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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1708.01621
Ginzburg et al. (2017)
Core-powered mass loss sculpts the radius distribution of small exoplanets
(コア駆動質量放出が小型系外惑星の半径分布を形作る)

概要

最近の観測では,小さい系外惑星の半径分布に "谷" が発見されている.これは,1.5 - 2.0 地球半径の惑星は,これより大きい惑星および小さい惑星と比べ,著しく存在個数が少なく,発見されている系外惑星の半径の分布図上で "谷" 状の欠乏領域を形成する.

この谷の存在は,重いガスのエンベロープに包まれているため半径が大きくなっている岩石惑星か,検出可能な大気を全く持たない岩石惑星の,二峰性の集団の存在を示唆する可能性がある.

この二峰性分布を説明するためのひとつの説は,恒星からの高エネルギーの光子による惑星大気の損失である.

ここではそれとは別の機構を提案する.軽いエンベロープを散逸される一方で重い物質は保持するような冷却岩石コアの光度は,中間サイズの惑星の欠乏の原因となりうる.

エンベロープの降着,冷却と質量放出を自己無撞着に考慮して惑星のポピュレーションを進化させた結果,恒星からの高エネルギーの入射フラックスの有無に関わらず,コア起源の質量放出は観測されている半径分布を自然に説明出来ることを示す.

Ginzburg et al. (2016) では,原始惑星系円盤が消失した後,冷却する大気の内層から放出される熱が,惑星にゆるやかに束縛された外層を解放することを示した.このタイムスケールは数百万年である.結果として,惑星の半径は岩石コアの 2 倍程度にまで収縮すると示した.

この段階からのガスエンベロープの運命は,ガスエンベロープの熱容量と岩石コアの熱容量の比率によって決まる.もしコアの熱容量が重要である場合,岩石コアの冷却光度は上方にある大気を全て剥ぎ取り,裸のコアを残すことになる.一方でより重い大気を持つ場合は,コア光度に影響されること無く生き残って冷却する.
重いエンベロープは影響を受けず,一方で軽いエンベロープは完全に失われるため,コア駆動の質量放出は最終的な大気質量と惑星半径の二峰性分布を自然に生成することが出来る.

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1708.02051
Feng et al. (2017)
Color difference makes a difference: four planet candidates around tau Ceti
(色の違いが違いが作る:くじら座タウ星のまわりの 4 つの惑星候補)

概要

地球に類似した惑星を視線速度法を用いて検出する上で,主要な困難の一つが,シグナルからのノイズの除去である.ここでは,tau Ceti (くじら座タウ星) の視線速度データを解析し,波長依存性のあるノイズの確実な証拠を発見した.またこのノイズは,移動平均モデルと “differential radial velocities” の組み合わせでモデル化出来ることを発見した.

このノイズモデルをくじら座タウ星の視線速度データに適用した結果,20.0, 49.3, 160, 642 日の 4 つの周期的シグナルを検出した.これらは惑星起源のシグナルであると解釈される.

軌道周期 20.0 日と 49.3 日の 2 つの新しいシグナルを同定する一方,これまでに存在が疑われていた約 160 と約 600 日のシグナルを高精度で定量化した.

また,20.0 日のシグナルは KECK データでも独立に検出された.

この解析で検出された全ての惑星は,4 地球質量より小さい最小質量を持ち,長周期の惑星 2 つはそれぞれハビタブルゾーンの内縁と外縁周辺に位置している.

機器のノイズは HARPS の精度限界として 0.2 m/s を与えることを発見した.また,HARPS データと,スペクトル線形状の中心積率との間に,0.5 m/s の水準で相関があることも発見した.ただしこの中心積率は,ノイズとシグナルの両方を含んでいると思われる.今回の解析で検出されたシグナルは半振幅が 0.3 m/s 程度であり,比較的弱いシグナルを検出する視線速度技術の可能性を示すものである.

視線速度法での惑星検出技術

視線速度法による地球類似惑星の検出

視線速度観測の精度は,近年では数メートル毎秒の変化を測定できる水準にまで進化した.特に High Accuracy Radial Velocity Planet Searcher (HARPS) 分光器は,視線速度の測定精度が 1 m/s 程度になり,スーパーアースの検出も可能になった.

