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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1812.03119
Nortmann et al. (2018)
Ground-based detection of an extended helium atmosphere in the Saturn-mass exoplanet WASP-69b
(土星質量系外惑星 WASP-69b における広がったヘリウム大気の地上からの検出)

概要

これまでの系外惑星からの大気散逸の研究は,宇宙空間からの水素ライマンアルファ線での観測に依存してきた.しかしライマンアルファ線は星間空間での吸収に大きく影響を受けるという欠点がある.

ここでは地上での高分散分光観測から,土星質量の系外惑星 WASP-69b のトランジットの最中に 1083 nm ヘリウム三重項の超過吸収を検出した.観測のシグナルノイズ比は 18 であった.スペクトルの青方偏移として数 km s-1 の値を検出した,
また,トランジット後の吸収も検出した.これは,惑星から散逸していく一部の大気が惑星の後方に彗星のような形状を形成していると解釈できる.

大気組成とヘリウムの検出

これまでに,高分散分光観測で系外惑星の大気組成が探られてきた.CARMENES (Calar Alto high-Resolution search for M dwarfs with Exoearths with Near-infrared and optical Echelle Spectrograph) はその装置の一つである.

大気散逸の検出としては,薄い大気中の 1083 nm でのヘリウムの吸収がその手段の一つとして挙げられている.この波長は,地球と系外惑星系の間にある星間物質の影響を受けないという特長がある.一方でこれまでよく探査に使われてきた水素のライマンアルファ線は星間物質による強い吸収の影響を受ける.

これまでに系外惑星大気におけるヘリウム吸収は,WASP-107b の透過スペクトル中に検出されており,これはハッブル宇宙望遠鏡を用いたものである.しかしこの観測は低分散であったため,吸収のラインの三重項,形状,深さや時間的変動は不明であった.

観測結果

WASP-69b でのヘリウム検出

WASP-69b は,活発な恒星の周りを 3.868 日周期で公転している.大気のスケールハイトが大きく,また惑星と恒星の半径比が大きく,Na D 線の吸収深さが 5.8% あり,大気の研究に適した対象である.CARMENES を用いてこの惑星を 2017 年 8 月 22 日と 9 月 22 日に観測した.

その結果,2 回のトランジットにおいてヘリウムの吸収深さはそれぞれ 3.96% と 3.00% であり,2 回の平均は 3.59% であった.また青方偏移の測定値は -10.69 km s-1 であり,散逸する大気の尾が形成されていることが示唆される.

その他の短周期惑星での上限値

また CARMENES の観測結果から,他の惑星の結果も解析した.ここで解析したのは,HD 189733b と HD 209458b の 2 つのホットジュピター,極めて高温のホットジュピター KELT-9b,ウォームネプチューン GJ 436b である.GJ 436b と HD 209458b は,どちらもライマンアルファ線で大気蒸発が検出されており,また KELT-9b ではバルマー Hα 線で蒸発する大気が検出されている.

GJ 436b と HD 209458b は,ヘリウム三重項のラインでそれぞれ 8% と 2% の吸収深さが予測されているが,過去の HD 209458b の観測では吸収は検出されていない (Moutou et al. 2003).

解析の結果,これらの惑星ではヘリウム吸収の兆候は検出されず,吸収深さの上限値として,GJ 436b では 90% 確度で上限値 0.41%,HD 209458b で 0.84% となり,これは予想されている水準と一致しない結果となった.また KELT-9b では 0.33% という上限値を与えた.
しかし HD 189733b では 1.04% の吸収となった.

なお,別の論文では HAT-P-11b という温暖な海王星サイズ惑星でヘリウム吸収が検出されている.

準安定ヘリウムの検出と惑星周辺環境

なぜこれらの似た高温のガス系外惑星でヘリウム吸収の値が異なるのだろうか?

散逸する大気の拡大は,恒星からの極端紫外線の輻射と,惑星の密度などのパラメータに依存している.しかし惑星大気中のヘリウム三重項状態の存在度は,50.4 nm 未満の波長での輻射強度に依存している.
GJ 436b と HD 209458b は非常に静穏な恒星を公転しているが,ヘリウムが検出された WASP-69b ,HD 189733b,HAT-P-11b,WASP-107b は比較的活発な恒星を公転している.

ヘリウムの吸収高度を惑星大気のスケールハイトで規格化したものと,恒星の活動指数を比較すると,検出の傾向が示唆される.ヘリウム吸収の観測が行われているサンプル数は限られているものの,より活発な恒星を公転する惑星で検出される傾向がある.そのため中心星の活動度とヘリウムの検出可能性との関係が示唆される.


低質量の恒星 (スペクトル型 F, G, K, M 型) は対流層を持ち,恒星の自転と組み合わあって,磁気的活動に伴った現象を起こす.
低質量星の外層は,内側から外側に向かって,光球,彩層,遷移層,コロナと続く.一般に,恒星の活動指標の Ca II H, K 線のスペクトル特徴として検出されるのは恒星彩層での活動である.一方で遷移層とコロナは X 線と極端紫外線を放射している.

準安定の 23 S ヘリウム三重項状態は,観測される吸収線の中で最も低いエネルギー準位だが,これはヘリウム原子が 50.4 nm 未満の短波長の光子によって電離され,その後の電子との再結合によって生成される状態である.従って,高い X 線と極端紫外線 (のうち 50.4 nm より短波長) 輻射が,ヘリウム三重項を惑星大気中に形成するのを増幅する.
ヘリウム吸収高度をスケールハイトで規格化したものと,X 線とヘリウム準安定状態生成に効く極端紫外線のフラックスを比較すると,サンプル数が少ないものの,両者の間には相関が見られることが分かる

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