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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1711.05687
Jewitt et al. (2017)
Interstellar Interloper 1I/2017 U1: Observations from the NOT and WIYN Telescopes
(恒星間の侵入者 1I/2017 U1:NOT と WIYN 望遠鏡による観測)

概要

恒星間天体 1I/2017 U1 (’Oumuamua) (オウムアムア) の観測について報告する.

観測の結果,可視光でのカラーは B - V = 0.70 ± 0.06,V - R = 0.45 ± 0.05 であった.これらの値は D 型の木星トロヤ群小惑星が示す値の範囲と重複する.また,カイパーベルトに豊富に存在する,非常に赤い色を示す天体とは一致しないものである.

天体の平均の絶対等級は HV = 22.95 であり,幾何学的アルベドが 0.1 であると仮定すると,この天体の平均半径は 55 m と推定される.

また,彗星のコマは見られなかった.
観測から,この天体のダスト生成率の上限はわずか ~ 2 × 10-4 kg s-1 という上限が与えられた.そのため,天体の表面に数平方メートルを超えて氷が存在している可能性は否定される.

もしこの天体に氷などの揮発性物質が存在するのであれば,0.5 m を超える厚さの非揮発性の表面マントルの下に存在していなければならない.このような表面マントルは,星間物質中での恒常的な宇宙線の影響下では形成される可能性がある.


この天体の光度曲線の範囲は ~ 2.0 ± 0.2 mag. と異様に大きな値を示す.これが天体の自転に伴う光度曲線だと解釈すると,この天体は半径が ~ 230 m × 35 m と推定される.およそ 6:1 という軸比は大部分の太陽系の小型の小惑星と比べて極端な値であり,表面のアルベドの変化が光度の変化に寄与している可能性を示唆している.

光度曲線は 2 つの極大を持つ,自転周期 ~ 8.26 時間の特徴を示すが,データのエイリアシングの結果としてその周期は一意ではない.

1I/2017 U1 は,異様に細長い形状であることを除くと,物理的には平凡な,キロメートルサイズ未満で,やや赤っぽい,回転している,他の惑星系からの天体である.

この天体に類似した 100 m 程度のサイズの恒星間天体の,海王星軌道以内における定常状態の存在個数は ~ 104 個であり,それぞれの滞在時間は ~ 10 年である.

1I/2017 U1 について

恒星間の侵入者 (interloper) である 1I/2017 U1 は,太陽から遠ざかっているところを,UT 2017 10 月 18 日に発見された (Williams 2017).まず C/2017 U1 という仮符号が与えられ,その後 A/2017 U1 となった.さらにその後 1I/2017 U1 となった.

この天体の近日点距離は 0.254 AU であり,軌道離心率は 1.197,軌道傾斜角は 122.6° である.

この天体が近日点を通過したのは UT 2017 年 9 月 9 日で,発見される 5 週間前のことである.


軌道離心率が 1 を超える長周期彗星はこれまでに 337 個が発見されているが,いずれも惑星による摂動か,天体からの非対称な脱ガスによる反作用,あるいはその両方の効果によって,太陽系の脱出速度以上にまで加速されたオールトの雲起源の彗星であるとして説明が可能である (Kro ́likowska & Dybczyn ́ski 2017など).

しかし U1 は特別であり,無限遠での速度が ~ 25 km s-1 と推定され,これは局所的な擾乱で説明するには大きすぎる値である.

観測

カナリア諸島の La Palma にある 2.5 m 口径の Nordic Optical Telescope (NOT) で,UT 2017 年 10 月 25/26 日と 29/30 日に観測を行った.観測には,可視光カメラ Andalucia Faint Object Spectrograph and Camera (ALFOSC) を使用し,Broadband Bessel B,V,R フィルターを使用した.

また UT 2017 年 10 月 28 日に 3.5 m 口径の WIYN 望遠鏡 (アリゾナの Kitt Peak National Observatory) でも観測を行った.観測には One Degree imager カメラを使用し,Sloan g’,r’,i’ フィルターを使用した.

結果

表面特性

観測の結果,この天体のカラーは,D 型の木星トロヤ群小惑星と類似している事が分かった.

