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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1708.07566
Chancia et al. (2017)
Weighing Uranus' moon Cressida with the η ring
(η 環を用いた天王星の衛星クレシダの質量測定)

概要

η 環 (η ring) は,天王星の細い環のうちの一つである.この環は,幅が 1 - 2 km の高密度のコア部分と,40 km 程度まで広がる薄い外側のシート構造からなる.濃いコア部分は,天王星の小さい衛星 Cressida (クレシダ) との 3:2 内側リンドブラッド共鳴 (Lindblad resonance) の位置のすぐ外側に位置している.

ここでは,η 環の半径残差と経度方向について,地上観測,ボイジャーによる天王星リングの恒星掩蔽観測および電波掩蔽観測 (1977 - 2002 の間に行われたもの) のデータを元にフィッティングを行った.その結果,η 環の半径方向の位置に変動があることを発見した,
この変動は,クレシダとの共鳴によって生み出されていると思われる.

また,クレシダの平均運動と等しい角速度で公転する 3 つのローブ状の構造の,半径方向の振動の大きさは 0.667 ± 0.113 km であった.これはクレシダからの擾乱によって引き起こされる場合に期待される形状と整合的なものであった.

これらの変動の大きさの測定から,クレシダの質量と密度の情報を得ることが出来る.
解析の結果,クレシダの質量は 2.5 ± 0.4 × 1017 kg,平均密度は 0.86 ± 0.16 g/cm3 と推定された.これは,クレシダの質量と密度の初めての測定である.また,天王星に近い位置を公転する小型衛星の質量の初めての測定でもある.

議論

天王星の内側衛星については,1986 年のボイジャー 2 号のフライバイ以降,軌道の安定性について研究されてきた.Bianca, Cressida, Desdemona, Juliet, Portia, Rosalind, Cupid, Belinda, Perdita の衛星群は,太陽系の中で最も狭い範囲に収まった衛星系である.これらの衛星は Portia group という愛称が付けられている,

これらのなかで最も大きなものは,太陽系の年齡と比べると短いタイムスケールで軌道が不安定であると考えられる.Portia group の安定性は,メンバーとなっているそれぞれの衛星の質量に大きく依存するが (French et al. 2015),それらの質量はよく制約されていない.事実,今回のクレシダが内側の衛星における初めての直接的な質量測定である.

過去のシミュレーションは,内側の衛星について可能な質量の範囲を取り扱うことに依拠しており,そのシミュレーションの結果と今回測定した質量・密度を用いて軌道の安定性を推定すると,クレシダは 100 万年のうちに Desdemona (デスデモナ) と軌道交差することが示唆される.

ハッブル宇宙望遠鏡を用いた近赤外線測光観測では,内側の衛星のうち最も大きい Puck (パック) で,水氷の吸収と思われる特徴が検出されている (Karkoschla 2001など).この結果と,過去に言及されている衛星のサイズの推定を元にすると,クレシダとその他の内側の天王星衛星は,大部分が水氷の組成を持つと考えられる.
また,アルベドが低いこととと,スペクトルが平坦で灰色であることを説明するためには,衛星の材料として暗い物質が混合しているか,少なくとも表層に暗い物質を含んでいる必要がある.

天王星の大型衛星の質量と半径の測定から導出した平均密度の範囲は,内側の小型衛星の密度の上限として推定されてきた.主要な衛星の中で最も低密度な Miranda (1.214 g/cm3) を参照にして他の惑星の衛星と比較すると,クレシダは同程度の半径を持つ土星の内側氷衛星よりも 50%ほど密度が大きい.これはもしかすると,クレシダと天王星の環・衛星は一般的に,土星の衛星よりも低い空隙率を持つか,Tiscareno et al. (2013) で示唆されているように,氷ではない混入物質を多く持っている可能性がある.

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1708.07128
Shporer et al. (2017)
EPIC 211418729b and EPIC 211442297b: Two Transiting Warm Jupiters
(EPIC 211418729b と EPIC 211442297b:2 つのトランジットするウォームジュピター)

概要

ウォームジュピター (warm Jupiters) は,受け取る輻射量が 108 erg s-1 cm-2 より少ない巨大ガス惑星で,太陽型星の周りの場合は軌道周期が 10 日よりも長いものに相当する.

