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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
Radar evidence of subglacial liquid water on Mars
Orosei et al. (2018)
Radar evidence of subglacial liquid water on Mars
(火星の氷層下の液体の水のレーダーによる証拠)
ここでは,マーズ・エクスプレスに搭載されている低周波レーダーである MARSIS (Mars Advanced Radar forSubsurface and Ionosphere Sounding) を用いて,Planum Astrale (アウストラレ平原,南方の平原という意味) 領域をサーベイした.
レーダー分布は,2012 年 5 月 - 2015 年 12 月の間に取得した.データ中には,South Polar Layered Deposits (SPLD,南極堆積層) の氷の下に液体の水が存在するという証拠が見られた.
火星の東経 193 度,南緯 81 度を中心とする,幅が 20 km のはっきりした領域には,異常に明るい地下での反射を示す領域があり,その領域はずっと暗い反射をする領域に囲まれている.
レーダーシグナルの定量的な解析からは,明るい反射を示す領域は高い比誘電率 (> 15) を持つこことが分かった.この特徴は,含水物質によるものと一致した.従ってこの特徴は,火星の地下に安定した液体の水の層が存在することによる特徴と解釈される.
Radio echo sounding (RES,レーダーエコー測定) は,この論争を解決するのに適した技術である.低周波のレーダーは地球の極域氷層の底にある液体の水を広範囲かつ首尾よく検出するために用いられてきた.氷と水の境界面,あるいは氷と水が飽和した堆積物との境界面では,明るいレーダー反射が起きるため,地下に存在する水の層を検出することが出来る.
MARSIS では,12 年以上に渡って火星地下のの液体の水の証拠を探査してきた.その結果,南極の極冠にある SPLD の最も厚い部分の近くの領域で,強いエコーが検出された.これらの特徴は,レーダーの減衰が無視できる,純粋な水氷の非常に低温な層を通過するレーダーシグナルの伝播による特徴だと解釈される.
異常に明るいレーダー反射は,SPLD のその他の領域でも検出された.
従って,極域の堆積物の底における液体の水を明確に検出するためには,レーダーエコーの強度を決定する,基盤の物質の比誘電率 (以下,単に誘電率とする) の定量的な評価を行う必要がある.
この領域は,Mars Orbiter Laser Altimeter (MOLA) によって測定された地理学的なデータにも,また火星周回軌道上からの画像にも,これと言った特徴は示さない.
地形的には平坦であり,10 - 20% のダストが混入した水氷で構成されている.季節によっては非常に薄い二酸化炭素の層で覆われるが,その厚さが 1 メートルを超えることはない.
この領域の観測では,観測された大部分の領域では堆積物下部の基盤での反射は,弱く拡散的であった.しかしある場所では,非常に鋭く,大きな強度 (明るい反射) を起こしていることが判明した.
SPLD 内でのレーダーシグナルの平均速度を 170 m/µs と仮定する.これは,水氷での値と近い.この場合,基盤の反射体は地下 1.5 km に存在すると推定できる.
しかし残念ながら,MARSIS アンテナの放射パワーは不明である.これは,機器の寸法が大きいため地上で電波の放射強度を較正することが出来なかったことが原因である,従って,地下で反射されたエコーの強度は相対量でしか考慮することが出来ない.火星表面でのエコーで地下でのエコー強度を規格化するという手法が一般的である.
基盤での誘電率を計算するためには,SPLD の誘電特性を知る必要がある.これは組成や温度に依存する.
水氷とダストの正確な混合比率は不明であり,また火星表面と SPLD の底部の間の温度勾配もあまりよく制限されていない.そのため,これらのパラメータが取りうる値の範囲を調査し,それに対応する誘電率を計算した.
ここでは,以下のような一般的な仮定を置いた.
(i) SPLD は水氷とダストの混合物からなっており,ダストの割合は 2 - 20%.
(ii) SPLD 内での温度分布は線形で,表面温度は 160 K に固定する.また,SPLD の底部での温度は 170 - 270 K とする.
