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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1906.08788
Martinez et al. (2019)
Orphaned Exomoons: Tidal Detachment and Evaporation Following an Exoplanet-Star Collision
(孤児になった系外衛星:系外惑星-恒星衝突に続く潮汐分離と蒸発)
3 体と 4 体の一連のシミュレーションを用いて,これらの惑星から分離した天体の進化について調査を行った.
このような天体の大部分は恒星に衝突するか系から放出されるかする一方,~10% の一定の割合で,惑星よりも長生きする “孤立した” 系外衛星となることが判明した.このような天体の初期の特性は,太陽系内のガリレオ衛星に似たものになると考えられる.
惑星から分離した系外衛星は一般にスノーラインの内側を公転し,恒星からの強い輻射加熱を受けるため,揮発性物質に豊富な層は蒸発する.その結果,彗星の近日点通過の際に似た,ガスとダストを強く放出する.
系外衛星から放出された小さいダスト粒子によって公転する天体を囲む厚い雲が形成されるが,中心星からの輻射によって急速に吹き流される.対照的に,大きい固体粒子は母体の系外衛星の軌道要素を受け継ぎ,固体物質の偏心した円盤を形成する.この大きい固体粒子は,ポインティング・ロバートソン効果により,ゆっくりと恒星へ落下していく.これによる,長いタイムスケールでの恒星の減光が引き起こされる可能性がある.
系外衛星の蒸発時間が 105-106 年の場合,1 つ以上の脱ガスしている系外衛星による恒星光の減光は,KIC 8461852 (Boyajian’s star) で観測されている減光や長期的な減光の説明になるかもしれない.
arXiv:1906.08788
Martinez et al. (2019)
Orphaned Exomoons: Tidal Detachment and Evaporation Following an Exoplanet-Star Collision
(孤児になった系外衛星:系外惑星-恒星衝突に続く潮汐分離と蒸発)
概要
系外惑星に対する外側の重い天体からの重力的擾乱,たとえば Kozai-Lidov 機構などは,系外惑星の軌道離心率を,中心星との強い相互作用や衝突によって破壊される程度にまで上昇させる場合がある.この過程の最終段階において,系外惑星を公転している系外衛星は恒星の潮汐力によって惑星の重力圏から分離され,恒星を公転する軌道に移行する.3 体と 4 体の一連のシミュレーションを用いて,これらの惑星から分離した天体の進化について調査を行った.
このような天体の大部分は恒星に衝突するか系から放出されるかする一方,~10% の一定の割合で,惑星よりも長生きする “孤立した” 系外衛星となることが判明した.このような天体の初期の特性は,太陽系内のガリレオ衛星に似たものになると考えられる.
惑星から分離した系外衛星は一般にスノーラインの内側を公転し,恒星からの強い輻射加熱を受けるため,揮発性物質に豊富な層は蒸発する.その結果,彗星の近日点通過の際に似た,ガスとダストを強く放出する.
系外衛星から放出された小さいダスト粒子によって公転する天体を囲む厚い雲が形成されるが,中心星からの輻射によって急速に吹き流される.対照的に,大きい固体粒子は母体の系外衛星の軌道要素を受け継ぎ,固体物質の偏心した円盤を形成する.この大きい固体粒子は,ポインティング・ロバートソン効果により,ゆっくりと恒星へ落下していく.これによる,長いタイムスケールでの恒星の減光が引き起こされる可能性がある.
系外衛星の蒸発時間が 105-106 年の場合,1 つ以上の脱ガスしている系外衛星による恒星光の減光は,KIC 8461852 (Boyajian’s star) で観測されている減光や長期的な減光の説明になるかもしれない.
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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1906.08219
Jackman et al. (2019)
NGTS-7Ab: An ultra-short period brown dwarf transiting a tidally-locked and active M dwarf
(NGTS-7Ab:潮汐固定された活発な M 型矮星をトランジットする超短周期の褐色矮星)
NGTS-7Ab は,現在発見されている中では,主系列星や前主系列星をトランジットする褐色矮星としては最も短周期である.
