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日々の感想などどうでもよいことを書き連ねるためだけのブログ。
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1608.06813
Ribas et al. (2016)
The habitability of Proxima Centauri b. I. Irradiation, rotation and volatile inventory from formation to the present
(プロキシマ・ケンタウリb の居住可能性 I. 形成から現在までの輻射,自転と揮発性物質の保有量)

概要

プロキシマ・ケンタウリb (プロキシマb) は,最小質量が 1.3 地球質量で,太陽に最も近い低質量の活発な恒星プロキシマ・ケンタウリ (Proxima Centauri) のハビタブルゾーン内を公転する惑星である.ここでは,プロキシマb の居住可能性についての研究を行った.

惑星が受けている強い輻射の推定を行った.その結果,プロキシマb は地球の 30 倍の極端紫外線 (extreme ultraviolet, EUV),250 倍の X 線を受けていると推定される.さらに,プロキシマb がこれまでに受けてきたスペクトルのモデリングのために重要な,恒星のスペクトルの時間進化の計算も行った.

また,プロキシマb の自転軸傾斜角は 0 であろうということや,自転は公転と同期しているか,3 : 2 の共鳴 (spin-orbit resonence) に入っているかのどちらかであろうという推定を行った.自転がどのようになっているかは,プロキシマb の軌道離心率と,三軸不等性の度合いにも依存する.


次に,プロキシマb の水保有量の進化についても調べた,改善したエネルギー律速の大気散逸の定式を用い,計算した中心星のスペクトルエネルギー分布を合わせ,惑星からの水素の散逸を計算した.

その結果,中心星のプロキシマ・ケンタウリが強い水準の恒星活動を行っているにも関わらず,プロキシマb は形成後 100 - 200 万年経過した後にハビタブルゾーンに入る前に,地球の海の水量よりも少ない程度しか失わないという事が分かった.

ここでの研究における最も大きな不定性は,プロキシマb が持っていたであろう初期の水の量である.これは惑星形成モデルで制限を付けることが出来ていないパラメータである.

様々な結果より,プロキシマb は居住可能な惑星 (ハビタブルプラネット) の候補であると言える.

ハビタブルゾーンについて

ハビタブルゾーンの概要

惑星の居住可能性 (ハビタビリティ) には水の存在が重要だが,惑星が受ける中心星からの輻射は水が液体でいられる程度には小さく,なおかつ表面を維持するのに十分な温度である 273 K を,少なくとも局地的には超えている必要がある.この中心星からの日射に関する 2 つの制約が,ハビタブルゾーンの両端を決める (Kasting et al. 1993).

プロキシマb はプロキシマ・ケンタウリのハビタブルゾーンの中にあると考えられており,地球が受ける日射の 65 - 70%程度を受けている.この日射の大きさは,惑星の軌道周期,中心星の質量 (Delfosse et al. 2000),全放射光度 (Demory et al. 2009など) を元に算出している.

この系におけるハビタブルゾーンの内縁と外縁での日射量は,それぞれ地球が受ける日射量の 0.9 倍と 0.2 倍である (Kopparapu et al. 2013).ただし自転周期が公転周期と同期している惑星の場合,内縁は 1.5 倍にまで近付くことが出来ると考えられている (Yang et al. 2013, Kopparapu et al. 2016).

プロキシマb の居住可能性

プロキシマb の日射量は地球と近いが,居住可能性という意味では状況は大きく異なる.

中心星のプロキシマ・ケンタウリは質量が太陽の 12%しかなく,また光度は恒星が形成した後に大きく変化する.進化の結果,太陽系とは異なり,プロキシマ・ケンタウリのハビタブルゾーンは時間を追うごとに内側へ移動する.そのため,プロキシマb はハビタブルゾーンの内縁よりも内側 (ハビタブルゾーンよりも高温な側) にしばらくの間存在していたと考えられる.