その結果,明るいレーダー反射を示す領域では,3, 4, 5 MHz の周波数での誘電率の値は,それぞれ 30 ± 3,33 ± 1,22 ± 1 となった.一方,その周囲の暗い領域ではそれぞれ 9.9 ± 0.5,7.6 ± 0.1,6.7 ± 0.1 となった.
明るい反射を示す領域以外での基盤の誘電率は 4 - 15 の間であり,これは乾燥した地球の火山岩に典型的な値である.また,この値は過去の火星での測定値とも整合的である.
対照的に,明るいレーダー反射を示す領域では高い誘電率が得られた.これらは,これまでの火星では観測されなかった値である.
地球上の場合,乾燥した物質で 15 より大きい誘電率の値を示すことはほとんど無い.また,南極やグリーンランドで取得されたデータでは,15 を超える誘電率は,極域の堆積物の下にある液体の水の存在を示唆している.
地球と火星の類推から,SPLD の下の明るいレーダー反射領域から復元された高い誘電率の値は,(部分的に) 水で飽和した物質および,または液体の水の層に起因するものであるということが推定できる.
例えば,SPLD の上部もしくは下部に二酸化炭素の氷の層が存在しているという可能性,あるいは SPLD 全体を通じて非常に低温の水氷の層があるという可能性である.これらは,表面での反射と比較して基盤でのエコー強度を増幅させうる.
しかし,これらの可能性は否定される.
これらが発生しうるのは非常に特別な状況であり,実現できなさそうな物理状況を満たしている必要があるからである.あるいは,基盤での十分に強い反射を引き起こすことが出来ないからである.
また,SPLD の底部での圧力と温度は,液体の二酸化炭素が存在しうる状況と同程度になり得る.しかし液体の二酸化炭素が存在した場合の相対的な誘電率は 1.6 程度であり,液体の水が存在する場合の 80 程度よりもずっと低い.そのため,観測されている明るいレーダー反射を再現できない.
極域堆積物の底での温度は 205 K 程度と推定されている.また過塩素酸は水の凝固点を大きく低下させる.過塩素酸マグネシウムの場合は 204 K,過塩素酸カルシウムの場合は 198 K にまで凝固点を下げる.そのため,過塩素酸塩水の層が極域堆積物の底に存在する可能性がある.
MARSIS のデータは,SPLD の下の比較的浅い場所 (1.5 km 程度) でも液体の水は安定であることを示すものである.従って火星の水圏のモデルに制約を与える結果である.
SPLD の生データがカバーする領域は限られており,アウストラレ平原の領域の数%のみが観測されているのみである.
また,溶けた水の領域を MARSIS で検出するためには,その領域が直径で数キロメートル,厚さが数十センチメートルと大きなサイズである必要がある.そのため,小さい液体の水領域や,それらが繋がっている構造を同定できる可能性も限られている.
そのため,火星の地下の水の存在は単一の場所に限定されていると結論付ける理由はなく,その他の領域にも存在している可能性がある.
ニュースにもなった,火星の地下に湖が存在している可能性があるというレーダー観測に関する論文です.
Radar evidence of subglacial liquid water on Mars
Orosei et al. (2018)
Radar evidence of subglacial liquid water on Mars
(火星の氷層下の液体の水のレーダーによる証拠)
概要
火星の極冠の底に液体の水が存在するという可能性は長い間言われてきたが,これまでに観測はされていなかった.ここでは,マーズ・エクスプレスに搭載されている低周波レーダーである MARSIS (Mars Advanced Radar forSubsurface and Ionosphere Sounding) を用いて,Planum Astrale (アウストラレ平原,南方の平原という意味) 領域をサーベイした.
レーダー分布は,2012 年 5 月 - 2015 年 12 月の間に取得した.データ中には,South Polar Layered Deposits (SPLD,南極堆積層) の氷の下に液体の水が存在するという証拠が見られた.
火星の東経 193 度,南緯 81 度を中心とする,幅が 20 km のはっきりした領域には,異常に明るい地下での反射を示す領域があり,その領域はずっと暗い反射をする領域に囲まれている.
