×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1802.02086
Zhang et al. (2018)
The Near-Infrared Transmission Spectra of TRAPPIST-1 Planets b, c, d, e, f, and g and Stellar Contamination in Multi-Epoch Transit Spectra
(TRAPPIST-1 惑星 b, c, d, e, f, g の近赤外線透過スペクトルと複数期のトランジットスペクトル中の恒星の混入)
ハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 を用いた,近赤外線でのトランジット分光観測を TRAPPIST-1b, c, d, e, f, g の 6 個の惑星に対して行い,それらのデータの独立のリダクションと解析を行った.物理的に動機づけされた検出器電荷捕獲補正と,専用の宇宙線補正ルーチンを使用して,de Wit et al. (2016) で報告された TRAPPIST-1b と c の透過スペクトルの,一般的な形状を確認した.
今回用いたデータリダクション手法は,使用可能なデータを 25%増加させ,また天体物理学的な光度変動 (恒星フレアなど) と機器の系統の影響とを混同するリスクを低減した.
観測を行ったどの惑星の透過スペクトル中にも,明確な大気成分による吸収の特徴は検出されなかった.一方で,惑星の結合したスペクトルは明確な逆向きの水吸収特徴を示す.
スピッツァー宇宙望遠鏡でのトランジット深さの測定結果と合わせて解析し,この特徴は恒星スペクトルの混入の影響と完全に整合することを示す.これは,Rackham et al. (2017) で予測されていた特徴である.
これらのスペクトルは,ハッブル宇宙望遠鏡と将来のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によって得られる,低分解能の系外惑星透過スペクトルの中で,恒星による混入がどのように惑星の吸収特徴に影響を与えるかを実証し,また黒点を持つ高速に自転する恒星まわりの惑星の,複数時期の観測結果を組み合わせて解析する際の課題を強調するものである.
2. 各惑星の広バンドでのトランジット深さとトランジット中心時刻の値を改善した.また,TRAPPIST-1f とg のトランジット時刻変動の兆候を発見した.
3. TRAPPIST-1e の 2 回のトランジットからのスペクトルは,不定性を考慮した上で自己無矛盾な結果となり,今回のデータリダクションと解析手順の正しさを確認した.
4. TRAPPIST-1b と c のトランジット光度曲線を,de Wit et al. (2016) で得られていた結果と比較し,この研究における電荷捕獲補正の効果を示した.利点は,軌道位相カバー範囲の向上,観測効率の向上,系統補正の向上,および従来の経験的なデータフィットと比較して天体物理学的なシグナルを機器の系統として誤認するリスクを低減したことである.
5. 今回のデータリダクションで,それぞれの惑星に対して典型的な測光精度は 230 - 340 ppm を達成した.また中心星のマイクロフレア現象と思われるものを取り除いた後は,180 - 210 ppm の精度となった.
6. 複数の短時間の増光イベントが,広帯域での光度曲線中に見られたことを注記する.これは恒星のマイクロフレア現象に起因すると考えられる.マイクロフレアイベントは,トランジット光度曲線のフィッティングを複雑にする可能性があり,従来の経験的なフィッティングを用いた場合は,より高い機器の系統レベルと混同する可能性がある.
7. 6 個の惑星のスペクトル中には,目立った吸収による特徴は見られない.
8. 6 惑星のスペクトルを結合した中には,水やその他の物質による吸収の特徴の兆候は見られなかった.
9. 結合した透過スペクトル中に,逆転した水の吸収特徴を同定した.ここでは,周囲の連続成分よりも低い \(r_{p}^{2}/r_{*}^{2}\) の値を示した.惑星大気による吸収ではこの特徴を説明できないが,不均一な恒星光球に由来する恒星光の混入とする説と整合的である.
10. 惑星大気のスペクトルは本質的にフラットであると仮定し,中心星に黒点と白斑の存在を考慮した場合,ハッブル宇宙望遠鏡の観測結果とスピッツァー宇宙望遠鏡の 4.5 µm のトランジット深さを組み合わせたスペクトルに対して良いフィットを行うことが出来る.フィットの為に合成した中心星の光球は,TRAPPIST-1 のトランジットを起こしていない時のスペクトルと一致し,また観測された光球変動水準から示唆される,黒点と白斑のポピュレーションとも一致する.
11. 恒星混入モデルに必要な白斑と黒点の被覆率は,晩期 M 型星に期待されるものと整合的であり,また可視光・近赤外線での光度変動から期待されるものとも整合的である.トランジット光源効果 (transit light source effect) (Rackham et al. 2017) によるスペクトル中の恒星の混入は,ハッブル宇宙望遠鏡とジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による高精度系外惑星トランジット分光観測の解析と解釈において,大きな課題を提起することを示す結果である.
