忍者ブログ
日々の感想などどうでもよいことを書き連ねるためだけのブログ。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1711.01555
Takahashi et al. (2017)
Polarized Transmission Spectrum of Earth as Observed during a Lunar Eclipse
(月食時に観測された地球の偏光透過スペクトル)

概要

月食の最中に発生する偏光は,忘れられた謎である.

Coyne & Pellicori (1970) は 1968 年 4 月 13 日の月食の最中に,明確な偏光を検出したことを報告している.
太陽光が地球の大気を最初に通過する際の多重散乱がこの偏光の原因であると示唆されたものの,ここでは原因について決定的な結論は出されていない.月食中に検出される偏光については,これ以上の調査は知られていない.

ここでは月食中に観測される偏光の謎について,系外惑星への応用への可能性という点から調査を行った.例えば,惑星の大気を通過した恒星の光が実際に偏光していた場合,”トランジット偏光観測 (transit polarimetry)” を使って系外惑星の大気を調べることが出来る.


ここでは,2015 年 4 月 4 日に発生した月食の観測結果について報告する.この観測結果は,月の初めての分光偏光観測である.

観測の結果,500 - 500 nm の波長で 2-3%の偏光度を示すことが分かった.さらに,760 nm 付近の O2 A バンドでの増幅されたスペクトルの特徴を検出した.

今回観測された時間変動と波長依存性は,緯度方向の大気の不均一性を伴う,太陽光が地球大気を最初に通過する際の二重散乱によって引き起こされる偏光と一致した

月食の際の偏光観測を元にすると,系外惑星のトランジット偏光観測は,惑星大気中の酸素分子ガスを検出し,また大気の緯度方向の不均一性を探るのに有用である.従って,系外惑星のトランジット偏光観測の可能性については真剣に考慮する価値があると考えられる.

月食時の偏光観測

Coyne & Pellicori (1970) による偏光観測

Coyne & Pellicori (1970) は,1968 年 4 月 13 日に起きた月食の最中に月面の反射光を観測し ~ 2%の偏光が起きていることを発見した.

しかしこの偏光の原因は謎であった.
月食は,太陽・地球・月がほぼ直列した位置関係にある際に発生する.一般的に偏光が発生するためには,電磁波振動の方向に対するいくらかの非等方性が必要とされる.そのため,月食時のような直線的な光の進路では,観測されたレベルの偏光を生むのは難しいと考えられた.

一方で月食の最中の月は,地球大気を通過した太陽光によって照らされる.そのため,地球大気中の散乱光は,月食の最中における月の輝度に寄与する.
しかし散乱角度が ~ 2° よりも小さい散乱角での一回散乱では,過去に報告されているような ~ 2% の偏光を起こすことは難しい.そのため,多重散乱,特に二重散乱が偏光の起源であることが示唆されていたが,明確な結論には到達していなかった.

系外惑星観測との関連

最近の系外惑星科学の進展において,月食観測は新しい役割を持つことになった.

月食が起きる際の幾何学な配置は,系外惑星が主星の手前をトランジットする状況と類似している.したがって月食は,地球をトランジット惑星とみなして地上から観測する機会を与え,さらに地上観測によって地球大気の透過スペクトルを得る機会にもなる (Palle et al. 2009など).これは地球に類似した系外惑星の将来的な分光観測の際にも役立つ.

観測

2015 年 4 月 4 日の月食を観測した.

観測には 8.2 m 口径のすばる望遠鏡を用い,Faint Object Camera and Spectrograph (FOCAS) を用いて観測した.

Le Gentil A クレーターを視野の中心とした範囲の観測を行った (Le Gentil クレーターは,天文学者ギヨーム・ル・ジャンティに因んで命名されたクレーター).

拍手[0回]

PR

論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1711.01581
Rufu & Canup (2017)
Triton's Evolution with a Primordial Neptunian Satellite System
(初期海王星衛星系のもとでのトリトンの進化)

概要

海王星の衛星系は特異な特徴を持っている.木星・土星・天王星が持つ主要な衛星は全て,順行軌道 (惑星の自転と同じ方向に公転している) にあり,かつ軌道傾斜角は小さい.一方で海王星は他のガス惑星と比べると衛星数が最も少なく,衛星系の質量の大部分は,不規則衛星であるトリトンが占めている.

トリトンは海王星によって捕獲され,初期に海王星が持っていたであろう規則衛星系を破壊した可能性が高い.ここでは,新しく捕獲したトリトンと,それ以前に存在した海王星の衛星系の間の相互作用について調べた.


