H\) は大気のスケールハイトである.赤道の変形半径は \(L_{\rm D}=\sqrt{NHa/\Omega}\) と書ける.
Showman & Polvani (2011) では,同期自転する惑星での赤道ジェットの子午面の半値幅は,赤道の変形半径で近似できると予測している.
惑星の自転周期が減少するにつれ (自転率が上昇するにつれ),ロスビー変形半径は惑星半径に対して減少する.これに付随する定常波の子午面の広がりは小さくなると予想され,波の構造は赤道に近くなる.波の導波路を超えた高緯度での力の釣り合いは,摩擦力が弱い場合は圧力勾配とコリオリの力が主要になる.これは地衡レジームと呼ばれる状態である.
この枠組みに基づき,自転周期が短くなるにつれて 2 つの異なる振る舞いが出現すると予測される.定常波は引き起こされるが赤道に近い領域に制限され,高緯度では流れは急速に地衡風的になる.赤道のスーパーローテーションは依然として存在するが,子午線方向の広がりは赤道の変形半径が小さくなることにより減少すると予想される.
この循環パターンの変化は,熱位相曲線とその他の観測量に直接影響を及ぼす.低速自転の場合は東向きにずれたホットスポットが支配的であり,これにより二次食より前に惑星からのフラックスの極大が現れる.しかし高速自転の場合,つまり Matsuno-Gill パターンが赤道により近い領域に制限されている場合,赤道ジェットと東向きのホットスポットのずれは惑星の領域の小さい領域のみを占めるようになる.その一方で,赤道から外れたロスビー渦に伴った西向きにずれた高温領域と,地衡風レジームにおける非シフト-シフトのパターン (短い自転周期の場合惑星の大部分の緯度で支配的になる) が熱位相曲線に大きな寄与をし,そのためフラックスのピークの遺贈に影響を及ぼす.この効果は Penn & Valis (2017) において浅水モデルを用いて示されている.
過去の研究では,ホットジュピターにおける大気循環に対する自転の影響が調査されてきた.この研究には,同期自転するホットジュピターを想定したものから,同期から外れた状態まで自転周期を変化させたものもある.また,擬同期自転をしたエキセントリック・プラネットを想定したシミュレーションも行われている (Kataria et al. 2013).
一般に,自転が高速であるほど赤道ジェットは細くなるという描像が支持されている.しかし,非同期自転や恒星の日射の変化,離心率などの複雑な影響により,自転周期のみの影響の理解を複雑にしている.さらに,白色矮星・褐色矮星連星のような極めて高速で自転しているパラメータ領域の調査は行われていない.
結論
ここでは,天体の自転周期を 80 時間から最短 2.5 時間まで変化させて,大気循環のパターンの 3 次元計算を行った.- 天体の自転周期を減少 (自転速度を増大) させると,スーパーローテーションする赤道ジェットの子午線方向の幅,およびそれに付随したホットスポットの東向きのずれが狭くなり,定常ロスビー波のパターン (Matsuno-Gill パターン) は低緯度領域に限定される.高速自転の場合,極方向の領域はロスビー数が小さい地衡風平衡の状態に入り,この領域はロスビー数が 1 程度である従来の低速自転のホットジュピターとは大きく異なる力学的特性を示す.
- 全球的には,昼夜間の温度差は自転周期が減少するにつれて大きくなる.同様に全球的には,昼側のホットスポットの東向きのずれは自転周期の減少につれて減少する.
- ここでの高速自転モデルでの熱位相曲線は,二次食と位相曲線の極大のタイミングがほぼ揃っており,これは典型的なホットジュピターとは異なる特徴である.この結果は,高速自転している白色矮星・褐色矮星系で見られているフラックスの極大と二次食の位相のずれが小さいことの説明を助ける (Casewell et al. 2015など).一般的に,同様の輻射水準のホットジュピターと比較すると,短周期で白色矮星を公転する褐色矮星は大きな昼夜間の放射の違いがあるが,二次食とのフラックスの極大のずれは小さくなる.何らかの大気摩擦 (磁気抵抗など) が存在した場合は位相曲線に大きな影響を及ぼすが,このモデルでローレンツ力の影響を適切に取り扱うには,より現実的なモデルが必要である.
- 高速自転天体では,低緯度と高緯度の両方で多くの小規模の渦と,その時間変動が存在する.これは順圧不安定と傾圧不安定に由来する可能性がある.どちらの不安定性も,帯状風の構造と温度を含む,平均の大気の状態を形成するのに重要である.曲がりくねった赤道上の特徴は,全てのモデルのスーパーローテーションジェットで見られ,おそらくは順圧不安定性によるものである.
- 赤道のスーパーローテーションジェットは全ての自転周期のモデルに存在する.赤道ジェットの子午線方向の半値幅は赤道でのロスビー変形半径で概ねスケールし,これは Showman & Polvani (2011) で予測されていた振る舞いである.高速自転モデルでは,赤道から離れると,強い昼夜間の強制により多数の交互に流れる東向きと西向きの帯状風が生成される.これは,我々に馴染みの深い天体である木星を想定したシミュレーションにおける,対流もしくは傾圧不安定性によって引き起こされる帯状風と類似している.しかしここでは,これらのジェットは木星とは非常に異なるタイプの強制に応答して形成されている.これらの赤道から離れたジェットは,リネススケール (Rhines scale) でよくスケールする.
- 輻射のタイムスケールが長いモデルについても調査を行った.短い輻射タイムスケールを持つモデルと比べて,これらのモデルはより小さい水平方向の温度差しか生じない.若干の赤道・極域の温度差は示し,風は主に帯状に揃っているが,短い輻射時定数を持つ高速自転天体では一般的な,小スケールの交互に流れるジェット構造を示さない.
天文・宇宙物理関連メモ vol.1314 Gibson et al. (2020) ウルトラホットジュピター WASP-121b での中性鉄原子の検出