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日々の感想などどうでもよいことを書き連ねるためだけのブログ。
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1703.03279
Poppenhaeger et al. (2017)
A Test of the Neutron Star Hypothesis for Fomalhaut b
(フォーマルハウトb 中性子星仮説の検証)

概要

フォーマルハウトb (Formalhaut b) は,恒星フォーマルハウトの周りのデブリ円盤中にある,直接撮像されている天体である.

この天体は惑星であると考えられているが,観測されたフォーマルハウトb のスペクトルは,理論的な惑星モデルとは一致しないという問題点もある.対立する仮説としては,この天体はフォーマルハウトまわりの円盤の前景,もしくは背景にある中性子星である,というものがある.

ここでは,X 線天文衛星 Chandra の HRC-I 装置を用い,0.08 - 10 keV のエネルギー範囲での X 線観測を行い,フォーマルハウトb が中性子星である可能性について探った.

その結果,フォーマルハウトb とフォーマルハウトそのもののどちらからも,X 線の放射は検出されなかった.この非検出は,フォーマルハウトb からの 0.08 - 10 keV の範囲での X 線フラックスの上限値が 1.3 × 10-4 erg cm-2 s-1 であるということに対応する.

A 型星である中心星のフォーマルハウトに関しては,0.08 - 10 keV のエネルギー範囲における X 線光度の上限値は 2.0 × 1025 erg s-1 と導出される.

フォーマルハウトb からの X 線が検出されなかったということから,この天体が中性子星であった場合の中性子星のパラメータ空間を大きく制約することが出来る.もし中性子星だとすると,表面温度は 91000 K よりも低く,太陽系から 13.3 pc よりも近い位置にある

これに加えて,過去に得られている可視光でのフォーマルハウトb のスペクトルは,中心星からの光の反射光とよくフィットするという事が判明した.そのため,フォーマルハウトb がより大きなリング系を伴った,小さい惑星である場合はスペクトルを上手く説明出来る可能性がある

フォーマルハウトb について

フォーマルハウトb は,精度良く直接撮像された初めての系外惑星である (Kalas et al. 2008).

フォーマルハウト系には,スペクトル型 A4 の若い主系列星であるフォーマルハウトA と,2 個の物理的に束縛された恒星,K 型星のフォーマルハウトB と,M 型星のフォーマルハウトC が存在する.この 2 つは主星の フォーマルハウトA から大きく離れたところにあり,距離は 750 AU に対応する.

フォーマルハウトA は太陽から 7.5 pc の距離にある.
この恒星はデブリ円盤に囲まれており,デブリ円盤は可視光と赤外線で撮像されている.また可視光の赤い波長で,ハッブル宇宙望遠鏡のコロナグラフを用いて行われた複数回の観測では,デブリ円盤と同じ平面を動く天体も検出され,フォーマルハウトb と呼ばれている.フォーマルハウトb は中心星からおよそ 100 AU 離れている.このような距離にある系外惑星は低温であると考えられ,理論モデルからはこの天体は木星と似た質量を持つと見積もられている (Kalas et al. 2008).

しかし,異なる波長でのフォーマルハウトb の観測からは驚くべき結果が報告されている.この惑星は,可視光から近赤外での 6000 - 8100 Å の波長領域では繰り返し検出されているが (Currie et al. 2012),この系外惑星がより明るく観測されると期待されるより長い波長では検出されず,典型的な系外惑星のモデルスペクトルとは一致しない強い上限値 (理論予測よりもずっと低い上限値) が得られている (Janson et al. 2012).

さらに混乱を引き起こす出来事として,フォーマルハウトb はおよそ 4400 Å の青い可視光でも検出されているが,この波長域は理論的には非常に暗くなっているはずの領域である (Currie et al. 2012).

また,最近の可視光での検出結果と最もよく一致するフォーマルハウトb の軌道は,これまで考えられていたようなデブリ円盤の平面と揃っている軌道ではなく,円盤と交差するような軌道を取っているように見えるということも分かっている (Kalas et al. 2013).

この天体の驚くべきスペクトルを説明するために,幾つかの可能性が提案されている.
例えば,木星質量の惑星周りに形成される惑星降着円盤は,反射によって青い波長でのスペクトルの超過を説明する事ができる.しかしこの仮説では,フォーマルハウトb の円盤面から外れた軌道を説明出来ない (Kalas et al. 2008, Janson et al. 2012).