12. 高速で自転する晩期型の中心星を公転する惑星の,複数時期のトランジットスペクトルを合成して同時解析する手法は,急速に変化する恒星光の混入によって複雑になることを指摘する.例えば TRAPPIST-1 の場合,混入は単一のトランジット観測の期間に変化することすらある.
arXiv:1802.02086
Zhang et al. (2018)
The Near-Infrared Transmission Spectra of TRAPPIST-1 Planets b, c, d, e, f, and g and Stellar Contamination in Multi-Epoch Transit Spectra
(TRAPPIST-1 惑星 b, c, d, e, f, g の近赤外線透過スペクトルと複数期のトランジットスペクトル中の恒星の混入)
概要
TRAPPIST-1 系の地球型惑星の近赤外線透過スペクトル観測について報告する.ハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 を用いた,近赤外線でのトランジット分光観測を TRAPPIST-1b, c, d, e, f, g の 6 個の惑星に対して行い,それらのデータの独立のリダクションと解析を行った.物理的に動機づけされた検出器電荷捕獲補正と,専用の宇宙線補正ルーチンを使用して,de Wit et al. (2016) で報告された TRAPPIST-1b と c の透過スペクトルの,一般的な形状を確認した.
今回用いたデータリダクション手法は,使用可能なデータを 25%増加させ,また天体物理学的な光度変動 (恒星フレアなど) と機器の系統の影響とを混同するリスクを低減した.
観測を行ったどの惑星の透過スペクトル中にも,明確な大気成分による吸収の特徴は検出されなかった.一方で,惑星の結合したスペクトルは明確な逆向きの水吸収特徴を示す.
スピッツァー宇宙望遠鏡でのトランジット深さの測定結果と合わせて解析し,この特徴は恒星スペクトルの混入の影響と完全に整合することを示す.これは,Rackham et al. (2017) で予測されていた特徴である.
これらのスペクトルは,ハッブル宇宙望遠鏡と将来のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によって得られる,低分解能の系外惑星透過スペクトルの中で,恒星による混入がどのように惑星の吸収特徴に影響を与えるかを実証し,また黒点を持つ高速に自転する恒星まわりの惑星の,複数時期の観測結果を組み合わせて解析する際の課題を強調するものである.
結果のまとめ
1. TRAPPIST-1b, c, d, e, f, g の 6 つの内側惑星のトランジットをそれぞれ検出した.このうち TRAPPIST-1e については 2 回のトランジットを検出した.2. 各惑星の広バンドでのトランジット深さとトランジット中心時刻の値を改善した.また,TRAPPIST-1f とg のトランジット時刻変動の兆候を発見した.
3. TRAPPIST-1e の 2 回のトランジットからのスペクトルは,不定性を考慮した上で自己無矛盾な結果となり,今回のデータリダクションと解析手順の正しさを確認した.
4. TRAPPIST-1b と c のトランジット光度曲線を,de Wit et al. (2016) で得られていた結果と比較し,この研究における電荷捕獲補正の効果を示した.利点は,軌道位相カバー範囲の向上,観測効率の向上,系統補正の向上,および従来の経験的なデータフィットと比較して天体物理学的なシグナルを機器の系統として誤認するリスクを低減したことである.
5. 今回のデータリダクションで,それぞれの惑星に対して典型的な測光精度は 230 - 340 ppm を達成した.また中心星のマイクロフレア現象と思われるものを取り除いた後は,180 - 210 ppm の精度となった.
6. 複数の短時間の増光イベントが,広帯域での光度曲線中に見られたことを注記する.これは恒星のマイクロフレア現象に起因すると考えられる.マイクロフレアイベントは,トランジット光度曲線のフィッティングを複雑にする可能性があり,従来の経験的なフィッティングを用いた場合は,より高い機器の系統レベルと混同する可能性がある.
7. 6 個の惑星のスペクトル中には,目立った吸収による特徴は見られない.
8. 6 惑星のスペクトルを結合した中には,水やその他の物質による吸収の特徴の兆候は見られなかった.
9. 結合した透過スペクトル中に,逆転した水の吸収特徴を同定した.ここでは,周囲の連続成分よりも低い \(r_{p}^{2}/r_{*}^{2}\) の値を示した.惑星大気による吸収ではこの特徴を説明できないが,不均一な恒星光球に由来する恒星光の混入とする説と整合的である.
10. 惑星大気のスペクトルは本質的にフラットであると仮定し,中心星に黒点と白斑の存在を考慮した場合,ハッブル宇宙望遠鏡の観測結果とスピッツァー宇宙望遠鏡の 4.5 µm のトランジット深さを組み合わせたスペクトルに対して良いフィットを行うことが出来る.フィットの為に合成した中心星の光球は,TRAPPIST-1 のトランジットを起こしていない時のスペクトルと一致し,また観測された光球変動水準から示唆される,黒点と白斑のポピュレーションとも一致する.
11. 恒星混入モデルに必要な白斑と黒点の被覆率は,晩期 M 型星に期待されるものと整合的であり,また可視光・近赤外線での光度変動から期待されるものとも整合的である.トランジット光源効果 (transit light source effect) (Rackham et al. 2017) によるスペクトル中の恒星の混入は,ハッブル宇宙望遠鏡とジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による高精度系外惑星トランジット分光観測の解析と解釈において,大きな課題を提起することを示す結果である.
12. 高速で自転する晩期型の中心星を公転する惑星の,複数時期のトランジットスペクトルを合成して同時解析する手法は,急速に変化する恒星光の混入によって複雑になることを指摘する.例えば TRAPPIST-1 の場合,混入は単一のトランジット観測の期間に変化することすらある.
PR
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック