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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1710.05276
Nugroho et al. (2017)
High-Resolution Spectroscopic Detection of TiO and Stratosphere in the Day-side of WASP-33b
(高分散分光観測による WASP-33b の昼側の酸化チタンと成層圏の検出)
WASP-33b の昼側のスペクトルを得るために,すばる望遠鏡の 0.62 - 0.88 µm の High-Dispersion Spectrograph (HDS) を使用し,二次食 (惑星が恒星の裏側に隠れる現象) の観測を行った.また,機器の系統的な影響,地球大気によるスペクトルへの影響,恒星によるスペクトルへの影響を SYSREM アルゴリズムを用いて抑制して補正した.
観測と解析の結果,軌道速度と系の速度を 4.8 σ の精度で検出することに成功した.ここで得られた値は,過去のトランジット観測の解析から導出されていたものと一致した.
また,惑星大気中に温度逆転層が存在するとしたモデルと合わせて解析を行った結果,今回の観測結果は大気中における成層圏の存在を示唆するものであった,しかし,検出された TiO の体積混合比に制限を与えることは出来なかった.
また,恒星の視線速度の測定も行い,軌道速度により強い制限を与えた (239.0 (+2.0, -1.0) km/s).
今回の結果は,高分散分光観測は可視光の波長範囲であっても系外惑星の大気の特徴付けを行うための強力な手法となり,類似の技術を用いることで現在の 10 m 級および将来の超大型望遠鏡での高分散分光器を用いた観測の可能性を示すものである.
初めて温度逆転層の存在が報告されたのは,ホットジュピター HD 209458b (Knutson et al. 2008) である.
Knutson et al. (2008) では,スピッツァー宇宙望遠鏡を用いた二次食の観測から,主に水と一酸化炭素によって起こされる 4.5, 5.6 µm での二次食の深さが,近くの別のバンド (3.6, 9 µm) での熱的連続成分よりも浅い値であったことを報告している.
その後,同じ望遠鏡を用いて二次食の深さの観測が行われ,同様に温度逆転層の存在の検出が示唆された.しかし過去のスピッツァー宇宙望遠鏡を用いた単一のトランジット観測は知られていたよりも大きな不定性を持ち,過去に報告されていた放射のような特徴は疑わしいということが,Hansen et al. (2014) によって指摘されている.
Very Large Telecsope (VLT) の CRyogenic high-resolution InfraRed Echelle SPectro-graph (CRIRES) を用いた HD 209458b の昼側の観測からは,2.3 µm での一酸化炭素の特徴が検出されなかったことが報告されている.またこの観測では,10-1 - 10-3 bar の圧力範囲には温度逆転層は存在しないという制約を与えた (Schwarz et al. 2015).
これはZellem et al. (2014) と Siamond-Lowe et al. (2014) の結果と整合的なものである.
HD 209458b の昼側からの一酸化炭素は非検出だったが,Snellen et al. (2010) は透過スペクトル中に同様の装置を用いて 5.6 σ の確度で一酸化炭素による吸収の特徴を検出している.
これにより,WASP-121b はスペクトル分解された放射の特徴が検出され,かつ成層圏が検出された初めての系外惑星となった.またこの観測では VO によると思われる特徴も検出されており,さらに温度逆転層と思われる大気構造が示唆されている.
ただし大気モデルは 1 次元モデルのみが考慮されており,非平衡化学過程は考慮されていない.
Sedaghati et al. (2017) は,VLT の低分散分光器 FORS2 を用いて WASP-19b のトランジット観測を行った.
その結果,大気から水蒸気を 7.9 σ の確度で確認し,さらに TiO (7.7 σ),強い散乱ヘイズ (7.4 σ),ナトリウム (3.4 σ) の存在を同時に明らかにした.またそれらの分子種の相対的な存在度への制限を与えた.
しかし大気中の温度逆転層の存在に関しては,透過スペクトルが大気の温度構造についての情報をあまり持っていないため,依然として不明のままである.
その他の検出例としては,2 番目に高温なホットジュピター WASP-33b (平衡温度 ~ 2700 K) がある.この惑星では,ハッブル宇宙望遠鏡を用いた昼側の観測で 1.2 µm にスペクトルの超過が見られ,これは TiO のスペクトル的特徴と整合すると考えられている (Haynes et al. 2015).
