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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1805.12520
Almenara et al. (2018)
Absolute densities in exoplanetary systems: photodynamical modelling of Kepler-138
(系外惑星系での絶対的な密度:ケプラー138 の光力学的モデリング)

概要

理想的な条件では,複数惑星系でのトランジット惑星の密度は,測光データのみから決定できる.力学的な情報は光度曲線から抽出でき,モデリングは自己一貫して行われる.つまり,光力学モデルを使用する.これは,より一般的に使用されるトランジット時刻の情報ではなく,個々の測光観測データをシミュレートするものである.

この手法を,ケプラー138 系に適用した.その結果,導出した惑星の密度は過去の推定よりも精度がファクター 2 ほど改善され,以前の研究と比較して恒星の密度の推定に相違があることを見出した.こ恒星密度の推定値の違いは,恒星と惑星の質量・半径を決定する際の不一致を引き起こす.

特に,内側の惑星 ケプラー138b は,サイズが火星から地球の間であることが判明した.

新しく得られた質量と密度の推定値から,一般化されたベイズ推定モデルを用いて,惑星の内部構造の特徴付けを行った.このモデルは,惑星内部の縮退を定量化し,コア,マントル,海洋とガス層の厚さなどの内部パラメータの信頼領域を計算することができる.

その結果,ケプラー138b と ケプラー138d は有意な厚い揮発性の層を持ち,ケプラー138b のガス層は成分が濃縮されている可能性が高いと推定される.一方で ケプラー138c は純粋な岩石組成だろうと推定される.

背景

トランジット惑星の視線速度による質量・密度推定

系外惑星が中心星の手前を通過することで食 (トランジット) が発生し,周回している惑星と中心星に関する情報を得ることが出来る.例えば食の深さからは惑星と恒星のサイズ比が得られ,また惑星の運動に関するケプラーの第三法則を元にして恒星の平均密度がおおよそ推定できる (Seager & Mallen-Ornelas 2003).光度曲線からの惑星・恒星の半径比の推定は,惑星の組成やこれらの惑星の多様性に関する研究の第一歩となる.

多くの場合,得られた半径比の情報と恒星進化モデルおよび分光観測解析とを合わせることで,惑星と恒星の質量比の力学的な測定を行い,それを元に惑星密度の測定が達成される.

これまでに数百ものトランジット巨大惑星の質量測定が,正確なドップラー速度測定を用いて得られている.これらの測定が行われている惑星の大部分は,地上からの広視野サーベイ,例えば SuperWASP や HATNet などでトランジットが観測されたものであり,その後高精度視線速度観測によって惑星質量が測定されている.

対照的にに,海王星より小さいサイズのトランジット惑星は,一握りのものしか視線速度で質量が測定されていない.また小さい惑星は観測コストが高く,望遠鏡の観測時間を多く必要とする.

ケプラーミッションでは,数千個もの海王星サイズやそれより小さい惑星候補が検出されているが,これらの中心星は暗く,質量測定に必要な精密な視線速度測定を行うことが難しい.視線速度で質量が得られているいくつかの天体では,惑星の密度はだいたい 20% より良い精度で求められているが,その決定は依然として恒星モデルに依存している.この恒星モデルの系統的誤差については完全には分かっていない.

視線速度や恒星モデルに依存しない質量・密度推定

一方で,複数の惑星が存在する系では,惑星同士の重力的相互作用から,恒星に対するそれぞれの惑星の質量比が視線速度観測によらず得られる.

惑星間の相互作用は惑星の軌道をケプラー運動からずれさせ,この影響はトランジット時刻変動 (transit timing variation, TTV) として現れる.これは,トランジット時刻の厳密な周期性からのずれを測定することによって得られる.

TTV は,惑星の物理特性を得るための実り多い代替技術として最近盛んに使用されている.しかしこれらの解析もまた,必ず恒星の大気と進化モデルに依存している.さらに,この方法で測定された惑星質量と半径の組み合わせによる密度推定は,多くの場合は推定の不定性が大きい.