M 型星の主星 NGTS-7A はおよそ 5500 万歳で,自転と公転が同期した状態にある.これは褐色矮星との潮汐相互作用によって恒星の自転が加速されたことが原因だと解釈される.
中心星は磁気的に活発で,NGTS とフォローアップ観測の光度曲線中には複数回のフレアが見られた.これを用いてフレアと恒星黒点の位相の関係を探査した.
中心星は褐色矮星の他にさらに M 型星の伴星を 1.13 arcsec の位置に持っており,この伴星の固有運動は中心星に非常に近い.そのため,この系は階層的三重星であることが示唆される.
この大きな間隔を持った恒星質量の伴星は,Kozai-Lidov 機構を介して褐色矮星の軌道を移動させたと考えられる.潮汐同期と磁気制動の組み合わせにより,褐色矮星の軌道は現在減衰していると思われ,残り寿命はわずか 500-1000 万年と考えられる.
半径:0.61 太陽半径
距離:152.67 pc
軌道長半径:0.0139 AU
推定質量:75.5 木星質量
半径:0.46 太陽半径
距離:152.70 pc
arXiv:1906.08219
Jackman et al. (2019)
NGTS-7Ab: An ultra-short period brown dwarf transiting a tidally-locked and active M dwarf
(NGTS-7Ab:潮汐固定された活発な M 型矮星をトランジットする超短周期の褐色矮星)
概要
NGTS-7Ab の発見について報告する.この天体は M 矮星を 16.2 時間で公転する,トランジットする大質量の褐色矮星であり,Next Generation Transit Survey (NGTS) の一環として発見された.NGTS-7Ab は,現在発見されている中では,主系列星や前主系列星をトランジットする褐色矮星としては最も短周期である.
M 型星の主星 NGTS-7A はおよそ 5500 万歳で,自転と公転が同期した状態にある.これは褐色矮星との潮汐相互作用によって恒星の自転が加速されたことが原因だと解釈される.
中心星は磁気的に活発で,NGTS とフォローアップ観測の光度曲線中には複数回のフレアが見られた.これを用いてフレアと恒星黒点の位相の関係を探査した.
中心星は褐色矮星の他にさらに M 型星の伴星を 1.13 arcsec の位置に持っており,この伴星の固有運動は中心星に非常に近い.そのため,この系は階層的三重星であることが示唆される.
この大きな間隔を持った恒星質量の伴星は,Kozai-Lidov 機構を介して褐色矮星の軌道を移動させたと考えられる.潮汐同期と磁気制動の組み合わせにより,褐色矮星の軌道は現在減衰していると思われ,残り寿命はわずか 500-1000 万年と考えられる.
パラメータ
NGTS-7A
有効温度:3359 K半径:0.61 太陽半径
距離:152.67 pc
NGTS-7Ab
軌道周期:16.2237952 時間軌道長半径:0.0139 AU
推定質量:75.5 木星質量
NGTS-7B
有効温度:2254 K半径:0.46 太陽半径
距離:152.70 pc
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1906.08036
Grätz et al. (2019)
The radial density profile of Saturn's A ring
(土星の A 環の動径密度分布)
ここでは軸対称の拡散モデルを開発し,環の物質の外向きの粘性移動に適用した.また,土星の外側の大きい衛星との共鳴によって引き起こされる反対向きの内側移動も考慮した.
これまでは,ヤヌスとの 7:6 共鳴単独で A 環の外縁が形作られているという考えが広く受け入れられていたが,これは Tajeddine et al. (2017) で否定された.ここでは,A 環外側の階段状の密度分布は,ヤヌスとの別々の 1 次の共鳴,ミマスとの 5:3 の 2 次の共鳴,プロメテウスとパンドラの重なる共鳴によって主に決まっていることを示す.
