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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1606.04047
Bayliss et al. (2016)
EPIC201702477b: A Long Period Transiting Brown Dwarf from K2
(EPIC201702477b:K2 による長周期のトランジット褐色矮星)
この系はケプラーの K2 ミッションの Campaign 1 で 2 回のトランジットイベントが検出され,惑星候補天体として報告されており,後に系外惑星であると認定された.ここでは,LCOGT 1 m 望遠鏡を用いた観測から,この天体のトランジットを確定させ,また天体暦の値を更新した.
このフォローアップ観測より,~ 30 秒を超えるトランジット時刻変動 (transit timing varation, TTV) の存在は排除された.また,HARPS と SOPHIE の高精度視線速度観測から,質量は 66.9 木星質量,0.757 木星半径,平均密度は 191 ± 51 g cm-3 であると判明した.これは,現在までに発見されている中で最も小さい褐色矮星である.また,水素を起こせる限界の質量よりもわずかに軽い.また,これまでに発見されているどんな惑星,準恒星質量天体,主系列星よりも高密度な天体である.
また,これまでにトランジット法で発見されている褐色矮星は,高質量と低質量の 2 つのグループに別れることが分かった.高質量側の褐色矮星のグループは,測定されている半径は理論的に予測される半径に非常に近い.またこのグループの質量の下限は ~ 60 木星質量にある.これは,褐色矮星の形成過程における,質量依存性のある系からの弾き出しのを示唆するものであるかもしれない.
この欠乏領域の存在は,初めは視線速度法での系外惑星の探査の過程で明らかになった (Marcy & Butler 2000など).その後,視線速度法とアストロメトリ法を組み合わせた探査からも,この欠乏領域の存在は観測バイアスでも見かけのものではなく,実際に存在するものだと示唆された (Sahlmann et al. 2011).また,トランジット法での探査でも同様の結果が得られている.
トランジット法を用いた系外惑星探査プロジェクトである WASP, HATNet, HATSouth, KELT では系外惑星が 179 個発見されているが,13 木星質量を超えるものはわずか 2 つしか発見されていない.見つかっているものは,WASP-30b (Anderson et al. 2011) と KELT-1b (Siverd et al. 2012) である.褐色矮星のような質量が大きい天体は,視線速度でのフォローアップ観測で特徴付けしやすいにも関わらずである.
宇宙空間からの観測では,CoRoT (Rouan et al. 1999) では 3 つのトランジットする褐色矮星が発見されている.CoRoT-3b (Deleuil et al. 2008),CoRoT-15b (Bouchy et al. 2011b),CoRoT-33b (Csizmadia et al. 2015) である.
また,ケプラーでは 4 つ,ケプラー39b (Bouchy et al. 2011a),KOI-205b (Diaz et al. 2013),KOI-415b (Moutou et al. 2013),KOI-189b (Diaz et al. 2014) である.さらに,KOI-554b,KOI-3738b は,光度曲線の変動から,質量は 80 木星質量よりわずかに重いと推定されており,これは褐色矮星の範囲に非常に近い (Lillo-Box et al. 2016).
ただし多くのケプラーで発見された惑星や惑星候補天体は,質量が不明である.巨大ガス惑星と褐色矮星は半径が縮退するため,褐色矮星の頻度に制限をかけることが出来ない.
最近の,ケプラーで検出された大きな惑星候補天体に対する視線速度観測の結果では,軌道周期が 400 日未満の褐色矮星の存在率は 0.29 ± 0.17%と推定されている (Santerne et al. 2016).
しかしコア集積でも 20 - 40 木星質量の天体が形成可能との指摘もあり (Mordasini et al. 2009),さらに重力不安定で惑星が形成できるという指摘もある (Nayakshin & Fletcher 2015).従って巨大ガス惑星と褐色矮星の線引は曖昧である.
これらの違いは形成過程の違いに関係しているという議論がある (Chabrier et al. 2014).そしてその違いが,観測バイアスではなく,褐色矮星欠乏領域の原因になっている可能性がある (Ma & Ge 2014).
有効温度:5517 K
金属量:[Fe/H] = -0.164
半径:0.901 太陽半径
質量:0.870 太陽質量
平均密度:1.18 太陽密度
年齢:8.8 ± 4.1 Gyr
軌道長半径:0.2265 AU
軌道離心率:0.2281
質量:66.9 木星質量
半径:0.757 木星半径
平均密度:191 ± 51 g cm-3
これまでに発見されている,主系列星まわりの褐色矮星 (13 - 80 木星質量) は 12 個存在する.Ma & Ge (2014) では,これらの褐色矮星は 2 つのグループに分けられると主張した.それは,
・原始惑星系円盤中で重力不安定で出来た ~ 45 木星質量以下の褐色矮星
・分子雲の分裂から星形成的に出来た ~ 45 木星質量以上の褐色矮星
の 2 グループである.
この ~ 45 木星質量の境界は,伴星の質量関数 (Grether & Lineweaver 2006) の極小値と,CORALIE 視線速度サーベイによる質量領域の空白 (Sahlmann et al. 2011) と一致する.
今回の EPIC 201702477b は Ma & Ge (2014) でのグループでは明らかに後者になる.
arXiv:1606.04047
Bayliss et al. (2016)
EPIC201702477b: A Long Period Transiting Brown Dwarf from K2
(EPIC201702477b:K2 による長周期のトランジット褐色矮星)
概要
EPIC 201702477b の発見を報告する.この天体はトランジット法によって発見され,長周期 (40.73691 日) で軌道離心率が大きな軌道を持つ (e = 0.2281).この系はケプラーの K2 ミッションの Campaign 1 で 2 回のトランジットイベントが検出され,惑星候補天体として報告されており,後に系外惑星であると認定された.ここでは,LCOGT 1 m 望遠鏡を用いた観測から,この天体のトランジットを確定させ,また天体暦の値を更新した.