その結果,海王星と衛星系の質量比が天王星系に近いか,あるいは天王星系の値よりも小さい衛星系が初期に存在した場合,現在の海王星の衛星系を再現する可能性が高いと考えられる.しかし,初期により重い衛星系を持っていた場合は,現在の配置に至る可能性が低いことも発見した.

さらに,初期に存在した衛星系とトリトンとの相互作用は,トリトンの初期の大きな軌道長半径を,小型の不規則衛星 (ネレイド的な衛星) を保存するのに十分な速さで減少させる機構となり得る.もし捕獲後のトリトンの円軌道化が潮汐相互作用のみで起きた場合,円軌道化に必要な時間が長くなり,ネレイドのような不規則衛星は失われてしまう可能性がある.

背景

ガス惑星の衛星系

土星や木星の衛星系で見られるように,主要な衛星は周惑星円盤の中で形成され,典型的には順行軌道を持つ規則衛星が形成される.

天王星の衛星の起源はあまりよく分かっていない,
天王星の限定的なガス降着の結果として,木星や土星の衛星系と似た機構で形成されるか (Pollack et al. 1991など),あるいは惑星への巨大衝突の結果形成されるか (Slattery et al. 1992など),もしくはこれらの組み合わせで形成されると考えられているが (Morbidelli et al. 2012),結論は出ていない.

一方で,海王星は木星・土星・天王星と比べると衛星数が少ない.重い衛星トリトンは大きく傾いた軌道を持っているため,カイパーベルト天体が海王星に捕獲された事がこの衛星の起源だと考えられる (Agnor & Hamilton 2006).

トリトンの捕獲と進化

もし海王星が,Canup & Ward (2006) から示唆されるような,惑星に対する質量比が 10-4 程度の初期の衛星系を持っていた場合,トリトンの質量は逆行軌道の天体が元々の衛星系を破壊してしまうのに必要な最小質量に近い値となる.そのため海王星にトリトンが存在することは,海王星が持っていたであろう初期の衛星系の総質量への上限値を与える鍵となる.

捕獲直後のトリトンの軌道の軌道離心率は大きかったと考えられるが,その後 109 年未満の間に,潮汐散逸によって減衰したと考えられる (Goldreich et al. 1989など).しかし離心軌道にあるトリトンが他の衛星に与える擾乱は,小さい不規則衛星 (ネレイドなど) を 105 年のタイムスケールで不安定化させる (Nogueira et al. 2011),

さらに,Cuk & Gladman (2005) では,Kozai 機構がトリトンの平均近点を増加させることによって,円軌道化に必要なタイムスケールが太陽系の年齢を超えるという問題点を指摘している.その研究では,元々存在した順行軌道の衛星に対してトリトンが与える摂動が,衛星同士の相互破壊的な衝突を引き起こすというモデルを提案している.その衝突の結果として生成したデブリ円盤がトリトンと相互作用し,トリトンの軌道から角運動量を奪い,円軌道化のタイムスケールを 105 年にまで短くする.

しかしトリトン自身が破壊的な衝突を経験する前に,そのような衛星間の相互衝突を引き起こすことが出来るかは不明である.トリトンは逆行軌道にあるため,トリトンと順行衛星は一般に大きな相対速度を持ってしまう.

ここでは,海王星の初期に存在したであろう衛星系とトリトンの運動について,SyMBA コードを用いて N 体シミュレーションを行った.

議論

シミュレーション中に記録された衝突の大部分は,トリトンに対する衝突も,初期に存在した衛星同士の場合も,破壊的なものではなかった.そのため,初期に持っていた衛星の物質で構成されるデブリ円盤の形成は,現在考えている初期条件では発生しないと結論付けた.

さらに,破壊によってデブリ円盤が海王星のロッシュ限界の外に形成された場合,デブリの再集積のタイムスケールは ~ 102 年であり,デブリ円盤によるトリトンの軌道減衰タイムスケールの 104 - 105 年より短い.そのため,トリトンの軌道離心率を減衰させるより前に,デブリ同士が再集積してしまう.


初期の衛星系質量が天王星の衛星系の質量の 0.3 倍より大きい場合,衝突と近接遭遇を介して,トリトンの軌道をネレイドの軌道より内側に減少させされることが分かった.初期の衛星系とトリトンの相互作用がトリトンの円軌道化を促進し,ネレイドのような小さい不規則衛星は失われずに生き残る.

