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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1807.10652
Espinoza et al. (2018)
ACCESS: A featureless optical transmission spectrum for WASP-19b from Magellan/IMACS
(ACCESS:Magellan/IMACS による WASP-19b の特徴の欠けた可視光透過スペクトル)
ここでは,Magellan/IMACS を用いた 6 回の詳細なトランジット分光観測の結果について報告する.このうち 5 回は 0.45 - 0.9 µm の全ての可視光ウィンドウでの観測を行い,1 回は 0.4 - 0.55 µm の青い可視光範囲で行った.
今回得られたデータセットのうち 5 セットは,この惑星の大気透過スペクトルはいかなるスペクトルの特徴も示さないという結果と整合的であったが,残りの 1 つは波長の関数としてスペクトルが有意な傾きを示した.これは,恒星の光球における非一様性に起因する結果だと解釈できる.
ハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 を用いた赤外線観測と合わせた解析より,今回の可視光/近赤外での測定では,この惑星大気の高高度に雲が存在するという過去の研究と一致する結果を得た.
半解析的な大気復元手法を用い,惑星と恒星のスペクトル特徴の両方を考慮し,この惑星における水の存在度は太陽と整合的であることを見出した.また TiO や Na と言った可視光での吸収体が太陽存在度未満である強い証拠も得られた.
可視光領域でのスペクトルの強い傾きが検出されなかったということは,もし大気中にヘイズが存在する場合,過去の研究で示唆されているよりもずっと弱いことを示唆している.
さらに,データセット中には,惑星が恒星表面のスポットを横断するイベントが 2 回検出された.このうち 1 回は,恒星表面の明るい点を惑星が横断するイベントが明確に検出された初めて例の一つである.
惑星の半径は 1.410 木星半径,質量は 1.139 木星質量である (Mancini et al. 2013).
この惑星は半径が膨張していると言うだけでなく,中心星に近いため,平衡温度が 2100 K と高い.このため大気のスケールハイトは 510 km と大きく,大気による透過スペクトルの強度は 200 - 600 ppm になる.実際に,ハッブル宇宙望遠鏡で水蒸気が大気中に 300 ppm の強度で検出されている (Huitson et al. 2013,Sing et al. 2016,Iyer et al. 2016).
Sedaghati et al. (2017) では,透過スペクトルの特徴について,(1) 強い散乱スロープ,(2) 強い TiO のシグナル,(3) 近赤外での水の特徴 について報告している.これらの結果は,この惑星は可視光では晴れた大気を持っていることを示している.
この結果は,過去のハッブルでの低分散観測 (Huitson et al. 2013,Sing et al. 2016) とは対照的である,過去の観測では比較的特徴のないスペクトルを示しており,大気中に雲が存在することや,惑星大気中の TiO による吸収が欠乏していることを示唆している.
しかし興味深いことに,2017 年 2 月の観測では,短波長側でトランジット深さが深くなる傾向が見られた.これは,恒星表面の非一様性に起因する可能性がある.そのため,Sedaghati et al. (2017) で報告されたデータも,中心星の黒点や白斑などによって生成された可能性がある.
2014 年のイベントでは,サイズが恒星半径の 0.21 倍で,温度が周囲の光球よりも 192 K 低い領域を WASP-19b が横断する様子が検出された.
2017 年のイベントでは,サイズが 0.25 恒星半径,温度が周囲より 137 K 「高い」領域を横断する様子が検出された.
このスポットのサイズは非常に大きい.例えば太陽の場合,これまでで最も大きかった黒点は太陽半径の ~ 0.1 倍である (最近の 22 年の太陽サイクルで最も大きかった黒点 AR 2192 のサイズ).
しかしこのサイズのスポットは,この恒星にとっては非常に珍しいというわけではなさそうである.過去の観測でも,同程度のサイズのスポットが検出されている.ただし過去の報告ではスポットと周囲の温度差は大きく,Mancini et al. (2013) ではサイズが 0.1651 恒星半径で,周囲より 683 K の温度低下が報告されている.
arXiv:1807.10652
Espinoza et al. (2018)
ACCESS: A featureless optical transmission spectrum for WASP-19b from Magellan/IMACS
(ACCESS:Magellan/IMACS による WASP-19b の特徴の欠けた可視光透過スペクトル)
概要
WASP-19b は短周期 (0.94 日) のトランジット系外惑星であり,透過スペクトルを観測する対象として適している.これは,この惑星の大気スケールハイトが大きく (~ 500 km),また平衡温度が高い (~ 2100 K) ことが要因である.ここでは,Magellan/IMACS を用いた 6 回の詳細なトランジット分光観測の結果について報告する.このうち 5 回は 0.45 - 0.9 µm の全ての可視光ウィンドウでの観測を行い,1 回は 0.4 - 0.55 µm の青い可視光範囲で行った.
