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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1603.05745
Bott et al. (2016)
The polarisation of HD 189733
(HD 189733 の偏光)

概要

Anglo-Australian Telescope (AAT) にある HIgh Precision Polarimetric Instrument (HIPPI) を用いて,系外惑星系である HD 189733 の直線偏光の観測を行った.この観測は,これまで行われたこの天体のどの偏光観測よりも精密である.

その結果,Berdyugina et al. (2008, 2011) で報告された,大きな偏光の変動は見られなかった.また,Wiktorowicz et al. (2015) の偏光観測データと整合的な結果が得られた.

レイリー・ランバートモデルの最小二乗フィットでは,偏光の振幅は 29.4 ± 15.6 ppm であった.

またバックグラウンドの偏光は ~ 50 - 70 ppm であり,これは HD 189733 の距離における星間物質による偏光から期待される強度よりもやや大きい.

偏光観測の背景

ホットジュピター系での偏光観測

ホットジュピターは,偏光を作り出すほど十分に中心星からの光を散乱する可能性がある.この偏光の度合いは大気の組成などに大きく依存する (Haugh et al. 2003).

Seager et al. (2000) では,ホットジュピターを持つ系では,軌道周期の間に数十 ppm の偏光の振幅を持ちうると予測している.しかし現在のところ,惑星によると思われる明確な偏光のシグナルは検出されていない (Lucas et al. 2009).

HD 189733系

HD 189733 はホットジュピターを持つ系であり,太陽系に近い系でもある.

これまでに,ハッブル宇宙望遠鏡を用いた惑星 (HD 189733b) の大気でのレイリー散乱光の観測が存在する (Pont et al. 2008, 2013).

さらにトランジットや二次食 (seconday eclipse) でも,青っぽい惑星表面での反射光が間接的に観測されている (Evans et al. 2013).
そのため,惑星大気による偏光観測のターゲットとして適している.

HD 189733 のこれまでの偏光観測

これまでに幾つかの偏光観測が行われたが,相反する結果が報告されている.

Berdyugina et al. (2008) は,この系において予想外に大きな偏光の変動 (~ 200 ppm) を報告した.この観測は,La Palma にある KVA の DiPol instrument を使用したものである.

後に Wiktorowicz et al. (2009) は,偏光の変動は観測されず,偏光の上限は 99% の確度で 79 ppm であると報告した.この観測には POLISH が用いられている.


その後,Berdyugina et al. (2011) は,Nordic Optical Telescope の TurPol を用いて,3つのバンドで観測した.その結果,U, B バンドで偏光が観測されたが,V バンドでは見られなかったと報告した.さらに,Wiktorowicz et al. (2009) で偏光が検出されなかったのは,観測するバンドが赤すぎたからだと結論づけた.

この時の B バンドでの偏光の変動は ~ 100 ± 10 ppm であり,この偏光は惑星の大気に起因するものだと推測した.


最近になって,Wiktorowicz et al. (2015) では,B バンドの偏光を Lick Observatory の 3-m 望遠鏡の POLISH2 を用いて観測した.その結果,B バンドの偏光の上限は 99.7% の確度で 60 ppm であると報告した.


今回の観測は,Berdyugina et al. (2008, 2011) で見られたような大きな偏光は観測されず,Wiktorowicz et al. (2015) の結果と概ね整合的な結果であった.

議論

先行観測との比較

Berdyugina et al. (2011) が報告した結果とは大きく異なる結果が得られた.

今回の結果では Q/I, U/I の値はどちらも正であるが,Berdyugina et al. (2011) では惑星の軌道位相が 0.0, 0.5 の時に~ 0 となり,位相が 0.3, 0.7 の時に負の値 (~ -100 ppm) を取っている.
今回の結果のゼロ点をシフトさせたとしても Berdyugina et al. (2011) で報告されていた大きな変動とは非整合的な結果となった.

一方で Wiktorowicz et al. (2015) の結果とは整合的であった.

バックグラウンドの偏光

HD 189733 からは一定の大きさの偏光が観測された.この偏光の起源としては,星間物質による偏光がもっともらしいと考えられる (Bailey et al. 2010, Cotton et al. 2016).

Cotton et al. (2016) の結果を外挿すると,HD 189733 の距離 ~ 19 pc (Koen et al. 2010) より,期待される偏光は 15 - 40 ppm と予測される.しかし観測では 55 - 70 ppm となり,実測値のほうが大きい.

恒星まわりの星周ダストも偏光に影響を及ぼし得るが,HD 189733 の周囲には観測に影響をおよぼすほどの量の星周ダストは存在しないと考えられる (Bryden et al. 2009).また,恒星表面の黒点が偏光に与える影響も小さいと考えられる.

先行観測での大きな偏光の原因

Berdyugina et al. (2011) で報告されていた大きな偏光の変動は,今回の観測と,Wiktorowicz et al. (2009, 2015) では検出されなかった.

この過去の大きな変動の検出は,La Palma での観測に,サハラ砂漠からの塵が影響を及ぼしていた可能性がある.(La Palma での観測は,2008年 4月 18 - 24日と,8月 2 - 9日)

Berdyugina et al. (2011) では,8月のデータはサハラ砂漠の塵の影響がある可能性に言及しているが,『変動があるバックグラウンドは除去できている』と主張されている.このようなサハラ砂漠からの塵の影響については,Bailey et al. (2008) に言及されている.

これらの考察より,Berdyugina et al. (2011) での結果はサハラ砂漠の塵による影響を受けたものだと考えられる

結論

HD 189733 をこれまでで最高の精度で偏光観測した.その結果,Berdyugina et al. (2008),Berdyugina et al. (2011) で報告されていた 100 - 200 ppm の偏光強度は検出されず,Wiktorowicz et al. (2015) と整合的な結果が得られた.

レイリー・ランバートモデルでは,偏光の強度は 29.4 ± 15.6 ppm であった.
また,一定のバックグラウンドの偏光があり,これは星間物質による偏光から期待されるものよりやや大きい.これは Local Hot Bubble 中の星間物質の非一様性に起因するものである可能性がある.
(Local Hot Bubble…局所的に希薄で高温のガスが泡のように存在している空間.太陽系もこの内部に入っている)

また,Berdyugina et al. (2011) で報告されていた大きな偏光は,惑星起源ではなく,2008年 8月の La Palma における,サハラ砂漠からの塵による影響である可能性がある.

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