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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1806.04073
Brahm et al. (2018)
EPIC 201498078b: A low density Super Neptune on an eccentric orbit
(EPIC 201498078b:離心軌道にある低密度スーパーネプチューン)
この惑星候補の精密な視線速度観測から,これが惑星であることを確認し,また軌道要素を決定した.
質量は土星の半分程度で.やや進化した G 型星の周りを公転している.
惑星の軌道離心率は非常に大きい.この惑星の円軌道化のタイムスケールは比較的短く,18 億年と推定される.しかし系の年齢が進んでいるので,惑星の軌道が円軌道化されるよりも前に,この惑星は進化する中心星に 10 億年程度以内に飲み込まれるだろうと予測される.
惑星の密度は低く,また中心星は明るいため,スーパーネプチューンクラスの惑星としては,大気の特徴付けを透過光分光観測から行う対象に適している.
金属量:[Fe/H] = 0.26
質量:1.104 太陽質量
半径:1.669 太陽半径
光度:2.32 太陽光度
年齢:85.1 億歳
軌道離心率:0.42
質量:0.179 木星質量
半径:0.840 木星半径
平衡温度:1066 K
軌道長半径:0.10376 AU
密度:0.37 g cm-3
arXiv:1806.04073
Brahm et al. (2018)
EPIC 201498078b: A low density Super Neptune on an eccentric orbit
(EPIC 201498078b:離心軌道にある低密度スーパーネプチューン)
概要
新しい系外惑星 EPIC 201498078b の発見について報告する.これはケプラー K2 ミッションの Campaign 13 での観測で最初に同定された惑星候補天体である.この惑星候補の精密な視線速度観測から,これが惑星であることを確認し,また軌道要素を決定した.
質量は土星の半分程度で.やや進化した G 型星の周りを公転している.
惑星の軌道離心率は非常に大きい.この惑星の円軌道化のタイムスケールは比較的短く,18 億年と推定される.しかし系の年齢が進んでいるので,惑星の軌道が円軌道化されるよりも前に,この惑星は進化する中心星に 10 億年程度以内に飲み込まれるだろうと予測される.
惑星の密度は低く,また中心星は明るいため,スーパーネプチューンクラスの惑星としては,大気の特徴付けを透過光分光観測から行う対象に適している.
パラメータ
EPIC 201498078
有効温度:5513 K金属量:[Fe/H] = 0.26
質量:1.104 太陽質量
半径:1.669 太陽半径
光度:2.32 太陽光度
年齢:85.1 億歳
EPIC 201498078b
軌道周期:11.63365 日軌道離心率:0.42
質量:0.179 木星質量
半径:0.840 木星半径
平衡温度:1066 K
軌道長半径:0.10376 AU
密度:0.37 g cm-3
PR
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1806.02259
Villarreal D’Angelo et al. (2018)
Magnetised winds and their influence in the escaping upper atmosphere of HD 209458b
(磁化された風と HD 209458b の散逸する高層大気への影響)
同様に,Lyα でのトランジット観測は,系外惑星の磁場の存在を示唆する強力な道具となりうる.これは,惑星の磁場は散逸していく惑星物質に影響を与えることが期待されるからである.
ここでは,HD 209458b の Lyα 吸収に惑星磁場が与える影響を探査するため,三次元磁気流体力学 (magnetohydrodynamics, MHD) 計算を行った.
惑星と恒星が両方ともに双極子磁場を持つと仮定し.惑星表面の極での表面磁場を 0 - 5 G,恒星の極での磁場強度を 1 - 5 G と変化させた.また,衝突と光電離,輻射再結合,輻射圧の影響の近似的な取扱いを含んでいる.
その結果,惑星と恒星の磁場は,Lyα でのトランジットの吸収分布の形状を変える事を見出した.これは,磁場によって惑星の磁気圏の広がりが変化し,その中での中性物質の量が変わるからである.