(ii) ヤヌスとの 4:3 から 7:6 までのリンドブラッド共鳴,ミマスの 5:3 リンドブラッド共鳴,プロメテウスとパンドラのオーバーラップする共鳴が A 環の密度分布を決め,またヤヌスの 7:6 共鳴が A 環の外側の明瞭な端を形成し維持できるほどに環の物質の面密度を下げている.
(iii) エピメテウスの共鳴はヤヌスの共鳴よりずっと弱く,環の密度分布を大きく変化させない.アトラスは A 環の縁の非常に近くに位置しているが,質量が小さいため A 環の分布には非常に小さい影響しか及ぼさない.
(iv) モデルは Daisaka et al. (2001) で示唆されているような,大きなべき乗の指数 (β=2) を支持している.β=0, 1 では A 環の明瞭な外端をモデル化出来ない.
\(\nu = \nu_{0}\left(\Sigma/\Sigma_{0}\right)^{\beta}\)
arXiv:1906.08036
Grätz et al. (2019)
The radial density profile of Saturn's A ring
(土星の A 環の動径密度分布)
概要
カッシーニのカメラで観測された,土星の A 環の動径方向の密度分布のモデル化を行った.ここでは軸対称の拡散モデルを開発し,環の物質の外向きの粘性移動に適用した.また,土星の外側の大きい衛星との共鳴によって引き起こされる反対向きの内側移動も考慮した.
これまでは,ヤヌスとの 7:6 共鳴単独で A 環の外縁が形作られているという考えが広く受け入れられていたが,これは Tajeddine et al. (2017) で否定された.ここでは,A 環外側の階段状の密度分布は,ヤヌスとの別々の 1 次の共鳴,ミマスとの 5:3 の 2 次の共鳴,プロメテウスとパンドラの重なる共鳴によって主に決まっていることを示す.
主な結果
(i) Tiscareno & Harris (2018) によって測定された密度分布は,エンケの空隙の場所での面密度の減少 (25%) を二番目の境界条件として仮定した場合,軸対称拡散モデルを用いて非常によくモデル化できる.(ii) ヤヌスとの 4:3 から 7:6 までのリンドブラッド共鳴,ミマスの 5:3 リンドブラッド共鳴,プロメテウスとパンドラのオーバーラップする共鳴が A 環の密度分布を決め,またヤヌスの 7:6 共鳴が A 環の外側の明瞭な端を形成し維持できるほどに環の物質の面密度を下げている.
(iii) エピメテウスの共鳴はヤヌスの共鳴よりずっと弱く,環の密度分布を大きく変化させない.アトラスは A 環の縁の非常に近くに位置しているが,質量が小さいため A 環の分布には非常に小さい影響しか及ぼさない.
(iv) モデルは Daisaka et al. (2001) で示唆されているような,大きなべき乗の指数 (β=2) を支持している.β=0, 1 では A 環の明瞭な外端をモデル化出来ない.
\(\nu = \nu_{0}\left(\Sigma/\Sigma_{0}\right)^{\beta}\)
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1906.07196
Zechmeister et al. (2019)
The CARMENES search for exoplanets around M dwarfs. Two temperate Earth-mass planet candidates around Teegarden's Star
(M 矮星周りの系外惑星の CARMENES 探査.ティーガーデン星周りの 2 つの温暖な地球質量惑星候補)
CARMENES による M 型星回りでの系外惑星探査の一部として,ティーガーデン星の 200 回を超える視線速度観測を行い,系外惑星のシグナルを解析した.その結果,ティーガーデン星の視線速度に周期的な変動を発見した.
ティーガーデン星の測光測定を行い,恒星の光度変動が惑星シグナルを模倣している可能性を否定した.
解析の結果,ティーガーデン星の周囲に 2 つの惑星候補天体が存在する兆候を発見した.
最小質量は 1.1 地球質量で,軌道周期はそれぞれ 4.91 日と 11.4 日である.過去の観測データやフォローアップ観測では,これらの惑星がトランジットを起こしている証拠は得られなかった.
ティーガーデン星には小さい測光変動があり,この変動周期からは恒星の自転が遅いことと,恒星が年老いていることが示唆される.