さらに初期の衛星系質量が天王星の衛星系質量の 0.3 - 1 倍の場合,トリトンは初期の大きな軌道傾斜角を維持しながら生き残る可能性が高い事が分かった.

さらに質量が重い系の場合は,現在の海王星の衛星系を再現する確率が低くなる (< 10%).

そのため,初期の質量比が現在の天王星と同程度であった場合,現在の海王星の衛星系と整合的になり,また元々存在したネレイド的な不規則衛星が生き残る可能性があると結論付けた.

拍手[0回]


論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1711.00578
Anglada et al. (2017)
ALMA Discovery of Dust Belts Around Proxima Centauri
(ALMA によるプロキシマ・ケンタウリまわりのダストベルトの発見)

概要

太陽に最も近い恒星であるプロキシマ・ケンタウリは,少なくとも 1 個の地球型惑星候補 (プロキシマ・ケンタウリb あるいはプロキシマb) を温暖な軌道に持つ.

ここでは,ALMA を用いた 1.3 mm 波長における恒星の検出と,中心星からおよそ 1 - 4 AU の範囲にある,ダストベルト (ダストが帯状に分布している領域) の発見について報告する.


プロキシマ・ケンタウリの光度が低いため,このダストの特徴的な温度はおよそ 40 K 程度と推定される.このダストベルトは,我々の太陽系のカイパーベルトをスケールダウンさせたもののダスト組成からなると考えられる.
ダストの合計質量は,0.01 地球質量のオーダーであると推定される.この値は,太陽系のカイパーベルトの総質量と類似している


また,より恒星に近い所にある,暖かいダストベルトの存在を示す兆候もデータ中に見られた.さらに,おそらくプロキシマ・ケンタウリ系に付随していると思われる,2 つの別の特徴の兆候も発見された.

しかしこれらは,存在を確定させるためにはさらなる観測が必要である.これらは,もし実際に存在する構造だとすると,非常に低温な (~ 10 K) で,30 AU 程度の距離にあり軌道面が天球面に対して 45 度傾いているダストベルトと,恒星からの射影距離が 1.2 秒角である 1.3 mm 波長での点状の放射源であり,現在のところその性質は不明である.

発見もしくは示唆された特徴

プロキシマb (惑星):0.05 au (過去の観測より.今回の観測では分解できない)
温暖なダストベルト:~ 0.4 au (※未確定)
未知の放射源:1.6 au (※未確定)
低温のダストベルト:~ 1 - 4 au (今回の観測で検出)
外側のダストベルト:30 au (※未確定)

観測結果とその解釈

ALMA の分解能では,恒星のプロキシマ・ケンタウリと周囲のダストベルトを分解することはできない.しかし検出された電波は,恒星単独の起源のものとするには大きいものであり,4 au 付近に存在するダストからの熱放射であると解釈される.

1 - 4 au のダストベルト

ダストの質量は,電波の強度,ダストの温度,距離,観測波長を用いて,
\(\frac{m_{\rm dust}}{M_{\bigoplus}}=0.5\left(\frac{S_{\nu}}{\rm Jy}\right)\left(\frac{T_{\rm dust}}{\rm K}\right)^{-1}\left(\frac{d}{\rm pc}\right)^{2}\left(\frac{\nu}{230\,{\rm GHz}}\right)^{-2}\)
と推定することが出来る.
ダストの温度を中心星の光度と中心星からの距離から推定すると,1 - 4 au の距離ではダスト温度は ~ 40 K となり,ダストの質量は 4 × 10-6 地球質量と推定される.

1.3 mm の連続放射は,µm から cm サイズのダスト粒子の存在と対応している.しかしこれらの小さい粒子は,質量の多くを占めている,より大きい天体と微惑星の衝突カスケードの結果として生成される.
衝突カスケードの結果生成されるダストのサイズ分布は,冪則の指数が -3.5 となる (Tanaka et al. 1996).もし初期のサイズ分布が衝突カスケード分布と滑らかに繋がっていると仮定すると,ダストの全質量は
\(m_{\rm tot}\simeq m_{\rm dust}\left(\frac{D_{\rm max}}{D_{\rm dust}}\right)^{0.5}\)
となる.\(D_{\rm max}\) と \(D_{\rm dust}\) は,それぞれ大きい天体の最大サイズと,観測されたダスト放射をおこしている最大サイズを意味している.