また,この天体が微惑星からなる非常に大きな雲を伴った小さく高温の惑星だとすると,この天体の明るさと,円盤面から傾いた軌道をもちつつも,観測出来るだけの擾乱を円盤に起こしていない事実を説明できる.しかし付近に十分大きな質量を持った散乱の原因となる天体が無く,どのようにして大きく傾いた軌道に移行したのかは説明できない (Janson et al. 2012).

さらに,この天体がコアを持たない氷のダスト雲だとすると光度を説明できるが,系の年齢推定の観点からはこの説はもっともらしくない (Currie et al. 2012など).

従って,どの仮説も観測されている天体の特性と完全に整合的ではない.

フォーマルハウトA とフォーマルハウトb の相対運動の最近の観測からは,惑星候補天体 (フォーマルハウトb) の軌道が円盤内には無いことが示されているため,フォーマルハウトb は,フォーマルハウトA の円盤面付近を偶然近い投影距離で通過している天体 (※すなわちフォーマルハウト円盤の手前か奥にあり,偶然接近して見えるだけ) だとする説もある (Neuhauser et al. 2015).

観測されているフォーマルハウトb のスペクトルエネルギー分布 (SED) からは,この天体は通常の恒星ではないことが示される.観測されているフォーマルハウトb の暗さから考えると,仮に恒星であるとした場合は非常に遠方である必要がある.そのような場合は星間物質による一定の赤化 (reddening) が起こるが,これは観測事実と一致しない.

また,明るさからすると白色矮星でもない (可視光で 25 等程度).仮に白色矮星だとした場合,明るさが観測と合うような距離は 0.5 - 5 kpc となるが,この距離だとすると観測されているフォーマルハウトb の軌跡を説明するためには,非現実的に大きな二次元平面上に空間速度が必要となる (Neuhauser et al. 2015).

さらに,フォーマルハウトb は中性子星であるという可能性も提案されている.中性子星の絶対可視等級は,温度によるがおよそ 22- 25 等程度になる (Kaplan et al. 2011など).フォーマルハウトb の実視等級は可視光でおよそ 25 等である.年老いて低温な中性子星がおよそ 10 pc の距離にあるか,いくぶん高温でより遠方にあるとした場合は,見た目の光度を説明できる.

中性子星は形成直後の表面温度は数 MK (数百万度) 程度から始まり,百万年のタイムスケールで 100000 K 程度にまで冷える (Page & Appelegate 1992など).いくつかの近傍の熱的放射をする中性子星は,X 線で十分な精度で検出されている.これら検出されている中性子星は,典型的には表面温度が 500000 - 1000000 K 程度だが,これらの中性子星は年齢が 100 万年程度未満と推定されている (Kaplan et al 2011).

一方,年老いた低温な中性子星は可視光で青く見える.これは観測されているフォーマルハウトb の特徴と合う.年老いた中性子星からの放射は,遠紫外線の波長域にピークを持つと思われる.中心星のフォーマルハウトA からの可視光と紫外線波長の放射により,その検出は困難を伴う.

しかし軟 X 線では,中性子星スペクトルのハードテール成分が検出できる可能性がある.フォーマルハウト程度の質量の恒星は X 線では暗いため,フォーマルハウトb を X 線で観測するには適している.

観測結果

観測の結果,中心星のフォーマルハウトA も,フォーマルハウトb も X 線では非検出であった.この結果より,各天体のフラックスに上限値を与え,フォーマルハウトb の上限値から,この天体が中性子星だとした場合のパラメータフィットを行った.

ベストフィットは,黒体温度が 91000 K で,距離が 13.5 pc というものである.この温度の制限は X 線の上限値から算出している.また可視光と近赤外線では検出されているという事実から,仮にその温度であった場合の距離の決定を行った.

「表面温度が 91000 K より高く,距離が遠い」とするモデルは観測と合致しない.これは,X 線の上限値を満たす一方で,可視光での観測データを下回ってしまうからである.あるいは可視光での観測データを満たした場合は X 線の観測の上限値を超えてしまうためである.

ここで留意すべき点は,中性子星モデルのベストフィットパラメータは,この天体が X 線の上限値で検出されていた場合であり,実際には検出されていないということである.したがって,もしフォーマルハウトb が中性子星であった場合,91000 K よりも低温で,また 13.5 pc よりも近い位置にあるということになる.

加えて,13.5 pc という最も遠い距離の推定値から,フォーマルハウトb の X 線フラックスの上限値を用いて X 線光度の取りうる上限値を与えることが出来る.これによると,上限は 2.7 × 1026 erg s-1 となる.

