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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1806.11568
Keppler et al. (2018)
Discovery of a planetary-mass companion within the gap of the transition disk around PDS 70
(PDS 70 周りの遷移円盤のギャップの中の惑星質量伴星の発見)

概要

若い星周円盤は惑星が誕生する場所であり,それに関する研究は惑星形成が起きている時の物理的と化学的な状況を理解する上で重要である.

現在のところ,星周円盤の中にある惑星候補天体の検出例は非常に少ない.またそれらの大部分は,円盤の構造に起因する特徴ではないかという疑義も呈されている.
この点において,若い恒星 PDS 70 まわりの遷移円盤は特に興味深い観測対象である.これは,過去の観測では円盤に大きなギャップが存在することが同定されており,これは進行中の惑星形成を示す特徴である可能性があるからである.

ここでは,円盤内に埋まっているかもしれない若い惑星の探査と,円盤と惑星の相互作用やその他の進化過程の結果として形成される円盤構造の探査を目的とした解析を行った.

VLT/SPHERE,VLT/NaCo と Gemini/NICI 装置を用いて観測された,PDS 70 周りの遷移円盤の近赤外画像の,新しい観測データおよび過去のアーカイブデータをあわせて解析した.観測は,偏光微分撮像 (polarimetric differential imgaing, PDI) と角微分撮像 (angular differential imaging, ADI) モードの 2 種類を用いている.

その結果,天球上に投影した間隔が 195 mas (~ 22 au) の位置にある,円盤中のギャップの中に点源を検出した.この点源は,5 つの異なる観測時期において検出が確認された,また,3 つのフィルターバンドと異なる装置を用いて存在が確認された.

天体の位置測定の結果から,検出された点源は高い信頼度で中心星に重力的に束縛されていると推定される


点源について,測定された等級と進化トラック上での色を比較した.その結果,検出された点源は惑星質量の伴星であることが示唆された
検出された天体の光度は,スペクトル型が L 型の矮星のものと整合的であるが,赤外線では赤っぽい色を示す.これは,天体周囲に温かい周辺物質が存在している可能性を示唆するものである.

さらに散乱光画像中には,~ 54 au サイズの大きなギャップの検出を確認した.また内側の円盤要素からのシグナルも検出された.この空間的な広がりは半径 ~ 17 au よりも小さい可能性が非常に高く,位置角は外側円盤のものと整合的である.

外側円盤の画像は,方位角方向の輝度分布が複雑である可能性を示す,分布は波長によって異なり,非常に小さい粒子からのレイリー散乱で説明できる可能性がある.

背景

原始惑星系円盤中の惑星候補天体の検出

遷移円盤 (transitional disk) は,スペクトルエネルギー分布 (spectral energy distribution, SED) において,円盤を持つ若い恒星に比べて近赤外線での超過が著しく減少した天体として初めて同定された.また,最近の高分解能撮像観測では,円盤中の大きなギャップの存在,方位角方向の非対称性,渦状腕,複数のリング構造などの多様な特徴が検出されている.

多くの場合,円盤の空洞領域やサブ構造は,これらの若くガスが豊富な円盤の中に存在している.これらの特徴は,しばしば円盤内で進行中の惑星形成のトレーサーであると解釈され,また惑星と円盤の相互作用に起源を持つと思われてきた.

円盤内で形成中の惑星を観測するのは非常に難しい.これは円盤からの放射がしばしば惑星の放射を隠してしまうためである.そのため,円盤内の惑星を検出するためには,高コントラストの高角度分解能観測が必要である.

現在のところ,このような検出は少数の天体のみで報告されている.HD 100546 (Quanz et al. 2013,Brittain et al. 2014,Quanz et al. 2015,Currie et al. 2015),LkCa 15 (Kraus & Ireland 2012,Sallum et al. 2015),HD 169142 (Quanz et al. 2013,Biller et al. 2014,Reggiani et al. 2014),MWC 758 (Reggiani et al. 2018) である.

