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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1810.03304
Kollmeier & Raymond (2018)
Can Moons Have Moons?
(衛星は衛星を持てるか?)
その結果,惑星から大きく離れた軌道にある 1000 km スケールの大きな衛星を公転する,10 km スケールの孫衛星のみが安定であり長期間生き残れることを発見した.
小さい衛星を公転する孫衛星,あるいは惑星に近すぎる距離を公転する衛星を公転する孫衛星の場合,潮汐散逸が孫衛星の軌道を不安定化する.太陽系の衛星の大部分はこの状況に該当する.
ただし一握りの既知の衛星は,長寿命の孫衛星を保持できる可能性がある.孫衛星を持てる可能性があるのは,土星の衛星タイタンとイアペトゥス,木星の衛星カリスト,地球の月である.
また,新しく発見された系外衛星候補天体ケプラー1625b-I についても考察を行った.この天体に対して示唆された質量と軌道間隔に基づくと,原理的には孫衛星を持つことは可能である.ただしこの系外衛星が持っている可能性がある大きな軌道傾斜角は,孫衛星の力学的不安定性に困難をもたらす可能性もある.
ある衛星に孫衛星が存在すること,もしくは存在しないことは,惑星系における衛星の形成と進化に重要な制約を与える可能性がある.
恒星-惑星-衛星系での潮汐進化については,金星と水星が衛星を持たないことに関して研究されている (Counselman 1973,Ward & Reid 1973,Burns 1973).また,より一般的な事例としては,短周期軌道にある系外惑星の衛星についての研究が存在する (Barnes & O’Brien 2002,Sasaki et al. 2012,Sasaki & Barnes 2014,Piro 2018).
孤立した惑星-衛星系での潮汐進化は,惑星の自転が速い場合は衛星の軌道を広げ,自転が遅い場合は軌道を縮小させる.しかし恒星による潮汐摩擦は惑星の自転を減速させ,衛星の移動に直接的な影響を及ぼす.
天体の軌道配置に依存して,衛星は内側へ移動して惑星に衝突したり,あるいは安定性限界に到達するまで外側に移動したりするだろう.ある場合では,衛星は初めは外側に移動し,その後方向を変え惑星が自転を減速するのに伴って内側に移動することもある.
ここでは,Barnes & O’Brien (2002) での議論を拡張し,長寿命の孫衛星を保持できるような衛星の限界サイズを導出した.衛星の軌道移動には潮汐的な移動を仮定している.
その結果,
\[
R_{\rm moon}\geq \left[ \frac{39 M_{\rm sub} k_{\rm 2.moon} T \sqrt{G}}{2\left(4\pi \rho_{\rm moon}\right)^{8/3}Q_{\rm moon}} \left(\frac{3 M_{\rm p}}{\left(f\,a_{\rm moon}\right)^{3}}\right)^{13/6} \right]^{1/3}
\]
という関係式を導出した.\(M_{\rm sub}\) は孫衛星の質量,\(R_{\rm moon}\),\(a_{\rm moon}\),\(\rho_{\rm moon}\),\(Q_{\rm moon}\),\(K_{\rm 2,moon}\) は,それぞれ衛星の半径,軌道半径,バルク密度,潮汐の Q 値,潮汐のラブ数である.\(M_{\rm p}\) は惑星の質量,\(T\) は 46 億年に固定してある.また \(G\) は重力定数である.
孫衛星の軌道は,衛星のヒル球の半径の \(f\) 倍のところまで安定である.Domingos et al. (2006) では,孫衛星が順行公転で低軌道離心率の場合,\(f\) は 0.4895 になることを示した.注意点として,この関係式は孫衛星が低質量であることを仮定し,孫衛星が衛星の自転に与える影響や,衛星が惑星の自転に与える影響などは無視している.
特に,木星のカリスト,土星のタイタンとイアペトゥス,地球の月は,現在の衛星の周りに長周期の孫衛星を安定して持てる領域がある.
また,最近存在が示唆されている新しい系外衛星候補ケプラー1625b-I (Teachy & Kipping 2018) も,示唆されている軌道距離と質量・サイズのみに基づくと,大きな孫衛星を安定に保持できる領域が存在することが分かった.しかしこの衛星候補天体は,孫衛星の安定性に影響を及ぼす可能性がある大きな軌道傾斜角を持つことも注記しておく必要がある.
もちろん,孫衛星が存在するためには形成経路が必要である.
巨大ガス惑星周りの大きな衛星は,周惑星円盤で形成されたか,あるいは濃い初期リング系の拡散によって形成されたと考えられている.
地球の大きな月は巨大衝突で形成され,火星の小さい衛星は捕獲によって形成されたか,大きな衝突の後に形成されたと考えられている.
もし初期の孫衛星がカリスト,イアペトゥス,月の周りに形成されたとして,それらは自身の潮汐駆動の移動や衛星間の力学的効果によって失われた可能性がある.
arXiv:1810.03304
Kollmeier & Raymond (2018)
Can Moons Have Moons?
(衛星は衛星を持てるか?)
概要
太陽系内の巨大惑星は大きな衛星を持っているが,それらのどれも自らの衛星 (submoon,孫衛星) は持っていない.ここでは,短周期系外惑星周りの衛星の存在可能性に関する研究と同様に,孫衛星の力学的安定性を調べる.その結果,惑星から大きく離れた軌道にある 1000 km スケールの大きな衛星を公転する,10 km スケールの孫衛星のみが安定であり長期間生き残れることを発見した.