議論

中性子星仮説を採用した場合のパラメータ

フォーマルハウトb が X線 で検出無しだったという結果から,中性子星仮説に大きなパラメータの制約を与えることが出来る.単一温度の黒体放射を仮定し,中性子星半径を典型的な 10 km とした場合,中性子星の表面温度はおよそ 90000 K より低い必要がある.これは典型的な中性子星の冷却モデル (Yakovlev & Oethick 2004) を考えると,年齢は 1000 万歳以上であることに対応する.また距離は 13.5 pc より近い位置である必要がある.

これは,もしフォーマルハウトb が中性子星だった場合,この天体が最も太陽系に近い中性子星であることを意味しており,さらに非常に年老いて低温な中性子星であることも示す.

なお,もし中性子星半径が非常に小さい場合,例えば 2 km の場合は,表面温度の上限値はそのままだが,距離の上限値はわずか 0.5 pc となる.

対立仮説の検証

中性子星シナリオは完全には排除されないが,「フォーマルハウトb からの放射は,中心星からの反射光である」というシナリオも比較する価値がある.

大雑把な見積もりとして,フォーマルハウトのようなスペクトル型 A4V の恒星のパラメータとボロメトリック光度,および恒星の半径の推定値から,黒体スペクトルを生成した.このスペクトルをスケールダウンしたところ,10-9 までスケールダウンすると,フォーマルハウトb の可視光の観測データとよく一致した.仮に中心星の反射光だとした場合,青い波長域でスペクトルを過大評価し,近赤外領域では過小評価してしまう中性子星モデルよりも,青い波長域と近赤外のスペクトルがよく一致する.

反射源がフォーマルハウトの円盤内 (中心星から 115 AU の距離) にあり,また完全反射をすると仮定する.この場合,中心星の 10-9 の光を反射するためには,半径 115 AU の球の面積の 10-9 倍の面積が必要ということになる.これは 4 × 1012 km2 に対応する.

土星の最も外側の環で囲まれた領域の面積はおよそ 6 × 1010 km2 である.
これよりももっと大きなリング系が系外惑星の周りに発見されている,例えば,1SWASP J140747.93-394542.6 である,この系外惑星の周りには,最大で 0.6 AU の半径を持つ巨大なリング系があると考えられている (Mamajek 2012など).このリング系の面積は 2.5 × 1016 km2 となる.

そのためフォーマルハウト系では,小さい惑星が大きな環を持っていた場合,観測と一致するための十分な星の光を反射できる.環の面積は 4 × 1012 km2 で,これは半径がおよそ 600000 km であることに対応する.

仮説の検証可能性

これらの仮説を区別するには,フォーマルハウトb の遠紫外線か極端紫外線の波長での撮像観測が確実である.しかし,これらの波長で観測できる望遠鏡が現在存在しないため難しい.

200 - 400 Å の波長域では,中性子星説と反射光説では,可視光での観測結果と比べて大きく異なる観測結果となることが予想される.しかし残念ながら,この波長域は中心星の放射が最も強い領域でもあるため観測が難しい.

100 Å 程度の極端紫外線の場合,低温な中性子星はもっとも強い放射を持つ波長域だが,中心星はこの波長では比較的暗くなるため観測可能性が大きくなる.

結論

フォーマルハウト系を X 線で観測したが,フォーマルハウトとフォーマルハウトb はどちらも検出されなかった.この結果から,中心星フォーマルハウトの X 線光度の上限を与えた.0.2 - 2 keV で LX/Lbol < 10-10 が上限である.なお LX は X 線での光度,Lbol はボロメトリック光度である.この値は,A 型星に対して得られている X 線放射の上限値と同程度だが,A 型星のサンプルは少ないためばらつきは大きい.

また,フォーマルハウトb がフォーマルハウトの前景もしくは背景にある中性子星だとする仮説と今回の観測結果を合わせると,今回の非検出という結果から中性子星のパラメータに大きく制限を与えられる.中性子星であった場合は表面は極めて低温 (90000 K 程度以下),近傍 (13 pc 以内) に存在する.

中性子星説への対立仮説としては中心星からの反射光であるという説があり,中性子星とするモデルよりもこちらのほうが可視光での検出結果と合う.さらなる紫外線と極端紫外線での観測が,フォーマルハウトb の謎めいた性質を明らかにするだろう.

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