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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1609.08215
Sparks et al. (2016)
Probing for Evidence of Plumes on Europa with HST/STIS
(ハッブル宇宙望遠鏡/STIS でのエウロパでの噴出の証拠の探査)
ここでは,ハッブル宇宙望遠鏡を用いて,エウロパが木星表面を通過しているタイミングに,遠紫外線 (far ultraviolet, FUV) でエウロパの直接撮像観測を行った.(木星を背景としたエウロパの遠紫外線撮像観測)
これは,エウロパの縁におけるガスもしくはエアロゾルによる,遠紫外線の吸収の検出を目的とした観測である.
観測と解析の結果,全 10 回の観測のうち,3 回で噴出活動 (plume activity) によると思われる兆候を検出した.そのうち 2 回は,Roth et al. (2014) と同じ領域に統計的に優位な兆候を検出した.残りの 1 回はそれよりも赤道寄りの領域であった.
観測結果の解析には,統計的な解析と,誤検出シグナルの生成に影響しうる系統的な影響についての考慮を行った.その結果,観測された兆候はエラーでは説明をすることは難しく,系統的な影響ではないと考えるのが妥当である.
もし検出された噴出の特徴が本物であったとすると,観測結果から示唆されるエウロパからの脱ガスの大きさ,は Roth et al. (2014) で報告されたものと整合的である.ただし今回のデータでは,活動頻度は過去の報告よりも高いことが示唆される.
地質学,組成,重力,誘起磁場の測定結果の組み合わせから,表面下での全球的な,塩分をふくむ液体の水の存在が示唆されており,その深さは ~ 100 km に及ぶと推測されている (Hall et al. 1995など).その海の中での生命の存在可能性についての議論も行われている (Chyba 2000など).
Roth et al. (2014) では,エウロパ表面からの噴出物の検出の報告があった.そのため,エウロパの内部物質が地下から噴出して宇宙空間に飛び出し,エウロパの表面に堆積している可能性がある.従って,エウロパの表面から数 km 掘削することなく,エウロパの地下海由来の物質に到達できる可能性がある.また,噴出の存在は,エウロパが現在も地質学的に活発であるということを示している.
エウロパはごく薄い大気を持ち,また木星磁気圏の内部不覚に位置しているため,大気とプラズマ電子の相互作用によって,遠紫外線領域での水素・酸素の輝線によるオーロラ活動が発生することがある (Hall et al. 1995).大気はエウロパの表面由来だが,どの程度の領域に存在しているのか,大気の密度,熱的構造,空間・時間変動などの基本的特性はあまり良く分かっていない (McGrath et al. 2009など).
エウロパの縁における遠紫外線の酸素・水素 (水の解離生成物) からの放射は,Roth et al. (2014) で報告された.これは単一イベントであり,確度は 4 σ である.この現象については,別の独立した方法によって確認する必要がある.
Fagents et al. (2000) では,エウロパ表面のアルベドが低い特徴の多様性を説明するため,揮発性物質のガスと粒子を多く含む噴出の存在を仮定してモデリングを行っている.また,イオで観測されていた噴出のダイナミクスから,エウロパでの噴出は最大で ~ 100 km の高度に達すると予測している.この高度は,ガスが主体の噴出だとすると噴出速度 ~ 600 km s-1 に対応する.
また著者らは,より現実的な噴出速度について議論し,その場合は噴出の高度は 1 km から 25 km 未満程度になると予想している.
Roth et al. (2014) の噴出の検出報告では,噴出の高さは ~ 200 km としている.これは噴出の初速度として ~ 700 km s-1 を要求する (噴出物が水蒸気主体であった場合).これは Fagents et al. (2000) とは合わない結果である.
土星の衛星エンケラドゥスでは,土星探査機カッシーニがエンケラドゥスからの噴出を直接観測している (Porco et al. 2006).エンケラドゥスでの水蒸気ガスの速度は 300 - 500 km s-1 と推定されている (Waite et al. 2006, Tian et al. 2007など).