しかしこれらの検出の大部分は,現在疑義が呈されている (Tameau et al. 2017,Ligi et al. 2018).
角微分技術を用いた高コントラスト撮像観測によって円盤中の惑星候補として同定された点源は,非対称構造を持つ円盤での明るい点と混同される場合がある.

PDS 70 まわりの円盤

今回の目的は,前主系列星 PDS 70 (V1032 Cen) を高コントラストで撮像観測することである.

この天体はスペクトル型が K7 の天体で,Scorpius-Centaurus association の一部である Upper Centaurus-Lupussubgroup (UCL) の一員である.距離は 113.43 pc (Gaia Collaboration et al. 2016,2018) である.

強いリチウム吸収を示すことと,原始惑星系円盤が存在していることから,この天体は若いと推定されている (1000 万歳程度以下).これは理論的にも確認されている.
また,最近のガイアのデータリリース (Gaia DR2) を受けて,この恒星の視差が初めて判明した.これにより初めて距離の詳細な推定ができ,距離推定を元に天体の年齢は 540 万 ± 100 万歳と推定された.


SED で赤外超過が測定されているため,この天体が円盤を持つことが示されていた (Gregorio-Hetem & Hetem 2002,Metchev et al. 2004).

この円盤の空間分解された画像は Riaud et al. (2006) で報告されている.また同時に伴星候補天体の検出も報告されている.ただしこの伴星候補は,後に無関係の背景天体と判明した (Hashimoto et al. 2012).

PDS 70 までの距離は 113.43 pc,スペクトル型は K7,有効温度は 3972 K である.また,1.26 太陽半径,0.35 太陽光度,0.76 太陽質量である.

観測・解析結果

惑星質量伴星の検出

観測と解析の結果,中心星から 195 mas,位置角 155° の場所に点源を検出した.この点源は,複数の観測装置を用いて同じ場所に検出された.

また Hashimoto et al. (2012) でのアーカイブデータも解析した.その論文では,伴星候補の非検出を報告している (上で言及した背景天体とは別のもの).ただしその解析は ~ 200 mas よりも外側の領域を考慮したものである.このデータセットを再解析した結果,今回の検出から予想される位置に点源を検出した.

天体の位置測定

天体の位置測定の解析も行った.
その結果,点源は中心星に追随していると考えられる.伴星であった場合,距離は ~ 22 au に相当する.中心星の質量が 0.76 太陽質量であると仮定すると,公転周期は ~ 119 年となる.

この公転周期の場合,惑星の軌道面が地球から見て face-on である場合,1 年に 3° ずれる計算になる.そのため,観測期間全体では 12.5° ずれることになる.これは観測結果とよく合う.

さらに,観測された位置角の変化方向は時計回りであり,これは円盤の回転の向きと対応している (Hashimoto et al. 2015).そのため face-on 軌道を持ち,円盤と一緒に回転している天体であると考えられる.

ただし位置天文測定での比較的大きな不定性と,データの取得期間の短さを考慮すると,詳細な軌道は不明である.大きく傾いていたり,離心率の大きな軌道である可能性もあり,将来的な観測で明らかになると考えられる.

過去の検出報告との比較

点源の検出は,複数の観測時期で,いくつかの異なる装置,フィルターバンド,画像処理アルゴリズムで検出された.そのため,機器や大気によるアーティファクト (speckle) の可能性は否定できる.

また点源の位置変化から,中心星に重力的に束縛されている天体であると予測される.

いくつかの原始惑星系円盤内の伴星候補天体の正体については,現在議論の最中である.これは,これまでの候補天体は全ての参照可能な波長で整合的に検出が報告されていないことが原因である.

円盤中の惑星を誤認する可能性には複数の要因が存在する.

例えば,ADI 過程は空間周波数フィルターとして働くため,鋭く非対称な円盤構造を増幅してしまう可能性がある.これを広がった円盤構造に適用すると,ねじ曲がった構造や,物理的な構造とは関連しないアーティファクトを作り出してしまうことがある.従ってADI でデータを処理したとき,リングや渦状腕やクランプなどの円盤構造は,点源と誤って解釈される可能性がある.

