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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1709.08635
Kreidberg et al. (2017)
Water, Methane Depletion, and High-Altitude Condensates in the Atmosphere of the Warm Super-Neptune WASP-107b
(ウォームスーパーネプチューン WASP-107b の大気中における水と,メタンの欠乏,高高度の凝縮物)
この惑星は非常に大きな大気スケールハイトを持ち,また恒星のサイズは小さく,光度は明るい.そのため,現在の大気特性や惑星の形成過程を詳細に制限できる可能性がある.
ここでは,この惑星の初めての大気観測の結果を報告する.ハッブル宇宙望遠鏡を用いてこの惑星の近赤外線の透過スペクトルを測定した.
解析においては,この惑星の大気組成を 2 つの方法で決定した.透過スペクトルを元にした大気復元メソッドと,観測されている惑星質量と半径を元にした内部構造のモデル化である.
内部構造モデルでは,大気の金属量の 3 σ の上限値として,太陽金属量の 30 倍という値を与えた.
透過スペクトルからは,6.5 σ の信頼度で水の吸収の強い証拠を検出した.また水の存在度は,太陽組成パターンから期待される値と整合的であることが示唆された.この事は,大気の C/O 比が低いか,あるいは惑星内部からの熱フラックスが大きいことを示唆している.
検出された水の特徴は,雲が無い大気を持つ場合に予測されていたものよりも小さく,シグナルは 1 スケールハイト分よりも小さかった.
この観測結果を説明するためには,大気の高高度 (圧力で言うと 0.1 - 3 mbar) における,厚い凝縮物の層の存在が必要である,しかし,この気圧の高度に光学的に厚い凝縮物を生成することは難しい.
今回の発見は,系外惑星大気の多様性と複雑さを示す好例である.今後の観測装置を用いた,広範囲の波長をカバーした高精度の観測が待たれる.
arXiv:1709.08635
Kreidberg et al. (2017)
Water, Methane Depletion, and High-Altitude Condensates in the Atmosphere of the Warm Super-Neptune WASP-107b
(ウォームスーパーネプチューン WASP-107b の大気中における水と,メタンの欠乏,高高度の凝縮物)
概要
スーパーネプチューン WASP-107b は,大気の特徴付けを行うための興味深い対象である.この惑星は非常に大きな大気スケールハイトを持ち,また恒星のサイズは小さく,光度は明るい.そのため,現在の大気特性や惑星の形成過程を詳細に制限できる可能性がある.
ここでは,この惑星の初めての大気観測の結果を報告する.ハッブル宇宙望遠鏡を用いてこの惑星の近赤外線の透過スペクトルを測定した.
解析においては,この惑星の大気組成を 2 つの方法で決定した.透過スペクトルを元にした大気復元メソッドと,観測されている惑星質量と半径を元にした内部構造のモデル化である.
内部構造モデルでは,大気の金属量の 3 σ の上限値として,太陽金属量の 30 倍という値を与えた.
透過スペクトルからは,6.5 σ の信頼度で水の吸収の強い証拠を検出した.また水の存在度は,太陽組成パターンから期待される値と整合的であることが示唆された.この事は,大気の C/O 比が低いか,あるいは惑星内部からの熱フラックスが大きいことを示唆している.
検出された水の特徴は,雲が無い大気を持つ場合に予測されていたものよりも小さく,シグナルは 1 スケールハイト分よりも小さかった.
この観測結果を説明するためには,大気の高高度 (圧力で言うと 0.1 - 3 mbar) における,厚い凝縮物の層の存在が必要である,しかし,この気圧の高度に光学的に厚い凝縮物を生成することは難しい.
今回の発見は,系外惑星大気の多様性と複雑さを示す好例である.今後の観測装置を用いた,広範囲の波長をカバーした高精度の観測が待たれる.
