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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1801.09706
Munoz-Romero & Kempton (2018)
No Metallicity Correlation Associated with the Kepler Dichotomy
(ケプラー二分性に関連した金属量相関は存在しない)

概要

NASA のケプラーミッションでは,数千の系外惑星系が発見されている.このうち ~ 20% が複数惑星のトランジット系である.

惑星を一つだけ持つトランジット惑星系が高い割合で存在するのと比べると,複数惑星系は存在頻度が低い.これは,複数トランジット惑星系と単一トランジット惑星系の間の構造の違いによるものだという主張が存在する.この現象は一般に Kepler dichotomy (ケプラー二分性) と呼ばれている.

ここでは,「複数トランジット惑星系に対して単一のトランジット惑星系の方が多く存在していることは,外側に巨大惑星が存在していることが主要な原因である」という仮説の検証を行った.
この仮説は,前者のサンプルにおいて,高い金属量で示される可能性がある.そのため,ケプラーデータ中の惑星の多重度について,中心星の金属量の分布との相関の有無についての統計的な解析を行った.

ケプラーで発見された惑星系のうち,中心星が主系列星である 1166 個の中から多くのサンプルを抽出して解析を行った.中心星の金属量については,California-Kepler サーベイ (Swift et al. 2015) によって推定された精密な金属量のデータを使用した.


その結果,過去のいくつかの研究での予測とは対照的に,単一のトランジット惑星系・複数トランジット惑星系との間の中心星の金属量には明確な違いは発見されなかった.しかし,中心星の金属量についての考察から,小型の惑星を一つだけ持つ惑星系が,未発見の巨大惑星も持っている可能性について,55% の上限値を見出した.


未発見の外側の巨大惑星の存在がケプラー二分性の背後にある要因の一つである可能性はあるが,今回の結果はまた別の説明を支持するものである.単一のトランジット惑星を持つ系における巨大ガス惑星の存在に制約を与えるためには,さらなる視線速度と直接撮像観測が必要であることが示唆される.

Kepler dichotomy (ケプラー二分性)

Kepler dichotomy とは

これまでの系外惑星の発見から,小さい惑星はより豊富に存在することが分かっている (Howerd et al. 2012など).

系外惑星の半径の分布からは,半径が 1.6 地球半径未満の岩石地球型惑星と,いくらか大きく ~ 1.7 - 3 地球半径程度の水素・ヘリウム主体のエンベロープを持つサブネプチューン惑星に分割されることが示唆されている (Fulton et al. 2017,Lopez & Fortney 2014,Rogers 2014,Wolfgang & Lopez 2015,Howe et al. 2014).

ケプラーでの特にインパクトのある発見の一つは,複数のトランジット惑星を持つ系のポピュレーションである.これらは典型的にはコンパクトな配置の短周期の軌道にあり,惑星同士の相互軌道傾斜角の分散はわずか数度にとどまる (Fabrychy et al. 2014など).

ケプラーで発見された系外惑星系のうち,~ 20% が複数のトランジット惑星を持つ系である.この割合は一見大きく見えるが,惑星がトランジットを起こす幾何学的な確率が低いとすると,ケプラーの惑星多重度分布を再現しようとする単一成分モデルは,単一トランジット系の数を実際の観測値より 3 倍ほど過小予測してしまうことが分かっている (Lissauer et al. 2011,Hansen & Murray 2012,Weissbein et al. 2012).

上記の理由から,ケプラーで発見されている惑星系は,少なくとも 2 つのポピュレーションに分割されているというのが一般的な合意である.すなわち,「複数の小さい惑星が小さな相互軌道傾斜角を持って存在している系」と,「一つの大きな惑星を持ち,惑星の多重度が本質的に低いか,あるいは相互軌道傾斜角の分散が大きい系」の 2 種類である (Moriarty & Ballard 2016,Lai &Pu 2017,Johansen et al. 2012,Ballard & Johnson 2016).
この差異は Kepler dichotomy (ケプラー二分性) と呼ばれ,これを引き起こす原因は不明である.

