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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1906.04274
Waalkes et al. (2019)
Lyman-alpha in the GJ 1132 System: Stellar Emission and Planetary Atmospheric Evolution
(GJ 1132 系でのライマンアルファ:恒星放射と惑星大気進化)

概要

GJ 1132b は,M 型矮星を公転している,地球サイズであることが知られている数少ない系外惑星の一つである.太陽系から 12 pc の距離にあり,最も近くにある既知のトランジット惑星のひとつでもある.

この惑星は地球の 19 倍の輻射を受けているため,生命が居住可能な環境であるには高温過ぎるが,低温の恒星を公転する岩石惑星の大気中の揮発性物質の量についての情報を我々に与えてくれる.

ここでは,ハッブル宇宙望遠鏡の STIS を用いて得られたスペクトルを用いて,GJ 1132b の中性水素の Lyα 線 (ライマンアルファ線) でのトランジットを探査した.
もし Lyα 線での深いトランジットが検出された場合,この惑星から流出する中性水素エンベロープの存在が示唆される.一方で深い吸収が否定された場合は,この惑星は検出可能な量の水素の流出が発生していないことを示唆し,水素を散逸していないか,あるいは水素やその他の揮発性物質を寿命の初期の段階に失ってしまったのだと考えられる.

今回の観測では Lyα 線でのトランジットは検出されず,2σ の上限値として Lyα 線の red wing 側での有効エンベロープ半径に対して 0.36 恒星半径という値を与えた.これは星間物質による吸収の後に検出されるスペクトルのほんの一部分である.

また,Lyα のスペクトルと中心星 GJ 1132 の変動を解析した.この恒星は低速自転をする 0.18 太陽質量の M 型矮星であり,最大 41% の M 矮星の紫外線変動と整合的であった.中心星の紫外線の変動性が惑星の大気に及ぼす役割を理解することは,低温の岩石系外惑星の大気進化と居住可能性を評価するために重要である.

大気散逸の上限値

惑星周囲にあるエンベロープが球対称の構造であることを仮定して,Lyα 線トランジット観測の上限値から,中性水素の散逸率の上限値を推定した.大気が散逸する速度の範囲は,惑星からの脱出速度である 10 km s-1 から,恒星からの脱出速度である 100 km s-1 までの範囲を仮定した.

その結果.GJ 1132b からの中性水素原子の散逸率の上限は 0.86 × 109 g s-1 と推定された.

散逸する水素原子全てが水分子に由来すると仮定すると,水の量に換算すると 15.4 × 109 g s-1 に相当する.この散逸率の上限値が維持された場合,この惑星は 600 万年の間に地球の海に相当する量の水を失うことになる.

中心星ののスペクトルと合わせて考えると,大気散逸へとエネルギーが変換される効率が 100% であると仮定した場合,エネルギー律速による散逸率は 3.0 × 109 g s-1 となる.

結論

今回の研究は,GJ 1132b の外気圏の初めての特徴付けを行ったものである.LUVOIR のような望遠鏡が使用可能になるまでは,この惑星系に対して可能な最も詳細な Lyα 線での特徴付けである.

もしこの惑星が散逸する中性水素の高層大気を持っていた場合,その高層大気のサイズは 0.36 恒星半径 (7.3 惑星半径) よりも小さい (red-shifted wing 側で測定した値).また,Lyα 線の青方偏移側で測定した高層大気のサイズの上限値は 0.62 恒星半径 (12.6 惑星半径) だが,これは非常に弱い制約である.

今回の観測から得られた大気散逸の上限値は,0.08 - 0.8 × 109 g s-1 である.


主な結果は以下の通り.

・GJ 1132b の実際の大気散逸率は,今回の観測から推定された上限値に匹敵する程度の値か,あるいはそれよりずっと小さい可能性がある.そのため,この惑星の大気と揮発性物質の詳細については未解決の問題が残る,いくらかの量の散逸はあるかもしれないが,今回の機器の検出限界を下回る.

・もしこの惑星の周りに中性水素からなるエンベロープが存在する場合,このスーパーアースは光化学破壊と水素のハイドロダイナミックエスケープによって活発に水を失っているはずである.残った大気は,例えば酸素分子や温室効果ガスである二酸化炭素など,酸素豊富の組成となる可能性がある.

・この惑星の大気は,金星的か火星的であると考えられる.つまり,遠い昔に水を失い,分厚い二酸化炭素と酸素の残存大気を持つか,あるいは大気を持たない.将来のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (JWST) による観測で,この惑星の大気組成についてさらなる情報が得られるだろう.

・大気散逸を計算する EVE シミュレーションコードに基づくと,この惑星の周りには中性水素からなる巨大な雲が存在する可能性がある.しかしこれは星間物質による吸収の影響で検出できない.しかしもし大気中にその他の揮発性物質がある場合,これはその他のトレーサー粒子によって検出可能だと考えられる.例えば,ハッブル宇宙望遠鏡を用いた遠紫外線での観測では炭素や酸素,地上の高分散赤外分光観測や JWST による観測ではヘリウムを用いて観測できる可能性がある.

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