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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1709.07981
Lauer et al. (2017)
The New Horizons and Hubble Space Telescope Search For Rings, Dust, and Debris in the Pluto-Charon System
(冥王星-カロン系における環,ダスト,デブリのニューホライズンズとハッブル宇宙望遠鏡による探査)
冥王星への接近の間にダストやデブリによる後方散乱を検出する (位相角 ~ 15°),探査機に衝突する粒子のその場検出,最も接近したタイミング前後での恒星の掩蔽観測,探査機が冥王星から離れていく際の後方散乱光の撮像観測 (位相角 ~ 165°) による特徴の検出を行った.
最終的な環への制約には,ニューホライズンズの接近に先立って行われたハッブル宇宙望遠鏡による観測結果も利用した.
しかし今回得られた新しい検出限界から,冥王星-カロン系全体の環境の描像について大きく情報を改善することが出来た.
ニューホライズンズに搭載されている LORRI カメラを用いて,この領域の内側半分における環に対する最も良い制限を得た.
ここでは,I/F 値を用いて環の特性に対して制約を与えた.
I/F は無次元量であり,πF は冥王星の位置での太陽からの可視光のフラックス密度,I は観測される強度を意味する.この定義では,太陽光に照らされ,太陽光に垂直な位置から見た時に完全な拡散をする “Lambert” 面であった場合に,I/F は 1 になる.
1500 km 幅の環に関しては I/F = 2 × 10-8,6000 km 幅の環は I/F = 1 × 10-8,12000 km 幅の環は I/F = 7 × 10-9 という制約を得た.
冥王星から ~ 100000 km 以遠では,ハッブル宇宙望遠鏡の観測からの制限は I/F = 8 × 10-8 となった.
観測を通じて,環やダスト雲が存在するという証拠は検出されなかった.ヒドラより内側の領域については 4 例の恒星掩蔽を観測したが,その領域内からはダストやデブリの存在は検出されなかった.
The Student Dust Counter は,冥王星から 3.6 × 106 km の位置で,一回の粒子衝突を検出した.
The Student Dust Counter (SDC) はニューホライズンズに搭載されている機器の一つで,ダスト粒子の衝突を直接検出するように設計されている (Hor ́anyi et al. 2008).SDC では,10-12 - 10-9 g の範囲のダスト粒子を測定する.これは粒子半径にするとおよそ 0.5 - 10 µm に相当する.これを元に冥王星周辺環境でのダスト密度を測定した.その結果,SDC はダスト衝突イベントを 1 回だけ検出した (Bagenal et al. 2016).
この値は,これはニューホライズンズが冥王星に向けて航行している最中に実証された,惑星間空間環境から期待される値と整合的なものであった.
太陽系の別の場所では,小さな衛星はその軌道を薄いダストの環と共有している場合がある.今回の環やダストやデブリが検出されなかったという観測結果は,小さな粒子は急速に冥王星-カロン系から失われるという,力学的な研究からの示唆を支持するものである.
過去の研究では,小さい粒子は太陽放射圧で冥王星-カロン系から失われ,大きい粒子は衛星によって継続的に与えられる擾乱によって軌道が不安定になることが示されている.
arXiv:1709.07981
Lauer et al. (2017)
The New Horizons and Hubble Space Telescope Search For Rings, Dust, and Debris in the Pluto-Charon System
(冥王星-カロン系における環,ダスト,デブリのニューホライズンズとハッブル宇宙望遠鏡による探査)
概要
2015 年のニューホライズンズの冥王星の通過の前・最中・後に渡って,冥王星-カロン系のダストやデブリリングの包括的な調査を行った.冥王星への接近の間にダストやデブリによる後方散乱を検出する (位相角 ~ 15°),探査機に衝突する粒子のその場検出,最も接近したタイミング前後での恒星の掩蔽観測,探査機が冥王星から離れていく際の後方散乱光の撮像観測 (位相角 ~ 165°) による特徴の検出を行った.
最終的な環への制約には,ニューホライズンズの接近に先立って行われたハッブル宇宙望遠鏡による観測結果も利用した.