しかしこの精度は,近傍星のハビタブルゾーン内の地球類似惑星を検出するためには精度が足りない.このような惑星を検出するためには 10 cm/s の測定精度が必要とされる (Mayor et al. 2014).また,恒星や機器のノイズから惑星のシグナルを検出するための,統計的なツールやノイズモデルが必要である.


視線速度測定において,惑星によるケプラーシグナルは,恒星活動や恒星の自転,観測時間の非一様なサンプリングなどによって,弱められたり壊されたりする.
これらのノイズの一部は,Ca II HK emission や line bisector span やスペクトル線の幅など,様々な恒星の活動指標を用いて取り除くことが出来る.しかし活動指標とそれらに対応する視線速度の関連は非常に複雑で必ずしも決定論的ではなく,惑星候補シグナルの確定に際して論議を呼ぶことがある.

Differential RVs

波長で平均した視線速度は,適切な重み付けや補正が無いために,波長依存性のあるノイズを含むことがある.そのため,ノイズ除去のためには視線速度の波長依存性のモデリングが必要である.

スペクトル線を複数のグループに分割し,各グループで視線速度を平均して,いわゆる “aperture data sets” を生成する.そしてこれらの sperture data sets の間の差を調べる.これがいわゆる “differential RVs” である (Feng et al. 2017).

このモデルをくじら座タウ星の HAPRS での視線速度観測データに適用した.この恒星は,過去の解析で複数惑星系を持つ可能性が指摘されている (Tuomi et al. 2013).
くじら座タウ星は太陽に似た恒星だが,太陽ほど活発ではない.この恒星の HAPRS での観測は現在 9000 データセットを超えている.そのため過去の解析における,0.2 m/s 程度の半振幅のシグナルを検出できる可能性がある.Tuomi et al. (2013) では移動平均モデルを用いて相関したノイズの一部は除去したが,そのノイズモデリングは波長依存性のあるノイズは考慮していないため,おそらく不完全である.

観測・解析結果

惑星候補の 4 シグナル

検出された 20, 49, 160, 600 日のシグナルは,惑星のケプラー運動によるものであると推定される.これらの惑星の最小質量は全て 5 地球質量未満で,特に くじら座タウ星g, h は最小質量は地球と同程度である.また,くじら座タウ星h, e, f はある程度の軌道離心率を持つ.

くじら座タウ星まわりにあるデブリ円盤のベストフィットからの傾き (およそ 30°) が惑星系の傾きと同じだと仮定した場合,惑星の真の質量は最小質量の 2 倍になる (Lawler et al. 2014).

これらの惑星によるシグナルの半振幅は 0.3 m/s であり,太陽類似星まわりの地球類似惑星を検出するために必要な精度である 0.1 m/s に近い.

先行研究との比較

今回同定された惑星候補は,Tuomi et al. (2013) による結果と部分的に一致する.

20, 49 日周期の新しい惑星候補を発見したものの,過去に検出が報告されていた 14, 35 日のシグナルは確認出来なかった.

また,92 日周期のシグナルの兆候は検出されたものの,これは惑星のケプラー運動によるシグナルとは確認出来なかった.これは,全てのデータセットと解の中で整合的に同定されなかったためである.

14 日前後の周期は,観測データから 20 日周期のシグナルを差し引いた際に弱くなる.しかしその逆は真ではなく,この事は 14 日周期のシグナルはケプラー運動由来ではない事を示唆する.

とはいえ,20 日周期を差し引いた後の 14 日周期にもいくつかのケプラー運動の解は存在する.
さらにデータを 3 つの大きなグループに分けた際,14 日周期シグナルは 1 番目の集団では目立っていて,20 日周期シグナルは 2 番目と 3 番目の集団で目立っていた.Tuomi et al. (2013) では最初の 2 つのみを解析しているため,14 日の周期を選んだと考えられる.
しかし,1 番目の集団は,ゆらぎの水準が大きく,半値幅の異常な変動が見られるためデータとして問題がある.さらに,この集団は星震学の変動データを含んでいる,

これらの要素を考慮すると,14 日周期シグナルは 20 日周期シグナルのエイリアスというよりは,恒星活動に誘起されたシグナルであると考えられる.

