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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1711.09933
Hendler et al. (2017)
A likely planet-induced gap in the disk around T Cha
(カメレオン座T星回りの円盤の惑星に誘起されたと思われるギャップ)
観測の結果,円盤中に複数のダスト構造を検出した.内側の円盤,空間分解されたダストのギャップ構造,そしてその外側のリング構造である.
モデルを組み合わせて解析したところ,内側部分の電波放射はコンパクトで,半径にすると 1 au 以下の範囲からの放射である.その外側にあるギャップの幅は 18 - 28 au である.さらに,外側リングからの放射は,~ 36 au で極大をとる.
今回得られた ALMA での画像を,過去に得られていた 1.6 µm 波長での VLT/SPHERE による画像と比較して解析した.
その結果,外側のリングの場所は波長依存性があることが判明した.より詳細には,波長 1.6 µm で検出されたリング構造よりも,波長 3 mm で今回検出されたリング構造の方が,大きな軌道半径に位置している.これは,円盤の外側領域では,ミクロンサイズの粒子に比べて,ミリメートルサイズの粒子のほうが中心星より遠くにいることを示唆している.
この発見を説明し得る,異なるシナリオについて議論する.観測された構造を実現するシナリオとしては,円盤内のデッドゾーン,恒星によって駆動される円盤の光蒸発,惑星と円盤の相互作用などがあり,これらを考慮して議論した.
その結果,観測されたダストのギャップ構造の起源としてもっともらしいのは,円盤内に存在する惑星との相互作用であるとするシナリオであると結論づけた,惑星が単一である場合,ギャップは 1.2 木星質量の惑星によって形作ることが出来る.
この天体は ε-Cha アソシエーション (カメレオン座イプシロンアソシエーション) の中に位置しており,このアソシエーションまでの距離は 107 ± 3 pc である (Gaia Collaboration et al. 2016).またこのアソシエーションの年齢推定は 2 - 10 Myr (200 万年 - 1000 万年) である (Ferna ́ndez et al. 2008; Ortega et al. 2009).
高分散中間赤外線分光観測からは,このダストのギャップを超えて円盤風が存在する証拠が得られている,これは恒星が駆動する光蒸発による,低速な円盤風の存在と整合的なものである (Pascucci & Sterzik 2009など).
一方,ALMA cycle 0 観測では,波長 0.85 mm での観測ではギャップを分解することが出来なかった,しかし,2 つの放射の極大が 40 au の間隔をおいて存在していることが同定されている.このことは,20 au サイズの空洞が円盤に空いていることを示唆している (Huelamo et al. 2015).
興味深いことに,この空洞の中には惑星候補天体の検出が報告されているが (Huelamo et al. 2011),その存在の真偽は未だに議論中である (Sallum et al. 2015).
また Pohl et al. (2017) では,ギャップ内に存在するかもしれない惑星候補天体の質量の上限値を与えた.
ホットスタートモデル (形成時に多くのエントロピーを持ち込んだとする形成モデル) を仮定すると,中心星から 10.7 - 32.1 au の範囲に ~ 8.5 木星質量より重い天体が存在する可能性は排除される.これより遠方では,観測と整合する上限値は 2.0 木星質量である.
デッドゾーン内部では粒子の乱流速度が低く,粒子成長が効率的であるため,小さい粒子は欠乏する.その結果として,近赤外線とミリメートル波長で検出される空洞は同じサイズになることが期待される.MHD 円盤風の効果を合わせると,短い波長ではより小さい空洞になることが期待される.
しかし MHD 円盤風の場合,内側の円盤を長期間に渡って維持することが出来ない.これは,MHD 円盤風は円盤内側の物質を効率的に除去してしまい,ギャップではなく空洞を形成するからである.
そのため,デッドゾーンの効果,あるいはデッドゾーンと MHD 円盤風の組み合わせの効果は,観測されたギャップの成因とは考えにくい.
この天体が光蒸発由来の円盤風を持っていることは示されているが,光蒸発は質量降着率とギャップサイズの特定の組み合わせのみを予測する.
カメレオン座T星は大きな変動性を示し,UX Ori 型 (オリオン座UX型変光星) の振る舞いを見せる.これは Hα 線などの主要な輝線に大きな変動が見られることから示唆されている.
この変動が円盤からの降着の時間変動起源だと仮定すると,平均の降着率は 4 × 10-9 太陽質量/年と予想される (Schisano et al. 2009).この質量降着率と,ギャップのサイズが 20 au 以上ということから,光蒸発は観測されたギャップを開けるもっともらしいメカニズムとは考えにくい.
重い惑星によって空洞が形成されるが,Pinilla et al. (2016) では,惑星質量が ~ 1 木星質量の場合は,1 Myr より長いタイムスケールで内側の円盤は維持される.ただし,より重い惑星が存在した場合はミクロンサイズからミリメートル・センチメートルサイズの粒子の全てが惑星によってフィルタリングされてしまうため,数百万年で内側の円盤は消失する.
arXiv:1711.09933
Hendler et al. (2017)
A likely planet-induced gap in the disk around T Cha
(カメレオン座T星回りの円盤の惑星に誘起されたと思われるギャップ)
概要
T Cha (カメレオン座T星) の周りにある,大きく傾いた遷移円盤 (transitional disk) を ALMA で観測した.3 mm 波長,0.11” × 0.06” の高分解能の観測である.観測の結果,円盤中に複数のダスト構造を検出した.内側の円盤,空間分解されたダストのギャップ構造,そしてその外側のリング構造である.
モデルを組み合わせて解析したところ,内側部分の電波放射はコンパクトで,半径にすると 1 au 以下の範囲からの放射である.その外側にあるギャップの幅は 18 - 28 au である.さらに,外側リングからの放射は,~ 36 au で極大をとる.