結果
冥王星-カロン系からは,いかなる環,デブリ,ダストの特徴は検出されなかった.しかし今回得られた新しい検出限界から,冥王星-カロン系全体の環境の描像について大きく情報を改善することが出来た.
環への制限
後方散乱光による環の探査は,冥王星-カロン系の重心から 35000 - 250000 km の範囲をカバーしている.この領域は,最も内側を公転する小さい衛星 Styx (ステュクス) の軌道の内側から,発見されている中で最も外側を公転している衛星 Hydra (ヒドラ) の軌道の 4 倍外側までの範囲に相当する.ニューホライズンズに搭載されている LORRI カメラを用いて,この領域の内側半分における環に対する最も良い制限を得た.
ここでは,I/F 値を用いて環の特性に対して制約を与えた.
I/F は無次元量であり,πF は冥王星の位置での太陽からの可視光のフラックス密度,I は観測される強度を意味する.この定義では,太陽光に照らされ,太陽光に垂直な位置から見た時に完全な拡散をする “Lambert” 面であった場合に,I/F は 1 になる.
1500 km 幅の環に関しては I/F = 2 × 10-8,6000 km 幅の環は I/F = 1 × 10-8,12000 km 幅の環は I/F = 7 × 10-9 という制約を得た.
冥王星から ~ 100000 km 以遠では,ハッブル宇宙望遠鏡の観測からの制限は I/F = 8 × 10-8 となった.
ダスト・デブリへの制限
ダストの特徴の調査は,冥王星表面から冥王星-カロン系のヒル圏 (ヒル圏半径 6.4 × 106 km) までの領域からの前方散乱の有無を調べることで行った.その結果,~ 104 km のスケールで,I/F ~ 8.9 × 10-7 のという制約を与えた,観測を通じて,環やダスト雲が存在するという証拠は検出されなかった.ヒドラより内側の領域については 4 例の恒星掩蔽を観測したが,その領域内からはダストやデブリの存在は検出されなかった.
The Student Dust Counter は,冥王星から 3.6 × 106 km の位置で,一回の粒子衝突を検出した.
The Student Dust Counter (SDC) はニューホライズンズに搭載されている機器の一つで,ダスト粒子の衝突を直接検出するように設計されている (Hor ́anyi et al. 2008).SDC では,10-12 - 10-9 g の範囲のダスト粒子を測定する.これは粒子半径にするとおよそ 0.5 - 10 µm に相当する.これを元に冥王星周辺環境でのダスト密度を測定した.その結果,SDC はダスト衝突イベントを 1 回だけ検出した (Bagenal et al. 2016).
この値は,これはニューホライズンズが冥王星に向けて航行している最中に実証された,惑星間空間環境から期待される値と整合的なものであった.
太陽系の別の場所では,小さな衛星はその軌道を薄いダストの環と共有している場合がある.今回の環やダストやデブリが検出されなかったという観測結果は,小さな粒子は急速に冥王星-カロン系から失われるという,力学的な研究からの示唆を支持するものである.
過去の研究では,小さい粒子は太陽放射圧で冥王星-カロン系から失われ,大きい粒子は衛星によって継続的に与えられる擾乱によって軌道が不安定になることが示されている.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1709.08476
Hwang et al. (2017)
OGLE-2017-BLG-0173Lb: Low Mass-Ratio Planet in a "Hollywood" Microlensing Event
(OGLE-2017-BLG-0173Lb:"ハリウッド" マイクロレンズイベント中の低質量比惑星)
検出された惑星と主星の質量比は q = 6.5 × 10-5 であり,これまで検出された中では最も小さい部類の質量比である.それにも関わらず,惑星による摂動は非常に強く検出された.これは,レンズ天体が明るいソース天体の手前を通過したことと,惑星の caustic (焦線) を部分的に覆っていたことが原因である.
ここでは,その他の giant-source (“Hollywood”) イベントの感度を推定するために使える簡単な定式を提案する.これを用いると,地球と太陽の質量比 3 × 10-6 にはおそらく届かないものの,それに近い質量比を持つ惑星系の検出が行える可能性がある.