エウロパ表面で水分子が速度 ~ 700 km s-1 になるためには,表面温度が 230 K より高い噴出のための割れ目が必要である (Roth et al. 2014).これは不可能ではないが,その温度と,それに対応する噴出高度はエウロパの表面温度の ~ 100 K よりも高く,また噴出している物質の凍結温度を下げるためのあらゆる塩分過多の溶液の共融温度よりは十分低い (Kargel et al. 2000).
エウロパが木星をトランジットする際の直接撮像という手法を用いている.木星表面での反射光が,エウロパの縁で吸収されるのを観測するというものである.
遠紫外線領域では,木星の表面は滑らかに見えるという利点がある.これは木星大気上層ではヘイズ (もや) による散乱が支配的になるためである.
さらに,今回の観測対象として興味がある分子 (水,酸素分子) は遠紫外線領域で散乱断面積が大きく,ハッブル宇宙望遠鏡の分解能もその波長域では最高に近くなる.ハッブル宇宙望遠鏡の 150 nm での回折限界は λ/D ~ 13 mas (D はハッブル宇宙望遠鏡の口径) であり,4 AU の距離では 13 mas は 38 km に相当する.
実際の観測データと比較するために,模擬観測データを生成した.
まずエウロパの可視光観測のマップを,一般化された Lambertian illumination 関数と合わせ,また各トランジット時の木星の背景を合成する.それを,点拡がり関数 (point spread function. PSF) で畳み込む.さらにその画像にポアソンノイズを乗せる.
上記の模擬観測データの生成を,各トランジット時に対応して行った.またトランジットしていない時の観測データに関しても行った.
実際の観測データと模擬観測データを割り算し,値の 1 からのずれを評価し,またそのずれが偶然発生する確率についても評価する.その値が一定の閾値を超えたものをピックアップした結果, 3 画像で大きなずれが発見された.それぞれ,2014年1月26日,3月17日,4月4日に撮影された画像であった.その他の画像には目立った特徴は検出されなかった.
2014年1月26日の画像には,3 ヶ所の吸収による特徴が見られた.これは,Roth et al. (2014) が輝線観測によって噴出を発見した領域と同じ緯度帯であった.観測された吸収の特徴を説明するために必要な水の量は,不定性が極めて大きいが ~ 3.9 × 106 kg 程度だと考えられる.
噴出が検出された 3 例とも,推定される水分子は 1032 個のオーダーであり,106 kg 程度である.
噴出の特徴は,2014年1月から4月の間に 3 回検出された.
Roth et al. (2014) で検証された仮説は,噴出活動はエウロパの真近点離角と相関がある可能性があるというものであった.実際に,土星の衛星エンケラドゥスでの噴出活動は,エンケラドゥスの真近点離角の値と相関があることが報告されている.
しかし今回の観測では,真近点離角の特別な値,特に遠点との関係性は見られなかった.Roth et al. (2014) でも,遠点は噴出活動には十分なコンディションではないという結論を出しており,これと同じ結果となった.
噴出活動の検出は統計的に有意であり,系統的な誤差の影響であるとは考えにくいが,もし他に未知の誤検出要因が存在すれば別である.検出された特徴が本当に噴出由来のものである場合,エウロパでの噴出活動はこれまでに考えられていたよりも一般的な存在で,より広域に渡るものであると考えられる.
arXiv:1609.08215
Sparks et al. (2016)
Probing for Evidence of Plumes on Europa with HST/STIS
(ハッブル宇宙望遠鏡/STIS でのエウロパでの噴出の証拠の探査)
概要
Roth et al. (2014) では,エウロパの南半球の高緯度領域からの水の噴出を検出したという報告がなされた.これは,エウロパの縁の領域からの水の解離生成物による輝線を分光学的に検出したというものであった.ここでは,ハッブル宇宙望遠鏡を用いて,エウロパが木星表面を通過しているタイミングに,遠紫外線 (far ultraviolet, FUV) でエウロパの直接撮像観測を行った.(木星を背景としたエウロパの遠紫外線撮像観測)
これは,エウロパの縁におけるガスもしくはエアロゾルによる,遠紫外線の吸収の検出を目的とした観測である.