ケプラー138 系の惑星

このような系の例がケプラー138 系である.ケプラー138 は 3 つのトランジット惑星ケプラー138b, c, d を持つ M1 型恒星であり,惑星の軌道周期はそれぞれ 10.3,13.8,23.1 日である.興味深いのは,ケプラー138b は火星サイズの惑星であるという点である.また,ケプラー138b, c は軌道周期の比が 4:3 の 1 次の平均運動共鳴に近く,ケプラー138c, d は 5:3 の 2 次の平均運動共鳴に近い.

この系では,全ての惑星が TTV を示す.一番内側の火星サイズ惑星の質量は,Jontof-Hutter et al. (2015) で TTV を用いて初めて測定された.この惑星の公転によって恒星に引き起こされる視線速度の変動は数 cm/s のレベルであり,これは現在の装置では明るい恒星に対しても検出できない大きさである.そのため TTV を用いてこの惑星の質量を測定したこの結果は注目すべきものである.

しかし,惑星の質量と半径の決定精度はそれぞれ 62-68% と 6% であり,従って導出される密度の精度も 62-65% 程度と不定性が大きい.そのため,この惑星の組成を区別することはできない.

手法

光力学的モデリング

通常は,惑星の密度の正確な推定値を得るためには,惑星質量と半径の両方を測定する必要がある.これは単独の惑星しか存在しない系では正しいが,複数トランジット惑星系では,系内の天体の密度を,質量と半径の独立した測定なしに測定出来る可能性がある (なお短周期惑星の場合は,もし惑星の潮汐による恒星の楕円体変動が検出できれば,\(M_{\rm p}/M_{\star}\) が決定可能である).

それぞれの天体を球形だと仮定すると,
\[
\rho_{\rm p}=\rho_{\star}\left(\frac{M_{\rm p}}{M_{\star}}\right)\left(\frac{R_{\rm p}}{R_{\star}}\right)^{-3}
\]
という関係が成り立つ.ここで,\(M\),\(R\),\(\rho\) は質量,半径,平均密度であり,添字の \({\rm p}\) と \(\star\) はそれぞれ惑星と恒星を表す.

半径比 \(R_{\rm p}/R_{\star}\) は,トランジット光度曲線の形状から,\(M_{\rm p}/M_{\star}\) は重力相互作用から制約することができる.

もし惑星の軌道離心率と近点引数が既知である場合,恒星の平均密度はケプラーの第三法則を用いて惑星のトランジット光度曲線の形状から推定可能であることはよく知られている.軌道の幾何学及び配置に関する制約は,例えば視線速度測定や惑星間の重力的相互作用の光度曲線のモデリングから直接得られる.

従って,複数トランジット系での惑星間の重力相互作用が検出された場合,光度曲線の情報のみから惑星の平均密度が示唆可能である.
この推定は恒星モデルに依存しない.ただし恒星が球状であるという仮定と,恒星の周辺減光のモデルは必要である.これらの仮定のもとでは,密度の決定は依然として検出されていない混入した伴星によってバイアスされ,恒星黒点は考慮されない.

光度曲線からの物理量の推定

興味深いことに,密度は光度曲線の解析から得られる唯一の無次元量でない物理量である.これの究極的な理由は,重力定数 G は密度の逆数を時間の二乗で割った次元を持っているからである.

相対フラックスは無次元量であり,光度曲線は天体の動きの時間的なマッピングに関する情報しか提供しない.言い換えれば,重力相互作用を含む光度曲線モデルは,長さを定数倍スケーリングすることに対して不変であり,また質量を同じ定数の 3 乗でスケーリングすることに対して不変である.これは,ニュートン力学の \(MR^{-3}\) 縮退と呼ばれる.

光時間か相対論効果が測定されるか,あるいは恒星の視線速度が得られた場合にこの不変性は破れ,絶対的な質量と半径が測定可能となる.

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