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天文・宇宙物理関連メモ vol.1053 Allart et al. (2018) および Mansfield et al. (2018) ウォームネプチューン HAT-P-11b でのヘリウム大気の検出
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1812.02189
Allart et al. (2018)
Spectrally resolved helium absorption from the extended atmosphere of a warm Neptune-mass exoplanet
(ウォームネプチューン質量系外惑星の広がった大気からのスペクトル分解されたヘリウム吸収)
ここでは,温暖な海王星質量惑星 HAT-P-11b における,近赤外線での中性ヘリウムの三重項のスペクトルの検出を報告する.地上望遠鏡を用いた,高分散観測を行った.
観測は Calar Alto 3.5 m 望遠鏡の CARMENES (Calar Alto high-Resolution search for M dwarfs with Exo-earths with Near-infrared and optical Echelle Spectrographs) を用いて行われた.トランジットは 2017 年 8 月 7 日と 12 日の 2 回観測された.
その結果,ヘリウムの特徴は 2 回の独立した観測で繰り返し観測された.ヘリウムの吸収波長における平均吸収深さは 1.08% であった.
3 次元シミュレーションを元に吸収スペクトルの解釈を行った結果,この惑星では高層大気が 5 惑星半径にまで広がっていることが示唆された.惑星大気のスケールハイトは大きく,ヘリウムの質量放出率は 3 × 105 g s-1 が上限値と推定される.
また,全体の吸収の青方偏移の値は,惑星の昼側から夜側への 3 km s-1 の速度の高高度の風で説明できる可能性がある.
4.89 日周期で HAT-P-11 を公転している.
軌道周期-惑星質量のパラメータ空間において,海王星質量の惑星の存在度が少ない「蒸発砂漠 (evaporation desert)」の縁に位置している.
ヘリウム I 三重項は,23P 状態と準安定の23S 状態の遷移によって発生する.これは一階電離状態からの電子との再結合か,基底状態からの衝突励起によって実現される.
ヘリウム三重項は,トランジットの最中に分光学的かつ時間的に分解することができる.これは観測の頻度が高く,さらに高スペクトル分散であるためである.三重項のうち最も強い 2 つのラインは混合している.3 つ目のラインは最も吸収が弱く波長も最も青い側にあるが,他の 2 つのラインとは波長的に分解できる.
これらの遷移は,地球大気での強い水のライン吸収や OH 放射の波長域から外れているため,これらの特徴との混合を避けることができる.またこのスペクトル領域は恒星の強い吸収特徴からも離れている.
2 回の観測に置いて,visit 1 では吸収深さ 0.82%,visit 2 では 1.21% であった.2 回のトランジットにおける吸収深さの違いは,惑星大気サイズの変動か,あるいはヘリウム密度の変動に起因するものと考えられる.
ヘリウム吸収プロファイルの最大は 1.2% 程度に到達した.これを光学的に厚い半径に直すと 2.29 惑星半径に相当する.
また,外気圏からの寄与は無視できることが示唆され,ヘリウムの質量放出率は 3 × 105 g s-1 以下と推定される.この推定値は,He I 三重項付近でのスペクトルが対称な形状であることと整合的である.
これらの特徴から,この惑星でのヘリウムの吸収は大部分が球状の層のガスで起きており,依然として惑星に重力的に束縛されている領域でヘリウム吸収が起きていることが示される.
トランジット後のヘリウム吸収が見られないこと,また強い青方偏移のヘリウムの遷移が見られないことから,惑星から尾を引くような形状でヘリウム原子が広がっている可能性は否定される.これは,GJ 436b で見られているような細長い水素外気圏とは異なる特徴である.GJ 436b は HAT-P-11b と同じような密度を持つウォームネプチューンである.ベストフィットモデルでは,5 - 6.5 惑星半径における準安定ヘリウムの数密度は ~ 10 cm-3 と推定され,GJ 436b でのシミュレーションした密度と同じ範囲内である.
惑星の影にいるヘリウム原子は,元々の散逸の軌跡を保つ.これは惑星から散逸した際の軌道速度によって決まる軌跡である.これは 131 分の寿命で準安定ヘリウムの放射脱励起が起きるまで続く.
惑星の影の外側では,ヘリウム原子はこの寿命よりも速く強い恒星の輻射圧によって吹き流される.輻射圧は水素のライマンアルファ波長よりもヘリウム三重項波長のほうがずっと強い.これは中心星は近赤外線の連続波で明るいからである.
惑星から散逸している準安定ヘリウム原子へ働く中心星の輻射圧は,中心星からの重力よりも 90 倍ほど大きい.一方で G, K 型星まわりの惑星の水素外気圏では 5 倍程度となる.
準安定ヘリウムの光電離のための閾値が低いことは,この惑星の軌道距離における準安定ヘリウムの寿命がわずか 2.4 分で,なぜ惑星では彗星の尾のような形状の外気圏が検出されなかったのかを説明することができる.