ここでは,ケプラーの K2 ミッションにおける測光観測でトランジット候補天体として同定された,2 つのトランジットするウォームジュピターの確認について報告する.

EPIC 211418729b は 1.85 木星質量,0.942 木星半径,軌道周期 11.4 日である.また,EPIC 211442297b は 0.84 木星質量,1.115 木星半径,軌道周期 20.3 日である.この 2 つの惑星は,質量が測定されているものの中では,最も長い周期を持つトランジットガス惑星に属する.また,比較的古い中心星の周りを公転している.

どちらの惑星も半径は膨張しておらず,理論的な予想と整合する半径を持っている.惑星半径-恒星輻射のダイアグラム上でのこれらの惑星の位置は,108 erg s-1 cm-2 未満の輻射の場合は惑星半径と輻射の相関がほとんど無くなるというモデルと整合的であった.従って,ウォームジュピターでは恒星からの輻射は惑星の半径を決めるのに重要な要素ではないことを示唆する.

また,K2 で検出された別のトランジットウォームジュピター候補シグナルの EPIC 212504617 は,偽陽性 (惑星ではない) であったことを合わせて報告する.

ウォームジュピターの重要性

このプロジェクトにおける科学的目標は,膨張した半径を持つガス惑星の謎を調べること,ホットジュピターの軌道進化の謎を研究すること,ホットジュピター以外への系外惑星大気および恒星の自転軸の研究の拡大のためのターゲットを選定することの 3 つである.

膨張半径を持つガス惑星

膨張半径を持つガス惑星の原因としての機構は,大きく分けて 3 つ存在する.
(I) 恒星の輻射が惑星大気から惑星内部へと輸送されることによる膨張 (Ginzburg & Sari 2016など).
この過程には,オーム散逸 (Batygin & Stevenson 2010),熱潮汐 (Arras & Socrates 2010),運動エネルギー輸送 (Showman & Guillot 2002),mechanical greenhouse (Youdin & Mitchell 2010),ポテンシャルエネルギーの移流 (Tremblin et al. 2017) がある.

(II) 軌道離心率の散逸にともなう潮汐加熱による膨張 (Bodenheimer et al. 2001).
惑星の軌道離心率が継続して励起され続けている場合,例えば 3 体目の天体との相互作用がある場合,この膨張機構は長期間継続することが出来る.

(III) 収縮の遅れ.
例えば,惑星大気の不透明度が高い場合は,初期に大きい半径を持つガス惑星の収縮はゆっくりになる (Burrows et al. 2007).前者 2 つとは異なり,3 つ目のカテゴリは,短周期軌道や偏心軌道にない全ての惑星において働き得る機構である.

膨張機構の謎に迫る鍵として,ガス惑星の半径と惑星が受ける輻射量には相関があるという経験則がある.輻射強度と惑星半径の間に相関がある事は,半径の膨張が恒星からの輻射によっているとする説と整合的だが,これだけではカテゴリ I のどれが主要な原因なのかまでは不明である.また,注意すべき点としては,この相関関係は必ずしも因果関係を意味しない.

既知のトランジットガス惑星は短周期で,典型的には軌道周期が 10 日未満である.輻射強度で言うと 108 erg s-1 cm-2 より大きいふく者を受けているものが大部分である,この事は,半径と輻射量の関係性の詳細な理解の妨げになっている.

ホットジュピター・ウォームジュピターの軌道進化

ホットジュピターの軌道進化に関しては,ガス惑星がどのように短周期の軌道に到達したのかを説明するための幾つかの仮説がある.

仮説のうちのいくつかは,系内の他の天体 (他の惑星や恒星の伴星) との相互作用によるとしている.この説では,ガス惑星はまず軌道離心率の大きい軌道になり,その後恒星との潮汐相互作用による円軌道化を経験すると考える.

他の説では,ガス惑星は原始惑星系円盤との相互作用によって内側に移動したとするものがある.この過程では,惑星の軌道は円軌道の状態に保たれる.