HD 209458b で観測されている Lyα の吸収を最もよく再現するのは,恒星風のパラメータとして一般的な値を採用した場合,惑星の双極子磁場が極域で 1 G 未満だった場合であった.
Vidal-Madjar et al. (2003) では,Lyα のトランジット観測から,惑星から散逸する中性大気を検出した.この観測では,視線速度 -100 km/s の位置で 10% の吸収が検出されており,赤い側 (赤方偏移側) よりも青い側 (青方偏移側) での吸収が強いことが報告されている.全体の合計の吸収は,± 300 km/s の範囲で 15 ± 4% であった.
後に,原子のスペクトル線でのトランジット吸収観測も行われており,HI,OI,CII,SiIII,MgI が検出されている (Vidal-Madjar et al. 2003,2004,Ballester et al. 2007,Ehrenreich et al. 2008,Linsky et al. 2010,Jensen et al. 2012,Vidal-Madjar et al. 2013).これにより,流体力学的な惑星風の存在が確認されている.
数値計算や理論計算では,これらの効果の一つや複数を含めたものが存在する.例えば入射する恒星の紫外線の結果としての惑星風の研究である (Murray-Clay et al. 2009など).
これらの研究では,惑星大気の低層領域はよく表されているが,恒星風との相互作用は考慮されていない.
恒星風と惑星風の相互作用は,流体力学シミュレーションを用いて Schneiter et al. (2007) などで研究されている.また,電荷交換過程を含めた粒子シミュレーションも行われている (Erkaev et al. 2007など).
これらの計算では,Lyα で観測された吸収の特徴を部分的に再現することが出来ているが,恒星磁場も惑星磁場も考慮されていない.
しかし,惑星磁場の存在は今のところ未解決の問題である.
理論計算では,ホットジュピター的な惑星の磁場は,木星の磁気モーメントよりも数倍低い程度の値を持つだろうという推測が存在する (Sa ́nchez-Lavega 2004,Durand-Manterola 2009).しかし Christensen et al. (2009) は,惑星内部熱流に依存する磁場の強度は,木星よりも一桁大きくなりうることを予測している.
最近では,Rogers & McElwaine (2017) が小さい惑星ダイナモがこれらのタイプの惑星に存在することを提案している.これは,強い非対称な恒星加熱に起因する電気伝導度の変動によるものである.
HD 209458b が持つ磁場の値は不明である.さらに,中心星 HD 209458 の磁場強度も,分光偏光観測からは検出されていない (Mengel et al. 2017).
解析的な計算では,木星の磁気モーメントの 1-8 倍になると推測されている (Sa ́nchez-Lavega 2004,Durand-Manterola 2009).
一方で,Kislyakova et al. (2014) は Lyα トランジット観測に基づいて,木星の磁気モーメントの 0.1 倍と推測している.
Erkaev et al. (2017) は三次元 MHD モデルで,磁化されていない惑星と恒星風の相互作用の計算を行った.これによると,観測を再現するためには,惑星内部の磁気モーメントは木星の 0.13-0.22 倍である必要があると結論付けている.
過去の計算では,Lyα の分布が流体力学的な恒星風と惑星風の相互作用にどう影響されるかが研究されている (Schneiter et al. 2007,Villarreal D’Angelo et al. 2014,Schneiter et al. 2016).
Schneiter et al. (2007) は,完全電離した恒星風と中性の惑星風を考慮し,惑星からの質量放出率の上限値を推定した.Villarreal D’Angelo et al. (2014) は異なる恒星風と惑星風の状態を考慮した計算を行っている.さらに Schneiter et al. (2016) では光電離過程を計算に陽に取り入れ,モデルを自己無撞着に近付けている.