レーダーシグナルの定量的な解析からは,明るい反射を示す領域は高い比誘電率 (> 15) を持つこことが分かった.この特徴は,含水物質によるものと一致した.従ってこの特徴は,火星の地下に安定した液体の水の層が存在することによる特徴と解釈される.
氷層下の液体の水のレーダー探査
火星における地下水のレーダー探査
火星の極冠の底に液体の水が存在するという仮説は 30 年以上前に提唱されていたが,これまでに結論は出ていなかった.Radio echo sounding (RES,レーダーエコー測定) は,この論争を解決するのに適した技術である.低周波のレーダーは地球の極域氷層の底にある液体の水を広範囲かつ首尾よく検出するために用いられてきた.氷と水の境界面,あるいは氷と水が飽和した堆積物との境界面では,明るいレーダー反射が起きるため,地下に存在する水の層を検出することが出来る.
MARSIS では,12 年以上に渡って火星地下のの液体の水の証拠を探査してきた.その結果,南極の極冠にある SPLD の最も厚い部分の近くの領域で,強いエコーが検出された.これらの特徴は,レーダーの減衰が無視できる,純粋な水氷の非常に低温な層を通過するレーダーシグナルの伝播による特徴だと解釈される.
異常に明るいレーダー反射は,SPLD のその他の領域でも検出された.
地球でのレーダー探査との比較
地球上では,極域の氷層の上で測定されたレーダーのデータは,定性的 (岩盤の形態学) と定量的 (反射されたレーダーピークパワー) な分析の組み合わせに基づいて解釈される.しかし,MARSIS の設計,特に footprint (レーダー到達範囲) が非常に大きいという制約があるため,高い空間分解能は得られない.そのため,岩盤形態の形状から氷河の下の水域の存在を識別する能力は大きく制限される.従って,極域の堆積物の底における液体の水を明確に検出するためには,レーダーエコーの強度を決定する,基盤の物質の比誘電率 (以下,単に誘電率とする) の定量的な評価を行う必要がある.
アウストラレ平原でのレーダー探査
2012 年 5 月 - 2015 年 12 月の間に,MARSIS でアウストラレ平原の 200 km 幅の領域が探査された.この領域は,過去に探査された領域と概ね対応している.この領域は,Mars Orbiter Laser Altimeter (MOLA) によって測定された地理学的なデータにも,また火星周回軌道上からの画像にも,これと言った特徴は示さない.
地形的には平坦であり,10 - 20% のダストが混入した水氷で構成されている.季節によっては非常に薄い二酸化炭素の層で覆われるが,その厚さが 1 メートルを超えることはない.
この領域の観測では,観測された大部分の領域では堆積物下部の基盤での反射は,弱く拡散的であった.しかしある場所では,非常に鋭く,大きな強度 (明るい反射) を起こしていることが判明した.
観測結果の解析と解釈
レーダー反射層の深さの推定
表面と基盤でのエコーの 2 方向のパルス移動時間から,地表下の反射体が存在する深さを推定し,基盤の地理学をマッピングできる.SPLD 内でのレーダーシグナルの平均速度を 170 m/µs と仮定する.これは,水氷での値と近い.この場合,基盤の反射体は地下 1.5 km に存在すると推定できる.
レーダー反射層の誘電率の推定
誘電率からは,基盤の物質の組成に制約を与えることが出来る.この誘電率は,原理的には SPLD の基盤における反射シグナルの強さから復元することが出来る.しかし残念ながら,MARSIS アンテナの放射パワーは不明である.これは,機器の寸法が大きいため地上で電波の放射強度を較正することが出来なかったことが原因である,従って,地下で反射されたエコーの強度は相対量でしか考慮することが出来ない.火星表面でのエコーで地下でのエコー強度を規格化するという手法が一般的である.
基盤での誘電率を計算するためには,SPLD の誘電特性を知る必要がある.これは組成や温度に依存する.
水氷とダストの正確な混合比率は不明であり,また火星表面と SPLD の底部の間の温度勾配もあまりよく制限されていない.そのため,これらのパラメータが取りうる値の範囲を調査し,それに対応する誘電率を計算した.