今回発見された系で推定されるベイズパラメータは,中心星の質量が 0.42 (+0.40, -0.24) 太陽質量,惑星が 9 (+11, -6) 地球質量である,また惑星と恒星の間隔の射影距離は 4 AU であった.
レンズ天体の相対固有運動は 6 mas yr-1 と測定された.今後 15 年の内に,レンズ天体を撮像できるか,あるいは次世代の (30 メートル級の) 望遠鏡に搭載した補償光学撮像装置のファーストライトで観測できる可能性がある.
arXiv:1709.08476
Hwang et al. (2017)
OGLE-2017-BLG-0173Lb: Low Mass-Ratio Planet in a "Hollywood" Microlensing Event
(OGLE-2017-BLG-0173Lb:"ハリウッド" マイクロレンズイベント中の低質量比惑星)
概要
ここでは,重力マイクロレンズによって検出された惑星 OGLE-2017-BLG-0173Lb について報告する,検出された惑星と主星の質量比は q = 6.5 × 10-5 であり,これまで検出された中では最も小さい部類の質量比である.それにも関わらず,惑星による摂動は非常に強く検出された.これは,レンズ天体が明るいソース天体の手前を通過したことと,惑星の caustic (焦線) を部分的に覆っていたことが原因である.
ここでは,その他の giant-source (“Hollywood”) イベントの感度を推定するために使える簡単な定式を提案する.これを用いると,地球と太陽の質量比 3 × 10-6 にはおそらく届かないものの,それに近い質量比を持つ惑星系の検出が行える可能性がある.
今回発見された系で推定されるベイズパラメータは,中心星の質量が 0.42 (+0.40, -0.24) 太陽質量,惑星が 9 (+11, -6) 地球質量である,また惑星と恒星の間隔の射影距離は 4 AU であった.
レンズ天体の相対固有運動は 6 mas yr-1 と測定された.今後 15 年の内に,レンズ天体を撮像できるか,あるいは次世代の (30 メートル級の) 望遠鏡に搭載した補償光学撮像装置のファーストライトで観測できる可能性がある.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1709.06124
Mackebrandt et al. (2017)
Transmission spectroscopy of the hot Jupiter TrES-3 b: Disproof of an overly large Rayleigh-like feature
(ホットジュピター TrES-3b の透過光分光観測:過剰に大きなレイリー的特徴への反証)
近接ガス惑星 TrES-3b の過去の透過分光観測では,青い側 (短波長側) に向かって大気での吸収が非常に大きくなることが報告されている.これは,惑星大気中でのレイリー散乱のみでは説明が不可能なほど大きなものであった.
ここでは TrES-3b の可視光での透過光分光観測のフォローアップを行い,過去の研究で報告された,短波長側に向かっての強い吸収の増大について検証を行った.さらに,恒星の黒点が透過スペクトルに及ぼす影響についても推定した.
この研究では,過去に行われデータが公開されている,Gran Telescopio Canarias (GTC) の long slit の分光データと,論文として出版されている観測データを使用した.これに加えて,近紫外線から近赤外線の範囲に渡る,異なるバンドでの新しい観測結果も合わせて解析を行った.さらに,中心星の長期間に渡る測光モニタリング観測も行った.
データの解析の結果,過去の報告よりも吸収の強度は低いことが判明した.そのため,過去に報告されていた短波長側に向かっての強い吸収の増大は,TrES-3 系に起因するものではないと結論付けた.さらに広い波長域にわたるスペクトルからは,惑星大気の透過スペクトルは平坦である事が示された.