従って,上記 2 つのシナリオの間には,遠方の軌道から近接軌道へ移動する際に,軌道離心率という点で違いがある.ウォームジュピターが持つ軌道離心率は,ホットジュピターを形成するための主要な移動手段を決める鍵になる.

ホットジュピターを持つ系とウォームジュピターを持つ系それぞれが,その惑星以外に惑星を持っている頻度を比較することにより,ウォームジュピターの大部分は円軌道を持っていることが示唆されている.
ウォームジュピターを持っている系が,ウォームジュピター以外に短周期の惑星も持っている頻度が高いという観測結果は,ウォームジュピターの軌道は円軌道であることを示唆している.これは,もし円軌道から大きくずれていた場合は,惑星系を不安定にしてしまうことが予想されるからである.

パラメータ

EPIC 211418729 系

EPIC 211418729
有効温度:5027 K
金属量:[Fe/H] = 0.410
質量:0.832 太陽質量
半径:0.828 太陽半径
年齡:9.9 Gyr (99 億歳)
距離:481 oc
EPIC 211418729b
軌道周期:11.39109 日
半径:0.942 木星半径
質量:1.85 木星質量
平均密度:2.99 g cm-3
軌道長半径:0.09309 AU
平衡温度:719 K
軌道離心率: 0 (0 に固定して解析)

EPIC 211442297 系

EPIC 211442297
有効温度:5560 K
金属量:[Fe/H] = -0.220
質量:0.831 太陽質量
半径:0.831 太陽半径
年齡:10.7 Gyr (107 億歳)
距離:417 pc
EPIC 211442297b
軌道周期:20.273034 日
半径:1.115 木星半径
質量:0.84 木星質量
平均密度:0.82 g cm-3
軌道長半径:0.1367 AU
平衡温度:682 K
軌道離心率:0.137

その他

どちらも,質量が測定されているトランジットガス惑星の中では,最も長い周期をもつ部類である.実際,NASA Exoplanet Archive 中では,2017 年 6 月 1 日現在で,EPIC 211442297b はよく質量が制限されている K2 トランジット系外惑星の中では最も長い周期を持つ (ただし未確定の惑星候補中にはより長いものあり,Bayliss et al. 2017).

興味深いことに,今回確定した 2 惑星はどちらも中心星の年齡が比較的大きく,100 億歳に近い.ただし,どちらも年齢推定の不定性は大きい.


また,ウォームジュピター候補シグナルだった,EPIC 212504617 (周期 39.26 日) は,恒星の伴星による食であり,偽陽性であった.
中心星は 1.01 太陽質量,シグナルの周期は 39.26 日であり,視線速度観測の結果を合わせると,伴星の質量は 0.6 太陽質量となる.伴星の離心率を 0.95 と非常に高くしたモデルでも,伴星質量は少なくとも 45 木星質量となった.そのためこの伴星は惑星ではなく,準恒星 (褐色矮星など) である可能性も非常に低い.

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1708.06976
Juncher et al. (2017)
Self-consistent atmosphere modeling with cloud formation for low-mass stars and exoplanets
(低質量星と系外惑星のための雲形成を含めた自己無撞着大気モデル)

概要

低質量の恒星と系外惑星は,豊富な化学反応が起き,雲が形成されうる非常に低温な大気を持つ.系外惑星の分光観測の数が増えて来ており,雲の形成と惑星大気へのフィードバックを決定する形成過程を一貫して含むための,自己無撞着なモデル大気シミュレーションが必要とされる.

MARCS モデル大気をシミュレーションで補完することで,輻射輸送と大気構造・大気化学の自己無撞着な解が得られる.ここでは,MARCS と,超低温大気中での雲形成 (雲の核形成,成長・蒸発,重力沈降,対流混合,元素欠乏) を記述する運動学的モデルを組み合わせた.

太陽組成で log(g) = 4.5 で,有効温度が 2000 - 3000 K の大気モデルを自己無撞着に計算した.恒星や準恒星天体の大気中での雲形成は,天体の有効温度が 2700 K 未満の場合に発生し,2400 K 未満の大気の大気構造とスペクトルに大きな影響を与える.

