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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1806.06089
Nikolov et al. (2018)
An absolute sodium abundance for a cloud-free 'hot Saturn' exoplanet
(雲無し "ホットサターン" 系外惑星の絶対的なナトリウム存在度)

概要

ナトリウム (Na I) やカリウム (K I) の共鳴二重項のようなアルカリ金属の広い線幅を持った吸収の特徴は,雲の無い大気を持ち強い輻射を受ける巨大ガス惑星の,可視光の大気スペクトル中から検出されることが予測されてきた.

しかしこれまでの観測からは,これらの吸収特徴は狭いスペクトル線のコアしか発見されておらず,完全に圧力幅 (pressure broadening) を持った吸収線のプロファイルは検出されていない.これは,惑星の明暗境界線 (昼面と夜面の境界線) での雲とヘイズによる不透明度が,吸収線の裾野部分を隠していることが原因だと考えられている.
この影響のため,系外惑星大気中の絶対的な組成の探査が困難になっている.

ここでは,Very Large Telescope (VLT) を用いた観測で,ホットサターン WASP-96b の可視光透過スペクトルを得た.その中に,ナトリウムによる吸収線の,完全に圧力幅を持ったプロファイルが見られた事を示す.

検出されたナトリウムの吸収スペクトルは,雲無し・太陽組成の大気モデルで化学平衡を仮定したものと非常によく一致した.

観測結果から,大気中の絶対的なナトリウムの存在度を正確に測定することができ,\(\log\epsilon_{\rm Na}=6.9^{+0.6}_{-0.4}\) と推定された.これを惑星大気の金属量の代用として用い,\(Z_{\rm p}/Z_{\odot}=2.3^{+8.9}_{-1.7}\) という結果を得た.この結果は,太陽系の惑星と系外惑星に見られている,惑星質量と金属量の間の傾向と整合的である

観測について

WASP-96b は,0.48 木星質量,1.20 木星半径,平衡温度 1285 K の惑星である,

観測は 8.2 m 口径の VLT に搭載されている,FORS2 分光器を用いて行った.観測日時は 2017 年 7 月 29 日 と 8 月 22 日である.


検出された Na D 線のプロファイルは,6 スケールハイトの範囲をカバーしている (平衡温度 1285 K の場合,1 スケールハイトは 610 km に相当する).また,近紫外線波長でのスペクトルのスロープは,水素分子によるレイリー散乱によるものである.

一方で,カリウムのスペクトル線の周辺では,明確な広がったスペクトル線のウィング構造も,ラインコアでの大きな吸収も見られなかった.

議論

圧力幅を持った吸収スペクトルの検出

原子による吸収線の広がったウィング構造は,複数の効果の組み合わせによって形成される.量子機構 (自然幅),熱的広がり (あるいはドップラー幅),衝突による広がり (圧力幅) である.

圧力幅のラインプロファイルの形状の測定からは,恒星大気や準恒星天体大気の理論で用いられている,相互作用ポテンシャルへの重要な制約を得ることが出来る.そのような制約は,褐色矮星大気中のナトリウムとカリウムの吸収線からは得られているが,系外惑星での実際のプロファイル形状は不明である.

圧力幅の検出を評価するため,広がりのないプロファイルと比較した.その結果,細いラインが存在するとするモデルは否定できる.
この結果は,これまでに最も晴れた大気を持っていると分類されてきた,WASP-39,WASP-17b,HD 209458b とは対照的である.後者の透過スペクトルはアルカリ金属による狭い線幅の吸収特徴でよく説明でき,このことは広い吸収ウィングは,惑星大気中の雲とヘイズによって隠されてしまっていることを示唆している.

そのため,この惑星での広い線幅を持ったナトリウム吸収線の検出は,系外惑星大気での圧力幅を持ったスペクトル線の制約に対して重要な役割を果たす.

元素の検出と存在度

観測結果から,この惑星大気中のナトリウムの絶対的な存在度は \(\log\epsilon_{\rm Na}=6.9^{+0.6}_{-0.4}\) と制約される.
なおここでは,\(\log\epsilon_{\rm X}=\log\left(N_{\rm X}/N_{\rm H}\right)+12\) とする天文学スケールを使用している.\(N_{\rm X}\) は元素 X の個数密度であり,H は水素を意味する.

また現在のデータでは,カリウムとリチウムの検出を支持するデータは得られなかった.

惑星大気の金属量の推定

重元素存在度の測定は,巨大ガス惑星の形成機構を制約する上で重要である.

コア降着理論では,惑星質量が減るに連れ大気の金属量は増加すると予測されている (Fortney et al. 2013,Pollack et al. 1996).
巨大惑星は形成時に水素・ヘリウム主体のガスを降着し,またエンベロープの金属量を増やす微惑星も同時に降着する.低質量の水素・ヘリウムエンベロープはガスの量が少なく,その結果として中心星に比べて大気中の金属量が多くなる.

太陽系の惑星の場合,探査機によるその場観測や地球からの赤外線分光観測によって大気中のメタンの存在度が分かっており,惑星質量が減るに連れて大気の金属量が増加することが分かっている.

さらにいくつかの系外惑星では,水の存在度の測定から大気の金属量へ制約が与えられている.分子の存在度から,化学平衡状態を仮定した上で,大気中の金属量の代用として使用されている.

今回測定した WASP-96b の絶対的なナトリウム存在度から,金属量は \(Z_{\rm p}/Z_{\odot}=2.3^{+8.9}_{-1.7}\) と推定される.これは \(\log\left(Z_{\rm p}/Z_{\odot}\right)=0.4^{+0.7}_{-0.5}\) に相当する.これは,中心星の金属量 \(Z_{*}/Z_{\odot}=1.4\pm 0.7\) と整合的な値である.また,太陽系の惑星に見られる傾向とも整合的だが,確定させるにはさらなる高精度の制約が必要である.


WASP-96b は,ナトリウムの圧力幅を持ったスペクトルが検出された,初めての系外惑星である.
この検出により,惑星の縁領域 (昼夜境界領域) の大気のより深い層を探査することが出来る.また大気の重元素存在度への制約が,地上観測単独のみで可能となる.著者の知る限り,WASP-96b はこれまでに透過スペクトルで特徴付けされた 20 個程度の系外惑星の中で,原子スペクトルの広がった特徴が検出された初めての惑星である.

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