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日々の感想などどうでもよいことを書き連ねるためだけのブログ。
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1703.04166
Lugar et al. (2017)
A terrestrial-sized exoplanet at the snow line of TRAPPIST-1
(TRAPPIST-1 のスノーライン上の地球サイズの系外惑星)

概要

TRAPPIST-1 系は,超低温矮星 (ultra cool dwarf) の周りで初めて発見されたトランジット惑星系である.これまでの観測では,少なくとも 7 個の,半径と質量が地球に類似した惑星が発見されている.

その後 TRAPPIST-1 はケプラー K2 ミッションの一環として観測された.その新しいデータを使って,これまではよく分かっていなかった最も外側の惑星 TRAPPIST-1h の軌道周期が 18.764 日と測定できたことを報告する.この値は,各惑星のラプラス関係による理論的に期待される値と一致した.この天体は,複雑な軌道共鳴連鎖の 7 番目にあることが確認された.

TRAPPIST-1h は 0.715 地球半径,平衡温度 169 K である,これはこの系スノーライン (水が気体になる距離と氷になる距離の境界) の位置に相当する.

また,中心星の自転周期を 3.3 日と決定した.さらに,活発な中程度の年齢の晩期 M 型星にありがちな数多くのフレアも検出された.

観測とその解析結果

TRAPPIST-1h の軌道周期

TRAPPIST-1 (ケプラー K2 のカタログでは EPIC 246199087 として識別) は,ケプラーの K2 ミッションの Campaign 12 (2016/12/15 - 2017/3/4) の間の 79 日間観測された.ケプラーは 2017/2/1 - 2017/2/6 にセーフモードにあったため,5 日間のデータは欠損している.これらのデータを注意深く解析した.主な目的は TRAPPIST-1h の軌道周期に制限を与えることである.

TRAPPIST-1h はこれまでトランジットが 1 回検出されたのみで,軌道周期が確定していなかった.理論的な観点からは,この惑星が TRAPPIST-1f と g との三体ラプラス共鳴に入っているとすると,いくつかの決まった周期が予測される.この予測値にはいくつかの値がありうるが,そのうちほとんどは,スピッツァー宇宙望遠鏡と地上望遠鏡での観測,およびトランジット時刻変動 (transit timing variation, TTV) からの制限によって排除される.

しかし,考えられる予測値のうち 18.765 日という値は,この周期でトランジットしている可能性があった別の時間帯は,過去のすべての観測でデータが存在していなかったため確認できていなかった.さらにこの値は,スピッツァー宇宙望遠鏡で検出された 1 回のトランジットの継続時間から推定された軌道周期 20 (+15, -6) 日と整合的である.

そのため,TRAPPIST-1h の軌道周期候補である 18.765 日が正しいと信じるに値する理由があった.これを立証するため,ケプラー K2 データを解析した.

ラプラス共鳴

ラプラス共鳴は三体の軌道共鳴状態を指す.ラプラス共鳴の典型的な例は,木星の衛星に見られる.

3 体が以下の関係を満たす状態をラプラス共鳴と呼ぶ.


ここで p, q は整数,Pi と λi は i 番目の天体の軌道周期と平均視黄経.φ は三体角である.

TRAPPIST-1 系では,全ての隣接した 3 惑星が三体共鳴の条件を満たしている.

(p, q) = (1, 2) というのが古典的なラプラス共鳴である.(p, q) = (1, 2) と (2, 3) は,ケプラー223 系とケプラー80 系でそれぞれ発見されている.TRAPPIST-1 系の場合,TRAPPIST-1b, c, d は (p, q) = (2,3),TRAPPIST-1c, d, e は (p, q) = (1,2),TRAPPIST-1d, e, f は (p, q) = (2,3),TRAPPIST-1e, f, g は (p, q) = (1,2),TRAPPIST-1f, g, h は (p, q) = (1,1) を満たす.

