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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1804.07537
Crida et al. (2018)
Mass, radius, and composition of the transiting planet 55 Cnc e : using interferometry and correlations
(トランジット惑星かに座55番星e の質量,半径と組成:干渉法と相関を利用して)
ここでは,直接測定出来るパラメータの確率密度関数 (probability density function, PDF) を用いて,恒星と惑星の質量・半径の合同 PDF を導出する.恒星の密度と半径を組み合わせることは質量を決定するための最も信頼できる方法であるため,恒星質量と半径は強く相関し,惑星質量と半径は適度に相関する.
一般化したベイズ解析を 55 Cnc e (かに座55番星e) の内部構造の特徴付けに使用した.相関を考慮に入れて,惑星内部を制約する能力がどう改善されるかを定量的に評価した.また,質量-半径相関の情報内容も,難揮発性元素存在度の制約と比較した.ここでは,関心のある全ての内部パラメータに対して事後分布を提供する.
使用可能なすべてのデータを元にして,かに座55番星e が持つガスエンベロープの半径を,惑星半径の 0.08 ± 0.05 倍と推定した.
惑星質量と半径の間のより強い相関 (潜在的にはトランジット深さのより良い推定によって得られる) は,惑星内部の特徴付けを大幅に改善し,惑星が持つガスエンベロープの特性における不定性を大きく低減することが出来る.
このうち,中心星に最も近い かに座55番星e はトランジットを起こしており,これは Winn et al. (2011) と Demory et al. (2011) で独立に発見された.この惑星はトランジットするスーパーアースの最初の発見例の一つであるため注目を浴び,その組成を決定するための研究が多く行われている.
これまでに,赤外線および可視光でのトランジットと掩蔽 (secondary eclipse,二次食),位相曲線の観測が行われている (Demory et al. 2012, 2016, Angelo & Hu 2017).
しかし Angelo & Hu (2017) と Dorn et al. (2017) では裸の岩石惑星の可能性には否定的な結果が報告されており,この惑星の組成に関しては議論がある.
この恒星は惑星を持っているため,恒星の密度はトランジット光度曲線を用いて決定することが出来る (Maxted et al. 2015).従って,Ligi et al. (2016) では恒星質量を 7% の不定性で直接導出することに成功している.
ここでは,このデータを用いてトランジット惑星の内部構造の制限を行う.
また,ガス層の厚さは惑星半径の (8 ± 5)% と推定され,ガス成分と惑星全体の質量比は \(\log{10}\left(m_{\rm gas}/M_{\rm p}\right)=-5.07\) と推定される.不定性が大きいものの,この値は地球の 10 倍である (地球の場合は -6.06).
ガスの金属量は強く制限できないが,低金属量の組成であることは考えにくい.金属量が 0.3 より大きい可能性は 80% である.岩石主体の内部のサイズ (コア+マントル半径) は 0.92 ± 0.05 惑星半径と推定され,このうちコア半径はコア+マントル半径の 0.36 倍である.
しかしこの比は,後に 0.78 ± 0.08 と下方修正されている (Teske et al. 2013).
Moriarty et al. (2014) では,進化する原始惑星系円盤の寿命の間の一連の濃縮により,炭素豊富な惑星を形成し得ることを議論している,しかしかに座55番星まわりで形成されると期待される微惑星は,この系全体で C/O = 1 を仮定しても C/O < 1 となる.
また,炭素主体惑星の内部構造は不明である.いくつかの風変わりなモデルが存在し,そこでは SiC, C, Fe 層の存在を考慮しているが,主要な岩石形成元素である Mg, O などを無視している (Bond et al. 2010,Kuchner & Seager 2005).そのため,炭素を含む組成のより良い理解や,位相図,位相平衡と状態方程式が必要である.
参考までに,炭素豊富な惑星内部を想定すると,コア+マントル半径の推定値は大きくなる.これは SiC はシリケイトより低密度であることが理由である.したがってガス層の厚さの推定は薄くなる.ただし大きな不定性があることに留意する必要がある.
arXiv:1804.07537
Crida et al. (2018)
Mass, radius, and composition of the transiting planet 55 Cnc e : using interferometry and correlations
(トランジット惑星かに座55番星e の質量,半径と組成:干渉法と相関を利用して)
概要
系外惑星の特徴付けは,その惑星の中心星のパラメータに依存する.しかし恒星進化モデルは,個々の恒星の質量と半径を導出する際にいつも使用できるわけではない.それは,個々の恒星の複数の恒星内部パラメータがあまりよく制約されていないことが原因である.ここでは,直接測定出来るパラメータの確率密度関数 (probability density function, PDF) を用いて,恒星と惑星の質量・半径の合同 PDF を導出する.恒星の密度と半径を組み合わせることは質量を決定するための最も信頼できる方法であるため,恒星質量と半径は強く相関し,惑星質量と半径は適度に相関する.
一般化したベイズ解析を 55 Cnc e (かに座55番星e) の内部構造の特徴付けに使用した.相関を考慮に入れて,惑星内部を制約する能力がどう改善されるかを定量的に評価した.また,質量-半径相関の情報内容も,難揮発性元素存在度の制約と比較した.ここでは,関心のある全ての内部パラメータに対して事後分布を提供する.
使用可能なすべてのデータを元にして,かに座55番星e が持つガスエンベロープの半径を,惑星半径の 0.08 ± 0.05 倍と推定した.
惑星質量と半径の間のより強い相関 (潜在的にはトランジット深さのより良い推定によって得られる) は,惑星内部の特徴付けを大幅に改善し,惑星が持つガスエンベロープの特性における不定性を大きく低減することが出来る.
かに座55番星e について
発見と特徴付け
かに座55番星e は,明るい恒星 55 Cnc (かに座55番星) を公転している.この恒星は大きく距離の離れた連星系のうちの主星で,合計 5 つの惑星を持つ.これらの惑星は視線速度法で検出された (Fischer et al. 2008など).このうち,中心星に最も近い かに座55番星e はトランジットを起こしており,これは Winn et al. (2011) と Demory et al. (2011) で独立に発見された.この惑星はトランジットするスーパーアースの最初の発見例の一つであるため注目を浴び,その組成を決定するための研究が多く行われている.
これまでに,赤外線および可視光でのトランジットと掩蔽 (secondary eclipse,二次食),位相曲線の観測が行われている (Demory et al. 2012, 2016, Angelo & Hu 2017).
かに座55番星e のガス外層
この惑星のガス外層は,非効率的な熱の再分配を伴う,光学的に厚い層であることが示唆されている.恒星からの強い輻射による大気蒸発の影響と,広がった水素大気が検出されていないことから (Ehrenreich et al. 2012),水素主体の層である可能性は考えづらい (ただし Tsiaras et al. (2016) も参照).もしガス層が存在するのであれば,それは惑星形成直後から存在する一時的な大気ではなく,二次的な (金属量豊富な) 性質を持つだろうと考えられる (Dorn & Heng 2017),さらに熱進化と大気蒸発からは,裸の岩石惑星か,水豊富な内部組成を持つことが示唆されている (Lopez 2017),しかし Angelo & Hu (2017) と Dorn et al. (2017) では裸の岩石惑星の可能性には否定的な結果が報告されており,この惑星の組成に関しては議論がある.
※関連記事
天文・宇宙物理関連メモ vol.658 Dorn & Heng (2017) HD 219134b と c の大気の推定
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干渉計によるパラメータ推定
最近の Ligi et al. (2016) による,干渉計を用いたかに座55番星の観測では,恒星の角直径が 1.64% の精度で測定された,この結果は,いかなる恒星進化モデルとも独立である (ただし周辺減光モデルは使用している).この恒星は惑星を持っているため,恒星の密度はトランジット光度曲線を用いて決定することが出来る (Maxted et al. 2015).従って,Ligi et al. (2016) では恒星質量を 7% の不定性で直接導出することに成功している.
ここでは,このデータを用いてトランジット惑星の内部構造の制限を行う.
結果と結論
内部構造の推定
解析の結果,かに座55番星e の内部が純粋な岩石である可能性は 5% と,低い値になった.また,ガス層の厚さは惑星半径の (8 ± 5)% と推定され,ガス成分と惑星全体の質量比は \(\log{10}\left(m_{\rm gas}/M_{\rm p}\right)=-5.07\) と推定される.不定性が大きいものの,この値は地球の 10 倍である (地球の場合は -6.06).
ガスの金属量は強く制限できないが,低金属量の組成であることは考えにくい.金属量が 0.3 より大きい可能性は 80% である.岩石主体の内部のサイズ (コア+マントル半径) は 0.92 ± 0.05 惑星半径と推定され,このうちコア半径はコア+マントル半径の 0.36 倍である.
炭素惑星の可能性について
ここで考慮した内部構造・組成の代替案として可能性があるのは,この惑星が炭素豊富な組成を持つという仮説である.そのような内部組成はもちろん可能であり,過去に提案されたことがある (Madhushdhan et al. 2012).この仮説は,中心星の C/O 比 (酸素に対する炭素の割合) が 1.12 ± 0.19 と高い推定値であることに基いている (Delgado Mena et al. 2010).しかしこの比は,後に 0.78 ± 0.08 と下方修正されている (Teske et al. 2013).
Moriarty et al. (2014) では,進化する原始惑星系円盤の寿命の間の一連の濃縮により,炭素豊富な惑星を形成し得ることを議論している,しかしかに座55番星まわりで形成されると期待される微惑星は,この系全体で C/O = 1 を仮定しても C/O < 1 となる.
また,炭素主体惑星の内部構造は不明である.いくつかの風変わりなモデルが存在し,そこでは SiC, C, Fe 層の存在を考慮しているが,主要な岩石形成元素である Mg, O などを無視している (Bond et al. 2010,Kuchner & Seager 2005).そのため,炭素を含む組成のより良い理解や,位相図,位相平衡と状態方程式が必要である.
参考までに,炭素豊富な惑星内部を想定すると,コア+マントル半径の推定値は大きくなる.これは SiC はシリケイトより低密度であることが理由である.したがってガス層の厚さの推定は薄くなる.ただし大きな不定性があることに留意する必要がある.
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