また,カイパーベルト起源の短周期彗星・オールトの雲起源の長周期彗星両方の核 (Jewitt 2002) を含む,いくつかの太陽系内側のグループとも類似している.

揮発性物質の有無

測定可能なコマが存在しないことから,U1 の表面は氷をほとんど含まないことが推定される.しかし,このことだけからこの天体は小惑星であると結論付けることは出来ない.

固体中における熱伝導による熱の輸送は,熱拡散率 \(\kappa\) によって制御される.熱拡散率は,熱伝導率と,密度と比熱容量の積との比に等しい.一般的な固体の誘電体 (岩石,氷) は \(\kappa\) ~ 10-6 m2 s-1 だが,小惑星や彗星のレゴリス中に見られる多孔性の物質の場合はより小さい値となり,\(\kappa\) ~ 10-8 m2 s-1 以下となる.

距離 \(d\) を熱が伝わるタイムスケールは,\(t_{\rm c} = \frac{d^{2}}{\kappa}\) で表される.
U1 は,水氷の昇華が始まる典型的な距離である木星の軌道を通過してから,発見までに 8ヶ月 (2 × 107 秒) を要している.これを\(t_{\rm c}\) とし,\(\kappa\) = 10-8 m2 s-1 とすると,熱的表面深さ (温度が表面温度の \(\sim 1/e\) になる深さ) は ~ 0.5 m となる.

そのため,十分に深い位置にある氷は,恒星間の温度に近い ~ 10 K に保たれると考えられ,近日点 (黒体温度が ~ 560 K になる) であっても太陽の熱には影響を受けない.そのため,「測定可能なコマが存在しない」という,純粋に観測上での意味を除いては,U1 が小惑星か彗星かを現在の観測に基づいて述べることは出来ない.

星間物質中で長期間に渡って宇宙線に曝露されると,メートル程度の厚さの非揮発性物質のマントルが形成されることが期待されるため (Cooper 2003),これが U1 の非活動性を説明することが出来る.

近日点における加熱が内部へゆっくりと伝搬することによって,将来的に内側に埋没した氷を活性化することも有り得る.これは,いくつかの遠ざかる彗星で観測された現象である (Prialnik & Bar-Nun 1992など).そのため,この天体が太陽系を去るまで観測を継続するべきである.

まとめ

  1. 可視光でのカラーは B - V = 0.70 ± 0.06,V - R = 0.45 ± 0.05 であり,D 型の木星トロヤ群小惑星や太陽系内側のポピュレーションと重複する.カイパーベルト天体に見られるような非常に赤い物質とは非整合である.
  2. 光度曲線からは,平均の絶対等級 HV = 22.95 で,光度の変動幅は 2.0 ± 0.2 mag である.幾何学的アルベドが 0.1 だと仮定すると,平均の輝度は半径 ~ 55 m の等面積の円に相当する.光度変化が天体の形状によるものだとすると,軸比は 6:1 以上という異様に大きな比率になる.これはこの天体が 230 × 35 m の楕円体であることを示唆する.
  3. 光度曲線は 2 重ピークの ~ 8.256 時間と整合する.しかしデータのエイリアシングの結果として周期は明確には決められない.この自転周期は,同程度の大きさの太陽系小天体の自転周期と比べて顕著な違いはない.
  4. コマは検出されず,マイクロメートルサイズのダスト粒子の損失率の上限値は ~ 2 × 10-4 kg s-1 と推定される.表面に数平方メートルの水氷があった場合,太陽光との熱平衡状態であればこれ以上の速度で昇華すると思われる.表面のうち氷に覆われている領域の割合は最大で 10-5 であり,これは典型的な木星族彗星よりも 102 - 103 倍小さい値である.
  5. U1 が 8ヶ月間に渡って内部太陽系を通過した際の,熱伝導の表皮深さはわずか ~ 0.5 m と推定される.水氷は,おそらくは星間環境における宇宙線への長期間の曝露によって不揮発性になった物質による,薄い不揮発性マントルの下で星間温度程度に保たれるため,近日点通過を生き残ることが出来る.
  6. U1 的な恒星間天体の密度は,1 立方 AU に 0.1 個と推定される.これは,海王星軌道より内側には ~ 104 個の同様の天体が存在することを意味する.

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