過去の報告での 35 日周期シグナル,もしくはここで同定された 32 日シグナルは非常に弱い.さらに,35 日周期は Baliunas et al. (1996) で測定された恒星の自転周期である 34 日に近い.ただしこの自転周期は,恒星の活動指標や differential RVs では目立たなかった.

また 1000 日周期シグナルにある 600 日周期シグナルのエイリアスは,もし大きな軌道離心率が可能なのであれば 600 日のシグナルと同程度によくフィット出来ることを発見した.

ここで同定されたシグナルの半値幅は 0.4 - 0.5 m/s であった.これは過去の値である 0.58 - 0.75 m/s より小さい.

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1708.01291
Johnson et al. (2017)
Spin-Orbit Misalignments of Three Jovian Planets via Doppler Tomography
(ドップラートモグラフィーを用いた 3 つの木星型惑星の恒星自転軸-公転軸のずれ)

概要

ホットジュピター HAT-P-41bWASP-79bspin-orbit misalignment (恒星の自転軸と惑星の公転軸のずれ) の測定について報告する.また,軸が揃っているウォームジュピター,ケプラー448b についての結果も合わせて報告する.

これら 3 惑星の spin-orbit misalignment を,ドップラートモグラフィー (Doppler tomography) を用いて測定した.これは,Rossiter-McLaughlin 効果 (RM effect,ロシター効果) による,トランジット中のスペクトル線形状の擾乱を分光学的に分解するという方法である.

HAT-P-41b の 5 回のトランジットの一部に得られたスペクトルの時間分布を解析し,この系の恒星自転軸と惑星公転軸の角度 (spin-orbit angle) を -22.1°と測定した.

Addison et al. (2013) で得られていた WASP-79b の視線速度 RM データを,ドップラートモグラフィーの手法を用いて再解析した.その結果 spin-orbit angle は -99.1°となった.これは Addison et al. (2013) の測定結果と整合的だが,より精密な測定である.

ケプラー448b に関しては,ケプラーの光度曲線とドップラートモグラフィーデータを合わせて解析した.また Lillo-Box et al. (2015) の視線速度のデータセットも使用した.
その結果,恒星自転軸と惑星自転軸はほぼ揃っており,spin-orbit angle は -7.1° であった.これは Bourrier et al. (2015) による結果とはやや不一致であった.

ケプラーの光度曲線の解析から,中心星ケプラー448 の自転周期は 1.27 日と測定された.これと合わせて議論し,3 次元での spin-orbit misalignment は小さく,ほぼ 0°と推定した.

背景

Spin-orbit misalignment の測定とその傾向

Sky-projected spin-orbit misalignment λ は,惑星の軌道角運動量ベクトルと主星の自転角運動量ベクトルの成す角度 (=中心星の自転軸と惑星の公転軸の成す角度) を,天球面上に射影した角度である.

これまでに,多くの系外惑星で spin-orbit misalignment が測定されている.多くはホットジュピター (Winn et al. 2005など) での測定である.

過去の観測から,λ の分布は様々なパラメータの関数として,いくつかのパターンがあることが分かってきた.
Winn et al. (2010) では,主星の有効温度が 6250 K を超えるものの周りでは,両者は不一致な傾向にあり (λ が大きい),一方で低温な恒星まわりでは揃っている傾向 (ラムダが小さい) にあることが指摘されている.

Albrecht et al. (2012) では,軸が揃っていない系は,長い潮汐減衰タイムスケールを持つ傾向にあることを発見した.また Hebrard et al. (2010) は,逆行軌道 (90° < |λ| < 180°) にある 3 木星質量より重い惑星は存在せず,これは軌道傾斜角の潮汐散逸による効果でもあることを指摘した.Dawson (2014) は,これらの傾向は潮汐相互作用と,Kraft break (Kraft 1967) の両サイドにおける中心星の自転の magnetic braking で説明できることを示した.