長期間の測光モニタリング観測からは,大気の透過スペクトルが,惑星に掩蔽されていない領域にある恒星の黒点によって影響を受けている可能性は否定された.
arXiv:1709.06124
Mackebrandt et al. (2017)
Transmission spectroscopy of the hot Jupiter TrES-3 b: Disproof of an overly large Rayleigh-like feature
(ホットジュピター TrES-3b の透過光分光観測:過剰に大きなレイリー的特徴への反証)
概要
系外惑星のトランジットイベントは,惑星大気の組成を調べるための良い機会である.近接ガス惑星 TrES-3b の過去の透過分光観測では,青い側 (短波長側) に向かって大気での吸収が非常に大きくなることが報告されている.これは,惑星大気中でのレイリー散乱のみでは説明が不可能なほど大きなものであった.
ここでは TrES-3b の可視光での透過光分光観測のフォローアップを行い,過去の研究で報告された,短波長側に向かっての強い吸収の増大について検証を行った.さらに,恒星の黒点が透過スペクトルに及ぼす影響についても推定した.
この研究では,過去に行われデータが公開されている,Gran Telescopio Canarias (GTC) の long slit の分光データと,論文として出版されている観測データを使用した.これに加えて,近紫外線から近赤外線の範囲に渡る,異なるバンドでの新しい観測結果も合わせて解析を行った.さらに,中心星の長期間に渡る測光モニタリング観測も行った.
データの解析の結果,過去の報告よりも吸収の強度は低いことが判明した.そのため,過去に報告されていた短波長側に向かっての強い吸収の増大は,TrES-3 系に起因するものではないと結論付けた.さらに広い波長域にわたるスペクトルからは,惑星大気の透過スペクトルは平坦である事が示された.
長期間の測光モニタリング観測からは,大気の透過スペクトルが,惑星に掩蔽されていない領域にある恒星の黒点によって影響を受けている可能性は否定された.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1709.07006
Kaib et al. (2017)
Simulations of the Fomalhaut System Within Its Local Galactic Environment
(局所銀河環境におけるフォーマルハウト系のシミュレーション)
離心軌道にあるダストベルトはしばしば,1 個かそれ以上の,直接検出されていない惑星の力学的特徴であると解釈される.しかしこの系は,フォーマルハウトA から ~ 105 AU 離れた場所に 2 つの恒星の伴星を持っている.
ここでは.フォーマルハウトの伴星の力学的な進化とあわせて,フォーマルハウトA の惑星ダストベルトの進化をモデル化した,これらの伴星が,ダストベルトの分布の形状を再現する可能性があるかどうかを判断するための,新しいシンプレクティック積分を開発した.
数値シミュレーションを用いた結果,フォーマルハウトA と フォーマルハウトB の近接遭遇が発生しうることを見出した.発生しうる近接遭遇のうち ~ 25%の確率で,2 つの恒星はお互いの 400 AU の距離を通過する.このような遭遇の結果として起こる帰結には非常に多様性があるが,これらの近接遭遇はほとんど常にフォーマルハウトA のダストベルトの軌道離心率を励起し,それらのうちいくらかは観測されているダストベルトの形状に非常に似た状態を作り出す場合もある.
これらの結果を元に,フォーマルハウトA の伴星との近接遭遇は,離心軌道を持つダストベルトの起源として考慮されるべきであるという点について議論する.特に,観測されているダストベルトの形状を形作れような惑星が検出されない場合,伴星の遭遇によってダストベルト形状が歪められたという可能性を考慮すべきである.
より一般的な結果としては,非常に遠距離にある伴星の恒星は,しばしば中心星が持つデブリ円盤に非対称性を生じさせ得るということが,今回の研究から結論付けられる.
その後の 10 年でのサブミリ波を用いた電波観測では,この恒星のダスト円盤は,内側に半径 ~ 100 AU の大きな空洞を持つ,帯状の分布をしている事が示唆された (Holland et al. 1998など).しかし,より新しい観測では別の軽いダスト源が 8 - 15 AU の距離に存在していることが示されている (Stapelfeldt et al. 2004など).
ハッブル宇宙望遠鏡を用いた外側のダストベルトの可視光観測では,外側のダストベルトははっきりとした内縁を持ち,またダストベルトの中心はフォーマルハウトA の位置とはずれていることが判明した.そのため,ダストベルトの形状は円形ではなく,離心軌道にあることが分かった (Kalas et al. 2005).