観測と解析の結果,全 10 回の観測のうち,3 回で噴出活動 (plume activity) によると思われる兆候を検出した.そのうち 2 回は,Roth et al. (2014) と同じ領域に統計的に優位な兆候を検出した.残りの 1 回はそれよりも赤道寄りの領域であった.
観測結果の解析には,統計的な解析と,誤検出シグナルの生成に影響しうる系統的な影響についての考慮を行った.その結果,観測された兆候はエラーでは説明をすることは難しく,系統的な影響ではないと考えるのが妥当である.
もし検出された噴出の特徴が本物であったとすると,観測結果から示唆されるエウロパからの脱ガスの大きさ,は Roth et al. (2014) で報告されたものと整合的である.ただし今回のデータでは,活動頻度は過去の報告よりも高いことが示唆される.
研究背景
エウロパの特徴
エウロパは,アストロバイオロジー的に興味深い天体である.地質学,組成,重力,誘起磁場の測定結果の組み合わせから,表面下での全球的な,塩分をふくむ液体の水の存在が示唆されており,その深さは ~ 100 km に及ぶと推測されている (Hall et al. 1995など).その海の中での生命の存在可能性についての議論も行われている (Chyba 2000など).
Roth et al. (2014) では,エウロパ表面からの噴出物の検出の報告があった.そのため,エウロパの内部物質が地下から噴出して宇宙空間に飛び出し,エウロパの表面に堆積している可能性がある.従って,エウロパの表面から数 km 掘削することなく,エウロパの地下海由来の物質に到達できる可能性がある.また,噴出の存在は,エウロパが現在も地質学的に活発であるということを示している.
エウロパはごく薄い大気を持ち,また木星磁気圏の内部不覚に位置しているため,大気とプラズマ電子の相互作用によって,遠紫外線領域での水素・酸素の輝線によるオーロラ活動が発生することがある (Hall et al. 1995).大気はエウロパの表面由来だが,どの程度の領域に存在しているのか,大気の密度,熱的構造,空間・時間変動などの基本的特性はあまり良く分かっていない (McGrath et al. 2009など).
エウロパの縁における遠紫外線の酸素・水素 (水の解離生成物) からの放射は,Roth et al. (2014) で報告された.これは単一イベントであり,確度は 4 σ である.この現象については,別の独立した方法によって確認する必要がある.
エウロパからの水の噴出の可能性
エウロパにおける噴出と活発な氷火山の存在という興味深い可能性については,過去に研究がなされている (Fagents et al. 2000, Fagents 2003).Fagents et al. (2000) では,エウロパ表面のアルベドが低い特徴の多様性を説明するため,揮発性物質のガスと粒子を多く含む噴出の存在を仮定してモデリングを行っている.また,イオで観測されていた噴出のダイナミクスから,エウロパでの噴出は最大で ~ 100 km の高度に達すると予測している.この高度は,ガスが主体の噴出だとすると噴出速度 ~ 600 km s-1 に対応する.
また著者らは,より現実的な噴出速度について議論し,その場合は噴出の高度は 1 km から 25 km 未満程度になると予想している.
Roth et al. (2014) の噴出の検出報告では,噴出の高さは ~ 200 km としている.これは噴出の初速度として ~ 700 km s-1 を要求する (噴出物が水蒸気主体であった場合).これは Fagents et al. (2000) とは合わない結果である.
土星の衛星エンケラドゥスでは,土星探査機カッシーニがエンケラドゥスからの噴出を直接観測している (Porco et al. 2006).エンケラドゥスでの水蒸気ガスの速度は 300 - 500 km s-1 と推定されている (Waite et al. 2006, Tian et al. 2007など).