Misalignment の原因

全体のシナリオとしては,ホットジュピターのいくらかの割合は初期に大きく傾いた軌道にあり,低速で自転する恒星まわりの惑星の軌道傾斜角は,潮汐によって急速に減衰される.一方で高速自転星の周りではそうならない (ただし最も重い部類の惑星を除いては).
しかしこのシナリオにも,潮汐に関する理論的な理解と,より長周期の惑星にずれが見られるかどうかという点で,まだ課題がある (Li & Winn 2016).


恒星の自転軸と惑星の公転軸のずれはホットジュピターを中心星の付近まで運んだプロセスと関係があるとするモデルと,無関係であるとするモデルの,大きく 2 つのモデルがある.
前者は,ホットジュピターは高離心率軌道を介した惑星移動で形成されたとするものである.このタイプには,惑星-惑星散乱 (Rasio & Ford 1996など),Kozai-Lidov 機構 (Fabrycky & Tremaine 2007など) がある.

惑星の軌道移動とはあまり関係なく不一致な軌道をもたらす機構としては,恒星とずれた軸を持つ原始惑星系円盤中での惑星移動がある.円盤の軸のずれの原因としては,全体の角運動量に時間変動を持つ物質の降着によるもの (Bate et al. 2010など),伴星天体や恒星が誕生した星団内での重力トルクによるもの (Batygin 2012など),恒星からの磁気トルクによるもの (Lai et al. 2011など) が提案されている.

観測・解析結果

HAT-P-41b は λ = -22.1°といくらかずれているが,順行軌道である.これは Kraft break を超えている恒星の周りのホットジュピターに典型的な傾向である.

WASP-79b に関しては Addison et al. (2013) のデータをドップラートモグラフィーで再解析した.その結果 λ = -99.1° (+4.1, -3.9) であった.これは Addison et al. (2013) の値 λ = -106° (+19, -13) と整合的だが,より高精度である.

ケプラー448b については,ほぼ揃った角度であり λ = -7.1° であった.これは,値自体は先行研究の λ = -12.1° (Bourrier et al. 2015) とは異なる.しかし見ている結果としては同じで,先行研究では符号の取り方の慣習が異なるために違いが生じたものと考えられる.その他のパラメータに関しては先行研究と矛盾がなかった.

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1708.01363
Tasker et al. (2017)
The language of exoplanet ranking metrics needs to change
(系外惑星のランク付け方法の用語は変更する必要がある)

概要

太陽系の外に 3000 個を超える惑星が確認されている,そのうちの 3 分の 1 は,地球の半径の 2 倍より小さい半径を持つ.

地球と似たサイズの惑星は,そこに生命がいるかどうかという興味の対象となる.次の十年では,このような疑問への取り組みが出来る能力を持った望遠鏡が使えるようになる.
しかし,数千もの惑星が発見されていることと,観測機器の高い需要を考えると,観測する対象の優先順位付けが必要となる.この事は,将来的な居住可能性の研究において系外惑星をランク付けする動機にもなってきた.


一般的に用いられる系外惑星のランク付けの基準には 3 種類が挙げられる (後述).これまでのランク付けの全ては,生命の徴候を示すと思われる系外惑星を同定しようとする試みによるものである.
しかし残念なことに,これらの基準は影の側面を持つ.これらの基準の重要性はしばしばメディアによって誤って解釈されるまた科学コミュニティの中でさえも,これらの基準は惑星の居住可能性の定量的な測定を表しているものだと誤解される.系外惑星の居住可能性の定量的な測定は,現状では不可能である.我々が観測できる特徴は惑星の居住可能性に直接結びつくものではなく,また我々のハビタブル惑星についての一つの基準点 (すなわち我々が立っているこの惑星である地球) は,我々の依存性因子の理解を制限する.

このターゲット選定の基準の濫用は,科学的な結果を宣伝しようとする目的のもと,意図的に行われることがある.これは実効的に疑似科学であり,その結果は重大である.
系外惑星のランク付けに関する基準の不十分な理解は観測リソースの無駄遣いにつながり,大衆の興味を失わせ,系外惑星研究の社会的地位にダメージを与えることにも繋がる.