今回発見された 2 つの惑星は,これまでに見つかった中でもかなり低質量の惑星であり,超低温矮星の周りで視線速度を用いて質量が決定された中では初めての地球質量惑星の発見例である.
系外惑星は多数発見されているものの,スペクトル型 M4.5V より晩期の恒星を公転する惑星は,これらのスペクトル型の恒星は非常に多数が存在するにもかかわらず,非常に少数しか発見されていない.
有効温度が 3000 K よりも低温な恒星で,惑星を持っているのが分かっているのはこれまでに 2 つのみである.ひとつはプロキシマ・ケンタウリ (M5.5V) であり,太陽に最も近い恒星で地球質量の惑星をハビタブルゾーン内に持つ (Anglada-Escudé et al. 2016).もう一つは TRAPPIST-1 (M8.0V) で 7 個のトランジット惑星を持ち,太陽系から 12.0 pc の距離にある (Gillon et al. 2016,2017).
非常に晩期型のスペクトルを持つ恒星周りでの惑星の検出個数が少ないのは,主に観測バイアスによる.CARMENES やその他のプロジェクトでは,このバイアスの解消を目指した観測に取り組んでいる.
太陽からの距離は 3.831 pc で,太陽から 24 番目に近い距離にある恒星である.スペクトル型は M7.0V である.
等級:V = 15.08,J = 8.39
有効温度:2904 K
光度:0.00073 太陽光度
半径:0.107 太陽半径
質量:0.089 太陽質量
金属量:[Fe/H] = -0.19
年齢:80 億歳以上
軌道長半径:0.0252 au
最小質量:1.05 地球質量
日射量:地球の 1.15 倍
軌道長半径:0.0443 au
最小質量:1.11 地球質量
日射量:地球の 0.37 倍
惑星半径は惑星質量に対する依存性は弱いが,惑星の組成には強く依存する.2 つの極端な組成の間,つまり惑星が純粋な鉄コアから成る場合と,冷たい水素・ヘリウムのミニネプチューンの組成と間で,想定される惑星半径はおよそ 3 倍ほど異なるものとなる.
これらの半径とともに,恒星と惑星のその他のパラメータを考慮し, Schulze-Makuch et al. (2011) で定義されている Earth Similarity Index (ESI) を計算した.ESI は系外惑星の主要なパラメータを地球と比較する指標であり,地球の値は 1 になるように定義されている.ここでは,平衡温度,大気の脱出速度,バルク密度,惑星半径を考慮に入れ,特に惑星の平衡温度を主要な寄与として重み付けした ESI を使用した.
その結果,ESI は ティーガーデン星b と c でそれぞれ 0.94 と 0.8 となった.ティーガーデン星b の 0.94 という値は,現在発見されている系外惑星の ESI 値としては最も高いものである.
しかし ESI は単なる推定に過ぎず,パラメータの異なる重み付けをした場合,ESI は異なる値になる.例えばここでの ESI の定義は,惑星の居住可能性に非常に影響を及ぼすと考えられる,恒星のスペクトルエネルギー分布とそれによる惑星大気組成は考慮に入っていない.
また,ティーガーデン星b は地球とほとんど同じ日射量を受けているため地球と同一の平衡温度を持っていると考えられるが.Kopparapu et al. (2014) の定義では保守的なハビタブルゾーンの外となる.これは,Kopparapu et al. (2014) での議論では,惑星大気中の水蒸気による暴走温室効果は,低質量の恒星周りではより低い日射量で開始すると考えられていることに起因する.この効果は ESI の計算では無視されており,そのために保守的なハビタブルゾーンの内側にあるティーガーデン星c よりも,保守的なハビタブルゾーンから外れているティーガーデン星b の方が高い ESI を持つという興味深い事実を導いている.
まず,ティーガーデン星b と c は超低温矮星の周りで視線速度法を用いて発見された初めての系外惑星である.
どちらの惑星も最小質量は地球に近く,岩石および部分的に鉄を含む組成か,あるいは水を主成分とする組成であった場合,地球と似た半径であることが予想される.
