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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1702.07075
Withers & Vogt (2017)
Occultations of astrophysical radio sources as probes of planetary environments: A case study of Jupiter and possible applications to exoplanets
(惑星環境のプローブとしての天体物理的電波源の掩蔽:木星でのケーススタディと系外惑星への応用の可能性)

概要

惑星の大気,電離圏,磁気圏の特徴は,地球から測定するのは難しい.電波掩蔽観測はこれらの特徴を測定するためのよく知られた手段であるが,掩蔽観測は惑星の近くにある探査機からの電波透過を観測するという方法に依存してきた.

ここでは,遠方の天体物理的な電波源からの電波放射の惑星環境による掩蔽が,惑星の周囲の磁場強度,プラズマ密度,中性粒子密度などを測定する手法として使用できるかについて研究を行った.

木星に対する理論的なケーススタディでは,10 木星半径以内を通過する電波信号に起きるファラデー回転 (Faraday rotation) による偏光角の大きな変化と,中性大気を通過してくる電波信号に発生する周波数と強度の大きな変化が起きることを発見した.

天体物理的な電波源としては,パルサーや活動銀河核,メーザーなどの候補天体がある.これらの天体が木星環境によって掩蔽されるイベントは,少なくとも年に 1 回はある.

またパルサーの場合,それらから放射されたパルスの到着の遅れは,通過してきたプラズマ密度の測定手段としても使う事ができる.

物理特性を観測するのが非常に難しい系外惑星でも,天体物理的な遠方の電波源,例えばその惑星の主星を掩蔽を観測できると考えられる.

木星でのケーススタディ

木星周辺環境のセットアップ

掩蔽観測をベースにした技術の明白な利点は,惑星間物質や星間物質を伝播する間に電波が受ける影響は,掩蔽前および掩蔽後の観測結果をベースラインとすることで除去することが出来るという点である.従ってここではそれらの影響は考慮しない.
ただし,地球の大気と電離圏を通過することによる電波信号への影響は,掩蔽の継続時間と比べて短いタイムスケールで変動する.そのためこれらの影響は地球周辺環境の独立した同時観測によって取り除かれる必要がある.

まず木星大気の中性粒子の密度構造を仮定する.木星半径を圧力が 1 bar となる高度と設定する (Seiff et al. 1998).木星の中性大気は扁平であり球ではないが (Hubbard et al. 1975など),この場合は球対称の近似は妥当である.

電離圏に関しては Chapman function を用いて構造を仮定した (Yelle & Miller 2004).なお電離圏に関しては球対称近似は現実的ではない.これは,電離圏の密度は太陽天頂角によって変化するからである.
電離圏の構造は観測に基づいて仮定した.電離圏の最上部と磁気圏の内縁 10 木星半径の間の電子密度の観測はほとんど無いので,シンプルな補間関数を使用した (Bagenal & Delamere 2011).

結果

偏光角の変化
ファラデー回転による電波の偏光角変化の大きさは,電波信号が惑星の中心から 10 木星半径以内の空間を通過し,周波数が 0.1 GHz の場合は 1 rad (ラジアン) を超える.また 3 木星半径以内を通過する 1 GHz の信号の場合も 1 rad を超える.これらは磁気圏のプラズマによるものである.

電離圏を通過する電波信号の場合はこの効果は大きくなる.この場合は,周波数が 10 GHz の場合でも偏光角変化の大きさは 0.1 rad を超える.ただしこれらは理想的な条件での結果であるため,現実的なモデルの場合では偏光角の変化はファクターで 0.2 小さくなる.

なお偏光角の変化は 0 〜 π rad の範囲内でしか決定することが出来ないので,π rad を超えるような偏光角の変化を見るためには,高い時間分解能での観測で偏光角の変化を追跡しなければならない.
周波数の変化
木星周辺環境を通過する電波信号の周波数の変化について,掩蔽の入と出では周波数変化の符号が異なる.ここでは掩蔽の出の時を例示する.また掩蔽の状況として,遠方の天体物理的電波源の視線方向が惑星の食の中心で完全に掩蔽された,最も深い掩蔽の場合を例示する.

もっとも深い掩蔽の場合,木星磁気圏のプラズマは 10 木星半径以内の距離において,周波数 0.1 GHz の電波シグナルに対して 10-2 Hz の周波数変化を起こす.これは周波数の値の 10-10 の変化に相当する.

電離圏の上部では,0.1 GHz の電波シグナルの変化は 100 Hz のオーダー (10-6 の変化) になる.

周波数変化に関しては,中性大気が最も大きな影響を及ぼす.周波数 0.1, 1, 10 GHz のどの電波信号に対しても,気圧 1 bar の高度に電波が到達する前に,周波数変化は 1 kHz を超える.
好ましい遠方の天体物理的な電波源
惑星の環境を掩蔽観測から探るためには,電波源は点源的であるのがよい.さらに,その電波源からの放射は大きな一定の偏光を持ち,狭く一定な周波数を持ち,大きく一定の強度を持っているべきである.

とは言え,これらのすべての要求を満たさない遠方の天体物理的な電波源も有用である.例えば,遠方の電波源が偏光していない場合でも,掩蔽の最中の周波数と強度の変化の測定は惑星環境の推定に役立つ.

また遠方の電波源の角サイズは,惑星の角サイズよりも十分小さい必要がある.木星の角サイズは,木星大気の場合は 0.01 arcsec,木星の電離圏は 0.1 arcsec,磁気圏は 50 arcsec となっている.