その後の,ミリ波,サブミリ波,赤外線,可視光での観測でもダストベルトの形状が確認され,軌道離心率は 0.12 ± 0.01 (Ricci et al. 2012など) と推定されている.
その後,Kalas et al. (2008) は小さな可視光の点源フォーマルハウトb がダストベルトの内側を公転していることを報告し,惑星と思われるこの天体がダストベルトの形状の原因であると予想された.しかしその後の赤外線の観測ではこの天体を検出することができず,最初の観測で推定された惑星の質量や,あるいはそもそも惑星かどうかという点については現在でも議論がある (Marengo et al. 2009など).
さらなるハッブル宇宙望遠鏡の観測では,この惑星候補天体は大きな軌道離心率を持ち,ダストベルトの形状を再現できない可能性があることが指摘されている (Kalas et al. 2013, Beust et al. 2014).さらに,そのような軌道にある重い惑星は,ベルトのコヒーレント形状をすぐに壊してしまうことも指摘されている (Kalas et al. 2013など).
これらの研究から,フォーマルハウトb は巨大なリング系を伴った低質量の惑星であるとするもの (Kalas et al. 2008),不規則衛星のダスト雲を伴った低質量の惑星であるとするもの (Kennedy & Wyatt 2011, Tamayo 2014),惑星同士の衝突後のダスト雲であるとするもの (Kalas et al. 2013, Tamayo 2014, Lawler et al. 2015),あるいは無関係の背景の中性子星とする意見まである (Neuha ̈user et al. 2015).
そのためフォーマルハウトA の近くに発見されている点源は,ダストベルトの形状を形作る原因ではない可能性もある.そのため,未発見の惑星 1 つあるいは複数がダストベルトの形状の原因となり,さらに検出されている天体 (フォーマルハウトb) を特異な軌道に散乱したという説が提案されている (Chiang et al. 2009など).
他の可能性としては,羊飼い惑星のセットがダストベルトの両側を公転しており,コヒーレントな楕円形状を形成しているという説 (Boley et al. 2012) も提案されている.このような惑星は数地球質量程度の質量で十分であり,検出限界のため検出されていないことは十分に考えられる.
1938 年には,K4V 星である TW PsA (みなみのうお座TW星) はフォーマルハウトA の伴星ではないかと疑われた (Luyten 1938).より最近の,TW PsA の位置,運動学,特性の解析から,この 2 つの天体が無関係の恒星である可能性は非常に低いことが示されている (Mamajek 2012).
この 2 つは 5.74 × 104 AU 離れた,重力的に束縛されたペアであると推定されている (Barrado y Navascues et al. 1997など).
さらに最近,フォーマルハウトA と TW PsA の近くに,似た運動を行う天体として,三番目の天体 LP 876-10 が同定された,この天体が偶然近くにいるだけの背景星である確率はわずか ~ 10-5 と推定されている (Mamajek et al. 2013).
三番目の恒星は M 型星で,フォーマルハウトA から 1.58 × 105 AU,TW PsA からは 2.03 × 105 AU 離れている.ハーシェルによる LP 876-10 の観測からは,この天体もデブリ円盤を持つことが示唆されている.デブリ円盤を持っていることが分かっている M 型星の頻度は比較的まれである (Kennedy et al. 2014).
ここでは,TW PsA と LP 876-10 を,それぞれフォーマルハウトB,C と呼称している.
シミュレーションの結果から,現在のフォーマルハウトA, B, C の間隔は ~ 500 Myr の間に渡って維持されることが示された.
Shannon et al. (2014) では,フォーマルハウトC は現在フォーマルハウト系から弾き出されている最中の遷移状態に位置していることが示唆されていた.しかし今回の計算では,~ 7%で間隔は観測値を保つ.この割合は SHannon et al. (2014) が示したものより有意に高い.
