×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1708.01076
Evans et al. (2017)
An ultrahot gas-giant exoplanet with a stratosphere
(成層圏を持つ非常に高温な巨大系外ガス惑星)
もし大気上層が下層より低温の場合,大気中の分子ガスは惑星の温度スペクトル中における吸収として特徴が現れる.反対に,もし成層圏,すなわち温度が高度に伴って上昇する層が存在した場合,分子ガスは放射として観測される.
成層圏は,強く輻射を受けている系外惑星で形成されることが示唆されているが,成層圏の形成がどの程度起きるものかについては,理論的にも観測的にも解決されていない.過去の観測における成層圏の存在の主張には疑問の余地が残されている.これは,大きな変動性を持つ中心星と,低スペクトル分解能の観測から来る,大気構造の特定の困難さからくるものである.
ここでは,非常に高温な巨大ガス惑星 WASP-121b の近赤外線での温度スペクトルの測定結果について報告する.この惑星は平衡温度がおよそ 2500 K である.
スペクトル中には,水 (水蒸気) が放射スペクトルとして分解され,これにより 5 σ の信頼度で系外惑星の大気中に成層圏が検出されたことを意味する.
この観測は,惑星大気に入射する恒星の放射のうち多くの割合が,大気の高高度に保持されることを示唆している.これはおそらく,気相にある酸化バナジウムと酸化チタンのような化学種による,恒星輻射の吸収によるものであると考えられる.
二次食は 2017 年 1 月 30 日にも,スピッツァー宇宙望遠鏡の Infrared Array Camera (IRAC) で 3.6 µm で観測された.
等温の黒体で観測データを説明できないという点は,温度スペクトルは異なる温度を持った大気層の範囲を観測していることに対応していると考えられる.1.35 - 1.55 µm と 1.20 - 1.25 µm の範囲で放射が最も強くなっていることから,これらの波長で大気が光学的に厚くなっている圧力領域は温度が高いことを意味する.
T-P profile (温度-圧力プロファイル) が減少傾向 (つまり,圧力が下がるにつれ温度も低下している) にある場合,周囲の波長と比較して大気の不透明度が比較的低い状況である場合のみ観測を説明可能である.しかし,考えられる気相の吸収体 (水,一酸化炭素,酸化バナジウム,酸化チタン,FeH,CrH) はそのような性質を持たない.
また,難揮発性の凝縮物 (Al2O3, CaTiO3, FeO, MgSiO3, MgSiO4 など) は WFC3 のバンドパス内ではスペクトルの特徴を持たない.
そのため,増加する T-P profile のみが残された可能性である.
その結果,最も観測と一致したスペクトルは,大気の不透明源として,水と酸化バナジウムの不透明度のみを含むモデルであった.モデルでは,成層圏は 10-1 - 10-5 bar の範囲まで広がり,この圧力範囲の間での温度増加は 1114 K であった.
圧力が 10-3 bar より低い高層の温度を 2700 K まで上昇させるのに必要なエネルギーは,恒星からのフラックスの 20%以上に相当すると推定される.
この惑星のスペクトルの特徴について,温度領域的には,スペクトル型が M8 や L1 の矮星に近い.しかしそのような天体の熱輻射では,1.35 - 1.55 µm や 1.8 - 2.1 µm あたりに水による吸収の特徴を示す.
WASP-121b の場合,1.35 - 1.55 µm の部分は吸収ではなく放射として現れている.また 1.20 - 1.25 µm に酸化バナジウムによる可能性がある放射の特徴が見られた.
arXiv:1708.01076
Evans et al. (2017)
An ultrahot gas-giant exoplanet with a stratosphere
(成層圏を持つ非常に高温な巨大系外ガス惑星)
概要
惑星からの赤外線放射は,惑星大気の化学組成と温度の鉛直分布についての情報を含んでいる.もし大気上層が下層より低温の場合,大気中の分子ガスは惑星の温度スペクトル中における吸収として特徴が現れる.反対に,もし成層圏,すなわち温度が高度に伴って上昇する層が存在した場合,分子ガスは放射として観測される.
成層圏は,強く輻射を受けている系外惑星で形成されることが示唆されているが,成層圏の形成がどの程度起きるものかについては,理論的にも観測的にも解決されていない.過去の観測における成層圏の存在の主張には疑問の余地が残されている.これは,大きな変動性を持つ中心星と,低スペクトル分解能の観測から来る,大気構造の特定の困難さからくるものである.