このフォローアップ観測より,~ 30 秒を超えるトランジット時刻変動 (transit timing varation, TTV) の存在は排除された.また,HARPS と SOPHIE の高精度視線速度観測から,質量は 66.9 木星質量,0.757 木星半径,平均密度は 191 ± 51 g cm-3 であると判明した.これは,現在までに発見されている中で最も小さい褐色矮星である.また,水素を起こせる限界の質量よりもわずかに軽い.また,これまでに発見されているどんな惑星,準恒星質量天体,主系列星よりも高密度な天体である.
また,これまでにトランジット法で発見されている褐色矮星は,高質量と低質量の 2 つのグループに別れることが分かった.高質量側の褐色矮星のグループは,測定されている半径は理論的に予測される半径に非常に近い.またこのグループの質量の下限は ~ 60 木星質量にある.これは,褐色矮星の形成過程における,質量依存性のある系からの弾き出しのを示唆するものであるかもしれない.
研究背景
褐色矮星の欠乏領域
主系列星のまわりには 13 - 80 木星質量の伴星 (褐色矮星) が少ない事が知られており,これは "brown dwarf desert" として知られている.この欠乏領域の存在は,初めは視線速度法での系外惑星の探査の過程で明らかになった (Marcy & Butler 2000など).その後,視線速度法とアストロメトリ法を組み合わせた探査からも,この欠乏領域の存在は観測バイアスでも見かけのものではなく,実際に存在するものだと示唆された (Sahlmann et al. 2011).また,トランジット法での探査でも同様の結果が得られている.
トランジット法を用いた系外惑星探査プロジェクトである WASP, HATNet, HATSouth, KELT では系外惑星が 179 個発見されているが,13 木星質量を超えるものはわずか 2 つしか発見されていない.見つかっているものは,WASP-30b (Anderson et al. 2011) と KELT-1b (Siverd et al. 2012) である.褐色矮星のような質量が大きい天体は,視線速度でのフォローアップ観測で特徴付けしやすいにも関わらずである.
宇宙空間からの観測では,CoRoT (Rouan et al. 1999) では 3 つのトランジットする褐色矮星が発見されている.CoRoT-3b (Deleuil et al. 2008),CoRoT-15b (Bouchy et al. 2011b),CoRoT-33b (Csizmadia et al. 2015) である.
また,ケプラーでは 4 つ,ケプラー39b (Bouchy et al. 2011a),KOI-205b (Diaz et al. 2013),KOI-415b (Moutou et al. 2013),KOI-189b (Diaz et al. 2014) である.さらに,KOI-554b,KOI-3738b は,光度曲線の変動から,質量は 80 木星質量よりわずかに重いと推定されており,これは褐色矮星の範囲に非常に近い (Lillo-Box et al. 2016).
ただし多くのケプラーで発見された惑星や惑星候補天体は,質量が不明である.巨大ガス惑星と褐色矮星は半径が縮退するため,褐色矮星の頻度に制限をかけることが出来ない.
最近の,ケプラーで検出された大きな惑星候補天体に対する視線速度観測の結果では,軌道周期が 400 日未満の褐色矮星の存在率は 0.29 ± 0.17%と推定されている (Santerne et al. 2016).
褐色矮星の形成過程
巨大ガス惑星がコア集積で形成されるのに対し,褐色矮星は重力不安定か分子雲中での分裂によって形成されると考えられる (Chabrier et al. 2014).しかしコア集積でも 20 - 40 木星質量の天体が形成可能との指摘もあり (Mordasini et al. 2009),さらに重力不安定で惑星が形成できるという指摘もある (Nayakshin & Fletcher 2015).従って巨大ガス惑星と褐色矮星の線引は曖昧である.
これらの違いは形成過程の違いに関係しているという議論がある (Chabrier et al. 2014).そしてその違いが,観測バイアスではなく,褐色矮星欠乏領域の原因になっている可能性がある (Ma & Ge 2014).
パラメータ
EPIC 201702477
等級:14.57有効温度:5517 K
金属量:[Fe/H] = -0.164
半径:0.901 太陽半径
質量:0.870 太陽質量
平均密度:1.18 太陽密度
年齢:8.8 ± 4.1 Gyr
EPIC 201702477b
軌道周期:40.73691 日軌道長半径:0.2265 AU
軌道離心率:0.2281
質量:66.9 木星質量
半径:0.757 木星半径
平均密度:191 ± 51 g cm-3
議論
EPIC 201702477b は,トランジットする褐色矮星の中では 2 番目に軌道周期が長い.これまでに発見されている,主系列星まわりの褐色矮星 (13 - 80 木星質量) は 12 個存在する.Ma & Ge (2014) では,これらの褐色矮星は 2 つのグループに分けられると主張した.それは,
・原始惑星系円盤中で重力不安定で出来た ~ 45 木星質量以下の褐色矮星
・分子雲の分裂から星形成的に出来た ~ 45 木星質量以上の褐色矮星
の 2 グループである.
この ~ 45 木星質量の境界は,伴星の質量関数 (Grether & Lineweaver 2006) の極小値と,CORALIE 視線速度サーベイによる質量領域の空白 (Sahlmann et al. 2011) と一致する.
今回の EPIC 201702477b は Ma & Ge (2014) でのグループでは明らかに後者になる.
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