また,系における恒星の間隔と階層構造は系の寿命の間大きく変化しない事が示唆された.
arXiv:1709.07006
Kaib et al. (2017)
Simulations of the Fomalhaut System Within Its Local Galactic Environment
(局所銀河環境におけるフォーマルハウト系のシミュレーション)
概要
フォーマルハウトA は最もよく研究されている近傍の恒星の一つである.この恒星の周りには,惑星と思われる天体フォーマルハウトb が発見されており,さらに離心率を持った形状のダストの帯も持つ.離心軌道にあるダストベルトはしばしば,1 個かそれ以上の,直接検出されていない惑星の力学的特徴であると解釈される.しかしこの系は,フォーマルハウトA から ~ 105 AU 離れた場所に 2 つの恒星の伴星を持っている.
ここでは.フォーマルハウトの伴星の力学的な進化とあわせて,フォーマルハウトA の惑星ダストベルトの進化をモデル化した,これらの伴星が,ダストベルトの分布の形状を再現する可能性があるかどうかを判断するための,新しいシンプレクティック積分を開発した.
数値シミュレーションを用いた結果,フォーマルハウトA と フォーマルハウトB の近接遭遇が発生しうることを見出した.発生しうる近接遭遇のうち ~ 25%の確率で,2 つの恒星はお互いの 400 AU の距離を通過する.このような遭遇の結果として起こる帰結には非常に多様性があるが,これらの近接遭遇はほとんど常にフォーマルハウトA のダストベルトの軌道離心率を励起し,それらのうちいくらかは観測されているダストベルトの形状に非常に似た状態を作り出す場合もある.
これらの結果を元に,フォーマルハウトA の伴星との近接遭遇は,離心軌道を持つダストベルトの起源として考慮されるべきであるという点について議論する.特に,観測されているダストベルトの形状を形作れような惑星が検出されない場合,伴星の遭遇によってダストベルト形状が歪められたという可能性を考慮すべきである.
より一般的な結果としては,非常に遠距離にある伴星の恒星は,しばしば中心星が持つデブリ円盤に非対称性を生じさせ得るということが,今回の研究から結論付けられる.
フォーマルハウト系について
ダストベルトの発見
主星のフォーマルハウトA は 1980 年代に,スペクトルに赤外超過 (infrared excess) を持つことが観測され,星周ダストを持つことが示唆されている (Gillett 1986, Aumann 1985など).その後の 10 年でのサブミリ波を用いた電波観測では,この恒星のダスト円盤は,内側に半径 ~ 100 AU の大きな空洞を持つ,帯状の分布をしている事が示唆された (Holland et al. 1998など).しかし,より新しい観測では別の軽いダスト源が 8 - 15 AU の距離に存在していることが示されている (Stapelfeldt et al. 2004など).
ハッブル宇宙望遠鏡を用いた外側のダストベルトの可視光観測では,外側のダストベルトははっきりとした内縁を持ち,またダストベルトの中心はフォーマルハウトA の位置とはずれていることが判明した.そのため,ダストベルトの形状は円形ではなく,離心軌道にあることが分かった (Kalas et al. 2005).
その後の,ミリ波,サブミリ波,赤外線,可視光での観測でもダストベルトの形状が確認され,軌道離心率は 0.12 ± 0.01 (Ricci et al. 2012など) と推定されている.
惑星候補天体の検出とダストベルト
外側のダストベルトの内縁が鋭いことと,分布が円軌道ではないことから,フォーマルハウトA はダストベルトの形状を重力的に形作るための少なくとも 1 つの惑星を持つ可能性が指摘された.ダストベルトの内側を公転する惑星が存在した場合,観測されているベルトの形状を説明できると考えられた (Wyatt et al. 1999など).その後,Kalas et al. (2008) は小さな可視光の点源フォーマルハウトb がダストベルトの内側を公転していることを報告し,惑星と思われるこの天体がダストベルトの形状の原因であると予想された.しかしその後の赤外線の観測ではこの天体を検出することができず,最初の観測で推定された惑星の質量や,あるいはそもそも惑星かどうかという点については現在でも議論がある (Marengo et al. 2009など).