今回得られた ALMA での画像を,過去に得られていた 1.6 µm 波長での VLT/SPHERE による画像と比較して解析した.
その結果,外側のリングの場所は波長依存性があることが判明した.より詳細には,波長 1.6 µm で検出されたリング構造よりも,波長 3 mm で今回検出されたリング構造の方が,大きな軌道半径に位置している.これは,円盤の外側領域では,ミクロンサイズの粒子に比べて,ミリメートルサイズの粒子のほうが中心星より遠くにいることを示唆している.
この発見を説明し得る,異なるシナリオについて議論する.観測された構造を実現するシナリオとしては,円盤内のデッドゾーン,恒星によって駆動される円盤の光蒸発,惑星と円盤の相互作用などがあり,これらを考慮して議論した.
その結果,観測されたダストのギャップ構造の起源としてもっともらしいのは,円盤内に存在する惑星との相互作用であるとするシナリオであると結論づけた,惑星が単一である場合,ギャップは 1.2 木星質量の惑星によって形作ることが出来る.
研究背景
カメレオン座T星について
T Cha (T Chamaeleontis,カメレオン座T星) は T-Tauri star (おうし座T型星) という種類の星で,スペクトル型は G8 である (Alcala et al. 1993).この天体は ε-Cha アソシエーション (カメレオン座イプシロンアソシエーション) の中に位置しており,このアソシエーションまでの距離は 107 ± 3 pc である (Gaia Collaboration et al. 2016).またこのアソシエーションの年齢推定は 2 - 10 Myr (200 万年 - 1000 万年) である (Ferna ́ndez et al. 2008; Ortega et al. 2009).
ギャップの検出
カメレオン座T星の周りの円盤中のギャップの存在は,最初は SED モデリングから示唆されており (Brown et al. 2007),後に近赤外線の干渉計データの解析からも存在が示されていた (Olofsson et al. 2011, 2013).高分散中間赤外線分光観測からは,このダストのギャップを超えて円盤風が存在する証拠が得られている,これは恒星が駆動する光蒸発による,低速な円盤風の存在と整合的なものである (Pascucci & Sterzik 2009など).
一方,ALMA cycle 0 観測では,波長 0.85 mm での観測ではギャップを分解することが出来なかった,しかし,2 つの放射の極大が 40 au の間隔をおいて存在していることが同定されている.このことは,20 au サイズの空洞が円盤に空いていることを示唆している (Huelamo et al. 2015).
興味深いことに,この空洞の中には惑星候補天体の検出が報告されているが (Huelamo et al. 2011),その存在の真偽は未だに議論中である (Sallum et al. 2015).
ギャップ外側のリング構造
最近の SPHERE/VLT による散乱偏光撮像観測では,外側のリング状の放射が存在していることが分解されている (Pohl et al. 2017).この観測と輻射輸送モデルを組み合わせると,外側リングの内縁は ~ 30 au と推定されている.また Pohl et al. (2017) では,ギャップ内に存在するかもしれない惑星候補天体の質量の上限値を与えた.
ホットスタートモデル (形成時に多くのエントロピーを持ち込んだとする形成モデル) を仮定すると,中心星から 10.7 - 32.1 au の範囲に ~ 8.5 木星質量より重い天体が存在する可能性は排除される.これより遠方では,観測と整合する上限値は 2.0 木星質量である.
ギャップの形成メカニズムの考察
円盤のデッドゾーン
今回の観測で得られた結果と,検出されたのが空洞ではなくギャップであるという点を合わせると,この天体の円盤構造の起源として幾つかの機構を除外することが出来る.例えば,デッドゾーンの外縁での粒子のトラップは,遷移円盤で観測された構造を形成できる.デッドゾーン内部では粒子の乱流速度が低く,粒子成長が効率的であるため,小さい粒子は欠乏する.その結果として,近赤外線とミリメートル波長で検出される空洞は同じサイズになることが期待される.MHD 円盤風の効果を合わせると,短い波長ではより小さい空洞になることが期待される.
しかし MHD 円盤風の場合,内側の円盤を長期間に渡って維持することが出来ない.これは,MHD 円盤風は円盤内側の物質を効率的に除去してしまい,ギャップではなく空洞を形成するからである.
そのため,デッドゾーンの効果,あるいはデッドゾーンと MHD 円盤風の組み合わせの効果は,観測されたギャップの成因とは考えにくい.
光蒸発円盤風
光蒸発円盤風 (photoevaporative wind) は,恒星からの放射によって円盤のガスが持ち去られる現象である.この天体が光蒸発由来の円盤風を持っていることは示されているが,光蒸発は質量降着率とギャップサイズの特定の組み合わせのみを予測する.
カメレオン座T星は大きな変動性を示し,UX Ori 型 (オリオン座UX型変光星) の振る舞いを見せる.これは Hα 線などの主要な輝線に大きな変動が見られることから示唆されている.
この変動が円盤からの降着の時間変動起源だと仮定すると,平均の降着率は 4 × 10-9 太陽質量/年と予想される (Schisano et al. 2009).この質量降着率と,ギャップのサイズが 20 au 以上ということから,光蒸発は観測されたギャップを開けるもっともらしいメカニズムとは考えにくい.
惑星-円盤相互作用
円盤内に惑星が存在した場合,惑星と円盤との相互作用により,空洞やギャップが形成されうる.重い惑星によって空洞が形成されるが,Pinilla et al. (2016) では,惑星質量が ~ 1 木星質量の場合は,1 Myr より長いタイムスケールで内側の円盤は維持される.ただし,より重い惑星が存在した場合はミクロンサイズからミリメートル・センチメートルサイズの粒子の全てが惑星によってフィルタリングされてしまうため,数百万年で内側の円盤は消失する.
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