さらに,これらの惑星は保守的なハビタブルゾーンに近い軌道かその内部にあり,言い換えれば居住可能な環境である可能性がある.
ティーガーデン星の年齢の推定値は 80 億歳であり,これらの惑星は太陽系の惑星よりもおよそ 2 倍年老いていることになる.
興味深いことに,太陽系の惑星はティーガーデン星から見て太陽をトランジットする領域に入っている.仮にティーガーデン星まわりに生命がいた場合,地球は 2044-2496 年までの間,ティーガーデン星系からトランジット惑星として観測可能である.
arXiv:1906.07196
Zechmeister et al. (2019)
The CARMENES search for exoplanets around M dwarfs. Two temperate Earth-mass planet candidates around Teegarden's Star
(M 矮星周りの系外惑星の CARMENES 探査.ティーガーデン星周りの 2 つの温暖な地球質量惑星候補)
概要
ティーガーデン星 (Teegarden's Star) は,太陽の近傍にある恒星の中では非常に明るく,また非常に近い超低温矮星のひとつである.スペクトル型は M7.0V と晩期型星であり,比較的活動度が低く,CARMENES などでの近赤外線での視線速度を用いた系外惑星サーベイの主要なターゲットである.CARMENES による M 型星回りでの系外惑星探査の一部として,ティーガーデン星の 200 回を超える視線速度観測を行い,系外惑星のシグナルを解析した.その結果,ティーガーデン星の視線速度に周期的な変動を発見した.
ティーガーデン星の測光測定を行い,恒星の光度変動が惑星シグナルを模倣している可能性を否定した.
解析の結果,ティーガーデン星の周囲に 2 つの惑星候補天体が存在する兆候を発見した.
最小質量は 1.1 地球質量で,軌道周期はそれぞれ 4.91 日と 11.4 日である.過去の観測データやフォローアップ観測では,これらの惑星がトランジットを起こしている証拠は得られなかった.
ティーガーデン星には小さい測光変動があり,この変動周期からは恒星の自転が遅いことと,恒星が年老いていることが示唆される.
今回発見された 2 つの惑星は,これまでに見つかった中でもかなり低質量の惑星であり,超低温矮星の周りで視線速度を用いて質量が決定された中では初めての地球質量惑星の発見例である.
背景
晩期型星回りの系外惑星
1990 年代中頃に初めての系外惑星が発見されて以来,視線速度法を用いて 800 個以上の系外惑星が発見されてきた.またトランジット法では数千もの惑星が検出されている.系外惑星は多数発見されているものの,スペクトル型 M4.5V より晩期の恒星を公転する惑星は,これらのスペクトル型の恒星は非常に多数が存在するにもかかわらず,非常に少数しか発見されていない.
有効温度が 3000 K よりも低温な恒星で,惑星を持っているのが分かっているのはこれまでに 2 つのみである.ひとつはプロキシマ・ケンタウリ (M5.5V) であり,太陽に最も近い恒星で地球質量の惑星をハビタブルゾーン内に持つ (Anglada-Escudé et al. 2016).もう一つは TRAPPIST-1 (M8.0V) で 7 個のトランジット惑星を持ち,太陽系から 12.0 pc の距離にある (Gillon et al. 2016,2017).
非常に晩期型のスペクトルを持つ恒星周りでの惑星の検出個数が少ないのは,主に観測バイアスによる.CARMENES やその他のプロジェクトでは,このバイアスの解消を目指した観測に取り組んでいる.
ティーガーデン星
ティーガーデン星は,今世紀になって Teegarden et al. (2003) で発見された恒星である.太陽からの距離は 3.831 pc で,太陽から 24 番目に近い距離にある恒星である.スペクトル型は M7.0V である.