ここでは,非常に高温な巨大ガス惑星 WASP-121b の近赤外線での温度スペクトルの測定結果について報告する.この惑星は平衡温度がおよそ 2500 K である.
スペクトル中には,水 (水蒸気) が放射スペクトルとして分解され,これにより 5 σ の信頼度で系外惑星の大気中に成層圏が検出されたことを意味する.
この観測は,惑星大気に入射する恒星の放射のうち多くの割合が,大気の高高度に保持されることを示唆している.これはおそらく,気相にある酸化バナジウムと酸化チタンのような化学種による,恒星輻射の吸収によるものであると考えられる.
観測と解析結果
二次食の観測
2016 年 11 月 10 日に,ハッブル宇宙望遠鏡の Wide Field Camera 3 (WFC3) を用いて WASP-121b の二次食を観測した.この観測では,1.1 - 1.7 µm の波長域のスペクトルを取得した.二次食は 2017 年 1 月 30 日にも,スピッツァー宇宙望遠鏡の Infrared Array Camera (IRAC) で 3.6 µm で観測された.
モデルフィッティング
惑星の熱放射のスペクトルを,惑星を等温の黒体とみなしてフィットした場合,大気温度は 2700 ± 10 K となった.しかしこのモデルは,あまり観測と一致しない.そのため,等温の黒体スペクトルのモデルに関しては 5 σ の確度で排除される.等温の黒体で観測データを説明できないという点は,温度スペクトルは異なる温度を持った大気層の範囲を観測していることに対応していると考えられる.1.35 - 1.55 µm と 1.20 - 1.25 µm の範囲で放射が最も強くなっていることから,これらの波長で大気が光学的に厚くなっている圧力領域は温度が高いことを意味する.
T-P profile (温度-圧力プロファイル) が減少傾向 (つまり,圧力が下がるにつれ温度も低下している) にある場合,周囲の波長と比較して大気の不透明度が比較的低い状況である場合のみ観測を説明可能である.しかし,考えられる気相の吸収体 (水,一酸化炭素,酸化バナジウム,酸化チタン,FeH,CrH) はそのような性質を持たない.
また,難揮発性の凝縮物 (Al2O3, CaTiO3, FeO, MgSiO3, MgSiO4 など) は WFC3 のバンドパス内ではスペクトルの特徴を持たない.
そのため,増加する T-P profile のみが残された可能性である.
大気構造の推定
得られたスペクトルの解釈をするため,大気リトリーバル (復元) メソッドを使用した.この復元では,水,酸化チタン,酸化バナジウム,FeH,CrH,一酸化炭素,メタン,アンモニアの存在度をフリーパラメータとして設定した.また,これらのガスが大気の鉛直方向によく混合されていると仮定した.その結果,最も観測と一致したスペクトルは,大気の不透明源として,水と酸化バナジウムの不透明度のみを含むモデルであった.モデルでは,成層圏は 10-1 - 10-5 bar の範囲まで広がり,この圧力範囲の間での温度増加は 1114 K であった.
圧力が 10-3 bar より低い高層の温度を 2700 K まで上昇させるのに必要なエネルギーは,恒星からのフラックスの 20%以上に相当すると推定される.
この惑星のスペクトルの特徴について,温度領域的には,スペクトル型が M8 や L1 の矮星に近い.しかしそのような天体の熱輻射では,1.35 - 1.55 µm や 1.8 - 2.1 µm あたりに水による吸収の特徴を示す.
WASP-121b の場合,1.35 - 1.55 µm の部分は吸収ではなく放射として現れている.また 1.20 - 1.25 µm に酸化バナジウムによる可能性がある放射の特徴が見られた.
PR
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1708.00450
Hughes & Boley (2017)
Simulations of Small Solid Accretion onto Planetesimals in the Presence of Gas
(ガスが存在する状況での小さい固体の微惑星への降着のシミュレーション)
全ての初期成長のモデルでは,粒子が大きいサイズに成長するのを阻害するいくつかの過程がある.しかし観測からは,微惑星の成長は早いことが示唆されている.
もし少数の 100 km サイズの微惑星が円盤内で何とかして形成された場合,ガス摩擦の効果によって,重力的にフォーカスされた微惑星の断面積を超えた領域から,固体を効率的に降着することが出来る (いわゆる pebble accretion).このガス摩擦に増幅された降着により,原理的には微惑星は速い速度で成長することが出来る.
ここでは,ペブル降着による微惑星の成長の速度を推定するため,直接粒子積分とガス摩擦を組み合わせた自己無撞着な流体力学シミュレーションを行った.風洞シミュレーションを用いて,粒子サイズと円盤の状態の範囲について調べた.
