×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1703.00504
Bourrier et al. (2017)
Strong HI Lyman-α variations from the 11 Gyr-old host star Kepler-444: a planetary origin ?
(110 億歳の恒星ケプラー444 からの強い H ライマンアルファの変動:惑星起源か?)
ここでは,ハッブル宇宙望遠鏡の Space Telescope Imagin Spectrograph (STIS) を用いて,水素のライマンアルファ線の波長で 6 回の独立した観測期間で惑星の高層大気の探査を行った.その結果,ケプラー444e と ケプラー444f のトランジットの間に,~ 20%程度の著しいフラックスの変動を検出した.また,これまでに発見されていない惑星がトランジットしているのを検出 (このフラックス変動は ~ 40%).
これらの変動の原因としては,恒星大気の遷移層とコロナでの変動に起因するという可能性はある.しかし,これらの観測された短いタイムスケール (2-3 時間) での変動の振幅は,この年老いていて (11.2 ± 1.0 Gyr),見た目が静穏な主系列星にとっては驚くべきほど大きな値である.
観測結果を説明できる可能性として,このトランジット中の変動は,2 つの外側の惑星 (ケプラー444e と ケプラー444f) から尾を引いている,中性水素の外気圏での吸収が有り得るという事を示す.
この 2 つの惑星はこのような散逸していく水素の外気圏を再び補充するだけの十分な量の水を保持していると考えられる.従ってこの事は,これらの惑星は初めて発見された海洋惑星であることを示している可能性がある.
またトランジット外での変動は,これまでに存在が検出されていない,より遠い軌道での惑星 ("ケプラー444g") の存在を必要とするが,この変動が惑星起源であるとするシナリオには疑問の余地もある.
その他に,HARPS-N でのナトリウム二重線の観測から,ケプラー444 の視線方向にある 2 つの星間物質雲の特性を導出した.これらの特性を元に,ケプラー444 のライマンアルファ線のスペクトルの分布を再現し,恒星の XUV 放射を推定した.
その結果,外側の惑星 (ケプラー444f) からは,11.2 Gyr 経過した後でも穏やかな質量放出を起こせると推定される.
今回の観測で得られた興味深い可能性を評価するためには,この系の XUV 波長でのフォローアップ観測が必要である.
Warm Neptune である GJ 436b は,これまでに大気の蒸発が発見されている中で最も低質量の惑星である (Ehrenreich et al. 2015).この惑星のトランジットの深さは,ライマンアルファ線波長で 60%程度である.このような大きく広がった外気圏は,主にこの惑星 (GJ 436b) が低質量であることと,主星の M 型星 (GJ 436) からの輻射が穏やかであることによるものである (Bourrier et al. 2015, 2016).
地球サイズの惑星からの大気散逸の検出の試みはこれまでに何回か行われているが.スーパーアース かに座55番星e (55 Cnc e, Ehrenreich et al. 2012) と HD 97658b (Bourrier et al. 2016) のライマンアルファ線のトランジットでは,水素外気圏の証拠は発見されていない.
かに座55番星e の場合は,水素外気圏が検出されなかったという事実は,この惑星の大気の分子量が大きいということか,もしくはこの惑星の大気の欠乏を示すものかもしれない.この惑星における大気の欠乏や高分子量大気に関しては,赤外線での brightness map の研究からも支持されている (Demory et al. 2016).
各惑星のトランジットは非常に浅いため,現在の可視光と近赤外線の装置では惑星の大気は検出できない,しかし K0 型の主星からの輻射によって,惑星の高層大気が膨張し,紫外線の波長で観測できる可能性はある.
中心星は明るい近傍星である (V=8.9, 35.7 pc, van Leeuwen 2007).またケプラー444A は,ライマンアルファ線の観測に適した大きな系の速度を持っている.この恒星は三重星系を成しており,430 年周期の高軌道離心率を持った M 型星の連星を伴っている.
恒星の重力,輻射圧と恒星風相互作用によって,惑星から散逸するガスは彗星の尾のような形状になる.これによってライマンアルファ線の blue wing での吸収が起きる.これが,惑星から空間的に離れた場所でのライマンアルファ線の吸収を起こす.
今回検出されたトランジット時の変動は,惑星からの散逸していく中性水素大気の吸収によって引き起こされたものだと仮定して解析を行った.
見積もりには各種のパラメータが必要だが,XUV 吸収半径と惑星半径の比,および潮汐力によるポテンシャルエネルギーへの寄与の項 (Erkaev et al. 2007) は,今回のような小さい惑星に関しては 1 と固定する.
また加熱効率 η は,入射する恒星のエネルギーのうち大気の加熱に使えるエネルギー割合を表したパラメータであり (Ehrenreich & Desert 2011など).また,各惑星についてはガニメデ的な組成を仮定し,平均密度 1.94 g cm3 とした.これは惑星質量の半分が水の氷で出来ていることに対応している.
その結果,ケプラー444e からの大気散逸率は η1.7 × 109 g s-1,ケプラー444f からは η1.2 × 109 g s-1 と推定された.
この系の年齢からは,加熱効率 η の上限値はそれぞれ 40% と 130%と推定される.つまり,加熱効率の見積もりとして,保守的な 10% という値を仮定した場合,11.2 Gyr 経過した後であっても,それぞれの惑星の水の量をそれぞれ 27%と 8%しか失わないと見積もる事ができる.
これらの結果は恒星フラックスの時間進化を考慮しておらず,また大気散逸の背後にある複雑な物理について単純な仮定を用いている.しかしこの見積もりは,ケプラー444 系の二つの惑星が,現在も大きな水の保有率を持った状態の “hot Ganymedes” (熱いガニメデ状天体) である可能性を残すものである.
また散逸していく水素はロッシュローブ半径の半分の位置から放出するという境界条件をとる.この時のガスの上向き速度は 5 km s-1 とする.この速度にした場合,観測データとよくフィットする結果を得ることが出来る.またこの速度は,低重力ポテンシャルである小さい惑星からのガス流速として示唆される速度 (Salz et al. 2016) の範囲内である.
データフィットからは,ケプラー444e とケプラー444f の中性水素の質量放出率は,それぞれ 107 - 108 g s-1,4 × 107 - 108 g s-1.散逸大気のバルク速度は ~ 60 km s-1 となった.
この速度は,非常に低速な太陽風 (Sanchez-Diaz et al. 2016など) や K 型の主星 HD 189733 からの恒星風よりも 4 倍遅い.しかし,恒星風は年齢とともに遅くなると考えられる.
導出した大気散逸率は,先ほど推定したより大きな値のトータル (中性水素のみではなく全体の散逸量) の大気散逸率と整合的である.この事は,加熱効率 η が低いか,中性水素の割合が小さいか,あるいはその両方であることを示唆している.
ただしこれはデータの暫定的な解釈結果であり,この系のさらなる観測が必要であるという点に注意を要する.
これはかに座55番星b (55 Cnc b) のケースと似ている,かに座55番星の惑星自体は可視光では中心星をトランジットしていないが,広がった水素外気圏はライマンアルファ線のトランジットで検出できる (Ehrenreich et al. 2012).
今回観測された深いトランジットを説明するためには,未発見の "ケプラー444g" のトランジットインパクトパラメータは ≦ 1.1 である必要がある.この系の惑星が同一平面上にあると仮定すると,インパクトパラメータ 1.1 という値は,軌道半径 0.13 AU (周期 ~ 19 日) に対応している.
発見されている他の 5 個の惑星が,内側から外側に向かって半径が大きくなっていることを考えると (火星サイズから金星サイズまで変化している),ケプラー444g は地球サイズでガニメデ類似の組成と推定される.
この推定より散逸大気のシミュレーションをケプラー444e,ケプラー444f 同様に行うと,中性水素の散逸率は 1.5 × 108 g s-1 と推定される.このような深いトランジットを生み出すためには,惑星は GJ 436b のような巨大な外気圏に包まれている必要がある.
arXiv:1703.00504
Bourrier et al. (2017)
Strong HI Lyman-α variations from the 11 Gyr-old host star Kepler-444: a planetary origin ?
(110 億歳の恒星ケプラー444 からの強い H ライマンアルファの変動:惑星起源か?)
概要
ケプラー444 (Kepler-444) は,地球より小さい系外惑星のコンパクトに集まった系での,大気の組成と進化を探る良い対象である.この系は,明るい K 型星の周りを,近接した軌道で 5 個の惑星がトランジットしていることが分かっている.しかし可視光や赤外線の波長では,惑星に存在すると想定される低層大気を探るのは難しい.ここでは,ハッブル宇宙望遠鏡の Space Telescope Imagin Spectrograph (STIS) を用いて,水素のライマンアルファ線の波長で 6 回の独立した観測期間で惑星の高層大気の探査を行った.その結果,ケプラー444e と ケプラー444f のトランジットの間に,~ 20%程度の著しいフラックスの変動を検出した.また,これまでに発見されていない惑星がトランジットしているのを検出 (このフラックス変動は ~ 40%).