遠方の電波源として有用なのは,パルサー,活動銀河核,メーザーなどが挙げられる.
パルサーは直径が 10 km のオーダーの中性子星で,これは点源とみなせる (Burke & Graham-Smith 2010).パルサーの電波放射はしばしば大きく偏光しており.かつ周期的で短いパルスを持つ (Carroll & Ostlie 2007).パルサーの周期は典型的にはミリ秒から秒程度のオーダーである.そのためパルスのプロファイルを生成するのに適している.

活動銀河核は銀河中心の超大質量ブラックホールである.ブラックホールへの降着は電波領域での強い放射を産む.コンパクトな中心の電波源領域は角サイズにしてミリ秒角のオーダーを持つ.従って木星環境による掩蔽に対して点源とみなせる.

中心の電波源からの放射は強く直線偏光する場合がある.ただし,中心の電波源から放出されるジェットとローブからの放射を除外するためには,高分解能の撮像が必要である.またいくつかの活動銀河核のクラスは放射中に細いスペクトル線を含む.

メーザーは銀河系内にも銀河系外にも存在しうる (Gray 1999など).
銀河系内のメーザーは一般に星に伴って発見される.メーザー放射をしている領域の空間的広がりは数 AU のオーダーなので,銀河系内のメーザー源は木星の掩蔽に対して点源とみなせる.
メーザーからの電波放射はしばしば強く偏光している.銀河系内のメーザー放射は狭いスペクトル線の中で起きる.これは SiO や水,OH などの化学種のエネルギー準位遷移に対応している.

銀河系外のメーザーはメガメーザー (megamasers) として知られ,これらは活動銀河核に伴っている (Lo 2005).これらは銀河系内のメーザーに比べると偏光は小さい.これらの放射は比較的幅が広く,OH や 水 のラインから来る.
パルサー放射の遅れ
パルサーからのパルスは,星間物質や惑星周辺環境のプラズマ中を通過することによって,真空を通過してきた場合に比べて到達時刻が遅れる.そのため,電子密度が高い惑星の磁気圏と電離圏を通過してきたパルスは,想定よりも遅く観測される.

10 木星半径以内を通過してきた 0.1 GHz の電波シグナルの場合,到達時刻の遅れは 1 マイクロ秒を超える.観測される大量のパルスを平均することで,測定される到達時刻の遅れの精度を高めることが出来る.

ただし,木星の磁気圏は土星軌道にまで細長く伸びている.太陽の反対側では,木星の磁気圏は,長さが 15 AU (30000 木星半径),半径が 200 木星半径の円柱状として近似することができる (Lepping et al. 1983, Khurana et al. 2004).この状態では,木星は木星は円の中心にあり,円柱構造が太陽と反対側に長く伸びているという描像になる.そのため,球対称を仮定した先ほどの見積もりは,掩蔽が太陽-木星の視線方向で,つまり衝の時に発生した場合は正しくない.ここでは,衝の位置関係にある場合を考慮した見積もりも行った.

掩蔽の起きる頻度

木星は天球面上で,幅が 2 木星半径,長さ 2πa (a は木星の軌道長半径) の帯の領域を掃いて動く.全天球面は 4πa2 と表せるので,木星は軌道を一周する間に,空の 木星半径/木星の軌道長半径,つまり 10-4 の領域を掃くことになる.また,通過してくる電波信号に対して大きな影響を及ぼせるのは 10 木星半径程度までなので,この幅まで考えると空の領域の 10-3 の領域を掃くことになる.

パルサーは数千個,活動銀河核は数万個発見されているのため,パルサーや活動銀河核が木星環境に掩蔽されるイベントは,少なくとも 1 木星年の間に 1 回は起きうる.ただし天体は等方的ではなく銀河赤道面に集中しているため,掩蔽は木星が黄道面と銀河面の交点付近にいる時に起きやすい.

また,木星の magnetotail (磁気圏尾部) による掩蔽を考える.5 AU の距離での 200 木星半径の円盤の面積は全天の 10-4 であり,パルサーや遠方の電波源が木星の磁気圏尾部で掩蔽されるというイベントは発生しうる.

木星の衝は概ね (地球の) 1 年に 1 回の頻度で起きる.異なる衝の度に異なる空の領域がサンプルされることになり,好ましい遠方電波源が掩蔽される可能性を上げる.頻度としては,1 回の衝につき少なくとも 1 つの電波源が掩蔽されると考えられる.観測的にもっとも良い衝は,地球から見て木星が銀河面内の電波源が集中している領域にいる時に起きる衝である.

系外惑星の場合遠方の電波源・系外惑星・地球の 3 つが並ぶ確率は非常に低い.

木星と同じ軌道にある,木星と同じ軌道を持つ系外惑星軌道をを face-on (軌道面を正面から見る位置関係) で見た場合,惑星が掃く面積は軌道一周で 1015 km2 である.系外惑星が 10 光年先にある場合は,全天のわずか 10-14 を掃くにすぎない.木星と同じ磁気圏の大きさを持っていた場合は 10-10 となる.

これらの値は,系外惑星の分布と銀河系内の電波源の銀河面への集中的な分布を考えると多少は緩和されるが,それでもなお困難な値である.

しかし,恒星の電波放射が系外惑星のトランジットによって掩蔽される際の観測は解の一つである.木星の内部磁気圏は 2.5 木星半径であり,10 光年の距離では 0.4 ミリ秒角に対応する.VLBA のような超長基線電波干渉法の場合,GHz の周波数でその程度の角度分解能が得られるかもしれない.

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