このような系の共鳴構造は,惑星の形成過程における軌道移動の影響によって形成された可能性がある.惑星形成をしているガス円盤の中にある惑星は,質量が 1 火星質量程度を超えると密度擾乱を起こし,擾乱が惑星軌道にトルクを与えることで惑星の軌道移動を引き起こす.恒星の非常に近くにある低質量の惑星の起源は,火星から地球サイズの惑星の卵が,遠方から内側へと運ばれてきた考えるモデルも有る.円盤の内縁が軌道移動に対する障壁となり,内側に移動してきた複数の惑星が平均運動共鳴の連鎖に次々と捉えられることになる.

惑星の軌道進化には潮汐相互作用も重要であると考えられる.Mercury-T コードを用いた系の潮汐シミュレーションでは,数 Myr の間に各惑星の軌道離心率は 0.01 にまで減衰される事が示される.もちろん潮汐加熱の影響も大きい. TRAPPIST-1f と h 以外の惑星は,地球の合計の熱フラックスよりも大きい潮汐熱フラックスを持つと予測される.

TRAPPIST-1h の表面環境推定

TRAPPIST-1h に入射するフラックスは 200 W m-2 であり,窒素-二酸化炭素 -酸素大気を持つ場合に表面に液体の水を維持するのに必要な 300 W m-2 よりも小さい.残りの 100 W m-2 を潮汐加熱で賄うためには大きな軌道離心率が必要だが,他の惑星の軌道を考えると,TRAPPIST-1h が大きな軌道離心率を持つのは極めて不整合である.

また気候シミュレーションによると,恒星からの日射が低すぎるため大気中の二酸化炭素の凝結が発生し,分厚い二酸化炭素大気を維持するのも難しい.特に,1 bar の窒素大気中を仮定した場合,大気中の二酸化炭素濃度は 100 ppm を超えないと予測される.

理論的には,初期大気もしくは継続的な脱ガスの結果として水素分子豊富な大気があった場合は,TRAPPIST-1h の表面に液体の水を持つことが出来る.水素大気,窒素-水素大気,二酸化炭素-水素大気の場合は,それぞれ低日射量の環境でも,内部の熱を逃がしにくくする効果および十分な温室効果を持つことが知られている.高高度の雲に阻害されない限り,ハッブル宇宙望遠鏡によるトランジット分光観測によって,水素豊富大気を検出もしくは否定できるかもしれない.

またその他にも,氷の層の下に液体の海が存在する可能がある.表面の氷の層の最小厚みは,内部からの熱フラックスに依存する.地球の現在の地熱フラックスを仮定すると,氷の層は 2.7 km になると推定される.

恒星の自転周期

K2 の観測データのフーリエ解析から,TRAPPIST-1 の表面にある黒点による変動を検出した.この変動周期より,中心星 TRAPPIST-1 の自転周期を ~ 3.3 日と決定した.これは,この恒星の自転角運動量が太陽の 1%であることを意味する.

超低温矮星の spin-down 時間 (自転周期が減速される時間) は長いため,精密な gyrochronology からの年齢決定は難しい.TRAPPIST-1 の自転周期は,近傍の晩期 M 型星の自転周期分布のおおむね中間あたりに位置している.このことから,年齢は 3 - 8 Gyr の範囲であることが示唆される.この年齢は,この星の金属量が太陽と近いことなどと整合的である.

黒点の存在と,不定期に起きる弱い可視光フレアの様子は,低活動度の M8 星である事と整合的である.測光観測データからは,連続光でのピークフラックスが 1%を超えるフレアが 0.38回/日 の頻度で発生していることが分かった.これは活発な M6 - M9 矮星より 30 倍低頻度である.また,活動度が低いことは,この恒星が比較的年老いた系であるという予想を支持する.

なお,K2 キャンペーンの観測時期の終わり近くに,非常に高エネルギーのフレアが発生し,これもケプラーで観測された.このフレアのモデリングは後の論文で紹介する.

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