さらなるハッブル宇宙望遠鏡の観測では,この惑星候補天体は大きな軌道離心率を持ち,ダストベルトの形状を再現できない可能性があることが指摘されている (Kalas et al. 2013, Beust et al. 2014).さらに,そのような軌道にある重い惑星は,ベルトのコヒーレント形状をすぐに壊してしまうことも指摘されている (Kalas et al. 2013など).
これらの研究から,フォーマルハウトb は巨大なリング系を伴った低質量の惑星であるとするもの (Kalas et al. 2008),不規則衛星のダスト雲を伴った低質量の惑星であるとするもの (Kennedy & Wyatt 2011, Tamayo 2014),惑星同士の衝突後のダスト雲であるとするもの (Kalas et al. 2013, Tamayo 2014, Lawler et al. 2015),あるいは無関係の背景の中性子星とする意見まである (Neuha ̈user et al. 2015).
そのためフォーマルハウトA の近くに発見されている点源は,ダストベルトの形状を形作る原因ではない可能性もある.そのため,未発見の惑星 1 つあるいは複数がダストベルトの形状の原因となり,さらに検出されている天体 (フォーマルハウトb) を特異な軌道に散乱したという説が提案されている (Chiang et al. 2009など).
他の可能性としては,羊飼い惑星のセットがダストベルトの両側を公転しており,コヒーレントな楕円形状を形成しているという説 (Boley et al. 2012) も提案されている.このような惑星は数地球質量程度の質量で十分であり,検出限界のため検出されていないことは十分に考えられる.
フォーマルハウト系の伴星
主星,ダストベルト,惑星候補天体の他に,フォーマルハウト系は他のメンバーも持つ.1938 年には,K4V 星である TW PsA (みなみのうお座TW星) はフォーマルハウトA の伴星ではないかと疑われた (Luyten 1938).より最近の,TW PsA の位置,運動学,特性の解析から,この 2 つの天体が無関係の恒星である可能性は非常に低いことが示されている (Mamajek 2012).
この 2 つは 5.74 × 104 AU 離れた,重力的に束縛されたペアであると推定されている (Barrado y Navascues et al. 1997など).
さらに最近,フォーマルハウトA と TW PsA の近くに,似た運動を行う天体として,三番目の天体 LP 876-10 が同定された,この天体が偶然近くにいるだけの背景星である確率はわずか ~ 10-5 と推定されている (Mamajek et al. 2013).
三番目の恒星は M 型星で,フォーマルハウトA から 1.58 × 105 AU,TW PsA からは 2.03 × 105 AU 離れている.ハーシェルによる LP 876-10 の観測からは,この天体もデブリ円盤を持つことが示唆されている.デブリ円盤を持っていることが分かっている M 型星の頻度は比較的まれである (Kennedy et al. 2014).
ここでは,TW PsA と LP 876-10 を,それぞれフォーマルハウトB,C と呼称している.
計算モデル
ここでは,フォーマルハウト系の三重星系に,局所銀河環境による擾乱の効果を入れて過去 500 Myr の運動を計算した.シミュレーションの結果から,現在のフォーマルハウトA, B, C の間隔は ~ 500 Myr の間に渡って維持されることが示された.
Shannon et al. (2014) では,フォーマルハウトC は現在フォーマルハウト系から弾き出されている最中の遷移状態に位置していることが示唆されていた.しかし今回の計算では,~ 7%で間隔は観測値を保つ.この割合は SHannon et al. (2014) が示したものより有意に高い.
また,系における恒星の間隔と階層構造は系の寿命の間大きく変化しない事が示唆された.
天文・宇宙物理関連メモ vol.365 Anderson et al. (2017) 温暖な木星型惑星とガス惑星・氷惑星の中間質量の惑星の発見