HD169142 まわりに検出が報告されている点源の一つは (Biller et al. 2014,Reggianiet al. 2014),円盤の内側領域での非一様なリング構造に由来していることが示されている (Ligi et al. 2018).

HD100546 まわりには 2 つの伴星候補天体が発見されているが, (Quanz et al. 2015,2013,Currie et al. 2015,Brittain et al. 2014),最近の GPI と SPHERE を用いた観測ではすべての波長で点源状には見えず,その正体については議論がある (Rameau et al. 2017,Folette et al. 2017,Currie et al. 2017).

LkCa 15 では,3 つの伴星候補が検出されている (Kraus & Ireland 2012,Sallum et al. 2015).しかし Thalmann et al. (2016) は,検出されている惑星候補の位置は,円盤の明るく近い側の内側要素の位置と一致することを指摘している,そのため,検出が報告されている原始惑星と思われるシグナルの少なくともいくらかは,この内側円盤の影響だと指摘している.

なお,LkCa 15b の位置からは Hα 放射が検出されているため,3 つの伴星候補のうちこの候補だけが,LkCa 15 系内での原始惑星として説得力のある検出報告である.

天体の性質の推定

スペクトルの特徴

点源は複数の波長で検出されており,その色を比較することが出来る.その結果,PDS 70b は非常に赤い色を示すことが分かった.

この色が天体の光球での放射によるものだとすると,この赤い色は L 型の天体か,あるいは赤化した背景天体かのどちらかのみと一致する.しかしこの天体の固有運動の観測からは,後者である可能性は非常に低い.

進化モデルを用いた質量推定

この天体の質量を推定するために,天体の進化モデルを使用した.

惑星の種族合成モデルにおいて,形成されるガス惑星は 4 つの異なる集団に分類できる,hottest, hot, warm, coldest の 4 種類である.これは円盤が消失した時の,質量の関数としての天体の光度に基づくクラス分けである (Mordasini et al. 2017).

これらの中で hottest と coldest のグループが,それぞれ最高と最低の光度を示す.また hottest と coldest の惑星はそれぞれ,古典的な hot-start と cold-start の形成モデルに対応している.これらは惑星形成段階の 2 つの両極端なケースであり,hottest (hot-start) は惑星形成過程の間に,ガス降着衝撃による光度が全て惑星内部に持ち込まれた場合,反対に coldest (cold-start) は全て輻射で失われた場合に対応するものである.
これらは後に,より現実的な hot-start と cold-start のモデルに置き換えている.

ここでは,hottest, hot と warm の場合を考慮.このシナリオでは,観測された等級を再現するには惑星質量は 10 木星質量程度より大きい必要があると推定される.進化モデルを考慮すると,hot-start の場合は 5 - 9 木星質量,warm では 12 - 14 木星質量と推定される

まとめ

・今回使用した全てのデータセットで,円盤は明確に検出された,また,過去に報告のあった ~ 54 au サイズのギャップの存在を確認した.

・内側円盤からの散乱光を初めて検出した.輻射輸送モデルと比較した結果,内側円盤の位置角は外側円盤と概ね同じであることが判明した.内側円盤は pole-on ではなく,最大半径は < 17 au である.

・円盤の反対側は手前側よりも PDI 画像では明るいが,ADI では手前側が明るい.これは円盤がフレアアップ構造であることと,小さいサブミクロンサイズ粒子からのレイリー散乱の組み合わせで説明可能である.

・中心星から 195 mas,位置角 155° に点源を検出した.この点源は 5 つの異なる時期で検出された.点源の位置天文からは,赤化した背景天体と混同している可能性は考えづらく,天体は中心星に重力的に束縛されていると考えられる.4 年間に渡る位置天文の観測結果からは,円盤内での惑星候補天体の軌道運動の初めての兆候を見ている可能性がある.位置天文のフォローアップ観測で軌道運動を確定し,軌道要素を制約できるだろうと考えられる.

・伴星の測光結果から,天体は赤い色をしていると判明した.進化モデルと比較すると,ダストが多いか,雲の多い大気を持った若い惑星質量天体だというシナリオが最もあり得る可能性である.

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