小さい衛星を公転する孫衛星,あるいは惑星に近すぎる距離を公転する衛星を公転する孫衛星の場合,潮汐散逸が孫衛星の軌道を不安定化する.太陽系の衛星の大部分はこの状況に該当する.
ただし一握りの既知の衛星は,長寿命の孫衛星を保持できる可能性がある.孫衛星を持てる可能性があるのは,土星の衛星タイタンとイアペトゥス,木星の衛星カリスト,地球の月である.
また,新しく発見された系外衛星候補天体ケプラー1625b-I についても考察を行った.この天体に対して示唆された質量と軌道間隔に基づくと,原理的には孫衛星を持つことは可能である.ただしこの系外衛星が持っている可能性がある大きな軌道傾斜角は,孫衛星の力学的不安定性に困難をもたらす可能性もある.
ある衛星に孫衛星が存在すること,もしくは存在しないことは,惑星系における衛星の形成と進化に重要な制約を与える可能性がある.
孫衛星の存在可能性について
潮汐進化の影響
潮汐応力は大きさを持った天体を変形させ,天体内部での散逸は天体の自転状態と軌道を変える.恒星-惑星-衛星系での潮汐進化については,金星と水星が衛星を持たないことに関して研究されている (Counselman 1973,Ward & Reid 1973,Burns 1973).また,より一般的な事例としては,短周期軌道にある系外惑星の衛星についての研究が存在する (Barnes & O’Brien 2002,Sasaki et al. 2012,Sasaki & Barnes 2014,Piro 2018).
孤立した惑星-衛星系での潮汐進化は,惑星の自転が速い場合は衛星の軌道を広げ,自転が遅い場合は軌道を縮小させる.しかし恒星による潮汐摩擦は惑星の自転を減速させ,衛星の移動に直接的な影響を及ぼす.
天体の軌道配置に依存して,衛星は内側へ移動して惑星に衝突したり,あるいは安定性限界に到達するまで外側に移動したりするだろう.ある場合では,衛星は初めは外側に移動し,その後方向を変え惑星が自転を減速するのに伴って内側に移動することもある.
ここでは,Barnes & O’Brien (2002) での議論を拡張し,長寿命の孫衛星を保持できるような衛星の限界サイズを導出した.衛星の軌道移動には潮汐的な移動を仮定している.
その結果,
\[
R_{\rm moon}\geq \left[ \frac{39 M_{\rm sub} k_{\rm 2.moon} T \sqrt{G}}{2\left(4\pi \rho_{\rm moon}\right)^{8/3}Q_{\rm moon}} \left(\frac{3 M_{\rm p}}{\left(f\,a_{\rm moon}\right)^{3}}\right)^{13/6} \right]^{1/3}
\]
という関係式を導出した.\(M_{\rm sub}\) は孫衛星の質量,\(R_{\rm moon}\),\(a_{\rm moon}\),\(\rho_{\rm moon}\),\(Q_{\rm moon}\),\(K_{\rm 2,moon}\) は,それぞれ衛星の半径,軌道半径,バルク密度,潮汐の Q 値,潮汐のラブ数である.\(M_{\rm p}\) は惑星の質量,\(T\) は 46 億年に固定してある.また \(G\) は重力定数である.
孫衛星の軌道は,衛星のヒル球の半径の \(f\) 倍のところまで安定である.Domingos et al. (2006) では,孫衛星が順行公転で低軌道離心率の場合,\(f\) は 0.4895 になることを示した.注意点として,この関係式は孫衛星が低質量であることを仮定し,孫衛星が衛星の自転に与える影響や,衛星が惑星の自転に与える影響などは無視している.
孫衛星の存在可能性の具体例
上記の関係式を各惑星とその衛星で示した場合,一般的な傾向としては,惑星から距離が離れた軌道を公転している大きな衛星の場合は,孫衛星が安定して存在できる.これは,質量が大きく惑星から遠方を公転する衛星の場合,衛星のヒル半径も大きくなるからである.特に,木星のカリスト,土星のタイタンとイアペトゥス,地球の月は,現在の衛星の周りに長周期の孫衛星を安定して持てる領域がある.
また,最近存在が示唆されている新しい系外衛星候補ケプラー1625b-I (Teachy & Kipping 2018) も,示唆されている軌道距離と質量・サイズのみに基づくと,大きな孫衛星を安定に保持できる領域が存在することが分かった.しかしこの衛星候補天体は,孫衛星の安定性に影響を及ぼす可能性がある大きな軌道傾斜角を持つことも注記しておく必要がある.
孫衛星は存在するか?
それでは何故カリスト,イアペトゥスや月は孫衛星を持たないのか?もちろん,孫衛星が存在するためには形成経路が必要である.
巨大ガス惑星周りの大きな衛星は,周惑星円盤で形成されたか,あるいは濃い初期リング系の拡散によって形成されたと考えられている.
地球の大きな月は巨大衝突で形成され,火星の小さい衛星は捕獲によって形成されたか,大きな衝突の後に形成されたと考えられている.
もし初期の孫衛星がカリスト,イアペトゥス,月の周りに形成されたとして,それらは自身の潮汐駆動の移動や衛星間の力学的効果によって失われた可能性がある.
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天文・宇宙物理関連メモ vol.1013 Teachey & Kipping (2018) 系外衛星候補 ケプラー1625b-i のハッブル宇宙望遠鏡による観測結果