そのため HAT-P-11b と GJ 436b 両方のウォームネプチューンの周りには広がった高層大気が存在していると考えられる.この 2 つの惑星は同程度の質量と半径を持っているが,中心星のスペクトル型は異なり (それぞれ K, M 型),XUV 放射強度も異なることから,高層大気は異なる構造を生成することが予想される.とはいえ,HAT-P-11b 大気の高高度にヘリウムが存在することは,この惑星でも大量の水素が外気圏へと散逸していることを示唆している.
arXiv:1812.02214
Mansfield et al. (2018)
Detection of Helium in the Atmosphere of the Exo-Neptune HAT-P-11b
(系外海王星 NAT-P-11b の大気におけるヘリウム検出)
ここでは同じくハッブル宇宙望遠鏡を用いてホットネプチューン HAT-P-11b を観測し,4σ の確度でヘリウムが検出されたことを報告する.
観測結果を一次元の流体散逸モデルと比較し,惑星大気の熱圏の温度と質量放出率を推定した.その結果,ベストフィットの質量放出率は 109 - 1011 g s-1 という高い値と整合的であった.
惑星風の兆候は直接検出されなかったが,今回のデータはこの惑星は流体力学的な大気散逸を経験していることと整合的であることを示した.
推定される質量散逸率は,この惑星が一生の間に失う質量は惑星全体の数%でしかなく,全体の組成は大きくは影響を受けないと考えられる.これは,半径が 2 地球半径よりも大きい近接惑星は水素・ヘリウム主体大気を持つことを示唆する系外惑星の種族統計からの予想と合致するものである.
また地上観測では CARMENES 装置を用いた観測でも独立にこの惑星大気中からヘリウムを検出している,これは,光蒸発の同じ特徴が地上観測と宇宙空間からの観測の両方で確認された初めての例である.
arXiv:1812.02189
Allart et al. (2018)
Spectrally resolved helium absorption from the extended atmosphere of a warm Neptune-mass exoplanet
(ウォームネプチューン質量系外惑星の広がった大気からのスペクトル分解されたヘリウム吸収)
概要
恒星による加熱は,恒星に近接した軌道を持つ系外惑星の大気を加熱し拡大させ,散逸させる.これらの広がった大気は,主要なスペクトルの特徴を持つ中性水素の紫外線波長で検出するのは難しい.これは,紫外線は星間物質によって強く吸収されてしまうからである.ここでは,温暖な海王星質量惑星 HAT-P-11b における,近赤外線での中性ヘリウムの三重項のスペクトルの検出を報告する.地上望遠鏡を用いた,高分散観測を行った.
観測は Calar Alto 3.5 m 望遠鏡の CARMENES (Calar Alto high-Resolution search for M dwarfs with Exo-earths with Near-infrared and optical Echelle Spectrographs) を用いて行われた.トランジットは 2017 年 8 月 7 日と 12 日の 2 回観測された.
その結果,ヘリウムの特徴は 2 回の独立した観測で繰り返し観測された.ヘリウムの吸収波長における平均吸収深さは 1.08% であった.
3 次元シミュレーションを元に吸収スペクトルの解釈を行った結果,この惑星では高層大気が 5 惑星半径にまで広がっていることが示唆された.惑星大気のスケールハイトは大きく,ヘリウムの質量放出率は 3 × 105 g s-1 が上限値と推定される.
また,全体の吸収の青方偏移の値は,惑星の昼側から夜側への 3 km s-1 の速度の高高度の風で説明できる可能性がある.
HAT-P-11b
HAT-P-11b は温暖な海王星クラスの系外惑星で,27.74 地球質量,4.36 地球半径である4.89 日周期で HAT-P-11 を公転している.
軌道周期-惑星質量のパラメータ空間において,海王星質量の惑星の存在度が少ない「蒸発砂漠 (evaporation desert)」の縁に位置している.
ヘリウム三重項の特徴
ヘリウム吸収の特徴は,恒星の静止座標から見て青方偏移していることが期待される.そのため,青方偏移の特徴は吸収のシグナルが恒星由来か惑星由来かを識別するのを助ける.ヘリウム I 三重項は,23P 状態と準安定の23S 状態の遷移によって発生する.これは一階電離状態からの電子との再結合か,基底状態からの衝突励起によって実現される.
ヘリウム三重項は,トランジットの最中に分光学的かつ時間的に分解することができる.これは観測の頻度が高く,さらに高スペクトル分散であるためである.三重項のうち最も強い 2 つのラインは混合している.3 つ目のラインは最も吸収が弱く波長も最も青い側にあるが,他の 2 つのラインとは波長的に分解できる.
これらの遷移は,地球大気での強い水のライン吸収や OH 放射の波長域から外れているため,これらの特徴との混合を避けることができる.またこのスペクトル領域は恒星の強い吸収特徴からも離れている.
観測と解析結果
観測結果の概要
惑星大気によるヘリウムの吸収強さは 1.08% (21σ) であった.吸収の特徴は惑星の静止座標において He I 三重項の中心の波長に位置していた.この吸収は惑星がトランジットを起こしている最中に発生し,また 2 回のトランジットで繰り返し検出された.2 回の観測に置いて,visit 1 では吸収深さ 0.82%,visit 2 では 1.21% であった.2 回のトランジットにおける吸収深さの違いは,惑星大気サイズの変動か,あるいはヘリウム密度の変動に起因するものと考えられる.
