×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
Accretion of a giant planet onto a white dwarf star [プレスリリース] [論文PDF]
Gänsicke et al. (2019)
Accretion of a giant planet onto a white dwarf star
(白色矮星への巨大惑星への降着)
ここでは,高温 (~27750 K) の白色矮星 WD J091405.30+191412.25 の,可視光での分光観測について報告する.水素・酸素・硫黄からなる星周ガス円盤から,3.3×109 g/s の物質が降着している様子を確認した.
この円盤の組成は,他の白色矮星で発見されている惑星由来のデブリによるものとは異なるが,H2O や H2S を主要な成分とする,巨大氷惑星の大気深層を構成していると予想されている組成に類似している.高温の白色矮星を 15 太陽半径程度の軌道長半径で公転している巨大惑星からは,今回白色矮星に降着しているのが観測された降着率と同程度の質量放出率が発生することが期待できる.
これを実現する惑星軌道は,重力相互作用の結果であるとするのが最も可能性があり,それを引き起こすさらなる惑星がこの系内に存在していることを示唆している.
今回の観測結果は,白色矮星を近接軌道で公転する分光学的に検出可能な巨大惑星は,おおよそ 1/10000 の存在頻度であることを示唆する.
スペクトルの詳細な観測からは,酸素 (O I, 7774, 8556 Å) の輝線,また [S II] と暫定的に同定した 4068 Å 近辺の輝線がさらに検出された.この輝線のフラックス比は白色矮星連星としては極めて非典型的であり,過去の分類に疑問を投げかけるものである.
Very Large Telescope の X-Shooter 分光器を用いて,この白色矮星系の分光観測を行った.その結果,[S II] (4068 Å) の存在を確認し,さらに [O I] (6300, 6363 Å) と,9200 Å 付近の O I と S I の混合を検出した.
Hα と O I (8446 Å) 輝線は二重ピークの形状をしており,この輝線の起源が白色矮星を取り囲む星周ガス円盤であることを示している.これは,チリとガスからなる惑星のデブリ円盤を持ついくつかの白色矮星の特徴と似ている.
しかしこれまでに知られている全てのガス・デブリ円盤のスペクトルは,Ca II 三重項 (8600 Å) の輝線が主で,弱い Fe II の線を伴っているが,今回の観測ではそれらは発見されなかった.さらに,他のガス・デブリ円盤を持つ白色矮星では Hα 輝線は検出されていない.
X-Shooter のスペクトルでは,強いバルマー線が検出されており,白色矮星の水素主体の大気の存在を示唆している.また多数の鋭い酸素と硫黄の吸収線を検出した.
白色矮星の有効温度は 27743 K,表面重力は log(g) = 7.85 と測定された.この 2 つの大気パラメータを固定して白色矮星の表面組成を測定すると,酸素は log(O/H) = -3.25,硫黄は log(S/O) = -4.15 となる.
白色矮星への降着率は 3.3 × 10-9 g s-1 で,惑星デブリに汚染された白色矮星の水素大気で観測されている中では最も高い降着率である.しかしこの白色矮星で測定された降着率は酸素と硫黄のみを含んだ値であり,これらの 2 つの元素の降着フラックスは他のどの白色矮星系のものよりも 1 桁大きい.もし熱塩混合や対流オーバーシュートが白色矮星大気で効果的であった場合,降着率は 1 桁大きくなりうる.
水素,酸素,硫黄以外の輝線が検出されなかったことから,円盤中のナトリウム,ケイ素,カルシウム,鉄の存在度に強い上限が与えられた.また,視線速度観測からは恒星の伴星の存在は否定された.
惑星デブリが検出されている他の白色矮星とは対照的に,降着していく物質中の金属が極端に欠乏している.観測的な証拠に基づくと,この白色矮星は純粋にガスのみからなる星周円盤を降着している.
この円盤内の物質のもっともらしい起源は,白色矮星を近接軌道で公転する,蒸発する巨大惑星である.この組成は太陽系内の巨大氷惑星の深層に類似している.
天王星の電波とマイクロ波のモデリングからは,アンモニアの濃度は低く,また水の濃度は大きい必要がある.アンモニアと硫化水素が硫化水素アンモニウムに凝縮することは,大気からのアンモニアの除去に効率的だと考えられている.しかし太陽の硫黄・窒素比では,すべてのアンモニアが硫化水素アンモニウムに変わるには不十分である.