今回得られたデータセットのうち 5 セットは,この惑星の大気透過スペクトルはいかなるスペクトルの特徴も示さないという結果と整合的であったが,残りの 1 つは波長の関数としてスペクトルが有意な傾きを示した.これは,恒星の光球における非一様性に起因する結果だと解釈できる.
ハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 を用いた赤外線観測と合わせた解析より,今回の可視光/近赤外での測定では,この惑星大気の高高度に雲が存在するという過去の研究と一致する結果を得た.
半解析的な大気復元手法を用い,惑星と恒星のスペクトル特徴の両方を考慮し,この惑星における水の存在度は太陽と整合的であることを見出した.また TiO や Na と言った可視光での吸収体が太陽存在度未満である強い証拠も得られた.
可視光領域でのスペクトルの強い傾きが検出されなかったということは,もし大気中にヘイズが存在する場合,過去の研究で示唆されているよりもずっと弱いことを示唆している.
さらに,データセット中には,惑星が恒星表面のスポットを横断するイベントが 2 回検出された.このうち 1 回は,恒星表面の明るい点を惑星が横断するイベントが明確に検出された初めて例の一つである.
WASP-19 系について
WASP-19b の特徴
WASP-19 は,軌道周期 0.94 日の短周期惑星 WASP-19b を持つ (Hebb et al. 2010).スペクトル型は G8V である.惑星の半径は 1.410 木星半径,質量は 1.139 木星質量である (Mancini et al. 2013).
この惑星は半径が膨張していると言うだけでなく,中心星に近いため,平衡温度が 2100 K と高い.このため大気のスケールハイトは 510 km と大きく,大気による透過スペクトルの強度は 200 - 600 ppm になる.実際に,ハッブル宇宙望遠鏡で水蒸気が大気中に 300 ppm の強度で検出されている (Huitson et al. 2013,Sing et al. 2016,Iyer et al. 2016).
Sedaghati et al. (2017) による透過スペクトルの報告
この論文の準備中に,Sedaghati et al. (2017) が Very Large Telescope (VLT) を用いた可視光透過スペクトルの観測結果について報告している.Sedaghati et al. (2017) では,透過スペクトルの特徴について,(1) 強い散乱スロープ,(2) 強い TiO のシグナル,(3) 近赤外での水の特徴 について報告している.これらの結果は,この惑星は可視光では晴れた大気を持っていることを示している.
この結果は,過去のハッブルでの低分散観測 (Huitson et al. 2013,Sing et al. 2016) とは対照的である,過去の観測では比較的特徴のないスペクトルを示しており,大気中に雲が存在することや,惑星大気中の TiO による吸収が欠乏していることを示唆している.
議論
スペクトルの特徴と恒星表面の非一様性
観測の結果,WASP-19b の大気透過スペクトルは特徴に欠けていると結論付けられる.これは Sedaghati et al. (2017) で報告された内容とは異なる.また,青い波長側 (短波長側) での散乱スロープは見られないという結果が得られた.しかし興味深いことに,2017 年 2 月の観測では,短波長側でトランジット深さが深くなる傾向が見られた.これは,恒星表面の非一様性に起因する可能性がある.そのため,Sedaghati et al. (2017) で報告されたデータも,中心星の黒点や白斑などによって生成された可能性がある.
恒星のスポットを横断するイベント
また,恒星上のスポットを惑星が横断するイベントも検出された.2014 年のイベントでは,サイズが恒星半径の 0.21 倍で,温度が周囲の光球よりも 192 K 低い領域を WASP-19b が横断する様子が検出された.
2017 年のイベントでは,サイズが 0.25 恒星半径,温度が周囲より 137 K 「高い」領域を横断する様子が検出された.
このスポットのサイズは非常に大きい.例えば太陽の場合,これまでで最も大きかった黒点は太陽半径の ~ 0.1 倍である (最近の 22 年の太陽サイクルで最も大きかった黒点 AR 2192 のサイズ).
しかしこのサイズのスポットは,この恒星にとっては非常に珍しいというわけではなさそうである.過去の観測でも,同程度のサイズのスポットが検出されている.ただし過去の報告ではスポットと周囲の温度差は大きく,Mancini et al. (2013) ではサイズが 0.1651 恒星半径で,周囲より 683 K の温度低下が報告されている.
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天文・宇宙物理関連メモ vol.175 Sing et al. (2015) ホットジュピターの雲有り/無し大気の連続性