このモデルで得られた合成スペクトルと,観測されている天体のスペクトルを比較した.その結果,中期から晩期のスペクトル型である M 型矮星と,早期型の L 型矮星のスペクトルと合うことが分かった.

大気の幾何学的な広がり (τ = 1 となる半径) は波長によって変わり,これによるフラックスの変動は ~ 10%程度になる.これは,大気の幾何学的な広がりに換算すると 50 km 程度に対応する.

また,モデル系外惑星に対して DRIFT-MARCS を適用して計算を行った,
ここでのシミュレーション結果は,WASP-19b のスピッツァー宇宙望遠鏡での観測結果を再現する事が分かった.このモデルは,惑星の昼側から夜側への一定のエネルギー輸送があり,温度逆転層を持たない,深い雲なし大気を持つ系外惑星が存在する事を示す.

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1708.07033
Angerhausen et al. (2017)
Simultaneous multicolour optical and near-IR transit photometry of GJ 1214b with SOFIA
(SOFIA による GJ 1214b の可視光と近赤外線多色同時トランジット測光)

概要

GJ 1214b は,最も盛んに研究されているトランジット惑星の一つである.
この惑星は,岩石組成の地球サイズの惑星と,巨大ガス惑星もしくは巨大氷惑星の遷移領域に位置している.このようなスーパーアース/ミニネプチューンのクラスの惑星は太陽系には存在していないが,系外惑星では最もよく検出されるクラスの一つである.

岩石惑星からガス惑星への遷移を理解することは,特にこれらの惑星の居住可能性について考慮する場合,系外惑星系の探査をする上で重要な一歩となる.

GJ 1214b は,既に多くの波長で異なる手段によって詳細に観測されている.ここでは,SOFIA を用いた空中からの観測によって,Paschen-α 連続波 1.9 µm 赤外線バンドの情報を新たに加えることを目的としている.この波長は,地球大気による吸収,もしくは観測機器のスペクトル範囲の限界により,現在の他の地上観測や宇宙空間からの観測装置では観測できない波長である.

SOFIA に搭載されている FLIPO と FPI+ を用いて,水が存在する可能性がある惑星である GJ 1214b の透過光シグナルを,3 つの可視光と 1 つの赤外線チャンネルでのトランジット中の測光観測から包括的に分析した.これらのチャンネルにおける,同時取得したトランジット光度曲線と,それに対応したトランジット深さを導出した.これを過去の観測および最新の GJ 1214b の合成大気モデルと比較した.

解析したトランジット深さの最終的な精度は,理論的なフォトンノイズ限界の 1.5 - 2.5 倍の間であり,過去のいずれの観測と比べても,理論モデルに制約を与えるほどの十分な精度ではなかった.

今回の観測は,系外惑星の分光測光観測に使用できる機器のすべてを用いた,SOFIA による最初の系外惑星観測である.今回の観測結果を元に,SOFIA の系外惑星科学分野におけるポテンシャルを評価し,また将来の改良についての提言を行う.

GJ 1214b について

この惑星は,MEarth プログラムの一環として,トランジット法で検出された (Charbonneau et al. 2009).
中心星の GJ 1214b はスペクトル型 M4.5V であり,地球からの距離は 12.95 pc と比較的近傍の恒星である.惑星は 2.7 地球半径,6.5 地球質量であり,軌道周期 1.5804 日,軌道長半径は 0.0197 AU である (Harpsøe et al. 2013).

この惑星の大気の観測も多数行われている.
宇宙望遠鏡による観測としては,ハッブル宇宙望遠鏡 (Berta et al. 2011など),スピッツァー宇宙望遠鏡 (Desert et al. 2011など),地上からの観測では VLT (Bear et al. 2010, 2011),CFHT (Vroll et al. 2011),GTC (Murgas et al. 2012など),IRSF (Narita et al. 2013),LBT (Nascimbeni et al. 2015) による観測が行われている.

