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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1910.01607
Wong et al. (2019)
Exploring the atmospheric dynamics of the extreme ultra-hot Jupiter KELT-9b using TESS photometry
(TESS 測光を用いた極端なウルトラホットジュピター KELT-9b の大気力学の探査)

概要

NASA の Transiting Exoplanet Survey Satellite (TESS) を用いた KELT-9 系の測光観測から,位相曲線の解析を実行し,惑星の二次食の深さと,位相曲線の極大から極大までの輝度変動を測定した.解析の結果,二次食の深さは 651 ppm,輝度変動は 569 ppm であった.

惑星の輝度変動は,二次食の中心点の 26 分前に最大に到達した.これは,昼側のホットスポットが東側にややずれていることを示唆する.

また中心星の KELT-9 の脈動を検出し,特徴的な周期は 7.58678 時間であった.

幾何学的アルベドが 0 であると仮定した場合の KELT-9b の昼側の輝度温度は 4570 K,夜側の温度は 3020 K と推定され,この夜側の温度は最も高温な部類の既知の系外惑星の昼側温度と同程度である.

加えて,軌道周波数の基本成分において有意な位相曲線信号を検出し,また第二高調波で暫定的な信号を検出した.基本成分の要素の振幅は,平衡潮汐を仮定した楕円体変形による変動の予測と整合的である一方で,この測光変動の位相は予想と比較するとずれがあった.

KELT-9b を,他の位相曲線観測が行われている系外惑星と比較すると,夜側の温度がより高く,また昼夜間温度差は比較的小さいことを見出した.これは,水素分子の解離と再結合を含んだ大気モデルの予測と一致する.

この惑星の夜側の温度からは,大気の組成として水素分子が 52%,水素原子が 48% であることが示唆される.

この惑星のスペクトルは,より低温なホットジュピターでは顕著である広帯域の分子の特徴が欠けたものとなることが予測される.その一方で,近赤外線の透過スペクトルも同様に特徴に欠けていることが予想され,H- の不透明度によりスペクトルは正の傾きを持つことが予測される.

観測と解析のまとめ

・KELT-9b の二次食の深さは 651 ppm で,これはこの惑星の昼側の温度が 4570 K であることを示唆している.なおこの温度は,惑星の幾何学的アルベドが 0 であることを仮定している.アルベドが 0 - 0.2 の場合,昼側の温度範囲は 4320 - 4570 K となる.また夜側は 3020 K と非常に高温であり,これは中期 M 型星の大気に匹敵する温度である.

・惑星の大気の輝度変動は,極大から極大までの振幅が 569 ppm である.惑星のホットスポットは恒星直下点から東側にわずかにずれており,ずれの大きさは 4.4° である.

・恒星 KELT-9 の脈動のシグナルを検出し,その周期は 7.58678 時間,振幅は 235 ppm である.

・中心星の測光変動は,42.5 ppm の半振幅を持った,惑星の軌道周波数の主要成分で特徴付けられる.この振幅は潮汐による恒星の楕円変形によるとする予測と整合的だが,測定されたシグナルの相対位相は,想定よりも 軌道周期の 0.2 倍分だけ遅い.この違いは,高温の A 型主星の励起された力学的潮汐と,公転する惑星によって引き起こされた潮汐バルジとの相互作用からくるものである可能性を提唱する.惑星の軌道がほぼ極軌道であることも,潮汐バルジの振幅と位相に影響を及ぼす可能性があり,また同時に軌道周期の半分の周期で惑星の軌道に追加の変動を誘起する可能性がある.また,二次高調波を 2.9σ の確度で検出したが,この起源は未決定である.

・KELT=9b の昼夜間温度差は比較的小さく,効率的な熱輸送の存在が示唆される.これは過去に提案されていた,昼側の輻射水準が大きくなるにつれて熱の再循環効率の傾向が転換するというモデルを確認する結果である.この惑星の昼夜間温度差が小さいことは,水素分子の解離と再結合の効果と整合的である.

・この惑星の高温な夜面は,Keating et al. (2019) で報告されていた,ほぼ平坦な夜側温度の傾向とは大きく乖離している.夜側の温度が上昇すると,惑星の夜側で凝縮物の雲が形成されなくなり,水素分子と原子がほぼ等しい大気の組成と整合的となる.

・この惑星の放射スペクトルおよび透過スペクトルは,どちらも特徴に欠けたものになると予測される.前者は単純な黒体放射に似た形状に,後者は H- イオンの不透明度により,近赤外線の波長帯にわたって上昇する分布になるだろう.