Hubeny et al. (2003) と Spiegel et al. (2009) では,重力沈降によって TiO/VO は高層大気から大気深くの冷たい層へ持ち去られてしまうことが指摘されている.
同時に,潮汐固定されたホットジュピターの大気中における高速の風によって,大気成分は惑星の夜側の低温な領域へ運ばれる.もし夜側の大気の温度が TiO/VO が凝縮する温度を下回れば,それらの分子種は大気中で凝縮して沈降する,
また,大気中の垂直方向の混合速度 (これは大気温度と関連していると考えられる) があまり大きくない場合,沈降してしまった分子種は再び高層大気に供給されない.
この効果は cold-trap と呼ばれている.
これは,活発な恒星の周りを公転するホットジュピターは温度逆転層を持たない傾向にあり,逆に静穏な恒星の周りを公転するホットジュピターは温度逆転層を持つ傾向にある,という関連性である.恒星の活動度が大きい場合は,中心星からの紫外線の強度が大きくなり過ぎ,温度逆転層を作るための吸収物質を破壊してしまうと考えられる.
一方で,Hoeijmakers et al. (2015) は 6300 Å より短い波長で使われている TiO のラインのリストが含む不正確さについて報告している.しかし,バーナード星のスペクトルと,対応する TiO ラインリストを用いて作られたモデルスペクトルの間の相互相関では,正確性は長波長側で大きくなることが分かっている.
arXiv:1710.05276
Nugroho et al. (2017)
High-Resolution Spectroscopic Detection of TiO and Stratosphere in the Day-side of WASP-33b
(高分散分光観測による WASP-33b の昼側の酸化チタンと成層圏の検出)
概要
これまでに知られている中で 2 番目に高温なホットジュピター WASP-33b の,昼側の反射スペクトルの高分散分光観測から,TiO (酸化チタン) の分子の特徴を検出した.WASP-33b の昼側のスペクトルを得るために,すばる望遠鏡の 0.62 - 0.88 µm の High-Dispersion Spectrograph (HDS) を使用し,二次食 (惑星が恒星の裏側に隠れる現象) の観測を行った.また,機器の系統的な影響,地球大気によるスペクトルへの影響,恒星によるスペクトルへの影響を SYSREM アルゴリズムを用いて抑制して補正した.
観測と解析の結果,軌道速度と系の速度を 4.8 σ の精度で検出することに成功した.ここで得られた値は,過去のトランジット観測の解析から導出されていたものと一致した.
また,惑星大気中に温度逆転層が存在するとしたモデルと合わせて解析を行った結果,今回の観測結果は大気中における成層圏の存在を示唆するものであった,しかし,検出された TiO の体積混合比に制限を与えることは出来なかった.
また,恒星の視線速度の測定も行い,軌道速度により強い制限を与えた (239.0 (+2.0, -1.0) km/s).
今回の結果は,高分散分光観測は可視光の波長範囲であっても系外惑星の大気の特徴付けを行うための強力な手法となり,類似の技術を用いることで現在の 10 m 級および将来の超大型望遠鏡での高分散分光器を用いた観測の可能性を示すものである.
背景
大気中の温度逆転層
系外惑星の大気中における温度逆転層 (themal inversion) の存在は,Hubeny et al. (2003) と Fortney et al. (2008) で予測されている.中心星からの非常に強い輻射を受けた惑星において.TiO や VO (酸化バナジウム) のような高温での光の吸収源となる分子が紫外線と可視光を吸収し,高層大気を加熱する事によって温度逆転層が形成され得る.初めて温度逆転層の存在が報告されたのは,ホットジュピター HD 209458b (Knutson et al. 2008) である.
Knutson et al. (2008) では,スピッツァー宇宙望遠鏡を用いた二次食の観測から,主に水と一酸化炭素によって起こされる 4.5, 5.6 µm での二次食の深さが,近くの別のバンド (3.6, 9 µm) での熱的連続成分よりも浅い値であったことを報告している.
その後,同じ望遠鏡を用いて二次食の深さの観測が行われ,同様に温度逆転層の存在の検出が示唆された.しかし過去のスピッツァー宇宙望遠鏡を用いた単一のトランジット観測は知られていたよりも大きな不定性を持ち,過去に報告されていた放射のような特徴は疑わしいということが,Hansen et al. (2014) によって指摘されている.
