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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1605.04291
Osborn et al. (2016)
EPIC212521166 b: a Neptune-mass planet with Earth-like density
(EPIC212521166 b:地球に近い密度を持つ海王星質量の惑星)
K2 による測光観測と HARPS による視線速度法の観測から,この惑星は半径が 2.6 ± 0.1 地球半径,質量が 18.3 ± 2.8 地球質量の惑星であることが判明した.この質量は,海王星より小さい半径を持つ惑星 (mini-Neptune) の中では最も大きいものである.
自重による圧縮を考慮した場合,この地球に類似した密度を持つ惑星は,18 地球質量の地球的なコアと 0.2 地球質量の水素大気であるというモデルとよく一致するが,大量の水を持った惑星である可能性もある.
中心星からの距離が 0.1 AU 程度であり,主星の年齢が 8 ± 3 Gyr と古いことを考慮しても,極端紫外線による大気の蒸発や潮汐の影響を大きく受けてエンベロープを失ったとは考えづらい.しかし原始惑星系円盤内での惑星移動によって現在の位置まで来たとすると,厚い水素大気を持っていないことは謎である.
中心星は等級が 11.9 と明るいため,フォローアップ観測の対象として適している.またこの惑星系はレアで重要な系であると考えられる.
これらの惑星の例として,超低密度の海王星サイズの惑星 (HD 97658b, Henry et al. 2011など),岩石を含んだスーパーアース (BD+20594b, Espinoza et al. 2016 や ケプラー10c, Dumusque et al. 2014など),もしかしたら巨大ガス惑星が蒸発したあとに残るコアかもしれない超高密度スーパーアース (ケプラー131c, Marcy et al. 2014) など多岐にわたっている.
質量:0.739 太陽質量
半径:0.713 太陽半径
年齢:8 Gyr
距離:118.0 pc
有効温度:5010 K
金属量:[Fe/H] = -0.343 dex
軌道離心率:0.051
軌道長半径:0.10213 AU
質量:18.3 地球質量
半径:2.605 地球半径
平均密度:5.7 g cm-3
平衡温度:640 K
また,中心星は 50 ± 5 日周期のサインカーブでの光度変化があり,この光度変化が表面の黒点と中心星の自転による変動だとすると,年齢は 11 ± 5 Gyr と推定される (Angus et al. 2015).この値は,恒星モデルからの推定値と同程度の値である.
観測された遅い自転と古い年齢は,HARPS スペクトルで得られた自転速度の上限値 (2.7 km s-1 未満,自転周期 9.2 日以上) や,リチウムが検出限界以下だった ([Li/H] < 0.2) という結果によっても支持される.
さらに最近,Nissen et al. (2015) では,イットリウムとマグネシウムの存在比 [Y/Mg] が恒星の年齢推定に使えるということが示唆された.このことは後に Tucci Maia et al. (2016) によって追確認された.
この指標を用いると,年齢は 8.1 ± 2.8 Gyr と推定される.
異なる 3 つの手法はどれも,この星が古い恒星であることを示しており,これはこの星の金属量が少ないことの説明になるかもしれない.
また変わったことに,この中心星は他の金属欠乏星によく見られる,α元素 (ケイ素,マグネシウムなど) の増加 (Adibekyan et al. 2012) が見られないが,純粋な α元素である酸素は豊富に存在する ([O/Fe] = 0.35).
また他の惑星のトランジットが無いかについても調べたが,検出はされなかった.そのため,惑星が同一平面上にあると考えた場合,90%の確度で,周期 30 日未満,半径 1 地球半径以上の惑星は存在しないと考えられる.
この惑星の平均密度は地球と近い 5.7 ± 1.1 g cm-3 だが,鉄とシリケイトの 2 層モデルではこの惑星の構造を説明することは出来ない.水か水素・ヘリウム,あるいはその両方といった,低密度の揮発性物質が必要である.
Zeng & Sasselov (2013) の 3 層のモデルを用いると,9 地球質量の地球的なコア (MgSiO3が ~ 70%,Fe が ~ 30%) の上に,9 地球質量の水が存在する場合は,質量・半径共に説明が可能である.
また,Adams et al. (2008) や Lopez & Fortney (2014) のモデルを用いると,18.1 地球質量の鉄コア + シリケイトマントルの上に,0.2 地球質量,0.4 地球半径分の水素・ヘリウムエンベロープがあると考えても説明可能である.
また,これらの中間的な組成でも説明が可能である.
これらの結果より,惑星質量における水素の比率は 1%未満であることが分かる.
そのためこれらの惑星の存在は,コア降着におけるガスの獲得の最小質量が ~ 10 地球質量程度になるという従来の見積が,過小評価である可能性を示唆する.あるいは,ガスが降着した後にガスエンベロープを除去するプロセスの存在を示唆する.
ガスの散逸について,惑星が受ける極端紫外線から推定を行った.