ここでは,以下のような一般的な仮定を置いた.
(i) SPLD は水氷とダストの混合物からなっており,ダストの割合は 2 - 20%.
(ii) SPLD 内での温度分布は線形で,表面温度は 160 K に固定する.また,SPLD の底部での温度は 170 - 270 K とする.
その結果,明るいレーダー反射を示す領域では,3, 4, 5 MHz の周波数での誘電率の値は,それぞれ 30 ± 3,33 ± 1,22 ± 1 となった.一方,その周囲の暗い領域ではそれぞれ 9.9 ± 0.5,7.6 ± 0.1,6.7 ± 0.1 となった.
明るい反射を示す領域以外での基盤の誘電率は 4 - 15 の間であり,これは乾燥した地球の火山岩に典型的な値である.また,この値は過去の火星での測定値とも整合的である.
対照的に,明るいレーダー反射を示す領域では高い誘電率が得られた.これらは,これまでの火星では観測されなかった値である.
地球上の場合,乾燥した物質で 15 より大きい誘電率の値を示すことはほとんど無い.また,南極やグリーンランドで取得されたデータでは,15 を超える誘電率は,極域の堆積物の下にある液体の水の存在を示唆している.
地球と火星の類推から,SPLD の下の明るいレーダー反射領域から復元された高い誘電率の値は,(部分的に) 水で飽和した物質および,または液体の水の層に起因するものであるということが推定できる.
議論
液体の水以外の可能性について
その他の可能性についても調査を行った.例えば,SPLD の上部もしくは下部に二酸化炭素の氷の層が存在しているという可能性,あるいは SPLD 全体を通じて非常に低温の水氷の層があるという可能性である.これらは,表面での反射と比較して基盤でのエコー強度を増幅させうる.
しかし,これらの可能性は否定される.
これらが発生しうるのは非常に特別な状況であり,実現できなさそうな物理状況を満たしている必要があるからである.あるいは,基盤での十分に強い反射を引き起こすことが出来ないからである.
また,SPLD の底部での圧力と温度は,液体の二酸化炭素が存在しうる状況と同程度になり得る.しかし液体の二酸化炭素が存在した場合の相対的な誘電率は 1.6 程度であり,液体の水が存在する場合の 80 程度よりもずっと低い.そのため,観測されている明るいレーダー反射を再現できない.
地下水の存在を支持するその他の結果
火星探査機フェニックスの Wet Chemistry Lab を用いて発見された,火星の北部平原の土壌中の一定量のマグネシウム,カルシウムとナトリウムの過塩素酸の存在は,極域の堆積物の底に液体の水が存在することを支持している.極域堆積物の底での温度は 205 K 程度と推定されている.また過塩素酸は水の凝固点を大きく低下させる.過塩素酸マグネシウムの場合は 204 K,過塩素酸カルシウムの場合は 198 K にまで凝固点を下げる.そのため,過塩素酸塩水の層が極域堆積物の底に存在する可能性がある.
火星における液体の水の存在について
過去のレーダー探査では火星の氷層の下から液体の水の層が検出されなかったことに基づき,火星の極冠は基盤にある氷が溶融するには薄すぎるという仮説が支持されていた.またいくらかの研究者は,火星地下の液体の水はそれまでに考えられていたよりも深くに位置している可能性があると述べていた.MARSIS のデータは,SPLD の下の比較的浅い場所 (1.5 km 程度) でも液体の水は安定であることを示すものである.従って火星の水圏のモデルに制約を与える結果である.
SPLD の生データがカバーする領域は限られており,アウストラレ平原の領域の数%のみが観測されているのみである.
また,溶けた水の領域を MARSIS で検出するためには,その領域が直径で数キロメートル,厚さが数十センチメートルと大きなサイズである必要がある.そのため,小さい液体の水領域や,それらが繋がっている構造を同定できる可能性も限られている.
そのため,火星の地下の水の存在は単一の場所に限定されていると結論付ける理由はなく,その他の領域にも存在している可能性がある.
ニュースにもなった,火星の地下に湖が存在している可能性があるというレーダー観測に関する論文です.
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