ここで \(D_{\rm dust}\simeq\) 1 cm とすると,
\(m_{\rm tot}\simeq 2200 m_{\rm dust}\left(\frac{D_{\rm max}}{50\,{\rm km}}\right)^{0.5}\)
となる.従ってこれを直径 50 km まで積分すると (Greaves et al. 2004など),総質量として 10-2 地球質量を得る.

この総質量は,太陽系のカイパーベルトの総質量と類似している (Bernstein et al. 2004).また温度も似ている (~ 50 K).しかし,太陽系のカイパーベルトは太陽からずっと遠い 30 - 50 au の距離にある.
プロキシマ・ケンタウリの光度が小さいため,太陽系のカイパーベルトに相当する物理的条件を持つ場所は恒星にずっと近い.そのためプロキシマ・ケンタウリから 1 - 4 au の範囲にあるダスト放射は,プロキシマ・ケンタウリのカイパーベルトに相当するものを観測している可能性がある.

~ 0.4 au の温暖なダストベルト候補

また観測からは,プロキシマ・ケンタウリから ~ 0.4 au 付近に,暖かいダストベルトが存在する可能性が示唆された.

これが実際に存在すると仮定し,上記と同様の推測をすると,ダストの温度は 90 K.直接観測されたダストの質量は 5.5 × 10-7 地球質量となり,同様に積分して求めた,見えない分まで含めた総質量は ~ 10-3 地球質量となる.

~ 30 au の外側ダストベルト候補

また,動径方向の強度分布では,プロキシマ・ケンタウリから ~ 30 au 付近に極大が見られた.この角度は ~ 45° であった.

もしこのダストベルトが本当であれば,プロキシマ・ケンタウリ系の軌道平面を推定するのに使える可能性がある.例えばもしダストベルトや惑星が全て同一平面上に存在するのであれば,プロキシマb の真の質量は ~ 1.8 地球質量と推定できる (※注釈:プロキシマb は視線速度法による検出であるため,最小質量しか判明しておらず,真の質量を知るためには軌道傾斜角が必要).

注意しておくべきことは,この検出は暫定的なものであるという点である.

また,推定される 45° という傾きは,プロキシマ・ケンタウリがケンタウルス座アルファ星A, B の連星を公転する角度である 108° から大きく異なっている (Kervella et al. 2017).
しかしこれは矛盾しているわけではなく,一般的に,階層的三重星系での軌道運動は必ずしも同一平面になるわけではない.実際に,ケンタウルス座アルファ星A, B 連星も大きな傾斜角 79° を持っている.


そのため,プロキシマ・ケンタウリが複数のダストのベルトに囲まれている可能性はある.恒星に近い位置にある (4 au 未満) の一つのベルト,もしくは複数のベルトと,30 au 付近の大きな軌道半径を持つベルトである.

外側のダストベルトの推定温度は ~ 10 K であり,同様にして求めたダストの推定質量は 1.4 × 10-4 地球質量 (観測できている量のみ),積分して求めた総質量は 0.33 地球質量となる.

外側のダストベルトの総質量の推定値 0.33 地球質量は,太陽系のカイパーベルトの総質量よりもずっと大きく,太陽系にはこれに類似する天体群は存在しない.しかし,ハーシェルによる観測では,太陽型星の周りに新しい分類の非常に低温なデブリ円盤が存在することが明らかにされている (Eiroa et al. 2011).その起源は分かっていないが,プロキシマ・ケンタウリの ~ 30 au の距離にあるかもしれないダストベルトと類似性がある可能性がある.

1.6 au における点源の検出

さらに,1.6 au 付近に,1.3 mm 放射でのコンパクトな点源を暫定的に検出した.ただし現状のデータでは,単なるノイズのピークである可能性は排除できない.

もし実際の現象を反映していると考えた場合,以下の可能性が考えられる.

・背景銀河の可能性 (Smail et al. 1997など)
プロキシマ・ケンタウリの非常に近傍に背景銀河が偶然紛れ込む可能性は 1% 程度未満と低い確率ではあるが (Fujimoto et al. 2016),完全には排除できない.プロキシマ・ケンタウリの固有運動は大きいので,別の時期の観測を行うことによって,この点源がプロキシマ・ケンタウリに伴ったものなのか,あるいは背景の天体なのか分かるだろう.

・準恒星天体
1000 K 程度の有効温度を持つ準恒星天体 (sub-stellar object, 褐色矮星や惑星など) も,この種の放射を起こしうる.しかし,そのような天体はプロキシマ・ケンタウリの視線速度にシグナルを発生させうるが,そのようなシグナルは検出されていない.