観測と比較すると,Vidal-Madjar et al. (2003) で言及されている観測の特徴は,これら全てで再現可能である.しかし,波長が長い側での吸収の再現には失敗している.これは,惑星磁場の影響を含めることで今回の研究で再現可能である.
arXiv:1806.02259
Villarreal D’Angelo et al. (2018)
Magnetised winds and their influence in the escaping upper atmosphere of HD 209458b
(磁化された風と HD 209458b の散逸する高層大気への影響)
概要
系外惑星のトランジットをライマンアルファ (Lyα) 線で観測することは,恒星風と惑星大気との相互作用を研究する上で有用である.このような観測は,直接観測できない惑星系のパラメータ,例えば惑星の質量損失率を制約するのに広く使用されている同様に,Lyα でのトランジット観測は,系外惑星の磁場の存在を示唆する強力な道具となりうる.これは,惑星の磁場は散逸していく惑星物質に影響を与えることが期待されるからである.
ここでは,HD 209458b の Lyα 吸収に惑星磁場が与える影響を探査するため,三次元磁気流体力学 (magnetohydrodynamics, MHD) 計算を行った.
惑星と恒星が両方ともに双極子磁場を持つと仮定し.惑星表面の極での表面磁場を 0 - 5 G,恒星の極での磁場強度を 1 - 5 G と変化させた.また,衝突と光電離,輻射再結合,輻射圧の影響の近似的な取扱いを含んでいる.
その結果,惑星と恒星の磁場は,Lyα でのトランジットの吸収分布の形状を変える事を見出した.これは,磁場によって惑星の磁気圏の広がりが変化し,その中での中性物質の量が変わるからである.
HD 209458b で観測されている Lyα の吸収を最もよく再現するのは,恒星風のパラメータとして一般的な値を採用した場合,惑星の双極子磁場が極域で 1 G 未満だった場合であった.
系外惑星からの大気散逸
大気散逸の Lyα での観測
いくつかの系外惑星系で,紫外線の Lyα 波長での観測から,中心星からの紫外線の加熱によって中性大気物質が流出している証拠が検出されている.例えば HD 209458b (Vidal-Madjar et al. 2003),HD 189733b (Lecavelier Des Etangs et al. 2010など),WASP-12b (Fossati et al. 2010など),GJ 436b (Kulow et al. 2014,Ehrenreich et al. 2015) で検出報告があり,また 55 Cnc b (Ehrenreich et al. 2012) でも暫定的な検出報告がある.Vidal-Madjar et al. (2003) では,Lyα のトランジット観測から,惑星から散逸する中性大気を検出した.この観測では,視線速度 -100 km/s の位置で 10% の吸収が検出されており,赤い側 (赤方偏移側) よりも青い側 (青方偏移側) での吸収が強いことが報告されている.全体の合計の吸収は,± 300 km/s の範囲で 15 ± 4% であった.
後に,原子のスペクトル線でのトランジット吸収観測も行われており,HI,OI,CII,SiIII,MgI が検出されている (Vidal-Madjar et al. 2003,2004,Ballester et al. 2007,Ehrenreich et al. 2008,Linsky et al. 2010,Jensen et al. 2012,Vidal-Madjar et al. 2013).これにより,流体力学的な惑星風の存在が確認されている.
大気散逸に関連する物理
HD 209458b の Lyα トランジット中の特徴は,いくつかの物理過程の組み合わせによって再現される.例えば,恒星風と惑星風の相互作用,恒星の輻射圧,惑星の中性原子と恒星風イオンとの電荷交換などである.数値計算や理論計算では,これらの効果の一つや複数を含めたものが存在する.例えば入射する恒星の紫外線の結果としての惑星風の研究である (Murray-Clay et al. 2009など).
これらの研究では,惑星大気の低層領域はよく表されているが,恒星風との相互作用は考慮されていない.
恒星風と惑星風の相互作用は,流体力学シミュレーションを用いて Schneiter et al. (2007) などで研究されている.また,電荷交換過程を含めた粒子シミュレーションも行われている (Erkaev et al. 2007など).
これらの計算では,Lyα で観測された吸収の特徴を部分的に再現することが出来ているが,恒星磁場も惑星磁場も考慮されていない.
