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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1903.02576
Oklopčić (2019)
Helium Absorption at 1083 nm from Extended Exoplanet Atmospheres: Dependence on Stellar Radiation
(広がった系外惑星大気による 1083 nm でのヘリウム吸収:恒星放射への依存性)

概要

ヘリウムの 1083 nm の強い吸収特徴は,最近いくつかの近接系外惑星の透過スペクトル中に検出されている.この吸収は,励起された準安定な 23S 状態の中性ヘリウムに起因するものである.

この準安定な励起状態にあるヘリウム原子の数は,恒星のスペクトルの形状と,惑星大気に入射する輻射場の強度によって決まる.どの様な種類の恒星環境が,広がった惑星大気の中で準安定な状態のヘリウムを生み出すのに最も適しているかを調査した.

その結果,晩期型星,特に K 型星に近接した軌道で公転している惑星が,この波長でのトランジット吸収シグナルの最も確実な候補であることが示唆された.この結果は観測からも支持され,ヘリウムの検出が現在報告されている 4 つの全ての系外惑星は K 型星のまわりを公転している.

一般に,ヘリウム原子を励起するためにはより小さい軌道間隔であることが好ましく,ヘリウムの基底状態を電離するような高い水準の極端紫外線フラックスがあり,準安定状態にあるヘリウムを電離するような中間紫外線フラックスの水準が低いほうが好ましい.

大気散逸の観測

紫外線波長での観測

これまでの系外惑星からの大気散逸の観測は,主に紫外線波長域で行われてきた.特に中性水素の Lyα 波長で行われており,ホットジュピターの HD 209458b と HD 189733b,ウォームネプチューン GJ 436b と GJ 3470b で広がった水素エンベロープが検出されている.

しかし観測的な困難さがあるため,紫外線波長で観測された散逸する系外惑星大気の検出例は少数に留まる.

近赤外線波長での観測

最近の理論的研究では,ヘリウムの 1083 nm 波長で大気散逸を観測可能であることが指摘されている (Oklopˇci ́c & Hirata 2018).

系外惑星大気中でのヘリウム吸収の初めての証拠は,ハッブル宇宙望遠鏡の Wide Field Camera 3 (WFC3) を用いて,WASP-107b で報告された (Spale et al. 2018).この観測ではヘリウム 1083 nm を含むチャンネルで超過吸収が検出されている.

その後,地上観測でスペクトル分解されたヘリウムの吸収が検出されている.HAT-P-11b (Allart et al. 2018),WASP-69b (Nortmann et al. 2018),HD 189733b (Salz et al. 2018),WASP-107b (Allart et al. 2019) での報告がある.
また Mansfield et al. (2018) では,HAT-P-11b でハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 を用いてヘリウムの超過吸収が存在することを報告している.

系外惑星大気中でのヘリウムの検出報告は最近増加している.この波長の Lyα 波長に対する優位性は,

(1) 星間物質に大きな影響を受けない (Indriolo et al. 2009)
(2) 地上から多数の中規模・大規模望遠鏡の高分散分光器を用いて観測できる

という点である.

準安定ヘリウムの特徴

1083 nm の吸収は,励起された 23S 状態にある中性ヘリウムに起因する.この準位は,基底状態から輻射的に分離している.そのため,準安定な準位である.

準安定ヘリウム順位の個数レベルと,それに伴う 1083 nm での吸収シグナルの強度は,惑星大気の特性だけではなく,入射する恒星輻射場の強度とスペクトルの形状にも依存する.興味深いことに,これまでにヘリウムが検出されている惑星の中心星 4 つはどれも活発な K 型星であり,軌道距離は 0.031- 0.055 AU と近い位置を公転している

結論

系外惑星大気中の準安定状態のヘリウムが検出されるのに適しているのは,惑星が近接軌道 (0.05 AU 未満) にあり,中心星が K 型星で,特に活動レベルが大きいという状況である.
この理論的な予測は観測と整合的であり,現時点でヘリウムが検出されている惑星の中心星は全てこれに当てはまる.

これまでにヘリウムの非検出報告があった惑星は,より高温な恒星 (A, G 型) と,低温な恒星 (M 型) の両方である.

M 型矮星はスペクトルの形状が最もハードであるが,惑星の恒星からの距離を同一とした状態での極端紫外線のフラックス水準が,K 型星周りの場合よりも少なくとも 1 桁小さくなる.そのため,準安定状態のヘリウムが生成されるためには,惑星は K 型星周りの場合と比較してずっと近くを公転している必要がある.

今回の解析では,準安定な三重項状態にあるヘリウム原子の割合を 1083 nm での吸収シグナルの強度の代用として使用した.しかし吸収シグナルの強度,例えば 1083 nm でのトランジット深さは,観測される惑星とその中心星の相対サイズにも依存することを強調しておく必要があるだろう.従って,あるサイズの惑星を考えた場合,より低温の主系列星の周りを公転する場合,三重項状態にいるヘリウムがより高い割合であることと,惑星-恒星の半径比が大きくなるという二重の利点を有することになる.

なお,A 型星まわりでは 1083 nm の明確な吸収は期待できないことが予想される.これらの恒星の周りでは中間紫外線の放射水準が高く,準安定ヘリウムが直接光電離されるのを介して,惑星大気中の準安定ヘリウムが短いタイムスケールで容易に減少してしまうことが原因である.

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