これらの変動の原因としては,恒星大気の遷移層とコロナでの変動に起因するという可能性はある.しかし,これらの観測された短いタイムスケール (2-3 時間) での変動の振幅は,この年老いていて (11.2 ± 1.0 Gyr),見た目が静穏な主系列星にとっては驚くべきほど大きな値である.
観測結果を説明できる可能性として,このトランジット中の変動は,2 つの外側の惑星 (ケプラー444e と ケプラー444f) から尾を引いている,中性水素の外気圏での吸収が有り得るという事を示す.
この 2 つの惑星はこのような散逸していく水素の外気圏を再び補充するだけの十分な量の水を保持していると考えられる.従ってこの事は,これらの惑星は初めて発見された海洋惑星であることを示している可能性がある.
またトランジット外での変動は,これまでに存在が検出されていない,より遠い軌道での惑星 ("ケプラー444g") の存在を必要とするが,この変動が惑星起源であるとするシナリオには疑問の余地もある.
その他に,HARPS-N でのナトリウム二重線の観測から,ケプラー444 の視線方向にある 2 つの星間物質雲の特性を導出した.これらの特性を元に,ケプラー444 のライマンアルファ線のスペクトルの分布を再現し,恒星の XUV 放射を推定した.
その結果,外側の惑星 (ケプラー444f) からは,11.2 Gyr 経過した後でも穏やかな質量放出を起こせると推定される.
今回の観測で得られた興味深い可能性を評価するためには,この系の XUV 波長でのフォローアップ観測が必要である.
背景
系外惑星のライマンアルファ線での観測
低層大気のスケールハイトは小さく,この領域を可視光や赤外線で探査するのは難しい.しかし小さい惑星でも,惑星の高層大気による深い紫外線でのトランジットを起こすことは可能である.Warm Neptune である GJ 436b は,これまでに大気の蒸発が発見されている中で最も低質量の惑星である (Ehrenreich et al. 2015).この惑星のトランジットの深さは,ライマンアルファ線波長で 60%程度である.このような大きく広がった外気圏は,主にこの惑星 (GJ 436b) が低質量であることと,主星の M 型星 (GJ 436) からの輻射が穏やかであることによるものである (Bourrier et al. 2015, 2016).
地球サイズの惑星からの大気散逸の検出の試みはこれまでに何回か行われているが.スーパーアース かに座55番星e (55 Cnc e, Ehrenreich et al. 2012) と HD 97658b (Bourrier et al. 2016) のライマンアルファ線のトランジットでは,水素外気圏の証拠は発見されていない.
かに座55番星e の場合は,水素外気圏が検出されなかったという事実は,この惑星の大気の分子量が大きいということか,もしくはこの惑星の大気の欠乏を示すものかもしれない.この惑星における大気の欠乏や高分子量大気に関しては,赤外線での brightness map の研究からも支持されている (Demory et al. 2016).
ケプラー444系
ケプラー444系では,主星であるケプラー444A のまわりに,近接軌道 (軌道周期 10 日未満) の地球より小さい 5 個の惑星が発見されている.この惑星系は,知られている中で最も古い惑星系である (Campante et al. 2015, 11.2 ± 1.0 Gyr).各惑星のトランジットは非常に浅いため,現在の可視光と近赤外線の装置では惑星の大気は検出できない,しかし K0 型の主星からの輻射によって,惑星の高層大気が膨張し,紫外線の波長で観測できる可能性はある.
中心星は明るい近傍星である (V=8.9, 35.7 pc, van Leeuwen 2007).またケプラー444A は,ライマンアルファ線の観測に適した大きな系の速度を持っている.この恒星は三重星系を成しており,430 年周期の高軌道離心率を持った M 型星の連星を伴っている.
惑星の外気圏によるトランジット
大気散逸を起こしている惑星の周りでは,WASP-12b を除いて全ての惑星で中性水素の外気圏が検出されている.検出されているのは,HD 209458b (Vidal-Madjar et al. 2003),HD 189733b (Lecavelier des Etangs et al. 2010, 2012),55 Cnc b (Ehrenreich et al. 2012),GJ 436b (Ehrenreich et al. 2015) の 4 つである.なお WASP-12b (Fossati et al. 2010) は,ライマンアルファ線の透過分光観測を行うには距離が遠すぎる.恒星の重力,輻射圧と恒星風相互作用によって,惑星から散逸するガスは彗星の尾のような形状になる.これによってライマンアルファ線の blue wing での吸収が起きる.これが,惑星から空間的に離れた場所でのライマンアルファ線の吸収を起こす.