Very Large Telecsope (VLT) の CRyogenic high-resolution InfraRed Echelle SPectro-graph (CRIRES) を用いた HD 209458b の昼側の観測からは,2.3 µm での一酸化炭素の特徴が検出されなかったことが報告されている.またこの観測では,10-1 - 10-3 bar の圧力範囲には温度逆転層は存在しないという制約を与えた (Schwarz et al. 2015).
これはZellem et al. (2014) と Siamond-Lowe et al. (2014) の結果と整合的なものである.
HD 209458b の昼側からの一酸化炭素は非検出だったが,Snellen et al. (2010) は透過スペクトル中に同様の装置を用いて 5.6 σ の確度で一酸化炭素による吸収の特徴を検出している.
TiO, VO および成層圏の検出
Evans et al. (2017) は,非常に高温なホットジュピターWASP-121b (平衡温度 ~ 2500 K) の大気中に,水蒸気による放射の特徴が検出されたことを報告した.この観測は,スピッツァー宇宙望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡の両方で行われた.これにより,WASP-121b はスペクトル分解された放射の特徴が検出され,かつ成層圏が検出された初めての系外惑星となった.またこの観測では VO によると思われる特徴も検出されており,さらに温度逆転層と思われる大気構造が示唆されている.
ただし大気モデルは 1 次元モデルのみが考慮されており,非平衡化学過程は考慮されていない.
Sedaghati et al. (2017) は,VLT の低分散分光器 FORS2 を用いて WASP-19b のトランジット観測を行った.
その結果,大気から水蒸気を 7.9 σ の確度で確認し,さらに TiO (7.7 σ),強い散乱ヘイズ (7.4 σ),ナトリウム (3.4 σ) の存在を同時に明らかにした.またそれらの分子種の相対的な存在度への制限を与えた.
しかし大気中の温度逆転層の存在に関しては,透過スペクトルが大気の温度構造についての情報をあまり持っていないため,依然として不明のままである.
その他の検出例としては,2 番目に高温なホットジュピター WASP-33b (平衡温度 ~ 2700 K) がある.この惑星では,ハッブル宇宙望遠鏡を用いた昼側の観測で 1.2 µm にスペクトルの超過が見られ,これは TiO のスペクトル的特徴と整合すると考えられている (Haynes et al. 2015).
TiO, VO の検出の困難さ
Cold trap
TiO と VO が検出されにくいのにはいくつかの要因があると考えられている.Hubeny et al. (2003) と Spiegel et al. (2009) では,重力沈降によって TiO/VO は高層大気から大気深くの冷たい層へ持ち去られてしまうことが指摘されている.
同時に,潮汐固定されたホットジュピターの大気中における高速の風によって,大気成分は惑星の夜側の低温な領域へ運ばれる.もし夜側の大気の温度が TiO/VO が凝縮する温度を下回れば,それらの分子種は大気中で凝縮して沈降する,
また,大気中の垂直方向の混合速度 (これは大気温度と関連していると考えられる) があまり大きくない場合,沈降してしまった分子種は再び高層大気に供給されない.
この効果は cold-trap と呼ばれている.
中心星への依存性とラインリストの不正確さ
Knutson et al. (2010) は,温度逆転層と恒星の活動度との関連性について言及している.これは,活発な恒星の周りを公転するホットジュピターは温度逆転層を持たない傾向にあり,逆に静穏な恒星の周りを公転するホットジュピターは温度逆転層を持つ傾向にある,という関連性である.恒星の活動度が大きい場合は,中心星からの紫外線の強度が大きくなり過ぎ,温度逆転層を作るための吸収物質を破壊してしまうと考えられる.
一方で,Hoeijmakers et al. (2015) は 6300 Å より短い波長で使われている TiO のラインのリストが含む不正確さについて報告している.しかし,バーナード星のスペクトルと,対応する TiO ラインリストを用いて作られたモデルスペクトルの間の相互相関では,正確性は長波長側で大きくなることが分かっている.
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天文・宇宙物理関連メモ vol.545 Evans et al. (2017) 成層圏を持つ非常に高温な巨大ガス惑星 WASP-121b
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