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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1809.04897
Anderson et al. (2018)
WASP-189b: an ultra-hot Jupiter transiting the bright A star HR 5599 in a polar orbit
(WASP-189b:明るい HR 5599 を極軌道でトランジットするウルトラホットジュピター)

概要

WASP-189b の発見について報告する.この惑星は軌道周期が 2.72 日のウルトラホットジュピターで,中心星は等級が V = 6.6 の A 型星,WASP-189 (別名 HR 5599) である.

WASP-South サーベイの装置を用いて,恒星の光度曲線中に周期的な減光が検出された.その後,TRAPPIST-South 望遠鏡を用いた観測でも減光が検出された.

これらの減光が惑星のトランジットによるものであることを,スペクトル線分布のトモグラフィーと視線速度測定を用いて確認した.これらのフォローアップ観測には,HARPS と CORALIE 分光器を使用した.

中心星 WASP-189 は高速自転する A6IV-V 星であり,有効温度 8000 K,天球上に射影した自転速度は \(v \sin i \sim 100 {\rm km/s}\) である.

惑星 WASP-189b は 2.13 木星質量,1.374 木星半径であり,恒星の自転軸と惑星の公転軸の成す角が 89.3° という極軌道を公転している
予測される惑星の平衡温度は 2641 K である.これは惑星のアルベドをゼロと仮定し,熱の再分配が効率的であると仮定した場合の値である.この温度は,既知の系外惑星の中では三番目に高温なものである.

中心星は,トランジットするホットジュピターを持つ恒星としては最も明るく,またあらゆる種類のトランジット系外惑星を持つ恒星としては 3 番目に明るい恒星である.

ホットジュピターを持っている恒星のうち,有効温度が 7000 K を超えるものは 8 個発見されている.そのうち 7 個の系では惑星は大きく傾いた軌道で公転している.また同じく有効温度が 8000 K を超えるものは 3 個発見されているが,そのうち 2 個の系では惑星は極軌道で公転している (3 つ目の系は軌道は揃っている).

背景

これまで発見されている系外惑星系では,有効温度が 7000 K より高い恒星の周りでは惑星の発見個数が少ない.これは高温で自転が高速な恒星ではスペクトル線の分布がまばらになり,かつスペクトル線の幅が広がってしまうためである.このような恒星では視線速度の観測が難しくなる.そのため高温の恒星周りでの惑星の形成と進化はこれまでにあまり研究が進んでいない.

惑星形成理論におけるコア降着モデルでは,重い恒星の周りでは惑星はより一般的に存在することが予測されている (Pollack et al. 1996).

Kennedy & Kenyon (2008) による惑星の存在頻度の予測では,恒星質量が 0.4 - 3 太陽質量の範囲では,惑星の存在頻度は恒星質量に伴って線形で増加すると考えられている.実際に,Cumming et al. (2008) は巨大惑星 (0.3 - 10 木星質量で軌道周期 2 - 2000 日) の存在頻度は,M 型矮星の周りでは FGK 星より 10 倍ほど低く 1% 程度であるのに対し,FGK 星の周りでは 10.5% となる.

ただし,この傾向が A 型星の質量範囲まで続くかは不明である.Borgniet et al. (2017) は A 型星まわりの惑星 (0.1 - 10 木星質量,1 - 1000 日周期) の存在頻度を 4 (+10, -4)% と推定したが,傾向を確認するには精度が良くない.また,高温の恒星周りの惑星を探査するモチベーションとしては,その惑星の特徴付けを行いたいというものもある.

パラメータ

WASP-189
有効温度:8000 K
質量:2.20 太陽質量
WASP-189b
軌道周期:2.7240330 日
質量:2.13 木星質量
半径:1.374 木星半径
密度:0.83 木星密度
軌道長半径:0.0497 AU
平衡温度:2641 K

WASP-189 系について

これまでのウルトラホットジュピターとの比較

WASP-189b のアルベドをゼロとし,熱の再分配が効率的だとした場合,平衡温度は 2641 K と推定される.これは,既知の系外惑星の平衡温度の中では 3 番目に高い値である.なお,1 番目は KELT-9b で 4050 K (Gaudi et al. 2017),その次が WASP-33b で 2710 K である (Collier Cameron et al. 2010).

中心星 WASP-189 の有効温度と光度からは,この恒星は不安定帯にあり,WASP-33 と同様に δ-Scuti 型変光星 (たて座デルタ型変光星) である可能性が示唆される.この惑星は中心星が巨星分枝に進化する段階で中心星に飲み込まれる.WASP-189 は今後 3 億 2000 万年の間に,WASP-189b の軌道半径にまで膨張すると予測される (Spada et al. 2017).

Gaudi et al. (2017) が指摘したように,KELT-9 系での場合と同様に,惑星の飲み込みが発生した場合は明るい一時的な増光イベントを起こすと考えられる (Metzger et al. 2012),また惑星の飲み込みの結果,中心星は異常に自転が高速でリチウムが豊富な赤色巨星になると考えられる (Aguilera-G ́omez et al. 2016).

中心星の明るい光度

WASP-189 は等級が V = 6.64 であり,これはその他のトランジットするホットジュピターを持つ恒星よりもほぼ 1 等級明るい.このような恒星の中で WASP-189 の次に明るいのは KELT-9 で V = 7.56,次が KELT-20/MASCARA-2 の V = 7.59 である (Lund et al. 2017,Talens et al. 2018).また,よく研究されている晩期型の恒星 HD 209458 は V = 7.65 でスペクトル型は G0V (Charbonneau et al. 2000,Henry et al. 2000),HD 189733 は V = 7.68 でスペクトル型は K1-2V である (Bouchy et al. 2005).

なお,トランジットを起こさないホットジュピターを持つ系としては,この恒星より明るいものが 6 つ知られている.等級が V = 4.1 - 6.3 の範囲で,ups And (アンドロメダ座ウプシロン星),tau Boo (うしかい座タウ星),51 Peg (ペガスス座 51 番星),HD 217107,HD 179949,HD 75289 である.

惑星質量を限定しない場合,WASP-189 はトランジット系外惑星を持つ恒星としては 3 番目に明るい恒星である.最も明るいのは,トランジットするスーパーアースを持つ HD 219134 で V = 5.57 (Motalebi et al. 2015,Gillon et al. 2017),2 番目は 55 Cnc (かに座 55 番星) で V = 5.95 である (McArthur et al. 2004,Bourrier et al. 2018).

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