ハビタブルゾーンの内縁より内側にいる間は,惑星から大量の水の損失が発生するため,ハビタブルゾーンに入る頃には現在の金星のように乾燥した環境になっている可能性がある.さらに自転も異なる.地球の場合は自転周期は公転周期よりもずっと短いが,プロキシマb の場合は潮汐力によって自転周期が影響を受ける.

ここでの研究内容

今回の研究で調べたのは以下の内容である.
    • 原始惑星系円盤内で発生する水の輸送から,プロキシマb の初期の水の保有量を推定する.
    • プロキシマb からの大気の散逸量を推定するためにはプロキシマ・ケンタウリのスペクトルの情報 (特に水分子を分解する遠紫外線,ライマンアルファ線,高層大気を加熱して散逸を加速する軟 X 線や極端紫外線) が必要である.また恒星風の影響も考慮する必要がある.そのため,プロキシマ・ケンタウリの高エネルギー放射と恒星風の見積もりを行う.
    • プロキシマ・ケンタウリの半径・光度などの進化と,高エネルギー放射と粒子風の進化を推定する.
    • 惑星の軌道長半径,軌道離心率,自転周期を含んだ,系の潮汐進化.
    • 上記の情報を用いて,惑星がハビタブルゾーンに入るまでの惑星からの揮発性物質の損失 (特に水と背景ガスについて) の推定.
      なお大気の散逸量の推定には,流体力学シミュレーション (Owen & Alvarez 2016) に基づいた,エネルギー律速散逸 (Lammer et al. 2003など) の改良版の形式を利用した.このモデルは,褐色矮星まわりの惑星 TRAPPIST-1b (Gillon et al. 2016) からの水の損失を推定する際にも用いられたものである (Bolmont et al. 2016).

結果

初期の水保有量

      現在のところ,プロキシマb が初期に保有しうる水の量には制約を与えることが出来ない.
      惑星形成シナリオからは,ほとんど乾燥した環境の惑星から,地球的な水の保有量の惑星,大量の水を持ち "water world" のような状態の惑星まで,広い範囲の水保有量が有り得る.

プロキシマ・ケンタウリの高エネルギー放射とその進化

      プロキシマ・ケンタウリの観測より,0.6 - 170 nm の間のいくつかの波長帯における高エネルギー放射の推定を行った.
      現在のプロキシマb は,0.6 - 118 nm の範囲内では 306 erg s
-1
      cm
-2
      ,遠紫外線の 118 - 170 nm では 147 erg s
-1
      cm
-2
      の放射を受けている.ここでの高エネルギー放射の数値は,短いタイムスケールで見ると,中心星が静穏な状態の放射と,エネルギーの幅が大きい短いタイムスケールでのフレアイベントに伴う放射の合計したものになっている.
      プロキシマb は,現在の地球の 60 倍の X 線・極端紫外線 (XUV) のフラックスを受け,10 倍の遠紫外線のフラックスを受ける.プロキシマ・ケンタウリのスペクトルは,現在の太陽のスペクトルよりも "硬い".そのため,X 線の寄与は,極端紫外線の寄与よりも相対的に大きくなる.
      プロキシマ・ケンタウリの XUV フラックスの,誕生から現在までの 4.8 Gyr (48 億年) の間の進化についても調べ,2 つの異なる極端なケースについて検証した.
      1 つは,最初の 3 Gyr の間は,プロキシマb は現在の地球の 150 倍の XUV フラックスを受け,その後べき乗のスケーリングで減衰していくというものである.もう 1 つは,地球の現在の値の 60 倍の値に固定するというものである.プロキシマb が合計で晒された XUV は,地球が受けた量の 7 - 16 倍となる.

プロキシマ・ケンタウリからの恒星風

      間接的な観測より,プロキシマ・ケンタウリの質量放出率の上限は,太陽の質量放出率の 20%である.
      幾何学的な配置の違いを考慮して推定すると,プロキシマb は現在の地球よりも 4 - 80 倍大きな粒子フラックスを受けることとなる.また,この値は,寿命の間概ね一定となる.