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1910.01622
Tan & Komacek (2019)
The Atmospheric Circulation of Ultra-hot Jupiters
(ウルトラホットジュピターの大気循環)

概要

最近の,昼側温度が 2500 K を超えるウルトラホットジュピターの観測では,大気中での新しい物理過程の証拠が発見されている.ここでは,大気中での水素分子の解離と水素原子の再結合が,ウルトラホットジュピターの大気循環に与える影響について調査した.

これらの効果をホットジュピターの general circulation model (GCM) に含め,恒星の入射フラックス,自転周期,大気の摩擦抵抗の強度を変化させて計算を行った.その結果,水素の解離と再結合の効果を含めることで,ウルトラホットジュピターの昼夜間温度差が減少することを見出し,それにより自転を固定した場合に赤道ジェットの速度が減少することがわかった
これは,水素の解離には大きなエネルギー注入が必要なために惑星の昼側が冷え,また水素の再結合によって解放されるエネルギーが夜側で大気を暖めるためである.昼夜間の温度差が減少することにより,循環を駆動する昼夜間の圧力勾配も減少し,結果として風速が低下する.

今回の GCM 計算の結果は,惑星の平衡温度が上昇するにつれて,水素の解離・再結合によってウルトラホットジュピターの昼夜間の温度差が減少するという過去の理論と定性的に一致する.

最後に,GCM の計算結果から,系の全位相光度曲線を計算した.その結果,昼夜間の温度差が減少したウルトラホットジュピターでは位相曲線の振幅は小さくなることが示された.水素の解離と再結合による位相曲線振幅の減少は,現在観測されているウルトラホットジュピターの位相曲線振幅が比較的小さいことを説明できる.

ウルトラホットジュピターについて

ウルトラホットジュピターは,おおむね 2200 K を超える平衡温度を持つ惑星のことである.
最近の観測では,これらのウルトラホットジュピターは通常のホットジュピターとは異なるスペクトルを持つことが分かっている.

まず,ウルトラホットジュピターの放射スペクトルはほとんど特徴を欠いている.これは惑星の昼側大気で水分子が解離しているからである (Kitzmann et al. 2018, Kreidberg et al. 2018, Lothringer et al. 2018, Parmentier et al. 2018).

また,平衡温度 2500 K 程度では大気中の水素分子が部分的に解離を始める.水素分子の解離には,強い H2 の結合を破るための大気からのエネルギー注入が必要になる.

昼側の大気で解離した水素原子が大気力学によって大気の低温領域である夜側に輸送されると,水素原子が再結合して分子になる際に大量の熱を解放する.この解放される熱は,水の凝結により解放される潜熱よりも 100 倍ほど大きい (Bell & Cowan 2018).

Bell & Cowan (2018) によって,水素の解離と再結合がウルトラホットジュピターの大気温度構造に影響を及ぼすことが初めて指摘された.そこでは,従来の半解析的な手法を改良して,水素の解離・再結合を追加のエネルギーフラックスの項として含めている.その結果,水素の再結合によってウルトラホットジュピターの夜側は大きく加熱されることを指摘した.またそれにより位相曲線の振幅を小さくし,位相曲線の位相のずれを大きくすることを見出した.

また Komacek & Tan (2018) でも解析モデルを使用した研究が行われている.そこでは,ハッブル宇宙望遠鏡やスピッツァー宇宙望遠鏡で観測されている,WASP-103b (Kreidberg et al. 2018) や WASP-33b (Zhang et al. 2018) の比較的小さい振幅の位相曲線を説明できるとした.

これまでの研究は 1 次元の枠内での熱輸送の計算であった.過去のホットジュピターの計算では,3 次元の計算が多く行われている.しかしウルトラホットジュピターでの水素の解離と再結合の影響は,3 次元の大気力学ではこれまで考慮されていなかった.

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arXiv:1910.00180
Paradis et al. (2019)
Photometry of the Uranian Satellites with Keck and the Search for Mab
(ケックを用いた天王星の衛星の測光とマブの探査)

概要

天王星の 6 つの小型衛星 (半径 100 km 未満) の測光観測を行った.2015 年 8 月 29 日に,1.49-1.78 µm の H バンドの撮像観測を 32 回行った,観測には,ハワイ・マウナケアの Keck II 望遠鏡の近赤外線カメラ NIRC2 を用い,補償光学系も使用した.