今回検出されたトランジット時の変動は,惑星からの散逸していく中性水素大気の吸収によって引き起こされたものだと仮定して解析を行った.
結果
大気散逸率
ケプラー444e とケプラー444f からの大気散逸率に関して,エネルギー律速過程 (Lecavelier des Etangs 2007) から見積もった.見積もりには各種のパラメータが必要だが,XUV 吸収半径と惑星半径の比,および潮汐力によるポテンシャルエネルギーへの寄与の項 (Erkaev et al. 2007) は,今回のような小さい惑星に関しては 1 と固定する.
また加熱効率 η は,入射する恒星のエネルギーのうち大気の加熱に使えるエネルギー割合を表したパラメータであり (Ehrenreich & Desert 2011など).また,各惑星についてはガニメデ的な組成を仮定し,平均密度 1.94 g cm3 とした.これは惑星質量の半分が水の氷で出来ていることに対応している.
その結果,ケプラー444e からの大気散逸率は η1.7 × 109 g s-1,ケプラー444f からは η1.2 × 109 g s-1 と推定された.
この系の年齢からは,加熱効率 η の上限値はそれぞれ 40% と 130%と推定される.つまり,加熱効率の見積もりとして,保守的な 10% という値を仮定した場合,11.2 Gyr 経過した後であっても,それぞれの惑星の水の量をそれぞれ 27%と 8%しか失わないと見積もる事ができる.
これらの結果は恒星フラックスの時間進化を考慮しておらず,また大気散逸の背後にある複雑な物理について単純な仮定を用いている.しかしこの見積もりは,ケプラー444 系の二つの惑星が,現在も大きな水の保有率を持った状態の “hot Ganymedes” (熱いガニメデ状天体) である可能性を残すものである.
散逸大気のシミュレーション
さらに散逸していく大気のシミュレーションを行った.先程と同様に,各惑星の質量と半径の推定にはガニメデ的な組成を仮定した.また散逸していく水素はロッシュローブ半径の半分の位置から放出するという境界条件をとる.この時のガスの上向き速度は 5 km s-1 とする.この速度にした場合,観測データとよくフィットする結果を得ることが出来る.またこの速度は,低重力ポテンシャルである小さい惑星からのガス流速として示唆される速度 (Salz et al. 2016) の範囲内である.
データフィットからは,ケプラー444e とケプラー444f の中性水素の質量放出率は,それぞれ 107 - 108 g s-1,4 × 107 - 108 g s-1.散逸大気のバルク速度は ~ 60 km s-1 となった.
この速度は,非常に低速な太陽風 (Sanchez-Diaz et al. 2016など) や K 型の主星 HD 189733 からの恒星風よりも 4 倍遅い.しかし,恒星風は年齢とともに遅くなると考えられる.
導出した大気散逸率は,先ほど推定したより大きな値のトータル (中性水素のみではなく全体の散逸量) の大気散逸率と整合的である.この事は,加熱効率 η が低いか,中性水素の割合が小さいか,あるいはその両方であることを示唆している.
ただしこれはデータの暫定的な解釈結果であり,この系のさらなる観測が必要であるという点に注意を要する.
未検出惑星のライマンアルファトランジットの示唆
既知の惑星ケプラー444e とケプラー444f のトランジットとは異なる時間に,40%の減光を検出した.この減光は,この系にある未発見の 6 番目の惑星によるものだと考えられる.つまり,この未発見の惑星の外気圏が,中心星をかすめるようにトランジットしている可能性がある.これはかに座55番星b (55 Cnc b) のケースと似ている,かに座55番星の惑星自体は可視光では中心星をトランジットしていないが,広がった水素外気圏はライマンアルファ線のトランジットで検出できる (Ehrenreich et al. 2012).
今回観測された深いトランジットを説明するためには,未発見の "ケプラー444g" のトランジットインパクトパラメータは ≦ 1.1 である必要がある.この系の惑星が同一平面上にあると仮定すると,インパクトパラメータ 1.1 という値は,軌道半径 0.13 AU (周期 ~ 19 日) に対応している.
発見されている他の 5 個の惑星が,内側から外側に向かって半径が大きくなっていることを考えると (火星サイズから金星サイズまで変化している),ケプラー444g は地球サイズでガニメデ類似の組成と推定される.
この推定より散逸大気のシミュレーションをケプラー444e,ケプラー444f 同様に行うと,中性水素の散逸率は 1.5 × 108 g s-1 と推定される.このような深いトランジットを生み出すためには,惑星は GJ 436b のような巨大な外気圏に包まれている必要がある.
PR
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック