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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1805.01298
Spake et al. (2018)
Helium in the eroding atmosphere of an exoplanet
(系外惑星の侵食される大気中のヘリウム)
初期の理論モデルでは,ヘリウムは系外惑星の大気中,特に広がった大気と散逸している大気中から容易に検出が可能な成分と予測されていた (Seager & Sasselov 2000).しかし,系外惑星大気中からのヘリウムの検出は,これまでに成功していない (Moutou et al. 2003).
ここでは,系外惑星でのヘリウムの 4.5 σ の信頼水準での観測を報告する.
温暖な巨大ガス惑星 WASP-107b (Anderson et al. 2017) の,近赤外線でのの透過スペクトルを測定し,励起された準安定ヘリウムの 10833 Å 波長での細い吸収特徴の存在を同定した.トランジット深さにおけるこの特徴の大きさは,98 Å 幅のバンドパス中で 0.049 ± 0.011% であった.これは,通常の恒星彩層活動によって引き起こされ得るものより 5 倍も大きい.
この大きな吸収シグナルは,WASP-107b は散逸していく広がった大気を持っており,合計の大気散逸率は 1010 - 3 × 1011 g/s (10 億年で惑星質量の 0.1 - 4% を失う量) に相当すると示唆される.また,恒星からの輻射圧によって,散逸するガスは彗星の尾のような形状になっていると示唆される.
この惑星の大きさは 0.94 木星半径と木星に近いが,質量は 0.12 木星質量と軽い.
軌道周期は 5.7 日で,K6 星 WASP-107 の周りを軌道長半径 0.055 au で公転している.
まずはこの惑星のトランジットの「白色光」での光度曲線を生成するために,得られたスペクトルを波長方向に積分した.
その後,スペクトルを広帯域と狭帯域のビンで足し合わせた,2 セットの分光光度曲線を生成した.一つ目のセットは 8770 - 11360 Å の波長帯の 9 個の広帯域チャンネルで,二つ目は 10580 - 11070 Å の波長帯の 20 個の重なり合っている狭帯域チャンネルからなる.
狭帯域チャンネルは,ヘリウムの三重項の吸収がある 10833 Å の波長をカバーしている (真空での波長の場合.Air wavelength の場合は波長は 10830 Å).広帯域・狭帯域チャンネルの波長幅は,それぞれ 294 Å と 98 Å である.
過去の観測では,減衰された水の吸収バンド (14000 Å が中心) が見られ,フラットなスペクトルは大気中に厚い雲層が存在することを示唆している.
過去の観測と今回の観測の間の恒星活動変動の補正をかけた後,今回のスペクトルは過去の観測で示唆された雲層の水準と合うことを確認した.
解析の結果,狭帯域チャンネルでの透過スペクトルは,10833 Å に最も近い波長チャンネルでピークに達した.これは,惑星大気中のヘリウム吸収がシグナルの原因であった場合に予想される結果である.
この特徴を評価するため,オーバーラップしていないチャンネルとの比較を行った.
その結果,1 つのチャンネルを除いて,ベースラインのトランジット深さ 2.056% と整合的な結果であった.唯一の例外はヘリウム三重項 10833 Å を中心とするチャンネルで,トランジット深さは 2.105% であった.
また,その他の核種による吸収,地球大気のヘリウムによる吸収,恒星の彩層と光球における非一様性部分の惑星による掩蔽など,その他の可能性も否定される.
そのため,広帯域 (連続成分) と狭帯域 (10833 Å 周辺) の透過スペクトルのモデル化に関して,低層大気と高層大気に分離したモデルを使用した.
高層大気に関しては,2 つの数値モデルを使用した.
まずは一次元モデルであり,これは水素・ヘリウム主体のパーカー風中でのヘリウム準位の存在度を解くものである.このモデルからは,大気散逸率は 1010 - 3 × 1011 g/s と推定される.
2 番目は三次元モデルで,こちらでは準安定状態のヘリウムの散逸率として 106 -7 g/s という値を示唆する (一次元モデルでは,23 S 状態のヘリウムの散逸率は 105 g/s と推定).