・天体衝突などの一時的現象
発生源は,大きな天体同士の衝突のような一時的な現象の可能性もある.しかしそのような現象は若い系では頻繁に発生しうるが,年老いた恒星系では観測されることは考えにくい.

・未発見の惑星に伴うダスト雲
まだ検出されていない惑星のラグランジュ点近傍にある,ダスト雲を捉えたという可能性もある.例えば,太陽系におけるトロヤ群小惑星のような存在である.

・未発見の巨大惑星の環
また,未発見の巨大惑星を囲むダストの環を捉えているという可能性もある.
もし惑星だと仮定すると,軌道周期は 5.8 年程度以上となる.さらに,土星の環のような構造を想定すると,惑星の環の総質量は 10-5 地球質量程度であると推定される.

進化した惑星の環は,惑星質量の 10-7 倍程度になるという理論的な示唆がある (Charnoz et al. 2017).これが成り立つとした場合,惑星質量は ~ 100 地球質量と推定され,これは土星と同程度の質量である.

現在のところ,そのような惑星の存在を示す明確な視線速度シグナルは報告されていない.将来の観測によって存在が確定するか,もしくは排除されるかするだろう.

拍手[0回]


論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1710.11274
Miles-Páez et al. (2017)
The Prototypical Young L/T-Transition Dwarf HD 203030B Likely Has Planetary Mass
(原型的な若い L/T 遷移矮星 HD 203030B はおそらく惑星質量を持つ)

概要

太陽に類似した恒星 (solar analog, ソーラーアナログ) である HD 203030 は,2006 年にスペクトル型 L7.5 の若い伴星を持つことが判明した.

この若い伴星 HD 203030B は,古い晩期 L 型矮星よりも 200 K ほど低温であるという,通常とは異なる特徴を示す.HD 203030B は,L - T へのスペクトル型の遷移における有効温度は,その天体の表面重力に依存するという,初めての明確な示唆を与えた天体である.このことは,現在では低重力の超低温矮星のよく知られた特徴となっている.

スペクトル型が G8V である中心星 HD 203030 の最初の年齢解析からは,この系の年齢は 130 - 400 Myr (1 億 3000 万 〜 4 億歳) であることが示唆された.この年齢推定に基づくと,伴星の質量は 12 - 31 木星質量の間であることが示唆される.


HD 203030B の中間的な分解能の近赤外スペクトル観測を行った結果,この天体のスペクトル中に,10 - 150 Myr の晩期 L7 - L8 矮星と同程度の非常に低い重力の特徴を発見した.また,さらに正確な近赤外線とスピッツァー宇宙望遠鏡の IRAC 測光を得た.

それによると,スペクトルのカラーは他の若い惑星質量天体で観測されたものと同程度であり,光度は \(\log\left(L_{\rm bol}/L_{\rm sun}\right) = -4.75\,{\rm dex}\) であった.
その他の複数の年齢の推定から,HD 203030B の年齢を 100 Myr (1 億年) と推定した.また年齢の取りうる範囲は 30 - 150 Myr (3000 万 〜 1 億 5000 万年) であると推定される.

HD 203030B に対して雲の多い大気を持つ進化モデルを用いると,今回得られた伴星の年齢の範囲と光度から,この天体の質量は 11 木星質量 (8 - 15 木星質量),有効温度は 1040 ± 50 K という推定値を得た.

拍手[0回]


論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1710.11364
Mamajek et al. (2017)
Kinematics of the Interstellar Vagabond A/2017 U1
(恒星間放浪者 A/2017 U1 の運動学)

概要

最近発見された,双曲線軌道にある小惑星 A/2017 U1 の初期の銀河速度ベクトルの計算を行った.
(※注釈:この天体の現在の呼称は 1I/2017 U1)

得られた速度を周囲の局所的な恒星の速度と比較すると,近傍の恒星系のいずれとも共動している可能性は容易に排除された.つまり,近傍の系外オールトの雲に伴っていた天体ではない様に思われる.例えば,ケンタウルス座アルファの三重星系に起源を持つものではないと考えられる.

この天体の速度は,太陽系近傍 (太陽からの距離が < 25 pc) の恒星が,銀河系内を運動する平均速度の 5 km/s 以内にある.そのためこの速度は,局所的な範囲の恒星の銀河速度分布から予想される速度を持つ天体に対しては典型的な値であると思われる.

これらの計算は,A/2017 U1 は太陽系外の遠方に起源を持つが,非常に近傍の恒星が起源ではないという解釈を強化するものである.

拍手[0回]