居住可能性ではなく,検出可能性

‘habitable’ という単語は,一般的にどのような生命の形態をも持ちうる環境であると理解されている.実際のところ,この定義は助けにならない.なぜなら,地球外生命はそれが検出できる場合においてのみ科学的に価値があるからである.そのため,惑星大気の組成に大きな変化を及ぼすような生物学的活動か,惑星表面で反射される放射の波長に大きな変化を及ぼすような生物学的活動のみが観測可能な量である.

例えばエウロパに存在するような地下海は生態系を持つ可能性があるが,エウロパ表面との有機物の一定量の交換がない限り,ロボットによる探査では到達出来ない場所にあるため未発見のままとなる.
同様に,分光観測には遠すぎる惑星も,生命の検出という文脈においては興味の対象とならない.

検出可能な居住可能性に関連するのは,惑星の表面での条件である.しかし系外惑星表面の観測は,最も野心的な将来ミッションにおいてもなお困難なものであり,さらに惑星表面の特徴の観測はその惑星の大気によって阻まれる可能性がある.そのため現状では,観測可能な特性にもとづいて惑星の表面状態を推定することを余儀なくされる.

多くの系外惑星において,観測可能な特性は,恒星からの入射フラックスと,惑星の半径か最小質量である.この情報はまばらであるばかりではなく,その惑星の居住可能性との関係は直線的ではない.

我々が決定できること

惑星の平衡温度と表面温度

恒星からの入射フラックスからは,その惑星の位置における '平衡温度’ を計算することが出来る.これは,恒星の光度,恒星と惑星の距離と,惑星の軌道離心率とアルベド (判明している場合) に依存する.

しかし,惑星の '平衡温度' は,表面温度と同じではない.平衡温度と表面温度の関係は,惑星の大気に依存する.
地球の平衡温度は 255 K であり,これは水の凝固点である 273 K よりもずっと低い値である.大気中の温室効果ガスによって地球の表面温度は 33 K 上昇し,全球平均で 288 K となる.
対照的に金星大気は遥かに高密度で,系外惑星でよく行われるように,地球的なアルベドを用いて計算した場合の平衡温度であるおよそ 300 K よりもずっと高い表面温度を持つ.金星の表面温度は,鉛が溶ける温度である 735 K にもなる.

分光学的研究の観点で最も観測可能なターゲットである,低温な M 型星の近くを公転する惑星の場合は,状況はより複雑になる.このような惑星は自転周期と公転周期が同期した状態,つまり潮汐固定された状態になっている可能性があり,その場合は惑星の片側が永久に恒星に面した状態になっている.
平衡温度の計算からは,これらの惑星は夜側の半球において気体が凝縮することに伴う大気の '崩壊' に晒されることが示唆される (※注:大気成分が低温の夜側の半球で凝結して失われてしまう状態).しかしこれは,惑星の大気が熱を昼側から全球へ再分配することで回避できる.

これと似たような考察が,軌道離心率が大きく,季節変化が大きい惑星に適用できる可能性がある.

惑星の平衡温度と表面温度を結びつけるために,惑星の大気モデルを使用することが出来る,これは理論的には厳密なアプローチだが,これらのモデルは時間を必要とし,また惑星の大気組成,圧力,温度構造などの大気パラメータの詳細な情報に依存している.そのため,観測ターゲット選定のツールとしては使用できない.居住可能であるかもしれない系外惑星を同定するのに平衡温度を用いる場合は,地球的な大気を持っている仮定する必要がある.

惑星組成の縮退

上記のことは,惑星のサイズの問題にも通じる.
惑星の平衡温度が表面温度の代用とはならないように,惑星のサイズが地球と似ていることは,その惑星が地球的な組成であることを意味しない

地球的な大気や地球的な生命が存在するための最小限の条件は,惑星が固体の表面を持つことである.これは,惑星が視線速度法による検出である場合は惑星の最小質量から,トランジット法による検出である場合は惑星の半径から推測する必要がある.もし惑星が木星程度の半径を持っている場合は,この惑星には岩石の表面がないと言っても問題ない.一方で,1 - 4 地球半径の範囲を持つ 'スーパーアース' のクラスが,巨大な岩石惑星なのか,小型のガス惑星なのかは明らかではない.

我々が言える最も確実な事は,1.5 地球半径程度以上の大きさを持ち,質量と半径が測定されている系外惑星は,一般的に海王星的な組成と同程度の平均密度を持つということだけである.バルク密度が分かっているこれらの少数のケースに関しては混乱が小さい.

惑星の組成として可能性があるパターンが複数あり,それぞれ大きく異なる表面の特性を持ちうる.
高密度の鉄を含む岩石に分厚い水素・ヘリウムの大気を持つ場合は,シリケイトが主成分の惑星と同程度の平均密度を持ちうる.同様に,純粋なシリケイトよりも低密度な惑星は,分厚い大気を保持しているか,あるいは全球にに海を持つ惑星である可能性がある.

恒星の組成が異なることによって,系外惑星の岩石組成も大きく変化した地質にする可能性がある.そのため惑星の平衡温度と同様に,惑星の材質も表面状態の良い指標とはならない.惑星の表面環境は,惑星磁場,水の供給と保持,恒星の活動度,惑星への衝突の歴史,自転,年齢,岩石組成,テクトニクスと地球化学的循環を含む,多くの事象の影響を受ける.系外惑星に関して我々が測定できる 2 - 3 種類の観測量はこれらの要素の一部のみと弱く関係しているだけであり,惑星の '居住可能性’ への外挿はほとんど無意味である.

The best of all possible world

系外惑星のランク付けに一般的に使用される 3 つの指標がある.それぞれ,観測可能な系外惑星の特徴を数値化するために,異なる手法を用いている.

星周ハビタブルゾーン

星周ハビタブルゾーン (the circumsteller habitable zone, HZ) は,恒星の周りにおいて,地球と完全に同一な惑星の表面に液体の水が存在し得る領域の事を指す.

この領域内では,地球の温室効果ガスを考慮した場合,平衡温度が 0 - 100℃の間になる.
HZ の中にある事は,表面に水が存在することや,地球とは異なる環境の表面に水が維持されるかどうかを保証するものではない.しかし,地球の双子惑星が存在するのであれば,それらは HZ 内に発見されるだろう.

The Habitability Index for Transiting Exoplanets

The Habitability Index for Transiting Exoplanets (HITE,トランジット惑星の居住可能性指数) は,トランジットする系外惑星のランク付けのために最近考案されたものである.

大まかに言うと,HITE は惑星の半径と軌道離心率に基いて修正された HZ で重み付けをした指数である.HITE の計算の際は,大気中での化学プロセスは地球的なものが保たれていると仮定している.

惑星半径が 1.5 地球半径より小さく,修正された HZ の中心を公転する惑星が高い HITE を持つ.

The Earth Similarity Index

The Earth Similarity Index (ESI,地球類似度指数) は,観測可能な量から導出された惑星の特性を,地球の値からの偏差に基いてランク付けをするものである.

ESI は,異なるサイズと平衡温度を持つ地球類似惑星を実効的に比較している指数である.この基準において,ESI が 0.8 - 1.0 となるものがが ‘Earth-like’ と呼ばれる.

既存の基準の問題点

将来の系外惑星の居住可能性の研究において観測対象を選定するための指標の目標は,地球のような惑星を含む可能性のある,観測可能なパラメータ空間の範囲を定義することである.しかし,観測可能な特性と居住可能性の間の複雑な関係は,指標の値を解釈する時にはしばしば無視される.この事は,「ランク付けが高い場合は生命が存在する可能性が高い」という,間違った仮定に繋がる.

観測可能な惑星の特性の縮退が,これらと居住可能性の関連付けを困難にすることは,太陽系内の例で簡単に実証することが出来る.
例えば,地球と金星は半径と平衡温度 (※注:理論的な平衡温度であり,実際に測定されている表面温度ではない) は似ているため,金星の ESI は 0.9 という値を与える.実際の金星の表面温度は既知であるが,ここでは全ての系外惑星と同じく真の表面温度は不明であると仮定して計算している).
しかし金星の表面は,宇宙探査機でさえも 2 時間を超えて生き残ることは不可能なほどの環境になっている.

これらの基準の誤用として最も広く見られるものは,「HZ の位置が生命のある惑星の存在の代用として使える」というものである.そのような推測がされる唯一の理由は,地球は生命を持っており,太陽の HZ の中にあるということである.