初めての大気観測では,この惑星の大気透過スペクトルは短波長側でフラットな構造を示した (Bean et al. 2010).この結果は,大気は体積にして少なくとも 70%は水蒸気で占められているとするモデルと整合的であった.この結果の異なる解釈としては,GJ 1214b の大気は水素主体であるというものがある.この場合は,高高度の雲やヘイズは短波長での分子吸収特性を長波長側よりも効率的に減少させるが,水に富んだ大気ではすべての波長に渡って平坦なスペクトルを生む.

一方で特徴に欠けたスペクトルを支持する観測結果もあるが,g バンドと K バンドに大きな吸収の特徴を示唆する観測もあり,これは水素分子が豊富な大気を持っている事を示唆する.

ここでは,水主体の大気 (より大きな平均分子量を持ち,大気のスケールハイトは小さい) と,水素主体の大気 (より小さな平均分子量を持ち,大気のスケールハイトは大きい) を区別するため,SOFIA を用いた GJ 1214b のトランジット観測を行った.

SOFIA を用いた系外惑星大気観測

1.85 µm 付近の水のバンドの測定は,SOFIA のみで可能である.地上観測の場合,H と K バンドの間の波長は地球大気の吸収によってほとんど完全にシャットアウトされてしまうためである.また宇宙望遠鏡には,この波長帯を観測できるものがない.

SOFIA を用いた系外惑星の観測例としては, cycle 1 観測での HD 189733b の観測がある.この観測では,~ 150 ppm の精度を上げた (Angerhausen et al. 2015).

今回の観測は,openblue 0.3 - 0.6 µm,i’ 0.8 µm,z’ 0.9 µm と,赤外線の 1.9 µm の波長帯で行われた.残念ながら今回の観測では,過去の観測で行われたような,大気モデルへの制限をするほどの精度は得られなかった.

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arXiv:1708.05737
Lendl et al. (2017)
Signs of strong Na and K absorption in the transmission spectrum of WASP-103b
(WASP-103b の透過スペクトル中の強いナトリウムとカリウムの吸収の兆候)

概要

近接トランジット惑星の大気特性は,トランジット時の大気の透過光を分光観測することで探ることが出来る.

最近の観測では,系外惑星のスペクトルは非常に多様性に富んでいることが明らかになっている.Na,K や水分子の吸収特性が見られたり,幾つかの惑星ではそれらの吸収特性が大気中のエアロゾルによって,部分的にあるいは全てがかき消されたりしている.
エアロゾル (雲とヘイズ) 自身は,粒子の散乱特性によって引き起こされる波長依存性のあるスペクトルのスロープの存在によって,幾つかの惑星の透過スペクトル中に検出されている.

ここでは,極めて強く輻射を受けているホットジュピター WASP-103b の透過スペクトルを,可視光の 550 - 960 nm の波長帯で観測した.これまでに透過光スペクトルが調べられた惑星の中では, WASP-103b は平衡温度が 2500 K と最も温度が高いもののうちの一つである.また,最も重い (1.5 木星質量) もののひとつでもある.

WASP-103b はロッシュ限界の 1.2 倍より短い軌道距離で中心星を公転しており,潮汐的に強く変形を受けていると予測される.

観測には,Gemini/GMOS の分光観測装置を用い,3 回のトランジットを観測した.相対分光測光観測を行い,スペクトルの分割のサイズは 20 - 2 nm の範囲で行った.

観測の結果,この惑星の大気は,アルカリ金属 (ナトリウム,カリウム) のスペクトルのコア部分における大きな吸収特性を示した.しかし,過去に検出が示唆されていた強い散乱スロープの存在は確認できなかった.
そのためこの惑星は,エアロゾルに乏しい,晴れた大気を持っている事が示唆される.スペクトルの解析から,0.01 bar より上層の領域での雲層の上限値を与えた.

今回の観測結果は,雲は低温で表面重力が小さい惑星の透過スペクトル中によく見られる一方で,高温で大きな表面重力を持つ惑星の場合は雲を持たない大気であるか,あるいは透過スペクトルで探査出来る高度よりも低い位置にに雲が存在しているという,過去の系外惑星の雲の存在傾向についての研究と一致する.

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