K 型星の中でも極端紫外線で特に明るい星の極端紫外線光度の平均値を用いて質量散逸率を計算すると,2 × 109 g s-1 となった.この値は,10 Gyr の期間に 0.13 地球質量を失うだけの質量散逸率である (des Etangs 2007).従って,形成後にガスを散逸させるのは難しい.
そのため,はじめから高密度な惑星として,原始惑星系円盤のガスが光蒸発した後に形成された可能性がある.
しかし,0.1 AU の距離でその場形成したと考えると,太陽系の値の 5000%の重元素の量が必要となる (Schlichting 2014).従って,より外側で形成された後に移動してきた可能性が高い.この惑星の離心率はゼロではないため,力学的な軌道進化の結果かもしれない.しかし,Kozai 機構に典型的な高軌道離心率 (> 0.25) である可能性は排除される.従って円盤内での軌道移動の結果であるというのがもっともらしい考えである.
この場合,10 地球質量を超える天体が円盤内を軌道移動したということと,惑星が厚い水素大気を持っていないということは対立する.そのため,かつては複数惑星系であり,その中での他の惑星との巨大衝突とその後の降着が軌道移動の説明となるかもしれない (Boley et al. 2015).また,これは水素大気の欠乏も説明可能である (Lin et al. 2015).さらに,系の年齢が年老いているということもこの説には整合する.これは,時間が経てば経つほど複数惑星系で力学的不安定が発生する確率は上昇するからである.
arXiv:1605.04291
Osborn et al. (2016)
EPIC212521166 b: a Neptune-mass planet with Earth-like density
(EPIC212521166 b:地球に近い密度を持つ海王星質量の惑星)
概要
ケプラーの K2 ミッションによる新しい惑星 EPIC 212521166b の発見を報告する.この惑星は,金属量に乏しい古い K3 型矮星まわりを 13.8637 日の周期で公転する惑星である.K2 による測光観測と HARPS による視線速度法の観測から,この惑星は半径が 2.6 ± 0.1 地球半径,質量が 18.3 ± 2.8 地球質量の惑星であることが判明した.この質量は,海王星より小さい半径を持つ惑星 (mini-Neptune) の中では最も大きいものである.
自重による圧縮を考慮した場合,この地球に類似した密度を持つ惑星は,18 地球質量の地球的なコアと 0.2 地球質量の水素大気であるというモデルとよく一致するが,大量の水を持った惑星である可能性もある.
中心星からの距離が 0.1 AU 程度であり,主星の年齢が 8 ± 3 Gyr と古いことを考慮しても,極端紫外線による大気の蒸発や潮汐の影響を大きく受けてエンベロープを失ったとは考えづらい.しかし原始惑星系円盤内での惑星移動によって現在の位置まで来たとすると,厚い水素大気を持っていないことは謎である.
中心星は等級が 11.9 と明るいため,フォローアップ観測の対象として適している.またこの惑星系はレアで重要な系であると考えられる.
大きいスーパーアースと小型の海王星型惑星
大きいスーパーアースと小型の海王星型惑星 (いわゆる mini-Neptune) は興味深い研究対象である.この惑星は,地球型惑星と巨大ガス惑星の中間に位置している.そのため,これらの惑星の存在は巨大ガス惑星の形成過程に制限を与える可能性がある (Hansen & Murray 2012).これらの惑星の例として,超低密度の海王星サイズの惑星 (HD 97658b, Henry et al. 2011など),岩石を含んだスーパーアース (BD+20594b, Espinoza et al. 2016 や ケプラー10c, Dumusque et al. 2014など),もしかしたら巨大ガス惑星が蒸発したあとに残るコアかもしれない超高密度スーパーアース (ケプラー131c, Marcy et al. 2014) など多岐にわたっている.
パラメータ
EPIC 212521166
スペクトル型:K3V質量:0.739 太陽質量
半径:0.713 太陽半径
年齢:8 Gyr
距離:118.0 pc
有効温度:5010 K
金属量:[Fe/H] = -0.343 dex
EPIC 212521166b
軌道周期:13.86373 日軌道離心率:0.051
軌道長半径:0.10213 AU
質量:18.3 地球質量
半径:2.605 地球半径
平均密度:5.7 g cm-3
平衡温度:640 K
系の特徴
中心星の年齢と自転
中心星の EPIC 212521166 の年齢は,恒星モデルからは 8 ± 5 Gyr と推定される.また,中心星は 50 ± 5 日周期のサインカーブでの光度変化があり,この光度変化が表面の黒点と中心星の自転による変動だとすると,年齢は 11 ± 5 Gyr と推定される (Angus et al. 2015).この値は,恒星モデルからの推定値と同程度の値である.
観測された遅い自転と古い年齢は,HARPS スペクトルで得られた自転速度の上限値 (2.7 km s-1 未満,自転周期 9.2 日以上) や,リチウムが検出限界以下だった ([Li/H] < 0.2) という結果によっても支持される.
