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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1707.08328
Mallonn & Wakeford (2017)
Near-UV transit photometry of HAT-P-32 b with the LBT: Silicate aerosols in the planetary atmosphere
(LBT による HAT-P-32b の近紫外トランジット測光:惑星大気中のシリケイトエアロゾル)

概要

ホットジュピター HAT-P-32b の,地上から観測できる最も短い波長でのトランジット観測を行った.観測には Large Binocular Telescope (LBT) を用いた.(※大型の双眼天体望遠鏡)

系外惑星の地上からの U バンド測光観測の中で,これまでで最も良いクオリティのデータが得られた.

過去の中間波長・長波長の可視光でのトランジット観測と比較したところ,透過光スペクトルにおける明瞭な散乱スロープが検出された.この散乱の原因と鳴っている粒子は,粒径が 0.1 µm よりも大きいマグネシウムシリケイトのエアロゾルであると考えられる.

HAT-P-32b の散乱特性を他の惑星と比較するため,スペクトル指数 (spectral index) を定義して比較を行った.その結果,今回比較したサンプルの中では,近紫外線でのトランジット振幅は非常に典型的な値であることが判明した.

さらに,サンプル中における,スペクトル指数と惑星の平衡温度,表面加速度,恒星の活動度の指標との相関について調べた.しかし明らかな傾向は見いだせなかった.

研究背景

これまでの系外惑星のトランジット観測は,中心星のスペクトル型は晩期の F, G, K 型のものが多かった.これらの恒星はあまり紫外線を放射しないため,多くの紫外線観測ではノイズに悩まされ,また可視光でのトランジット測光観測と同程度の品質には達しないものであった.紫外線の波長は,系外惑星科学における少なくとも 2 つの未解決点に深く関係しているため,これは不幸な状況である.

1 つは,近接ガス惑星と恒星のコロナとの相互作用,あるいは惑星前方へのバウショックの形成に関することである.
このバウショックは,紫外線の吸収によって検出できる可能性がある (Vidotto et al. 2011).

2 つ目は,系外惑星の透過スペクトル中の散乱の特徴についてである.これは,最も青い側の波長 (短波長側) で報告されている.


WASP-12b は,ハッブル宇宙望遠鏡を用いて近紫外線 (254- 258 nm) で非対称なトランジット光度曲線を示すことが分かっている (Fossati et al. 2010).この観測によると,近紫外線でのトランジットは,可視光での観測より明らかに早く始まった.この早い食への入り (ingress) は 278.9 - 282.9 nm でのフォローアップ観測でも確認されている (Haswell et al. 2012).

この早い食への入りを説明するための主要なモデルが 2 つ提案されている.一つは磁気的な起源とするもの (Vidotto et al. 2010, 2011),もう一つは非磁気的な起源とするもの (Lai et al. 2010) であり,どちらもバウショックの形成を含むモデルである.

最近では,Turner et al. (2016) によって複数のホットジュピターの Johnson U バンドでのトランジット観測が行われ,早いトランジットへの入りが近接ガス惑星で一般的かどうかが調査された.その観測の結果,WASP-12b でハッブル宇宙望遠鏡で観測されたトランジットの非対称性の存在は排除された.そのため,バウショック現象の観測は,300 nm よりも短い側の波長でのみ可能であると考えられる.


雲とヘイズの無い大気では,水素分子による光の散乱の影響で,青い側の波長と近紫外線の方向へ向かって不透明度が増加することが期待される (Fortney et al. 2010).また,小さい粒径を持つヘイズ粒子 (エアロゾル) も近紫外線と可視光の透過光スペクトル中に主要なスロープを持つ散乱を起こす (Nikolov et al. 2015など).

この大気中での散乱による不透明度の増加は,惑星の有効半径の増加として測定可能である.そのため,長波長と比較した場合,トランジット深さの増加として現れる.
Sing et al. (2016) の 10 個の近接ガス惑星の解析では,全てのケースで最も青い波長での惑星半径は短い波長での惑星半径よりも大きい値を示した.
惑星の有効半径は短波長側では大きくなるが,その変化の大きさは様々である.

また,これまでの地上からの U バンドトランジットは多数行われてきたが,導出された惑星サイズの値が,2 スケールハイトかそれを下回る精度に到達したケースは稀である.

議論

近紫外線トランジットの特徴

HAT-P-32b の近紫外線でのトランジット光度曲線中には,早い食への入りや光度曲線の非対称性は見られなかった.トランジット深さは可視光よりも僅かに大きい程度であり,惑星のロッシュローブに広がる外気圏による吸収の兆候は無かった.