また,中心星の輻射圧は散逸するヘリウム原子を惑星から非常に速やかに遠ざけ,尾状の構造が恒星-惑星の軸にほとんど沿った形で形成されることが示唆される.このことは,トランジット後の掩蔽がデータ中に見られなかったことを説明可能である.
輻射圧は,ヘリウムによる吸収の特徴を数百キロメートル毎秒にわたって青方偏移させると思われる.これは高いスペクトル分解能での観測によって識別することが出来ると考えられる.
今回の WASP-107b の 10833 Å 線での観測は,系外惑星からのヘリウムの初検出というだけではなく,赤外線波長における広がった系外惑星大気の初めての検出例でもある.
今回の結果は,広がった惑星大気を研究するための,水素の 2 つのライン (Ly α と Hα) を使用するのとは相補的な新しい手法の実現可能性を実証するものである.この波長での地上からの観測は,現在の高分散赤外分光器で可能である.また近い将来,高いシグナルノイズ比での観測が,ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で波長分解能 4 Å で可能になる.
arXiv:1805.01298
Spake et al. (2018)
Helium in the eroding atmosphere of an exoplanet
(系外惑星の侵食される大気中のヘリウム)
概要
ヘリウムは水素に次いで宇宙で 2 番目に豊富な元素であり,太陽系内の巨大ガス惑星の主成分のひとつである.初期の理論モデルでは,ヘリウムは系外惑星の大気中,特に広がった大気と散逸している大気中から容易に検出が可能な成分と予測されていた (Seager & Sasselov 2000).しかし,系外惑星大気中からのヘリウムの検出は,これまでに成功していない (Moutou et al. 2003).
ここでは,系外惑星でのヘリウムの 4.5 σ の信頼水準での観測を報告する.
温暖な巨大ガス惑星 WASP-107b (Anderson et al. 2017) の,近赤外線でのの透過スペクトルを測定し,励起された準安定ヘリウムの 10833 Å 波長での細い吸収特徴の存在を同定した.トランジット深さにおけるこの特徴の大きさは,98 Å 幅のバンドパス中で 0.049 ± 0.011% であった.これは,通常の恒星彩層活動によって引き起こされ得るものより 5 倍も大きい.
この大きな吸収シグナルは,WASP-107b は散逸していく広がった大気を持っており,合計の大気散逸率は 1010 - 3 × 1011 g/s (10 億年で惑星質量の 0.1 - 4% を失う量) に相当すると示唆される.また,恒星からの輻射圧によって,散逸するガスは彗星の尾のような形状になっていると示唆される.
観測・解析の詳細
WASP-107b について
WASP-107b は,最も低密度な惑星のひとつである.この惑星の大きさは 0.94 木星半径と木星に近いが,質量は 0.12 木星質量と軽い.
軌道周期は 5.7 日で,K6 星 WASP-107 の周りを軌道長半径 0.055 au で公転している.
ハッブル宇宙望遠鏡での観測と解析
2017 年 5 月 31 日に,ハッブル宇宙望遠鏡の Wide Field Camera 3 を用いて,この惑星のトランジットを観測した.観測時間は 7 時間で,合計 84 time series のスペクトルを,8000 - 11000 Å の波長域で取得した.まずはこの惑星のトランジットの「白色光」での光度曲線を生成するために,得られたスペクトルを波長方向に積分した.
その後,スペクトルを広帯域と狭帯域のビンで足し合わせた,2 セットの分光光度曲線を生成した.一つ目のセットは 8770 - 11360 Å の波長帯の 9 個の広帯域チャンネルで,二つ目は 10580 - 11070 Å の波長帯の 20 個の重なり合っている狭帯域チャンネルからなる.
狭帯域チャンネルは,ヘリウムの三重項の吸収がある 10833 Å の波長をカバーしている (真空での波長の場合.Air wavelength の場合は波長は 10830 Å).広帯域・狭帯域チャンネルの波長幅は,それぞれ 294 Å と 98 Å である.