さらに最近,Nissen et al. (2015) では,イットリウムとマグネシウムの存在比 [Y/Mg] が恒星の年齢推定に使えるということが示唆された.このことは後に Tucci Maia et al. (2016) によって追確認された.
この指標を用いると,年齢は 8.1 ± 2.8 Gyr と推定される.
異なる 3 つの手法はどれも,この星が古い恒星であることを示しており,これはこの星の金属量が少ないことの説明になるかもしれない.
星の組成と惑星
この惑星は,Buchhave et al. (2014) によって示された,小さい惑星は金属量が小さい星の周りに多いという傾向と合う.しかし 18 地球質量もの固体コアは,このような金属欠乏星には大きすぎる.この質量は,Courcol et al. (2016) による,海王星類似の系外惑星における質量 - 金属量の関係よりも 3 地球質量も大きいものである.また変わったことに,この中心星は他の金属欠乏星によく見られる,α元素 (ケイ素,マグネシウムなど) の増加 (Adibekyan et al. 2012) が見られないが,純粋な α元素である酸素は豊富に存在する ([O/Fe] = 0.35).
TTV などによる他の惑星
PASTIS model を用い,2.6 秒の精度でトランジット時刻変動 (transit timing variation, TTV) を調べた.その結果,有意な TTV は検出されなかった.また他の惑星のトランジットが無いかについても調べたが,検出はされなかった.そのため,惑星が同一平面上にあると考えた場合,90%の確度で,周期 30 日未満,半径 1 地球半径以上の惑星は存在しないと考えられる.
惑星の組成と形成
惑星の構造モデルと水素含有量
質量が 18.3 地球質量,半径が 2.6 地球質量というのは,海王星より小さいサイズを持つ惑星の中では最も重い部類である.この惑星の平均密度は地球と近い 5.7 ± 1.1 g cm-3 だが,鉄とシリケイトの 2 層モデルではこの惑星の構造を説明することは出来ない.水か水素・ヘリウム,あるいはその両方といった,低密度の揮発性物質が必要である.
Zeng & Sasselov (2013) の 3 層のモデルを用いると,9 地球質量の地球的なコア (MgSiO3が ~ 70%,Fe が ~ 30%) の上に,9 地球質量の水が存在する場合は,質量・半径共に説明が可能である.
また,Adams et al. (2008) や Lopez & Fortney (2014) のモデルを用いると,18.1 地球質量の鉄コア + シリケイトマントルの上に,0.2 地球質量,0.4 地球半径分の水素・ヘリウムエンベロープがあると考えても説明可能である.
また,これらの中間的な組成でも説明が可能である.
これらの結果より,惑星質量における水素の比率は 1%未満であることが分かる.
惑星形成・進化理論への示唆
最近は 10 - 20 地球質量を持つ高密度の惑星が発見されつつある.これらは大量の水素ガスの降着が無かったと考えられるものも存在する.そのためこれらの惑星の存在は,コア降着におけるガスの獲得の最小質量が ~ 10 地球質量程度になるという従来の見積が,過小評価である可能性を示唆する.あるいは,ガスが降着した後にガスエンベロープを除去するプロセスの存在を示唆する.
ガスの散逸について,惑星が受ける極端紫外線から推定を行った.
K 型星の中でも極端紫外線で特に明るい星の極端紫外線光度の平均値を用いて質量散逸率を計算すると,2 × 109 g s-1 となった.この値は,10 Gyr の期間に 0.13 地球質量を失うだけの質量散逸率である (des Etangs 2007).従って,形成後にガスを散逸させるのは難しい.
そのため,はじめから高密度な惑星として,原始惑星系円盤のガスが光蒸発した後に形成された可能性がある.
しかし,0.1 AU の距離でその場形成したと考えると,太陽系の値の 5000%の重元素の量が必要となる (Schlichting 2014).従って,より外側で形成された後に移動してきた可能性が高い.この惑星の離心率はゼロではないため,力学的な軌道進化の結果かもしれない.しかし,Kozai 機構に典型的な高軌道離心率 (> 0.25) である可能性は排除される.従って円盤内での軌道移動の結果であるというのがもっともらしい考えである.
この場合,10 地球質量を超える天体が円盤内を軌道移動したということと,惑星が厚い水素大気を持っていないということは対立する.そのため,かつては複数惑星系であり,その中での他の惑星との巨大衝突とその後の降着が軌道移動の説明となるかもしれない (Boley et al. 2015).また,これは水素大気の欠乏も説明可能である (Lin et al. 2015).さらに,系の年齢が年老いているということもこの説には整合する.これは,時間が経てば経つほど複数惑星系で力学的不安定が発生する確率は上昇するからである.
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天文・宇宙物理関連メモ vol.204 Espinoza et al. (2016) 岩石主体の海王星サイズの惑星の発見