天王星のスペクトルを説明するもっともらいしモデルは,水と硫化水素の濃度が太陽組成の値の数百倍に増加している必要があるとしている.天王星と海王星の大気中からは最近硫化水素が検出されており,巨大氷惑星の深い雲の層では硫化水素が主要な成分であることが確認されている.
ウォームネプチューンでは,数太陽半径の軌道長半径にあるものは 108-1010 g s-1 の大気散逸を起こしていると推定されている (GJ 436b や GJ 3470b など).これはこの白色矮星での降着率の推定と同程度である.
降着円盤が 10 太陽半径まで広がっている場合,惑星はおそらく 15 太陽半径の距離に位置していると考えられる.このやや高温な白色矮星は強い極端紫外線を放射しており,主系列星を公転している質量を失っているウォームネプチューンのように質量散逸を引き起こす.惑星からの質量散逸率の推定は 5 × 1011 g s-1 であり,GJ 436b などでの質量散逸率の推定値を超える.
惑星から散逸した物質の一部は白色矮星に重力的に束縛されたままとなり,二重ピークの輝線の形で検出されている星周円盤を形成する.これが白色矮星に降着し,白色矮星の光球を酸素と硫黄で汚染する.
光電離モデルでは,ガス円盤は惑星大気の主成分である水素が大きく欠乏していることを示唆している.
高温な白色矮星は,極端紫外線に加え大量の Lyα 光子も放出し,この強度は太陽の値を大きく上回る.その結果,水素の Lyα に対する断面積が大きいため水素の白色矮星への流入が阻害され,星周円盤や降着した物質の酸素と硫黄の存在度が大きく増幅されることとなる.
拡散速度を考慮すると,推定された硫黄と酸素の存在度を説明するための降着率は,硫黄が 5.5 × 108 g s-1,酸素が 2.7 × 109 g s-1 である.
いくつかの研究では,温かい白色矮星の放射水素大気へ金属が降着することによって大気の平均分子量の勾配が形成され,熱塩混合が引き起こされるとされている.これを考慮すると,上記の降着率は過小評価されたものとなる.純粋に拡散による沈殿のみを考えた場合は,降着率の下限値として 3.3 × 109 g s-1 という値が得られ,実際の値は 1 桁大きくなりうる.
スペクトル中の二重ピークの輝線は星周ガス円盤の存在を確認するものであるが,激変星は典型的により強いバルマー線を持ち,しばしばヘリウム線も伴う.また,可視光でのスペクトルの特徴を示す,28000 K 程度と高温な白色矮星を伴う激変星はこれまでに知られていない.
分光学的に似た別の系としては,分離した短周期の post-common envelope binaries (PCEBs,共通外層連星の進化後) がある.これは,低質量の伴星を伴った白色矮星連星で,伴星からの Hα 放射が一般的に検出される.高温の白色矮星を含む PCEBs では伴星の強い輻射によるカルシウムと鉄の輝線が見られるが,この白色矮星では検出されていない.また輝線の形状からも,PCEBs である可能性が否定される.
X-Shooter のスペクトル中の最も強い硫黄の吸収から,視線速度を測定した.
PCEBs として典型的な 2 時間から 1 日の軌道周期を仮定すると,褐色矮星質量以上の天体を伴星として持つ可能性が否定される.また,質量を供給していると思われる天体に対して想定される軌道周期範囲である 8-10 日を仮定すると,30 木星質量以上の天体の存在は否定される.
また恒星質量の伴星が存在すれば,赤外線での放射の超過が見られるはずだが,それは検出されていない.これを元に,スペクトル型 L5 の褐色矮星より早期 (重い) 天体の存在は否定される.
Accretion of a giant planet onto a white dwarf star [プレスリリース] [論文PDF]
Gänsicke et al. (2019)
Accretion of a giant planet onto a white dwarf star
(白色矮星への巨大惑星への降着)
概要
白色矮星 G29-38 の周りのダスト円盤の検出や,白色矮星 WD 1145+017 まわりを公転するデブリのトランジットの検出は,潮汐破壊された微惑星の降着による,多くの白色矮星で発見されている測光的な金属の痕跡を確認するものである.これらの微惑星の組成は太陽系内の岩石天体に類似している.微惑星を白色矮星の近傍にまで重力的に散乱するためにはより重い天体の存在が必要だが,白色矮星の周囲ではそのような惑星はこれまでに検出されていない.ここでは,高温 (~27750 K) の白色矮星 WD J091405.30+191412.25 の,可視光での分光観測について報告する.水素・酸素・硫黄からなる星周ガス円盤から,3.3×109 g/s の物質が降着している様子を確認した.
