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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1805.09352
Yee et al. (2018)
HAT-P-11: Discovery of a Second Planet and a Clue to Understanding Exoplanet Obliquities
(HAT-P-11:2 番目の惑星の発見と系外惑星傾斜角の理解への手掛かり)

概要

HAT-P-11 はスペクトル型が中期 K 型の恒星であり,惑星を 1 つ持っていることが分かっている.この惑星 HAT-P-11b は,太陽系外で初めて発見された海王星サイズの惑星のひとつである.

HAT-P-11b の軌道の公転軸は,恒星の自転軸とずれていることが分かっている.太陽より軽い恒星を公転する惑星のうち,公転軸と自転軸がずれている数少ない例のひとつである.

ここでは,10 年に渡る Keck/HIRES での精密な視線速度測定によって,この系に 2 つ目の惑星が発見されたことを報告する.
今回発見された HAT-P-11c は,最小質量が 1.6 木星質量と木星に近く,軌道周期も 9.3 年と同じく木星に近い.しかし軌道離心率はずっと大きく,0.60 程度である.

視線速度と恒星活動の共同解析から,恒星活動によって誘起される視線速度シグナルの振幅は 7 m/s 程度であり,これはその他の活発な K 型矮星と整合的な値である,しかしこの振幅は,HAT-P-11c の公転による視線速度変動の振幅 31 m/s よりはずっと小さい.


HAT-P-11b と HAT-P-11c との力学的な結合についても調査を行った.HAT-P-11c の存在によって,HAT-P-11b のずれた軌道を説明できる可能性があるためである.

その結果,この系での惑星間の Kozai 相互作用は,HAT-P-11b の軌道を観測されている値にまで傾けることが出来ないことを見出した.これは,一般相対論的な歳差が影響している.しかし,数百万年程度のタイムスケールで起きる交点の歳差運動は,高い傾斜角を説明するメカニズムとして有り得る.この場合,HAT-P-11c はなぜこのような傾いた軌道を持つに至ったのかという新たな疑問を生む.

この系は太陽系から 38 pc と近い距離にあるため,アストロメトリと直接撮像観測での系外惑星のさらなる特徴付けの対象として適している.

HAT-P-11 系について

HAT-P-11b の発見

HAT-P-11b は軌道周期が 4.88 日であり,23.4 地球質量,4.36 地球半径の惑星である.この惑星は最初に Bakos et al. (2010) によって地上からの測光観測で検出され,視線速度測定で惑星と確認,さらに質量と離心率への制約が与えられた.この惑星の軌道離心率は 0.198 と,やや大きな値を持つ.これはこの系が力学的に熱い事を示す初めの手掛かりである.

HAT-P-11b が発見された段階では,この惑星は地上からのトランジット測光観測で発見された中では最も小さい惑星のうちのひとつであった.

Spin-orbit angle のずれの検出

その後この惑星は,ケプラーの主ミッション期間にトランジットが観測された.

Deming et al. (2011) と Sanchis-Ojeda &Winn (2011) のケプラーのデータ解析では,惑星のトランジットの途中で恒星に存在する黒点を横断している事によるアノマリーが検出された.これらの解析結果は,恒星表面の活動的な緯度 2 箇所 (赤道を挟んだ 2 領域) を,ほぼ極軌道で公転しているというモデルと整合的なものであった.

HAT-P-11b が極軌道で公転しているという結果は,後の 2 つの独立した視線速度観測である Winn et al. (2010) と Hirano et al. (2011) の結果とも整合している.これら 2 つでは,ロシター効果を用いて惑星公転軸の傾斜が 100° 程度と測定されている.

さらに,ケプラーでの測光観測結果から,HAT-P-11b の二次食 (secondary eclipse) と思われる兆候も検出されている (Huber et al. 2017).

パラメータ

HAT-P-11
半径:0.683 太陽半径
質量:0.809 太陽質量
有効温度:4780 K
金属量:[Fe/H] = 0.31
自転周期:29.2 日
年齢:65 億歳
距離:37.89 pc
HAT-P-11b
軌道周期:4.887802443 日
軌道離心率:0.218
質量:23.4 地球質量
軌道長半径:0.05254 AU
質量:4.36 地球質量
HAT-P-11c
軌道周期:3407 日
軌道離心率:0.601
最小質量:507 地球質量
軌道長半径:4.13 AU

HAT-P-11 系の特殊性

恒星の自転軸と惑星の公転軸が成す角度 (spin-orbit angle) が測定されている惑星系の中で,HAT-P-11 系は外れた存在である.この系は,spin-orbit angle が揃っていない惑星系の中では,最も小さい (恒星質量が小さい) もののひとつである.

Winn et al. (2010) は,恒星の有効温度と spin-orbit angle の大きさの関連に初めて言及した.

恒星の有効温度が 6000 K 程度以上のの場合,spin-orbit angle は大きくずれる傾向があることが分かっている.低温な恒星は典型的には大きな対流層を持ち,近接惑星と強い潮汐相互作用を起こすため,軸を揃わせる力が強く働く.これに対して,高温の恒星は大きな対流層が存在しないため恒星と惑星との間の潮汐結合が弱く,潮汐で恒星の自転軸と惑星の公転軸が揃うタイムスケールが長くなる.

実際に,低温の恒星 (6000 K 未満) で spin-orbit angle が測定がされている系の中では,軸が大きくずれているものは a/R* (軌道長半径/恒星半径) も大きい傾向がある.これは,軸が揃うまでのタイムスケールが長いことと対応しており,つまり初期の傾きを潮汐で失わず保持していることを意味していると考えられる.

この見方では,HAT-P-11b は外れた存在ではなくなる.
HAT-P-11b は a/R* = 16.3 と比較的大きな値を持つため,潮汐で軸が揃うタイムスケールは長くなる.Albrecht et al. (2012) を元にすると,この系で軸が揃うまでのタイムスケールは 1015 年程度と計算される.これは惑星系の年齢より遥かに長い.

したがって HAT-P-11b の spin-orbit angle の大きなずれは,軌道の永年歳差によって引き起こされている可能性はあるものの,初期のずれをそのまま保持している可能性もあるため,永年歳差の存在は軸が傾いていることの必要条件ではない.

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