Kepler dichotomy の原因

ケプラー二分性の原因を,外側に未検出の惑星が存在することに求める研究がある.さらに,巨大ガス惑星は金属量豊富な恒星の周りに多く存在する一方で,小さい惑星を持つ恒星の金属量は広い範囲にばらついていることが分かっている (Fischer & Valenti 2005,Johnson et al. 2010,Mayor et al.2011,Buchhave et al. 2012,Neves et al. 2013,Wang et al. 2015).そのため,中心星の高い金属量と単一のトランジット系の間には関連がある可能性が指摘されている.

この関連性については,これまでにいくつもの説が提案されている.
巨大惑星の惑星形成段階における影響
Johansen et al. (2012) は,惑星の衝突や系からの放出の両方とも,典型的な惑星系の年齢に見合ったタイムスケールの間には,観測されているケプラー惑星の多重性を再現できないことを指摘している.その代わりに,ケプラー二分性は惑星が形成されている最中に円盤の内側の物質を欠乏させる,外側の巨大惑星によって引き起こされているべきと結論付けている.

実際に,惑星形成シミュレーションにおいては,巨大ガス惑星は一般的なスーパーアースの内側移動の障壁となりうることが見出されている.
外側の巨大惑星による軌道の擾乱の影響
それとは別に,単一のトランジット系が多く発見されているのは,外側に存在する巨大惑星の破壊的な効果による,惑星同士の大きな相互軌道傾斜角の結果である可能性もある.

Lai & Pu (2017) の解析では,外側に存在する巨大惑星は,惑星が 2 つ存在する系で惑星同士の相互傾斜角を励起して大きくすることが分かっている.

Read et al. (2017) の研究では,本質的に傾いた軌道を持つ複数惑星系と,ガス惑星によって軌道が擾乱を受けた惑星系の組み合わせによって,観測されている単一トランジット惑星の存在度を良く再現出来ることが報告されている (※注釈:実際には複数惑星系であるが,軌道が元々ずれているか,外側の惑星によって軌道面がずれた結果,地球から見てトランジットを起こす惑星が 1 つだけになっている,という仮説).

上記のような,単独のトランジット惑星を持つ系には,実際は隠された巨大惑星が存在するという,観測的に検証可能な仮説が提案されている.
また,元々大きな相互軌道傾斜角を持った 2 つの惑星が存在するトランジット惑星系は,異なる金属量関係性を示すという仮説もある.

一方で,恒星の金属量との相関は,ケプラー二分性の物理的な起源にとって必ずしも必要ではない可能性もある.例えば Lai & Pu (2017) では,外側のガス惑星の代わりに,恒星質量の伴星でも内側惑星の相互軌道傾斜角を上昇させる事ができると指摘している.ガス惑星の存在度は中心星の金属量との相関が見られるが,恒星質量の伴星の場合は中心星の金属量とは関係がないと考えられる.
その他の可能性
その他には,Moriarty & Ballard (2016) によって,G・K 型星 と M 型星では惑星の多重性の分布が異なるという事が報告されている.M 型矮星は 1/3 が複数トランジット惑星系を持つが,GK 型星では 20% のみである.このことは,惑星が形成されている段階における原始惑星系円盤の表面密度分布の多様性が二分性の原因である可能性を示唆する.

Spalding & Batygin (2016) では,有効温度が > 6200 K の高温の恒星は,低温の恒星よりも単一トランジット惑星系を持ちやすい傾向があることを報告している.高温の恒星周りでは軌道傾斜角が大きな値を取りうるため (Winn et al. 2010,Mazeh et al. 2015など),初期の spin-orbit misalignment (中心星の自転軸と惑星の公転軸のずれ) が,ケプラー二分性の原因となる惑星同士の相互軌道傾斜角の増大を引き起こしている可能性が示唆される.

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