パラメータ
ティーガーデン星
距離:3.831 pc等級:V = 15.08,J = 8.39
有効温度:2904 K
光度:0.00073 太陽光度
半径:0.107 太陽半径
質量:0.089 太陽質量
金属量:[Fe/H] = -0.19
年齢:80 億歳以上
ティーガーデン星b
軌道周期:4.9100 日軌道長半径:0.0252 au
最小質量:1.05 地球質量
日射量:地球の 1.15 倍
ティーガーデン星c
軌道周期:11.409 日軌道長半径:0.0443 au
最小質量:1.11 地球質量
日射量:地球の 0.37 倍
議論・結論
Earth Similarity Index
今回発見された 2 つの惑星のトランジットは検出されなかったため,惑星の半径は導出できない.そのため,様々な組成での質量-半径関係からの推定を行った.惑星半径は惑星質量に対する依存性は弱いが,惑星の組成には強く依存する.2 つの極端な組成の間,つまり惑星が純粋な鉄コアから成る場合と,冷たい水素・ヘリウムのミニネプチューンの組成と間で,想定される惑星半径はおよそ 3 倍ほど異なるものとなる.
これらの半径とともに,恒星と惑星のその他のパラメータを考慮し, Schulze-Makuch et al. (2011) で定義されている Earth Similarity Index (ESI) を計算した.ESI は系外惑星の主要なパラメータを地球と比較する指標であり,地球の値は 1 になるように定義されている.ここでは,平衡温度,大気の脱出速度,バルク密度,惑星半径を考慮に入れ,特に惑星の平衡温度を主要な寄与として重み付けした ESI を使用した.
その結果,ESI は ティーガーデン星b と c でそれぞれ 0.94 と 0.8 となった.ティーガーデン星b の 0.94 という値は,現在発見されている系外惑星の ESI 値としては最も高いものである.
しかし ESI は単なる推定に過ぎず,パラメータの異なる重み付けをした場合,ESI は異なる値になる.例えばここでの ESI の定義は,惑星の居住可能性に非常に影響を及ぼすと考えられる,恒星のスペクトルエネルギー分布とそれによる惑星大気組成は考慮に入っていない.
ハビタブルゾーン
Kopparapu et al. (2014) によるハビタビルゾーンの定義では,ティーガーデン星b の軌道は保守的なハビタブルゾーンの高温側の端 (内縁) のすぐ外に位置するが,楽観的なハビタブルゾーンの内部にある.ティーガーデン星c は,保守的なハビタブルゾーンの中に位置している.また,ティーガーデン星b は地球とほとんど同じ日射量を受けているため地球と同一の平衡温度を持っていると考えられるが.Kopparapu et al. (2014) の定義では保守的なハビタブルゾーンの外となる.これは,Kopparapu et al. (2014) での議論では,惑星大気中の水蒸気による暴走温室効果は,低質量の恒星周りではより低い日射量で開始すると考えられていることに起因する.この効果は ESI の計算では無視されており,そのために保守的なハビタブルゾーンの内側にあるティーガーデン星c よりも,保守的なハビタブルゾーンから外れているティーガーデン星b の方が高い ESI を持つという興味深い事実を導いている.
ティーガーデン星系の特徴
ティーガーデン星周りの系外惑星系は CARMENES サーベイによる先進的な発見であり,いくつかの要素において特徴的である.まず,ティーガーデン星b と c は超低温矮星の周りで視線速度法を用いて発見された初めての系外惑星である.
どちらの惑星も最小質量は地球に近く,岩石および部分的に鉄を含む組成か,あるいは水を主成分とする組成であった場合,地球と似た半径であることが予想される.
さらに,これらの惑星は保守的なハビタブルゾーンに近い軌道かその内部にあり,言い換えれば居住可能な環境である可能性がある.
ティーガーデン星の年齢の推定値は 80 億歳であり,これらの惑星は太陽系の惑星よりもおよそ 2 倍年老いていることになる.
興味深いことに,太陽系の惑星はティーガーデン星から見て太陽をトランジットする領域に入っている.仮にティーガーデン星まわりに生命がいた場合,地球は 2044-2496 年までの間,ティーガーデン星系からトランジット惑星として観測可能である.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1906.07089
Vidotto et al. (2019)
Can we detect aurora in exoplanets orbiting M dwarfs?
(M 矮星を公転する系外惑星のオーロラを検出できるか?)
恒星風に対して太陽風に類似したモデルを用いた結果,電波検出のための最も有望な観測対象は GJ 674b とプロキシマb であり,その後に YZ Cet b,GJ 1214b,GJ 436b が続く.これらの惑星は,太陽系に最も近い部類のものである (10 pc 未満).
しかし,ここで想定される電波フラックスは,M 型矮星からの恒星風に関する未知の特性に非常に敏感であることも示す.
どのようなタイプの恒星風が,系外惑星からの検出可能な電波放射を生み出すのかについて考察した.
「リバースエンジニアリング」計算から,現在の装置で検出可能な電波放射を生み出すためには,恒星からの恒星風による質量放出率が \(\dot{M}\gtrsim \kappa_{\rm SW}/u_{\rm SW}^{3}\) である必要があると推定した.ここで \(u_{\rm SW}\) は恒星風の局所的な速度,\(\kappa_{\rm SW}\) は惑星のサイズ,距離および軌道半径に依存する定数である.
GJ 436 とプロキシマ・ケンタウリの静穏な恒星風に対して観測的に制約されている特性を用いた考察の結果,GJ 436b とプロキシマb は中心星が突発的なコロナ質量放出を起こさない限り,検出可能な電波放射を起こす見込みは低いと結論付けた.
GJ 674b,GJ 876b,YZ Cet b は,中心星の恒星風が \(\dot{M} u_{\rm SW}^{3} \gtrsim 1.8\times 10^{-4}\,{\rm M_{\odot}\,yr^{-1}\left(km/2\right)^{3}}\) であり,電波検出のための良い観測対象である.
arXiv:1906.07089
Vidotto et al. (2019)
Can we detect aurora in exoplanets orbiting M dwarfs?
(M 矮星を公転する系外惑星のオーロラを検出できるか?)
概要
SPIRou,CARMENES や TESS といった新しい装置と望遠鏡による観測により,M 型矮星を公転する系外惑星の発見数は何倍にも増えることが期待される.将来の系外惑星の電波観測に向け,既知の M 型矮星まわりの惑星からの電波放射を,太陽系の惑星に対して導かれている経験的な電波放射の法則から予測した.これは,惑星からの電波放射は中心星の恒星風によって駆動されるというものである.恒星風に対して太陽風に類似したモデルを用いた結果,電波検出のための最も有望な観測対象は GJ 674b とプロキシマb であり,その後に YZ Cet b,GJ 1214b,GJ 436b が続く.これらの惑星は,太陽系に最も近い部類のものである (10 pc 未満).
しかし,ここで想定される電波フラックスは,M 型矮星からの恒星風に関する未知の特性に非常に敏感であることも示す.
どのようなタイプの恒星風が,系外惑星からの検出可能な電波放射を生み出すのかについて考察した.
「リバースエンジニアリング」計算から,現在の装置で検出可能な電波放射を生み出すためには,恒星からの恒星風による質量放出率が \(\dot{M}\gtrsim \kappa_{\rm SW}/u_{\rm SW}^{3}\) である必要があると推定した.ここで \(u_{\rm SW}\) は恒星風の局所的な速度,\(\kappa_{\rm SW}\) は惑星のサイズ,距離および軌道半径に依存する定数である.
GJ 436 とプロキシマ・ケンタウリの静穏な恒星風に対して観測的に制約されている特性を用いた考察の結果,GJ 436b とプロキシマb は中心星が突発的なコロナ質量放出を起こさない限り,検出可能な電波放射を起こす見込みは低いと結論付けた.
GJ 674b,GJ 876b,YZ Cet b は,中心星の恒星風が \(\dot{M} u_{\rm SW}^{3} \gtrsim 1.8\times 10^{-4}\,{\rm M_{\odot}\,yr^{-1}\left(km/2\right)^{3}}\) であり,電波検出のための良い観測対象である.