広帯域スペクトルの先行観測との比較
広帯域の透過スペクトルは,過去のこの惑星の透過スペクトルと整合的であった.比較対象とした過去の観測は,同じハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 で,今回使用したものとは別のグリズム分光器を用いて取得したスペクトルであり,その観測では 11000 - 16000 Å の波長域をカバーしている (Kreidberg et al. 2018).過去の観測では,減衰された水の吸収バンド (14000 Å が中心) が見られ,フラットなスペクトルは大気中に厚い雲層が存在することを示唆している.
過去の観測と今回の観測の間の恒星活動変動の補正をかけた後,今回のスペクトルは過去の観測で示唆された雲層の水準と合うことを確認した.
ヘリウム準安定線吸収の検出
ヘリウムの三重項による吸収線は,幅が 3 Å と予測される.一方で今回使用した G102 グリズムの分解能は,10400 Å で 67 Å である.そのため,細かくサンプリングされた透過スペクトルを作成するため,波長軸に沿って隣接するチャンネルに対して,20 個の狭帯域チャンネルのそれぞれを 1 ピクセルだけシフトさせた.解析の結果,狭帯域チャンネルでの透過スペクトルは,10833 Å に最も近い波長チャンネルでピークに達した.これは,惑星大気中のヘリウム吸収がシグナルの原因であった場合に予想される結果である.
この特徴を評価するため,オーバーラップしていないチャンネルとの比較を行った.
その結果,1 つのチャンネルを除いて,ベースラインのトランジット深さ 2.056% と整合的な結果であった.唯一の例外はヘリウム三重項 10833 Å を中心とするチャンネルで,トランジット深さは 2.105% であった.
また,その他の核種による吸収,地球大気のヘリウムによる吸収,恒星の彩層と光球における非一様性部分の惑星による掩蔽など,その他の可能性も否定される.
大気中のヘリウムのモデリング
10833 Å 波長で探査できる準安定ヘリウムは,惑星大気中の高い部分で,µbar - nbar の圧力の領域に相当する.この圧力領域では,恒星からのの極端紫外線放射がよく吸収される.一方で,近接する波長での連続成分の吸収は,惑星大気のより深い所,mbar - bar 水準の圧力で発生する.そのため,広帯域 (連続成分) と狭帯域 (10833 Å 周辺) の透過スペクトルのモデル化に関して,低層大気と高層大気に分離したモデルを使用した.
高層大気に関しては,2 つの数値モデルを使用した.
まずは一次元モデルであり,これは水素・ヘリウム主体のパーカー風中でのヘリウム準位の存在度を解くものである.このモデルからは,大気散逸率は 1010 - 3 × 1011 g/s と推定される.
2 番目は三次元モデルで,こちらでは準安定状態のヘリウムの散逸率として 106 -7 g/s という値を示唆する (一次元モデルでは,23 S 状態のヘリウムの散逸率は 105 g/s と推定).
また,中心星の輻射圧は散逸するヘリウム原子を惑星から非常に速やかに遠ざけ,尾状の構造が恒星-惑星の軸にほとんど沿った形で形成されることが示唆される.このことは,トランジット後の掩蔽がデータ中に見られなかったことを説明可能である.
輻射圧は,ヘリウムによる吸収の特徴を数百キロメートル毎秒にわたって青方偏移させると思われる.これは高いスペクトル分解能での観測によって識別することが出来ると考えられる.
大気散逸の観測的研究について
系外惑星の広がった大気はこれまでに,紫外線の Ly α 線をターゲットとして,3 つの系外惑星で検出されている (GJ 436b, Kulow et al. 2014, HD 209458b, Vidal-Madjar et al. 2003, HD 189733b, Lecavelier des Etangs 2010).また,可視光の Hα 線を用いても 1 つの惑星で確認されている (HD 189733b, Jensen et al. 2012).今回の WASP-107b の 10833 Å 線での観測は,系外惑星からのヘリウムの初検出というだけではなく,赤外線波長における広がった系外惑星大気の初めての検出例でもある.
今回の結果は,広がった惑星大気を研究するための,水素の 2 つのライン (Ly α と Hα) を使用するのとは相補的な新しい手法の実現可能性を実証するものである.この波長での地上からの観測は,現在の高分散赤外分光器で可能である.また近い将来,高いシグナルノイズ比での観測が,ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で波長分解能 4 Å で可能になる.
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