この円盤の組成は,他の白色矮星で発見されている惑星由来のデブリによるものとは異なるが,H2O や H2S を主要な成分とする,巨大氷惑星の大気深層を構成していると予想されている組成に類似している.高温の白色矮星を 15 太陽半径程度の軌道長半径で公転している巨大惑星からは,今回白色矮星に降着しているのが観測された降着率と同程度の質量放出率が発生することが期待できる.
これを実現する惑星軌道は,重力相互作用の結果であるとするのが最も可能性があり,それを引き起こすさらなる惑星がこの系内に存在していることを示唆している.
今回の観測結果は,白色矮星を近接軌道で公転する分光学的に検出可能な巨大惑星は,おおよそ 1/10000 の存在頻度であることを示唆する.
観測結果
WD J091405.30+191412.25 (WD J0914+1914) は最初,SDSS によって得られたスペクトル中に弱い Hα 輝線が検出されたことに基づき,短周期の相互作用をする白色矮星連星と分類された.スペクトルの詳細な観測からは,酸素 (O I, 7774, 8556 Å) の輝線,また [S II] と暫定的に同定した 4068 Å 近辺の輝線がさらに検出された.この輝線のフラックス比は白色矮星連星としては極めて非典型的であり,過去の分類に疑問を投げかけるものである.
Very Large Telescope の X-Shooter 分光器を用いて,この白色矮星系の分光観測を行った.その結果,[S II] (4068 Å) の存在を確認し,さらに [O I] (6300, 6363 Å) と,9200 Å 付近の O I と S I の混合を検出した.
Hα と O I (8446 Å) 輝線は二重ピークの形状をしており,この輝線の起源が白色矮星を取り囲む星周ガス円盤であることを示している.これは,チリとガスからなる惑星のデブリ円盤を持ついくつかの白色矮星の特徴と似ている.
しかしこれまでに知られている全てのガス・デブリ円盤のスペクトルは,Ca II 三重項 (8600 Å) の輝線が主で,弱い Fe II の線を伴っているが,今回の観測ではそれらは発見されなかった.さらに,他のガス・デブリ円盤を持つ白色矮星では Hα 輝線は検出されていない.
X-Shooter のスペクトルでは,強いバルマー線が検出されており,白色矮星の水素主体の大気の存在を示唆している.また多数の鋭い酸素と硫黄の吸収線を検出した.
白色矮星の有効温度は 27743 K,表面重力は log(g) = 7.85 と測定された.この 2 つの大気パラメータを固定して白色矮星の表面組成を測定すると,酸素は log(O/H) = -3.25,硫黄は log(S/O) = -4.15 となる.
白色矮星への降着率は 3.3 × 10-9 g s-1 で,惑星デブリに汚染された白色矮星の水素大気で観測されている中では最も高い降着率である.しかしこの白色矮星で測定された降着率は酸素と硫黄のみを含んだ値であり,これらの 2 つの元素の降着フラックスは他のどの白色矮星系のものよりも 1 桁大きい.もし熱塩混合や対流オーバーシュートが白色矮星大気で効果的であった場合,降着率は 1 桁大きくなりうる.
白色矮星周りの降着円盤
円盤の組成とその起源
白色矮星まわりの星周円盤のモデル化を行い,円盤のケプラー回転によって Doppler-broadened した輝線は,白色矮星から 1-10 太陽半径にまで広がった円盤から放射されていると推定した.水素,酸素,硫黄以外の輝線が検出されなかったことから,円盤中のナトリウム,ケイ素,カルシウム,鉄の存在度に強い上限が与えられた.また,視線速度観測からは恒星の伴星の存在は否定された.
惑星デブリが検出されている他の白色矮星とは対照的に,降着していく物質中の金属が極端に欠乏している.観測的な証拠に基づくと,この白色矮星は純粋にガスのみからなる星周円盤を降着している.
この円盤内の物質のもっともらしい起源は,白色矮星を近接軌道で公転する,蒸発する巨大惑星である.この組成は太陽系内の巨大氷惑星の深層に類似している.
天王星の電波とマイクロ波のモデリングからは,アンモニアの濃度は低く,また水の濃度は大きい必要がある.アンモニアと硫化水素が硫化水素アンモニウムに凝縮することは,大気からのアンモニアの除去に効率的だと考えられている.しかし太陽の硫黄・窒素比では,すべてのアンモニアが硫化水素アンモニウムに変わるには不十分である.