この観測の sub-observer 緯度は 31° であった.つまり,衛星の北極領域を多く見ていることになり,これは 1986 年のボイジャーによる観測とは対照的である.

平均スタッキング測定を用いて,これらの 6 つの小さい衛星の反射率を導出した.
その結果,これらの衛星の反射率は過去の観測よりも有意に明るいことを見出した.これは衛星半球の間のアルベドの違いを反映していると考えられる.

また,パックとミランダの間を公転している,表面組成が未知な小さい衛星であるマブの探索を行った.大きく改善されたシグナルノイズ比での観測にも関わらず,マブを検出することはできなかった.

マブは,岩石質の内側衛星よりも,ミランダのような氷天体により類似していることが示唆される.マブが球形で半径 6 km であると仮定すると (ハッブル宇宙望遠鏡の観測で反射率が ~0.46 を仮定して導出した値),1.6 µm での反射率 [I/F] の 3σ の上限値としては 0.14 という値を導出した.

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arXiv:1910.00267
García Muñoz & Schneider (2019)
Rapid escape of ultra-hot exoplanet atmospheres driven by Hydrogen Balmer absorption
(水素バルマー吸収に駆動される非常に高温な系外惑星大気の急速な散逸)

概要

大気散逸は,我々の太陽系やその外での惑星の長期進化を説明するために重要であり,大気測定の解釈を行う際にも重要である.惑星からの大気のハイドロダイナミックエスケープは,一般に中心星から惑星が受け取る極端紫外線フラックスによって駆動されると考えられている.

ここでは,高温の恒星を公転する惑星からの大気散逸が,従来知られている駆動源とは異なる,しかし補完的なプロセスを経て進行することを示す.それは,バルマー系列のより低い準位に励起された水素が恒星からの強い近紫外線放射を吸収することによって,光学的に薄い高高度の大気にエネルギーが注入されるというプロセスである.

超高温の系外惑星 KELT-9b は,このバルマー駆動散逸が進行している初めての例であるかもしれない.

バルマー駆動によるハイドロダイナミックエスケープでは,惑星からの質量放出率を左右するのは極端紫外線放射よりも近紫外線放射の方が重要になり,そのため極端紫外線の強度における不定性は大気散逸において大きな問題ではなくなる.

さらに,高温の恒星の周りの系外巨大ガス惑星は,KELT-9b よりも恒星に近接していて,なおかつ 1-2 木星質量よりも軽い惑星の場合,破滅的な質量放出を経験することを予測する.そのため今回のモデルは,全ての大きな系外惑星が大気の散逸に対して安定であるというパラダイムに疑問を投げかけるものである.

惑星からの極端な質量放出は,高温の恒星を公転する近接系外惑星のポピュレーションに対して影響を及ぼすと考えられる.

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arXiv:1909.13527
Lopez et al. (2019)
Exoplanet characterisation in the longest known resonant chain: the K2-138 system seen by HARPS
(知られている中で最も長い共鳴鎖にある系外惑星の特徴付け:HARPS で見た K2-138 系)

概要

複数惑星系での低質量トランジット系外惑星の検出は,惑星形成と進化のプロセスに新しい制約を与える.しかし,ケプラーと K2 で検出された小さい惑星のうち,それらの組成を制約するのに必須である詳細な質量測定が行われているものは僅かな割合にとどまる.

ここでは,比較的明るい恒星 K2-138 を公転する惑星の特徴付けを行った.この惑星系は,3:2 の共鳴に近い関係にある惑星が連なっている,知られている中で最も長い共鳴鎖 (resonant chain) を持つ系であり,力学的に特徴があると言える.

HARPS の 215 回の観測データを取得して視線速度解析を行った.また,ベイズ解析でケプラーの K2 ミッションでの測光観測と HARPS の視線速度観測データを合同に解析し,6 つ存在する惑星のパラメータに制約を与えた.

K2-138b, c, d, e の内側 4 惑星はそれぞれ 3.1, 6.3, 7.9, 13.0 地球質量で,これらの質量決定精度はそれぞれ 34%,20%,18%,15% である.また,惑星のバルク密度はそれぞれ 4.9, 2.8, 3.2, 1.8 g cm-3 であり,地球から海王星に近い値までを含んでいる.
など,K2-138f と g については,質量の上限値のみが得られた.

ここで導出した質量を元に,2-6 分のオーダーのトランジット時刻変化が起きうることを予測した.

この系は,CHaracterizing ExOPlanet Satellite (CHEOPS) による将来的な宇宙空間からのトランジット時刻変化を用いた測定の良い対象である.

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