また微惑星成長の解析的推定についても研究し,小さい個体の降着による微惑星の移動を数値的に積分した.
その結果,ここで考慮したほとんどすべてのケースにおいて,降着に適した粒子のサイズが存在することが分かった.降着に適したサイズは,降着している微惑星の特性と局所的な円盤の状態に依存する.
降着に望ましい粒子サイズよりも固体がずっと小さい場合,粒子がガスに引きずられ微惑星の周囲を流れるのに従って降着率は大きく減少する.固体が望ましいサイズよりずっと大きい場合は,重力的な集約 (gravitational focusing) と整合的な速度で降着する.
arXiv:1708.00450
Hughes & Boley (2017)
Simulations of Small Solid Accretion onto Planetesimals in the Presence of Gas
(ガスが存在する状況での小さい固体の微惑星への降着のシミュレーション)
概要
若い原始惑星系円盤中での微惑星の成長と移動は,惑星形成過程において重要な役割を果たす.全ての初期成長のモデルでは,粒子が大きいサイズに成長するのを阻害するいくつかの過程がある.しかし観測からは,微惑星の成長は早いことが示唆されている.
もし少数の 100 km サイズの微惑星が円盤内で何とかして形成された場合,ガス摩擦の効果によって,重力的にフォーカスされた微惑星の断面積を超えた領域から,固体を効率的に降着することが出来る (いわゆる pebble accretion).このガス摩擦に増幅された降着により,原理的には微惑星は速い速度で成長することが出来る.
ここでは,ペブル降着による微惑星の成長の速度を推定するため,直接粒子積分とガス摩擦を組み合わせた自己無撞着な流体力学シミュレーションを行った.風洞シミュレーションを用いて,粒子サイズと円盤の状態の範囲について調べた.
また微惑星成長の解析的推定についても研究し,小さい個体の降着による微惑星の移動を数値的に積分した.
その結果,ここで考慮したほとんどすべてのケースにおいて,降着に適した粒子のサイズが存在することが分かった.降着に適したサイズは,降着している微惑星の特性と局所的な円盤の状態に依存する.
降着に望ましい粒子サイズよりも固体がずっと小さい場合,粒子がガスに引きずられ微惑星の周囲を流れるのに従って降着率は大きく減少する.固体が望ましいサイズよりずっと大きい場合は,重力的な集約 (gravitational focusing) と整合的な速度で降着する.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1708.00767
Lambrechts & Lega (2017)
Reduced gas accretion on super-Earths and ice giants
(スーパーアースと巨大氷惑星における少ないガス降着)
これらの観測とは対照的にに,静水圧平衡のエンベロープの進化に基づいた理論的計算は,このような低質量エンベロープは 5 地球質量を超えるコアの周りでは維持できない事が指摘されている.その代わりに,一般的な円盤の状況下では,これらの惑星は原始惑星系円盤の寿命の間に暴走的ガス降着を通じて,重いエンベロープを獲得して巨大ガス惑星に成長してしまう.
ここでは,形成途中の惑星のエンベロープは静力学的平衡の状態にはなく,この効果によってエンベロープの成長は遅くなることを示す.
3 次元の大局的な輻射流体力学シミュレーションを用いることで,定常状態のガス流を明らかにすることが出来る.この流れは惑星の両極から進入し,円盤の中心平面で外へ抜けていく.ガスは惑星の外部エンベロープを,およそ 10 軌道タイムスケールのうちに通過する.
ダストが大きく減少していない円盤領域においては,およそ 5 地球質量のコアへのエンベロープ降着は,ガス流が深い内部に入るに従って押しとどめられる.惑星は降着した固体は対流している内部で昇華するが,不透明度の源になっている小さい粒子は流れの中にトラップされて沈殿しない.これによりさらに速いエンベロープ降着を阻害する.
しかし,暴走的なガス降着状態への遷移は,コアが典型的なスーパーアースの質量である 15 地球質量より大きくなった時に起きる.また,円盤の不透明度が 1 cm2/g を下回った時に起きやすい.これらの発見は,スーパーアースのコアまわりの典型的な低質量エンベロープの説明になる可能性がある.
arXiv:1708.00767
Lambrechts & Lega (2017)
Reduced gas accretion on super-Earths and ice giants
(スーパーアースと巨大氷惑星における少ないガス降着)
概要
巨大惑星の多くの割合は,惑星全体の質量の 10%程度のガスエンベロープを持つ.このような惑星は太陽系に存在し (天王星,海王星),他の恒星の周りの短周期軌道でも頻繁に観測される.いわゆるスーパーアースに分類される惑星である.これらの観測とは対照的にに,静水圧平衡のエンベロープの進化に基づいた理論的計算は,このような低質量エンベロープは 5 地球質量を超えるコアの周りでは維持できない事が指摘されている.その代わりに,一般的な円盤の状況下では,これらの惑星は原始惑星系円盤の寿命の間に暴走的ガス降着を通じて,重いエンベロープを獲得して巨大ガス惑星に成長してしまう.
ここでは,形成途中の惑星のエンベロープは静力学的平衡の状態にはなく,この効果によってエンベロープの成長は遅くなることを示す.
3 次元の大局的な輻射流体力学シミュレーションを用いることで,定常状態のガス流を明らかにすることが出来る.この流れは惑星の両極から進入し,円盤の中心平面で外へ抜けていく.ガスは惑星の外部エンベロープを,およそ 10 軌道タイムスケールのうちに通過する.
ダストが大きく減少していない円盤領域においては,およそ 5 地球質量のコアへのエンベロープ降着は,ガス流が深い内部に入るに従って押しとどめられる.惑星は降着した固体は対流している内部で昇華するが,不透明度の源になっている小さい粒子は流れの中にトラップされて沈殿しない.これによりさらに速いエンベロープ降着を阻害する.
しかし,暴走的なガス降着状態への遷移は,コアが典型的なスーパーアースの質量である 15 地球質量より大きくなった時に起きる.また,円盤の不透明度が 1 cm2/g を下回った時に起きやすい.これらの発見は,スーパーアースのコアまわりの典型的な低質量エンベロープの説明になる可能性がある.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1708.00016
Crossfield & Kreidberg (2017)
Trends in Atmospheric Properties of Neptune-Size Exoplanets
(海王星サイズ系外惑星の大気特性における傾向)
これらの相関は,低い平衡温度における,より光学的に厚い光化学的に生成されるヘイズが存在することか,半径が小さく低い fHHe を持つ惑星大気の金属量が高いことのどちらか,あるいはその両方を示唆する.
また,将来的にジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (James Webb Space Telescope, JWST) の NIRISS を用いた観測で,確実に傾向を見分けるために必要な観測時間の推定を行うため,解析的な関係式を導出した.これを用いると,TESS を用いて将来発見される系外惑星のうちの 8 分の 1 程度が,JWST での大気分光観測に適していると予想される.
大気特性におけるこれらの傾向を惑星または惑星系の関数として確認するためには,多くのサンプル数の惑星の追加観測が必要である.もしこれらの傾向が確認されれば,惑星科学コミュニティは大気研究の新しい対象の優先順位付けを行い,最終的には大気化学,組成,雲の特性における複雑な縮退を解くことが出来る.
ここで言うウォームネプチューンには,比較的小さいスーパーアースと,豊富なガスを持つものの双方を含んでいる.
中間サイズの惑星の存在には多くの疑問点が存在する.
何がその成長を阻害し,木星のような巨大ガス惑星になるのを防いだのか?それぞれの惑星系のどこで形成したのか?なぜ太陽系はそのようなサイズ領域の惑星が存在しないのか?
これらの疑問に答えるためのアプローチの一つが,惑星の全体の組成 (bulk composition,バルク組成) を知ることである.
惑星形成モデルでは,ウォームネプチューンの大気組成について 2 つの大きな傾向が存在することを予言する.
一つは組成の多様性で,水に富んだ組成を持つ “super-Ganymedes” から,ふわふわした H/He エンベロープを持つ惑星まで,多様な組成の惑星が存在する (Elkins-Tanton & Seager 2008など).
この多様性の特徴は,惑星質量-半径ダイアグラムに現れる.海王星質量の惑星は,密度にしてファクター 3 のバラ付きがあることが分かっている (Weiss & Marcy 2014).
ウォームネプチューンは大気中にいくらかの水素を持つだろう.しかしコア質量とエンベロープの金属量 (M/H) の間には強い縮退があり,このことが,質量と半径の測定のみからウォームネプチューンのバルク構成を正確に決定することを難しくしている.
もう一つの定性的な予言は,小さい惑星の大気は木星サイズの惑星よりも金属量が多いというものである (Fortney et al. 2013など).
惑星に落下する微惑星は溶発されて大気を汚染する.低質量の惑星の場合,エンベロープ中の重元素量の増加は明白に現れると考えられる.これは,巨大ガス惑星に比べて重元素を希釈するガスが少ない事が原因である.
実際に太陽系のガス惑星では,惑星質量が少ない方が金属量 M/H が大きいという著しい傾向があり,これはホットジュピターにも適用される (Kreidberg et al. 2014).
低質量の系外惑星でもこれらの傾向はおおむね整合的だが,観測の不定性が大きい (Moses et al. 2013など).
幾つかの惑星は水に由来するスペクトルの特徴を持つ (Fraine et al. 2014など).一方で他の惑星は,平坦で特徴に欠けたスペクトルを示す (Kreidberg et al. 2014など).
惑星の大気組成の平均分子量が高い場合か,大気の高高度に雲かヘイズが存在する場合に,惑星大気のスペクトルは特徴に欠けたものになり得る.また,スペクトルに特が検出された場合においても,雲無しの太陽組成の大気に期待される強度よりも特長が弱いこことも分かっている (Fraine et al. 2014).
これまでにも系外惑星の透過スペクトル中の傾向を調べた研究はある (Stevenson 2016, Heng 2016).しかしこれらは主にホットジュピターに関するもので,これらの大気はウォームネプチューンの大気とは大きく異なると思われる.
上記の選定条件では 55 Cnc e (かに座55番星e) は除外される.この惑星のバルク構成は,揮発性の元素を持たないか,持っていても僅かであるとする場合と整合的であり (Demory et al. 2016),もしこの惑星が大気を持っていたとしても (Ridden-Harper et al. 2016など),中心星から強く輻射を受けているため,我々の最終的なサンプルとは大きく異なる特徴を持っているだろうと予想される.
条件を満たしているものの中から更に制限をかけ,最終的に 6 惑星を選定した.ここでの制限は,例えば恒星の変動によって異なる時期での観測に影響が及んでいる可能性を考慮したものなどである.また,主星の非一様な表面輝度によって特に短波長側でスペクトルにスロープが生じる可能性についても考慮した.
解析の結果,惑星質量に占める水素・ヘリウムの割合が大きくなるほど,水の特徴も大きくなる傾向が見られた.
この傾向の解釈として有り得るものは,小さな H/He エンベロープの大気は高い金属量を持ち,従って実際のスケールハイト H はここで予想しているスケールハイト HHHe より小さいというものである.
この HHHe は,惑星大気の平均分子量を 2.3 とした,水素・ヘリウム主体の大気の場合のスケールハイトである.
この解釈は,惑星形成モデルの予言,すなわち小さいエンベロープは降着する微惑星でより汚染されているという予測 (Fortney et al. 2013, Venturini et al. 2016) と合う.
もしスペクトル中の水の特徴の大きさが大気の金属量のみに依存するのであれば,観測されたスペクトルから大気の平均分子質量の下限値を与えるのに使うことが出来る.
水の特徴の振幅が平均分子量に線形依存すると仮定すれば,選定したサンプル中で最も大きい惑星である HAT-P-11b と HAT-P-26b の平均分子量は 2.3 と推定される,また,GJ 3470b,GJ 436b,GJ 1214b はそれぞれ 8 ± 2,10 (+9, -4),61 (+63, -24) と推定される.
GJ 3470b,GJ 436b のケースは信頼できそうだが,GJ 1214b の透過スペクトルは非常に平坦であり,どの揮発性化学種のものよりも大きな金属量の組成が必要である.さらに GJ 1214b のデータは,水の特徴を含んだスペクトルとみなすよりも,統計的に完全に平坦だとみなせることを確認した.
以上より,これらの観測データの説明としては,大気の高高度に存在する凝縮物 (雲かヘイズ) が恒星のフラックスの透過をブロックしているというのが唯一考えられる可能性である.そのためこの結果は,平均分子量との相関と言うより,透過光スペクトルの強度と惑星の平衡温度の相関を示しているものだと考えられる (後述).
惑星大気中の高高度でのエアロゾルを形成するもっともらしい経路は,炭化水素との光化学反応である.タイタン大気中で見られるようなヘイズと似たものが形成される.
Morley et al. (2015) は,高次の炭化水素を “すすの前駆体” とみなして大気中での相互作用をモデル化した.その結果,惑星の平衡温度が 1100 K から 800 K の狭い範囲で下がる間に,これらの化合物の高高度での存在度は強く上昇することを発見した.
このことから,惑星の平衡温度が 800 - 1100 K の間で,ヘイズ無し大気からヘイズに富んだ大気への遷移が起きることが予測される.この予測は,今回得られた平衡温度-水の特徴の強度の図とよく一致した.
このシナリオによると,HAT-P-11b と HAT-P-26b の大気は,スペクトルの特徴を隠すようなヘイズを形成するには温度が高すぎるため,透過スペクトル中に水の強い特徴が現れる.その他のウォームネプチューンはヘイズ形成の閾値より低いため,透過スペクトルを隠してしまうために十分な量のヘイズが生成されている.
今回示されたこの傾向は,同じ平衡温度領域のウォームネプチューンを更に観測することで検証できる.
arXiv:1708.00016
Crossfield & Kreidberg (2017)
Trends in Atmospheric Properties of Neptune-Size Exoplanets
(海王星サイズ系外惑星の大気特性における傾向)
概要
ウォームネプチューン (warm Neptune) の大気観測から,観測と惑星系のパラメータの間の相関について調査した.その結果,95%の信頼度で,ウォームネプチューンの透過光スペクトルの特徴の強度と,惑星の平衡温度,および惑星の質量における水素・ヘリウムの割合 (fHHe) の両方に相関がある事を発見した.これらの相関は,低い平衡温度における,より光学的に厚い光化学的に生成されるヘイズが存在することか,半径が小さく低い fHHe を持つ惑星大気の金属量が高いことのどちらか,あるいはその両方を示唆する.
また,将来的にジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (James Webb Space Telescope, JWST) の NIRISS を用いた観測で,確実に傾向を見分けるために必要な観測時間の推定を行うため,解析的な関係式を導出した.これを用いると,TESS を用いて将来発見される系外惑星のうちの 8 分の 1 程度が,JWST での大気分光観測に適していると予想される.
大気特性におけるこれらの傾向を惑星または惑星系の関数として確認するためには,多くのサンプル数の惑星の追加観測が必要である.もしこれらの傾向が確認されれば,惑星科学コミュニティは大気研究の新しい対象の優先順位付けを行い,最終的には大気化学,組成,雲の特性における複雑な縮退を解くことが出来る.
研究背景
海王星サイズ惑星の特性について
2 - 6 地球半径の短周期惑星 (以降 “warm Neptunes” とする) は,惑星形成の過程で普遍的に形成されると考えられる.ウォームネプチューンは,全恒星に > 25% の頻度で存在している.ここで言うウォームネプチューンには,比較的小さいスーパーアースと,豊富なガスを持つものの双方を含んでいる.
中間サイズの惑星の存在には多くの疑問点が存在する.
何がその成長を阻害し,木星のような巨大ガス惑星になるのを防いだのか?それぞれの惑星系のどこで形成したのか?なぜ太陽系はそのようなサイズ領域の惑星が存在しないのか?
これらの疑問に答えるためのアプローチの一つが,惑星の全体の組成 (bulk composition,バルク組成) を知ることである.
惑星形成モデルでは,ウォームネプチューンの大気組成について 2 つの大きな傾向が存在することを予言する.
一つは組成の多様性で,水に富んだ組成を持つ “super-Ganymedes” から,ふわふわした H/He エンベロープを持つ惑星まで,多様な組成の惑星が存在する (Elkins-Tanton & Seager 2008など).
この多様性の特徴は,惑星質量-半径ダイアグラムに現れる.海王星質量の惑星は,密度にしてファクター 3 のバラ付きがあることが分かっている (Weiss & Marcy 2014).
ウォームネプチューンは大気中にいくらかの水素を持つだろう.しかしコア質量とエンベロープの金属量 (M/H) の間には強い縮退があり,このことが,質量と半径の測定のみからウォームネプチューンのバルク構成を正確に決定することを難しくしている.
もう一つの定性的な予言は,小さい惑星の大気は木星サイズの惑星よりも金属量が多いというものである (Fortney et al. 2013など).
惑星に落下する微惑星は溶発されて大気を汚染する.低質量の惑星の場合,エンベロープ中の重元素量の増加は明白に現れると考えられる.これは,巨大ガス惑星に比べて重元素を希釈するガスが少ない事が原因である.
実際に太陽系のガス惑星では,惑星質量が少ない方が金属量 M/H が大きいという著しい傾向があり,これはホットジュピターにも適用される (Kreidberg et al. 2014).
低質量の系外惑星でもこれらの傾向はおおむね整合的だが,観測の不定性が大きい (Moses et al. 2013など).
これまでのウォームネプチューンの観測と解釈
これまでにいくつかのウォームネプチューンが観測されているが,その結果についての簡単な説明は存在しない.幾つかの惑星は水に由来するスペクトルの特徴を持つ (Fraine et al. 2014など).一方で他の惑星は,平坦で特徴に欠けたスペクトルを示す (Kreidberg et al. 2014など).
惑星の大気組成の平均分子量が高い場合か,大気の高高度に雲かヘイズが存在する場合に,惑星大気のスペクトルは特徴に欠けたものになり得る.また,スペクトルに特が検出された場合においても,雲無しの太陽組成の大気に期待される強度よりも特長が弱いこことも分かっている (Fraine et al. 2014).
これまでにも系外惑星の透過スペクトル中の傾向を調べた研究はある (Stevenson 2016, Heng 2016).しかしこれらは主にホットジュピターに関するもので,これらの大気はウォームネプチューンの大気とは大きく異なると思われる.
分析サンプル
ここでは,惑星半径が 2 - 6 地球半径のものを選定した.また,惑星の平衡温度が 2000 K 未満のものを選定した.上記の選定条件では 55 Cnc e (かに座55番星e) は除外される.この惑星のバルク構成は,揮発性の元素を持たないか,持っていても僅かであるとする場合と整合的であり (Demory et al. 2016),もしこの惑星が大気を持っていたとしても (Ridden-Harper et al. 2016など),中心星から強く輻射を受けているため,我々の最終的なサンプルとは大きく異なる特徴を持っているだろうと予想される.
条件を満たしているものの中から更に制限をかけ,最終的に 6 惑星を選定した.ここでの制限は,例えば恒星の変動によって異なる時期での観測に影響が及んでいる可能性を考慮したものなどである.また,主星の非一様な表面輝度によって特に短波長側でスペクトルにスロープが生じる可能性についても考慮した.
結果
H/He 質量比との相関
惑星大気スペクトル中の,水の特徴のスケールハイトと fHHe の相関について考察する.解析の結果,惑星質量に占める水素・ヘリウムの割合が大きくなるほど,水の特徴も大きくなる傾向が見られた.
この傾向の解釈として有り得るものは,小さな H/He エンベロープの大気は高い金属量を持ち,従って実際のスケールハイト H はここで予想しているスケールハイト HHHe より小さいというものである.
この HHHe は,惑星大気の平均分子量を 2.3 とした,水素・ヘリウム主体の大気の場合のスケールハイトである.
この解釈は,惑星形成モデルの予言,すなわち小さいエンベロープは降着する微惑星でより汚染されているという予測 (Fortney et al. 2013, Venturini et al. 2016) と合う.
もしスペクトル中の水の特徴の大きさが大気の金属量のみに依存するのであれば,観測されたスペクトルから大気の平均分子質量の下限値を与えるのに使うことが出来る.
水の特徴の振幅が平均分子量に線形依存すると仮定すれば,選定したサンプル中で最も大きい惑星である HAT-P-11b と HAT-P-26b の平均分子量は 2.3 と推定される,また,GJ 3470b,GJ 436b,GJ 1214b はそれぞれ 8 ± 2,10 (+9, -4),61 (+63, -24) と推定される.
GJ 3470b,GJ 436b のケースは信頼できそうだが,GJ 1214b の透過スペクトルは非常に平坦であり,どの揮発性化学種のものよりも大きな金属量の組成が必要である.さらに GJ 1214b のデータは,水の特徴を含んだスペクトルとみなすよりも,統計的に完全に平坦だとみなせることを確認した.
以上より,これらの観測データの説明としては,大気の高高度に存在する凝縮物 (雲かヘイズ) が恒星のフラックスの透過をブロックしているというのが唯一考えられる可能性である.そのためこの結果は,平均分子量との相関と言うより,透過光スペクトルの強度と惑星の平衡温度の相関を示しているものだと考えられる (後述).
平衡温度との相関
スペクトル中における水の特徴の強度と平衡温度の相関について考察する.惑星大気中の高高度でのエアロゾルを形成するもっともらしい経路は,炭化水素との光化学反応である.タイタン大気中で見られるようなヘイズと似たものが形成される.
Morley et al. (2015) は,高次の炭化水素を “すすの前駆体” とみなして大気中での相互作用をモデル化した.その結果,惑星の平衡温度が 1100 K から 800 K の狭い範囲で下がる間に,これらの化合物の高高度での存在度は強く上昇することを発見した.