天王星のスペクトルを説明するもっともらいしモデルは,水と硫化水素の濃度が太陽組成の値の数百倍に増加している必要があるとしている.天王星と海王星の大気中からは最近硫化水素が検出されており,巨大氷惑星の深い雲の層では硫化水素が主要な成分であることが確認されている.
伴星のガス惑星からの質量放出
強い極端紫外線を受ける海王星質量系外惑星は,大気の光蒸発を起こす.ウォームネプチューンでは,数太陽半径の軌道長半径にあるものは 108-1010 g s-1 の大気散逸を起こしていると推定されている (GJ 436b や GJ 3470b など).これはこの白色矮星での降着率の推定と同程度である.
降着円盤が 10 太陽半径まで広がっている場合,惑星はおそらく 15 太陽半径の距離に位置していると考えられる.このやや高温な白色矮星は強い極端紫外線を放射しており,主系列星を公転している質量を失っているウォームネプチューンのように質量散逸を引き起こす.惑星からの質量散逸率の推定は 5 × 1011 g s-1 であり,GJ 436b などでの質量散逸率の推定値を超える.
惑星から散逸した物質の一部は白色矮星に重力的に束縛されたままとなり,二重ピークの輝線の形で検出されている星周円盤を形成する.これが白色矮星に降着し,白色矮星の光球を酸素と硫黄で汚染する.
光電離モデルでは,ガス円盤は惑星大気の主成分である水素が大きく欠乏していることを示唆している.
高温な白色矮星は,極端紫外線に加え大量の Lyα 光子も放出し,この強度は太陽の値を大きく上回る.その結果,水素の Lyα に対する断面積が大きいため水素の白色矮星への流入が阻害され,星周円盤や降着した物質の酸素と硫黄の存在度が大きく増幅されることとなる.
光球面の組成について
白色矮星の有効温度と表面重力の推定値から,スペクトルを用いて組成を決定した.この白色矮星の有効温度では,輻射による酸素原子と硫黄原子の浮上の影響は無視できるため,これらの元素の存在量が光球面で増加しているということは,これらの物質の降着が進行中であることを示唆する.拡散速度を考慮すると,推定された硫黄と酸素の存在度を説明するための降着率は,硫黄が 5.5 × 108 g s-1,酸素が 2.7 × 109 g s-1 である.
いくつかの研究では,温かい白色矮星の放射水素大気へ金属が降着することによって大気の平均分子量の勾配が形成され,熱塩混合が引き起こされるとされている.これを考慮すると,上記の降着率は過小評価されたものとなる.純粋に拡散による沈殿のみを考えた場合は,降着率の下限値として 3.3 × 109 g s-1 という値が得られ,実際の値は 1 桁大きくなりうる.
恒星・亜恒星質量の伴星の否定
この白色矮星の初期の分類では,この天体が激変星であることが示唆されていた.つまり,ロッシュローブを満たした低質量の伴星から,白色矮星への降着を起こしている短周期連星だと考えられていた.スペクトル中の二重ピークの輝線は星周ガス円盤の存在を確認するものであるが,激変星は典型的により強いバルマー線を持ち,しばしばヘリウム線も伴う.また,可視光でのスペクトルの特徴を示す,28000 K 程度と高温な白色矮星を伴う激変星はこれまでに知られていない.
分光学的に似た別の系としては,分離した短周期の post-common envelope binaries (PCEBs,共通外層連星の進化後) がある.これは,低質量の伴星を伴った白色矮星連星で,伴星からの Hα 放射が一般的に検出される.高温の白色矮星を含む PCEBs では伴星の強い輻射によるカルシウムと鉄の輝線が見られるが,この白色矮星では検出されていない.また輝線の形状からも,PCEBs である可能性が否定される.
X-Shooter のスペクトル中の最も強い硫黄の吸収から,視線速度を測定した.
PCEBs として典型的な 2 時間から 1 日の軌道周期を仮定すると,褐色矮星質量以上の天体を伴星として持つ可能性が否定される.また,質量を供給していると思われる天体に対して想定される軌道周期範囲である 8-10 日を仮定すると,30 木星質量以上の天体の存在は否定される.
また恒星質量の伴星が存在すれば,赤外線での放射の超過が見られるはずだが,それは検出されていない.これを元に,スペクトル型 L5 の褐色矮星より早期 (重い) 天体の存在は否定される.
PR
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック