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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1902.06018
Heller et al. (2019)
An alternative interpretation of the exomoon candidate signal in the combined Kepler and Hubble data of Kepler-1625
(ケプラー1625 のケプラーとハッブル双方のデータ中の系外衛星候補シグナルの別の解釈)

概要

ケプラーとハッブル宇宙望遠鏡による,木星サイズの惑星ケプラー1625b の合計 4 回のトランジットの測光観測では,ケプラー1625b まわりの海王星サイズの系外衛星の証拠が見られたと解釈されている.
この解釈における重要な議論は,ハッブル宇宙望遠鏡で見られた 2017 年 10 月の惑星のトランジットの後の恒星の減光と思われるシグナルが検出されたことと,完全な周期軌道と比較した場合と比べて 77.8 分早く惑星のトランジットが発生したという点である.

この初めての系外惑星候補の検出報告に関しては,想定される系外衛星の半径が非常に大きいという物理的な奇妙さがある.そのため,ここでは観測データに関して,惑星のみが存在するという仮説を元に調査を行い,検出の信頼性をベイズ情報量規準 (Bayesian Information Criterion, BIC) を用いて検証した.

今回の検証では,ケプラーの Pre-search Data Conditioning Simple Aperture Photometry (PDCSAP) と,過去に公開されたハッブルの光度曲線を組み合わせた.
また別のアプローチとして,ケプラーデータの同時多項式トレンド除去とフィッティングを,独自のハッブル測光の抽出と組み合わせ,データの 500 万パターンの Parallel-Tempering Markov Chain MonteCarlo (PTMCMC) を生成し,惑星だけのモデルと惑星と衛星モデルの両方で行い,BIC の差異 (ΔBIC) を比較した.


その結果,系外衛星を含むモデルでは,ΔBIC はハッブルのデータのみで -44.5,独自のトレンド除去を使用した場合は -31.0 となり,系外衛星が存在するモデルを支持する強い統計的な証拠を得た.しかし,ここでの軌道の解の殆どはベストフィットの解とは大きく異なり,データを最もよく表す尤度関数は非ガウス関数であることが示唆された.

ケプラー1625b の 73.7 分早いトランジットを,ハッブルのデータで 3σ で測定した.このずれは,最初のケプラーでのトランジット付近にある 1 日分のデータのギャップ,恒星活動,あるいは未知の系統誤差で引き起こされる可能性があり,これらの全てがトレンド除去に影響する.

この惑星のトランジットタイミング変化 (transit timing variation, TTV) が発見されていないホットジュピターによって引き起こされていると考えた場合,このホットジュピターによる視線速度の変動は 100 m s-1 になる.

結論として,過去に提案されているのと同様に,惑星と衛星両方が存在するモデルが好ましいという結果を見出したが,統計的な証拠を注意深く検証すると,これは系外衛星の確実な検出ではないという結論に至る.ケプラーやハッブルの観測データにある未知の系統誤差は,ΔBIC をこの惑星周りの系外衛星探査のための手法として信頼できないものにし,検出されたシグナルの系外衛星以外の別の解釈が可能となる.

背景

トランジットする木星サイズの惑星ケプラー1625b では,系外衛星候補の検出が報告されている (Teachey et al. 2018).
想定される系外衛星の大きさは海王星サイズであり,存在が確定すれば,太陽系にはないタイプの衛星の発見となる.すなわち,太陽系のすべての衛星を合わせたよりも重い衛星ということになる.このような巨大な衛星がどのように形成されうるかは,現在のところ不明である (Heller 2018).

Rodenbeck et al. (2018) では,ケプラーで 2009 年 - 2013 年に得られた 3 回のトランジット観測の再検討を行った.その結果提案された系外衛星の存在について,暫定的な統計的な証拠を見出した.ただしトランジットのインジェクション復元試験では,系外衛星の検出が偽陽性である可能性も示唆された.

その後の 2017 年のハッブル宇宙望遠鏡によるトランジット観測で,系外衛星説をさらに支持する証拠が得られた (Teachey & Kipping 2018).しかし依然として系外衛星の実在に関しては議論がある.

Teachey et al. (2018) では 2017 年のハッブル宇宙望遠鏡でのトランジット観測で予想より 77.8 分 早いトランジットを観測した.その論文で指摘されているように,このトランジットタイミング変化は,系外衛星の存在の証拠として解釈することも,さらなる未発見の惑星の存在を示すものと解釈することもできる.

結論

結論としては,惑星単独モデルと惑星-衛星モデルの ΔBIC は -44.5 もしくは -31.0 となり,おおむね海王星サイズの系外衛星が存在する強い統計的証拠を見出した.

しかしデータのトレンド除去のどちらの場合においても,惑星-衛星計の最も可能性の高い軌道解は,個々での PTMCMC モデリングの他の軌道の可能性とは大きく異なり,また最も可能性の高い解に収束していないように思われる.言い換えれば,最も可能性の高い解は可能な解の分布における外れ値であるように思われ,観測データにおける小さな変更は,惑星-衛星系のための最も可能性の高い軌道の解に大きな影響を及ぼす可能性がある.

また TTV については,Teachey & Kipping (2018) で発見されたものが存在することを確認した.
もし予想より早いトランジットが系外衛星ではなく内側の未発見の惑星で引き起こされているとすると,その惑星は木星より重いホットジュピターであろうと考えられる.その質量は想定する軌道長半径に依存.例えば 0.03 AU にある 5.8 木星質量の惑星の場合は視線速度振幅は 900 m s-1,0.1 AU にある 1.8 木星質量の惑星の場合は 150 m s-1 になる.

この仮定上の惑星のトランジットはケプラーのデータ中に見られないことから,トランジットを起こさないためには,軌道傾斜角は少なくとも 7.8° (0.03 AU の場合),あるいは 2.4° (0.1 AU の場合) 必要である.

地上からの測光観測では,この系外衛星の問題に答えを与えるのは難しいだろう.これは,この惑星のトランジット中とその前後の観測をするには,少なくとも 2 日の観測時間が必要だからである.しかし現在と近い将来の宇宙空間からの系外惑星ミッションでは,系外衛星仮説を実証したり否定するのに必要なシグナルノイズ比の観測結果が得られるだろう.

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