このことから,惑星の平衡温度が 800 - 1100 K の間で,ヘイズ無し大気からヘイズに富んだ大気への遷移が起きることが予測される.この予測は,今回得られた平衡温度-水の特徴の強度の図とよく一致した.
このシナリオによると,HAT-P-11b と HAT-P-26b の大気は,スペクトルの特徴を隠すようなヘイズを形成するには温度が高すぎるため,透過スペクトル中に水の強い特徴が現れる.その他のウォームネプチューンはヘイズ形成の閾値より低いため,透過スペクトルを隠してしまうために十分な量のヘイズが生成されている.
今回示されたこの傾向は,同じ平衡温度領域のウォームネプチューンを更に観測することで検証できる.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1708.00235
Mousis et al. (2017)
Scientific rationale for Uranus and Neptune in situ explorations
(天王星と海王星のその場探査の科学的論拠)
巨大氷惑星は,小さい岩石のコアを持ち,~ 70%が重元素からなる深い内部と,それを取り巻くより希薄な水素分子とヘリウムからなる外部エンベロープを持つ.そのため,天王星と海王星はより探査が進んでいる巨大ガス惑星の木星と土星とは根本的に異なる構造を持つと考えられる.
天王星・海王星の探査ミッションが少ないため,これらの惑星の組成や大気過程に関する我々の知識は,地上の観測施設からおよび宇宙望遠鏡からのリモートセンシングによって得られている.その結果として,天王星と海王星の物理特性および大気特性はあまり分かっておらず,これらの惑星が太陽系の進化に果たす役割もあまり理解されていない.そのため,氷惑星系の探査は優先度の高い科学目標である.
ここでは,巨大氷惑星の将来的な「その場観測 (in situ observation)」における主要な科学的目標について記述する.
大気の 10 bar のレベル (対流圏界面から内部に 5 スケールハイト分入った領域) をターゲットとしたエントリープローブは,以下の 2 つの大きなテーマについての見識を与えるだろう.
i) 巨大氷惑星の形成史と,広くは太陽系の形成史
ii) 惑星大気中に現れている過程
探査プローブは,大気の組成,構造と力学を測定する.測定したデータは,地球へ Carrier Relay Spacecraft をリレーステーションとして返送する.
その他に,実現可能なミッションコンセプトと協調関係についての提案も行う.また,巨大氷惑星プローブに搭載する器具のたたき台についても記述.氷ガス惑星大気プロープは,将来の NASA の巨大氷惑星の最重要計画への,ESA としての重要な寄与となるだろう.
arXiv:1708.00235
Mousis et al. (2017)
Scientific rationale for Uranus and Neptune in situ explorations
(天王星と海王星のその場探査の科学的論拠)
概要
巨大氷惑星である天王星と海王星は,太陽系の中では最も理解が進んでいないクラスの惑星だが,系外惑星のタイプとしては最も頻繁に観測されている.巨大氷惑星は,小さい岩石のコアを持ち,~ 70%が重元素からなる深い内部と,それを取り巻くより希薄な水素分子とヘリウムからなる外部エンベロープを持つ.そのため,天王星と海王星はより探査が進んでいる巨大ガス惑星の木星と土星とは根本的に異なる構造を持つと考えられる.
天王星・海王星の探査ミッションが少ないため,これらの惑星の組成や大気過程に関する我々の知識は,地上の観測施設からおよび宇宙望遠鏡からのリモートセンシングによって得られている.その結果として,天王星と海王星の物理特性および大気特性はあまり分かっておらず,これらの惑星が太陽系の進化に果たす役割もあまり理解されていない.そのため,氷惑星系の探査は優先度の高い科学目標である.
ここでは,巨大氷惑星の将来的な「その場観測 (in situ observation)」における主要な科学的目標について記述する.
大気の 10 bar のレベル (対流圏界面から内部に 5 スケールハイト分入った領域) をターゲットとしたエントリープローブは,以下の 2 つの大きなテーマについての見識を与えるだろう.
i) 巨大氷惑星の形成史と,広くは太陽系の形成史
ii) 惑星大気中に現れている過程
探査プローブは,大気の組成,構造と力学を測定する.測定したデータは,地球へ Carrier Relay Spacecraft をリレーステーションとして返送する.
その他に,実現可能なミッションコンセプトと協調関係についての提案も行う.また,巨大氷惑星プローブに搭載する器具のたたき台についても記述.氷ガス惑星大気プロープは,将来の NASA の巨大氷惑星の最重要計画への,ESA としての重要な寄与となるだろう.