系の潮汐進化と自転状態

      潮汐による影響の解析も行った.この解析には中心星の影響も考慮しているが,その他の恒星潮汐がプロキシマ・ケンタウリに与える影響については無視できる.従って,恒星の進化の経緯,特に恒星の自転周期は,プロキシマb の軌道には影響はない.
      一方で,潮汐によって軌道離心率と軌道長半径は非常に小さい変化を受ける.従って,プロキシマb は形成初期の軌道離心率をほぼ維持している可能性がある (~ 0.1 程度の変化が有り得る).
      また,現在の自転の状態の推定を行った.初期の軌道離心率の残余の影響で,三軸不等性の大きさ次第では 3 : 2 の自転・公転の共鳴状態 (spin-orbit resonance) に入る可能性がある.
      惑星の軌道が円軌道かそれに近い形状であれば,自転と公転周期が一致した同期回転状態になっているだろう.現実的な三軸不等性の大きさを考えると,
同期回転状態か,3:2 の spin-orbit resonance になっているかの境界は e = 0.06 である

水の損失

      プロキシマb は 2 つの主要な状態を経験したと考えられる.1 つ目は,原始惑星系円盤が消失したあとの数百万年間であり,この間は惑星表面に水が液体で存在するには高温すぎる環境である.その後,2 つめのハビタブルゾーン内の状態に入る.この両方のフェーズにおいて,プロキシマb は大気損失を経験する.
      初期のフェーズにおける暴走的な大気損失によって,プロキシマb は地球の海水量未満程度の水を失う.
      このフェーズに背景大気がどの程度生き残るかは強い制限は付けられない.
      最も厳しい制限の場合,最大で ~ 100 bar 相当の窒素分子が失われる.この状況下では,ハビタブルゾーン内に惑星がいる時に水は高層大気に存在し,散逸しやすい.そのため,地球の海水量の 16 - 21 倍の水が損失しうる.
      また,4.8 Gyr の間,背景大気を保持し続ける可能性もある.この場合は水の損失量は遥かに少なくなる.

惑星表層環境の進化

      暴走的な散逸を起こしている間,水の散逸によって,最大で 100 bar 相当の酸素が,酸素分子の形で大気に残る可能性がある.これは,アストロバイオロジー (宇宙生物学) 的な観点で 2 つの意味で重要である.
      1 つ目は,プロキシマb の大気・表面・海・地殻は,ハビタブルゾーンに入る際には強く酸化されている可能性があるという点である.これは,生命の起源として重要な,前生物学的化学プロセスを阻害しうる環境である.
      2 つめは,生物の存在を示す兆候 (biosignature) の探査の際に,非生物的な原因による酸素の蓄積と,その後に発生するオゾン層の形成を考慮する必要があるという点である.
      その他にも,XUV 加熱によって引き起こされる大気の拡大と,プロキシマ・ケンタウリからの恒星風によるプロキシマb の磁気圏の圧縮により,揮発性物質が非熱的な散逸過程によってかなり失われる可能性がある.これを定量的に評価するためには,惑星の固有磁場,誘導磁場,実際の恒星風の風圧,大気組成などの未知のファクターが必要である.

結論

      これらの結果を総合すると,プロキシマb は大量の揮発性物質を失い,居住可能性の乏しい惑星になる可能性もある.しかし同様に,濃い大気を持ち,一定の海を持つ可能性も考えられる.もちろん全ては,初期に惑星が持っていた水の量と,その後にはたらくプロセスの効率に依存する.



      先日話題になった,プロキシマ・ケンタウリまわりの地球型惑星発見の関連論文です.
    こちらは同じ観測グループの人達が,プロキシマb の居住可能性について,プロキシマ・ケンタウリの放射の進化や惑星の軌道進化,水の損失などを含めて調べた結果となっています.

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