この間違った解釈は,我々が既に ‘Earth 2.0’ を発見したと広く信じられてしまう事に繋がり,バイキングミッションによる生命の検出に関する論争をきっかけに惑星科学界が直面した,火星探査プログラムの資金調達における 20 年にわたる戦いと同じ戦いにコミュニティをさらす危険がある.

What’s in a number?

観測対象を選定する必要性 (また,天体のカタログを並び替えるという欲求) を考えると,これらの基準の使用をやめることは現実的ではない.しかし,誤った解釈をなくすためには以下の対策が必要である.

まず,ターゲット選定のための基準は,その惑星の分光観測データが得られる可能性が無い場合はゼロになるべきである.これは生命の検出可能性に焦点を当てたものである.

使用されている基準の名前を変更するのは簡単ではないが,現在の基準は特に誤解を招くものである.そのため,目標もしくは測定された量のどちらかを反映するものへの改善が考えられる.

例えば,HZ を ’Temperate Zone’ (温暖な領域) と呼ぶことで,恒星の輻射に正しく重点が置かれている名称になる.同様に,HITE に関しては ’Detectable Environment Index’ (検出可能環境指数) とすると,観測目的が明確になる.’Similarity index’ (類似度指数) は認知されている用語だが,より直感的な表現としては ‘Earth Scalability Index’ (地球拡張性指数) とすると,与えられた基準からの偏差による値であることを示す表現になるだろう.

別の方法としては,「生命の存在しない要素」を基準にした数値を割り当てることであり,地球外生命との関連性が低い ’undetectable index’ (検出不可能性指数) を作ることが挙げられる.

最も重要なステップは,ハビタブルゾーンや HITE,ESI などの系外惑星のランク付けの基準を観測対象を選定するためのツールとして議論し,科学的な文献やより広い聴衆向けの資料として,それらの基準の適用範囲を過度に超えないようにすることである.我々が現在持つ知識は,系外惑星が生命を持つかどうかを比較してランク付けするほど十分ではない.「地球が独特の存在であるかどうか」を知る機会を奪う危険に晒されたくない限り,我々は自分達は既になんでも知っているように取り繕うことをやめる必要がある.







系外惑星に関してしばしば使用される「ハビタブルゾーン」や「地球類似度指数」などの用語はミスリーディングなものであり,その濫用に警鐘を鳴らしている論文です.

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1708.01594
Erkaev et al. (2017)
Effect of stellar wind induced magnetic fields on planetary obstacles of non-magnetized hot Jupiters
(非磁化ホットジュピターの惑星障害物における恒星風に誘起された磁場の影響)

概要

磁場を持った恒星風のプラズマと,固有の磁場を持たないホットジュピター,あるいは弱く磁化したホットジュピターの,高層大気から散逸する部分電離した流体力学的な水素のアウトフローとの相互作用について研究した.

よく研究されているホットジュピター HD 209458b をサンプルとし,惑星の固有磁気モーメントは無視できる程度の大きさであると仮定した.このような惑星では,恒星風プラズマとの相互作用は惑星の高層大気に障害物を形成する.磁気圏界面の場所は,恒星風と,恒星からの極端紫外線放射によって加熱されている,広がる大気の間の圧力バランスの状況によって決まる.

ここでは,中性の惑星大気原子は,恒星風主体の領域に貫入することを示す.大気原子はその領域内で光電離と電荷交換によってイオン化され,恒星風の流れと混合される.

3 次元の磁気流体力学モデルを用い,誘起された磁場が惑星の障害物の前面に形成されることを示した.これは,金星や火星の大気と太陽風の相互作用によって形成されるものよりもずっと強いものである.形成される位置は恒星風のパラメータに依存するが,誘起された磁場の影響で惑星障害物は 0.5 - 1 惑星半径程度,惑星側に近い位置になる.

最後に,惑星の流体力学的な高層大気と磁気流体力学的な恒星風との相互作用モデルとこれまでの紫外線での観測結果を合わせて,ホットジュピターの固有磁場に対してどのように示唆が与えられるか議論した.特に,HD 209458b は木星の 10 - 20%の固有磁気モーメントを持っている可能性がある.

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