この結果は,Turner et al. (2016) での 15 個の異なるホットジュピターの地上からの U バンド観測では,光度曲線の非対称性や早いトランジットへの入りは見られなかったという結果と一致する.従って,これらのトランジットの非対称性の起源の研究は,宇宙空間からの UV 波長のみで可能であると考えられる.

エアロゾルによる散乱

U バンドでの光度曲線の解析からは,長波長側での測定に比べると惑星と恒星の半径比が大きくなった.恒星の半径が波長と独立であると仮定すると,これは惑星の有効半径が近紫外線で大きくなっていると解釈できる.これのもっともらしい説明としては,惑星大気中での散乱である.

散乱している粒子は,ガス相にある水素分子かもしれない.しかし,このシナリオはありそうにない.水素分子による散乱が見えるためには,この惑星の大気は雲・ヘイズ無し大気である必要がある.しかし,この惑星の全ての過去の観測において,この惑星が雲・ヘイズ無し大気を持つ可能性については否定的な結果が出ている (Gibson et al. 2013,Mallonn & Strassmeier 2016,Nortmann et al. 2016).

エアロゾルによる散乱は起きる可能性がある.これは,ホットジュピターの大気中では広く現れる現象だと考えられる.

エアロゾルの特性

HAT-P-32b の大気の温度圧力分布 (T-P profile) と凝結曲線を用いて,大気中に発生しうるヘイズの特性について考察した.

近紫外線で観測した大気の圧力領域で形成する可能性が高いものは,マグネシウムシリケイトからなる粒子である.これは多くのホットジュピターで可視光の散乱を起こしている原因であると考えられている (Nikolov et al. 2015など).また,この物質は巨大系外惑星大気中に豊富に含まれると考えられている (Lodders 2010など).

スペクトル指数を用いた評価

スペクトル指数の定義

他惑星との比較のため,スペクトル指数 \(\Delta_{\rm u-z}\) を定義した.これは,k (惑星半径と恒星半径比) の値の,U バンド波長 (ここでは 300 - 420 nm) と z’ バンド波長 (同じく 880 - 1000 nm) での値の差分を取ったものである.これを,各惑星の大気圧力スケールハイト H で規格化して表す (\(H = k_{\rm B} T_{\rm eq}/\mu_{\rm m} g\)).\(k_{\rm B}\) はボルツマン定数,\(T_{\rm eq}\) は惑星の平衡温度,\(\mu_{\rm m}\) は大気の平均分子質量,\(g\) は局所的な重力加速度である.

HAT-P-32b のスペクトル指数は 2.18 ± 0.95 H であり,この値は純粋なレイリー散乱スロープで期待される ~ 4 H よりもやや小さい.

その他の U バンドと z’ バンドでの半径が測定されているホットジュピター 11 個と,HAT-P-32b とを比較した.その結果,この惑星のスペクトル指数は平均的な値である事が分かった.

スペクトル指数と惑星の平衡温度の相関

雲の組成は温度によって変わるため,惑星の平衡温度とスペクトル指数の相関を調べた.
スペクトル指数は粒子サイズと関係していると考えられるものの,ここでは平衡温度とスペクトル指数の間に相関は見つからなかった.

今回分析したサンプル中で最も低温な GJ 3470b は,最も大きなスペクトル指数を持つ.しかし他のサンプルはおおむね一定の値であった.

スペクトル指数と惑星の表面重力の相関

次に,スペクトル指数と惑星の表面重力の相関についても調べた.
惑星が大きな表面重力を持つ場合,大きな粒子は観測できる高度よりも下へ沈むと考えられる.そのため,スペクトル指数と表面重力 g には正の相関があると期待される.

その結果,サンプル中で最も大きな表面重力を持つ HD 189733b は,大きなスペクトル指数を示した.しかしその他の惑星では明確な相関は見られなかった.

スペクトル指数と恒星の活動度の相関

さらに,恒星の活動指標 log(R’HK) との相関も調べた.

惑星大気中のエアロゾルは,ガスの凝縮か光化学過程で生成される.後者の過程は低温なホットジュピター大気で重要であり,前者は高温の大気で主要だと考えられる.光化学過程は,大気に入射する UV フラックスと関係している.また恒星の UV の増加は恒星の活動と相関しているため,恒星の活動度指数を用いて比較することとした.光化学によって生成される炭化水素種は粒子サイズの小さいものを形成する事が期待される.そのため,活動度とスペクトル指数には正の相関が期待される.

しかし分析の結果,サンプル中では活動度指数は広い範囲に分布し,活動度とスペクトル指数が非常に大きな値を持つ HD 189733b を除いて,依存性の兆候は見られなかった.

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