ヘリウム吸収プロファイルの最大は 1.2% 程度に到達した.これを光学的に厚い半径に直すと 2.29 惑星半径に相当する.
シミュレーションとの比較
この結果を 3D シミュレーションコードで解釈した.その結果,ベストフィットの熱圏界面高度は 5 惑星半径からロッシュローブ (6.5 惑星半径) の間に存在することが示唆された.吸収特徴のスペクトル線の広がりは,熱的な広がり (thermal broadening) が大部分を占める.しかし惑星大気の熱圏の上向きの拡大が最大で 10 km s-1 分だけ寄与している.これはこの惑星に対して期待されていた値の範囲内である.また,外気圏からの寄与は無視できることが示唆され,ヘリウムの質量放出率は 3 × 105 g s-1 以下と推定される.この推定値は,He I 三重項付近でのスペクトルが対称な形状であることと整合的である.
これらの特徴から,この惑星でのヘリウムの吸収は大部分が球状の層のガスで起きており,依然として惑星に重力的に束縛されている領域でヘリウム吸収が起きていることが示される.
トランジット後のヘリウム吸収が見られないこと,また強い青方偏移のヘリウムの遷移が見られないことから,惑星から尾を引くような形状でヘリウム原子が広がっている可能性は否定される.これは,GJ 436b で見られているような細長い水素外気圏とは異なる特徴である.GJ 436b は HAT-P-11b と同じような密度を持つウォームネプチューンである.ベストフィットモデルでは,5 - 6.5 惑星半径における準安定ヘリウムの数密度は ~ 10 cm-3 と推定され,GJ 436b でのシミュレーションした密度と同じ範囲内である.
HAT-P-11b の放射環境と惑星大気
これらのシミュレーションからは,HAT-P-11b まわりの放射環境について制約を与えることができる.中心星 HAT-P-11 は K4 型星である.惑星の影にいるヘリウム原子は,元々の散逸の軌跡を保つ.これは惑星から散逸した際の軌道速度によって決まる軌跡である.これは 131 分の寿命で準安定ヘリウムの放射脱励起が起きるまで続く.
惑星の影の外側では,ヘリウム原子はこの寿命よりも速く強い恒星の輻射圧によって吹き流される.輻射圧は水素のライマンアルファ波長よりもヘリウム三重項波長のほうがずっと強い.これは中心星は近赤外線の連続波で明るいからである.
惑星から散逸している準安定ヘリウム原子へ働く中心星の輻射圧は,中心星からの重力よりも 90 倍ほど大きい.一方で G, K 型星まわりの惑星の水素外気圏では 5 倍程度となる.
準安定ヘリウムの光電離のための閾値が低いことは,この惑星の軌道距離における準安定ヘリウムの寿命がわずか 2.4 分で,なぜ惑星では彗星の尾のような形状の外気圏が検出されなかったのかを説明することができる.
そのため HAT-P-11b と GJ 436b 両方のウォームネプチューンの周りには広がった高層大気が存在していると考えられる.この 2 つの惑星は同程度の質量と半径を持っているが,中心星のスペクトル型は異なり (それぞれ K, M 型),XUV 放射強度も異なることから,高層大気は異なる構造を生成することが予想される.とはいえ,HAT-P-11b 大気の高高度にヘリウムが存在することは,この惑星でも大量の水素が外気圏へと散逸していることを示唆している.
arXiv:1812.02214
Mansfield et al. (2018)
Detection of Helium in the Atmosphere of the Exo-Neptune HAT-P-11b
(系外海王星 NAT-P-11b の大気におけるヘリウム検出)
概要
波長 10833 Å でのヘリウムの吸収は,系外惑星からの大気散逸を探査するための手段として提案されている.ヘリウムの特徴は最近,ハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 を用いてホットジュピター WASP-107b で初検出されている.ここでは同じくハッブル宇宙望遠鏡を用いてホットネプチューン HAT-P-11b を観測し,4σ の確度でヘリウムが検出されたことを報告する.
観測結果を一次元の流体散逸モデルと比較し,惑星大気の熱圏の温度と質量放出率を推定した.その結果,ベストフィットの質量放出率は 109 - 1011 g s-1 という高い値と整合的であった.
惑星風の兆候は直接検出されなかったが,今回のデータはこの惑星は流体力学的な大気散逸を経験していることと整合的であることを示した.
推定される質量散逸率は,この惑星が一生の間に失う質量は惑星全体の数%でしかなく,全体の組成は大きくは影響を受けないと考えられる.これは,半径が 2 地球半径よりも大きい近接惑星は水素・ヘリウム主体大気を持つことを示唆する系外惑星の種族統計からの予想と合致するものである.
また地上観測では CARMENES 装置を用いた観測でも独立にこの惑星大気中からヘリウムを検出している,これは,光蒸発の同じ特徴が地上観測と宇宙空間からの観測の両方で確認された初めての例である.
PR
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