エウロパ表面で水分子が速度 ~ 700 km s-1 になるためには,表面温度が 230 K より高い噴出のための割れ目が必要である (Roth et al. 2014).これは不可能ではないが,その温度と,それに対応する噴出高度はエウロパの表面温度の ~ 100 K よりも高く,また噴出している物質の凍結温度を下げるためのあらゆる塩分過多の溶液の共融温度よりは十分低い (Kargel et al. 2000).
遠紫外線による噴出の探査
今回の観測では,Roth et al. (2014) とは異なるアプローチで,ハッブル宇宙望遠鏡を用いてエウロパからの噴出の探査を行った.エウロパが木星をトランジットする際の直接撮像という手法を用いている.木星表面での反射光が,エウロパの縁で吸収されるのを観測するというものである.
遠紫外線領域では,木星の表面は滑らかに見えるという利点がある.これは木星大気上層ではヘイズ (もや) による散乱が支配的になるためである.
さらに,今回の観測対象として興味がある分子 (水,酸素分子) は遠紫外線領域で散乱断面積が大きく,ハッブル宇宙望遠鏡の分解能もその波長域では最高に近くなる.ハッブル宇宙望遠鏡の 150 nm での回折限界は λ/D ~ 13 mas (D はハッブル宇宙望遠鏡の口径) であり,4 AU の距離では 13 mas は 38 km に相当する.
観測と解析手法
合計で 10 回のトランジットと,トランジットしていない時 7 回の観測を行った.実際の観測データと比較するために,模擬観測データを生成した.
まずエウロパの可視光観測のマップを,一般化された Lambertian illumination 関数と合わせ,また各トランジット時の木星の背景を合成する.それを,点拡がり関数 (point spread function. PSF) で畳み込む.さらにその画像にポアソンノイズを乗せる.
上記の模擬観測データの生成を,各トランジット時に対応して行った.またトランジットしていない時の観測データに関しても行った.
実際の観測データと模擬観測データを割り算し,値の 1 からのずれを評価し,またそのずれが偶然発生する確率についても評価する.その値が一定の閾値を超えたものをピックアップした結果, 3 画像で大きなずれが発見された.それぞれ,2014年1月26日,3月17日,4月4日に撮影された画像であった.その他の画像には目立った特徴は検出されなかった.
2014年1月26日の画像には,3 ヶ所の吸収による特徴が見られた.これは,Roth et al. (2014) が輝線観測によって噴出を発見した領域と同じ緯度帯であった.観測された吸収の特徴を説明するために必要な水の量は,不定性が極めて大きいが ~ 3.9 × 106 kg 程度だと考えられる.
噴出が検出された 3 例とも,推定される水分子は 1032 個のオーダーであり,106 kg 程度である.
議論
Roth et al. (2014) で噴出が検出された場所に,ハッブル宇宙望遠鏡/STIS による遠紫外線でのエウロパの撮像観測より,統計的に有意な吸収を検出した.緯度は Roth et al. (2014) と同程度だが,経度は 90 度ほど東であった.噴出の特徴は,2014年1月から4月の間に 3 回検出された.
Roth et al. (2014) で検証された仮説は,噴出活動はエウロパの真近点離角と相関がある可能性があるというものであった.実際に,土星の衛星エンケラドゥスでの噴出活動は,エンケラドゥスの真近点離角の値と相関があることが報告されている.
しかし今回の観測では,真近点離角の特別な値,特に遠点との関係性は見られなかった.Roth et al. (2014) でも,遠点は噴出活動には十分なコンディションではないという結論を出しており,これと同じ結果となった.
噴出活動の検出は統計的に有意であり,系統的な誤差の影響であるとは考えにくいが,もし他に未知の誤検出要因が存在すれば別である.検出された特徴が本当に噴出由来のものである場合,エウロパでの噴出活動はこれまでに考えられていたよりも一般的な存在で,より広域に渡るものであると考えられる.
PR
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