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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1605.08810
Line et al. (2016)
No Thermal Inversion and a Solar Water Abundance for the Hot Jupiter HD209458b from HST WFC3 Emission Spectroscopy
(HST WFC3 輝線分光観測からのホットジュピター HD 209458b の温度逆転層の否定と太陽と同じ水の存在度)

概要

ホットジュピターの温度-圧力分布 (T-P profile) は,トランジット観測による大気の特徴付けにおいて重要な問題である.多くのホットジュピターで,大気中に温度逆転層が存在する事が報告されている.これは,圧力が下がるにつれ (上空に行くにつれ) 温度が上昇する層のことである.この層が存在した場合,赤外線領域での (本来は) 吸収線としての特徴が輝線に変化する.

しかしこれまでの観測では,分光観測での輝線の特徴の明確な同定がされているわけではなく,広帯域な測光観測に基づく結果であった.また多大な理論・観測両面での努力にも関わらず,高高度で放射を吸収して温度逆転層を形成するような化学種は同定されていない.

ここでは,ハッブル宇宙望遠鏡 (Hubble Space Telescope, HST) の Wide Field Camera 3 (WFC3) による,HD 209458b の昼側からの熱放射の超高精度観測の結果を報告する.この惑星は,最初に温度逆転層の存在が報告された惑星である.

これまでの結果とは対照的に,水の吸収バンドを 6.2 σ で分解した.また,スピッツァー宇宙望遠鏡との観測結果と合わせ,7.7 σの確度で,1 - 0.001 bar の広い範囲の気圧領域にわたって,温度は単調に減少している事が分かった.この結果の確実性を高めるため,大気構造のパラメータ化や雲の有無,スピッツァーのデータ処理の方法などを変更しての結果のテストも行った.

ホットジュピターの温度逆転層

ホットジュピターが大気中に温度逆転層 (thermal inversion layer) を持つ可能性があるという示唆がこれまでにされてきた (Burrows & Orton 2010など).温度逆転層とは,一般に高度が上がって気圧が下がると温度も低下するが,気圧が下がるに従って逆に温度が上昇していく領域のことである.

大気の高高度,短波長の放射を吸収できるような物質などの何らかの熱源が存在した場合,温度逆転層が形成され得る.太陽系の場合は,大気を持つ惑星の多くで温度逆転層が存在する.地球の場合はオゾン,ガス惑星の場合はエアロゾルが吸収源となり,その場所での熱源となっている.

ホットジュピターの場合,酸化チタンや酸化バナジウムといった可視光を強く吸収する気相の物質が存在するとされている (Hubeny et al. 2003など).これらの物質は,1 bar の環境下で温度が 2000 K より高い場合,気相で存在する (Fortney et al. 2006, 2008).あるいは,多硫化物によるエアロゾルが吸収源となって温度逆転層を形成する可能性も指摘されている (Zahnle et al. 2009).

HD 209458b の大気における温度逆転層の存在を示唆する観測は,Knutson et al. (2008) などがある.しかし観測結果の再解析やさらなる詳細な観測では,温度逆転層の存在には否定的な報告もある (Diamond-Lowe et al. 2014, Schwarz et al. 2015).ただし,通常の温度構造が検出されたわけでもなかった.

また,他の高温の惑星での温度逆転層の検出例も少ない.様々な理論研究から,なぜ温度逆転層が形成されないのかという原因が提案されている.例えば,低温な夜側での cold trap によって酸化チタンや酸化バナジウムが凝縮して気相から失われてしまうというモデルである (Spiegel et al. 2009, Showman et al. 2009).

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