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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1511.03689
Louden & Wheatley (2015)
Spatially resolved eastward winds and rotation of HD189733b
(HD 189733bの東向きの風と自転の空間分解)

概要

HARPSによる、トランジット時のナトリウムの吸収線の高精度分光観測のモデリングから、ホットジュピターである HD 189733bの両端の風速の測定を行った。観測結果の解析から、HD 189733bの大気における強い東向きの風の存在を検出した。トランジット時の惑星の先行する側 (leading limb)の端における赤方偏移は 2.3 (+1.3, -1.5) km s-1後行する側 (trailing limb)での青方偏移は 5.3 (+1,0, -1.4) km s-1という結果となった。
(※ホットジュピターの大気が高速で吹く東西方向の流れで占められている場合、先にトランジットを起こす先行する側の縁では風は視線方向の向こう側へ遠ざかる方向に吹き、逆に最後にトランジットから出る後行する側の縁では風は視線方向のこちらがわへ近づく方向へ吹くことになる。そのため、先行する側では大気成分はドップラー効果で赤方偏移を起こし、後行する側では逆に青方偏移を起こす。)

この速度は、潮汐固定された惑星の自転と、東向きの赤道ジェット (equatorial jet)で説明することが可能である。これはホットジュピターにおける大気循環モデルによる予言と一致する結果である

この観測結果は、HD 189733bの大気におけるナトリウムの吸収線は大気の運動速度によって本質的に広がった形状になるため、全球で平均した透過スペクトルにおける過去の研究では、スペクトル線の圧力による広がり (pressure broadening)によるスペクトル線の形状の変化の影響を過大評価している可能性があることを示唆するものである。

ホットジュピターの大気循環

系外惑星の風は、トランジット時の高精度分光観測における、惑星の縁における吸収線の平均のドップラー測定によって行われている。例えば、HD 209458bでは一酸化炭素の平均したスペクトル線形状から、平均の青方偏移が 2 ± 1 km s-1であるという結果が得られている。これは CRyogenic high resolution InfraRed Echelle Spectrograph (CRIRES)で観測された結果である (Snellen et al. 2010)。

また HD 189733bでは、HARPS (High Accuracy Radial Velocity Planet Searcher)によるナトリウムの二重線の観測から、青方偏移の値として 8 ± 2 km s-1という値を得ている (Wyttenbach et al. 2015)。ただしこの値は大きすぎるということを本観測と解析の中で示す。

平均した透過スペクトルにおける青方偏移の観測結果は、惑星の昼側からよる側への全体的な風の流れの存在を示す。しかし平均したドップラーシフトでは大気循環モデルの検証を行うことは出来ない。大気循環のモデルによると、惑星の両端 (先行側と後行側)で大きな速度差を持つはずである。

ホットジュピターは潮汐固定された自転周期を持ち、大気の東方向の赤道ジェットを持つというモデル (Shwman et al. 2011など)は、先行側の縁では吸収線の赤方偏移、後行側の縁では青方偏移を示すことを予言する (Showman et al. 2013)。また赤道ジェットは、中心星からの強い輻射を受けている惑星では普遍的であるとも予想されている (Showman et al. 2015)。この赤道ジェットは、惑星の昼側からよる側への熱の輸送をコントロールしている。

大気循環と赤道ジェットの直接検出はまだ無いものの、HD 189733bでは最も温度が高い点が、恒星直下点 (sub-stellar point)よりも 30°ずれているという結果が観測から示されており、これは東向きのジェットの存在を支持する結果である (Knutson et al. 2007, 2008)。
ここでは、この大気の回転の様子を空間分解する観測を行った。

観測結果

先行する側の縁では、赤方偏移が 2.3 (+1.3, -1.5) km s-1、後行する側の縁では、青方偏移が 5.3 (+1,0, -1.4) km s-1という結果が得られた。

惑星の自転周期が、公転周期の 2.22日に潮汐固定されているとすると、両端では対称に 2.9 km s-1の赤方偏移・青方偏移が現れる。これを差し引くと、先行側では潮汐固定された自転速度と整合的な値である -0.6 (+1.3, -1.5) km s-1という速度が得られる。しかし後行側では東方向の速度超過があり、その値は2.4 (+1.0, -1.4) km s-1となる。

議論

HD 189733bのような中心星に近接した惑星は、潮汐力によって数百万年以内に自転が公転周期と同期すると予測されている (Guillot et al. 1996)。またスーパーローテーションがある後行側の縁の場所は、恒星直下点からずれた最高温地点から経度にしてわずか 60°しか離れていない (Knotson et al. 2007, 2008)。従って、この速度超過は東向きの赤道ジェットの直接検出だろうと考えられる。これはホットジュピターの大気循環モデルで予言されていたものである。また、最も温度が高い場所が恒星直下点からずれている事を説明することが可能である。観測されたジェットの速度と、先行側での小さい速度は、HD 189733bの最新の大気循環モデルと非常に整合的である。

この速度超過は、HD 209458bでの平均の透過スペクトルの青方偏移の過去の観測 (Snellen et al. 2010)や、HD 189733bでの観測 (Wyttenbach et al. 2015)と整合的なものである。しかし今回の観測は空間分解を行っている。

今回の観測結果を平均した場合、全体の青方偏移は 1.9 (+0.7, -0.6) km s-1となる。これは、HD 209458bにおける一酸化炭素の吸収線での観測 (Snellen et al. 2010)と整合的な値である。しかし、HD 189733bにおけるナトリウムの吸収線による値である 8 ± 2 km s-1よりもずっと小さな値である。これはロシター効果の影響によるものと考えられる。今回の解析に用いたモデルでは、ロシター効果が結果に及ぼす影響は暗に含まれている。

また、Brogi et al. (submitted)の最近の観測では、高分散の赤外線領域での分光観測より、HD 189733bにおける二酸化炭素と水の吸収線から、全球的な青方偏移が -1.7 (+1.1, -1.2) km s-1と測定されており、これは今回の結果と整合的である。

今回の結果では、ホットジュピター大気中の吸収線は、大気の速度によってスペクトル線の形状が広げられる。従って、過去の観測結果では、吸収線の形状の変化に対する圧力による広がりの効果を過大評価している可能性がある。また同様に、平均のスペクトル線の深さから示唆される大気の広がりに関しては、過小評価をしている可能性がある。






ホットジュピターの高速な大気循環の、ほぼ直接的な検出と言えるのではないでしょうか。
これまでは、先行側や後行側を全部平均した時の青方偏移は得られていたり、二次食時の観測から惑星の表面温度分布を調べた際に、恒星直下点と最も温度が高い場所がずれているという結果などから、間接的に大気のジェットの存在は示唆されていました。
(大気の運動が静穏であったり、東西風的な移動ではない場合は、恒星直下点が最も多くエネルギーを受け取っているためその場所が最も高温になっているはず。それがずれているということは、東方向への強い流れが存在するはずだ、ということです)

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