惑星磁場と大気散逸への影響
系外惑星の磁場について
惑星磁場は,恒星風との直接の相互作用から惑星の大気を遮蔽するはたらきを持つ.惑星磁場は恒星風を逸らし,大気の低層に恒星風が貫入するのを防ぐ.そのためもし惑星に磁場が存在した場合,惑星から失われる大気の量に大きな影響を与える可能性がある (Adams 2011など).しかし,惑星磁場の存在は今のところ未解決の問題である.
理論計算では,ホットジュピター的な惑星の磁場は,木星の磁気モーメントよりも数倍低い程度の値を持つだろうという推測が存在する (Sa ́nchez-Lavega 2004,Durand-Manterola 2009).しかし Christensen et al. (2009) は,惑星内部熱流に依存する磁場の強度は,木星よりも一桁大きくなりうることを予測している.
最近では,Rogers & McElwaine (2017) が小さい惑星ダイナモがこれらのタイプの惑星に存在することを提案している.これは,強い非対称な恒星加熱に起因する電気伝導度の変動によるものである.
HD 209458b が持つ磁場の値は不明である.さらに,中心星 HD 209458 の磁場強度も,分光偏光観測からは検出されていない (Mengel et al. 2017).
解析的な計算では,木星の磁気モーメントの 1-8 倍になると推測されている (Sa ́nchez-Lavega 2004,Durand-Manterola 2009).
一方で,Kislyakova et al. (2014) は Lyα トランジット観測に基づいて,木星の磁気モーメントの 0.1 倍と推測している.
恒星・惑星磁場と大気散逸のシミュレーション
Trammell et al. (2014) も Lyα 観測から惑星の磁場を制約しており,そこでは大気物質は風の “dead zone” として知られる閉じた磁力線の中に保持され得ることを見出した.Lyα トランジット観測と比較すると,この磁力線に捕獲された物質は,惑星磁場が 10 G (木星磁場の 2.8 倍) かそれ以下の惑星磁場である場合,Ben-Jaffel (2008) による観測を再現できるとされている.Erkaev et al. (2017) は三次元 MHD モデルで,磁化されていない惑星と恒星風の相互作用の計算を行った.これによると,観測を再現するためには,惑星内部の磁気モーメントは木星の 0.13-0.22 倍である必要があると結論付けている.
過去の計算では,Lyα の分布が流体力学的な恒星風と惑星風の相互作用にどう影響されるかが研究されている (Schneiter et al. 2007,Villarreal D’Angelo et al. 2014,Schneiter et al. 2016).
Schneiter et al. (2007) は,完全電離した恒星風と中性の惑星風を考慮し,惑星からの質量放出率の上限値を推定した.Villarreal D’Angelo et al. (2014) は異なる恒星風と惑星風の状態を考慮した計算を行っている.さらに Schneiter et al. (2016) では光電離過程を計算に陽に取り入れ,モデルを自己無撞着に近付けている.
観測と比較すると,Vidal-Madjar et al. (2003) で言及されている観測の特徴は,これら全てで再現可能である.しかし,波長が長い側での吸収の再現には失敗している.これは,惑星磁場の影響を含めることで今回の研究で再現可能である.
今回のシミュレーションについて
計算には,三次元流体力学/輻射コードである GUACHO を使用した.これは,理想磁気流体方程式をデカルト座標で解くものである.また,輻射輸送の項も含んでいる.輻射による加熱と冷却は,惑星風中の中性物質の冷却と加熱によって発生する.ここでは,光電離,衝突電離と中性水素の輻射再結合も含んでいる.論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1806.00506
Citron et al. (2018)
The role of multiple giant impacts in the formation of the Earth-Moon system
(地球-月系の形成における多重巨大衝突の役割)
月形成に関する多数衝突仮説では,現在の月は複数の小さい衛星 (moonlets,小衛星) の合体によって形成されたと考える.これらの小衛星は,連続した大きな衝突によって生成されるデブリ円盤から形成される.
衝突から次の衝突が発生する百万年程度の間に,既に存在していた小衛星は,その後の衝突によって新しい小衛星が形成されるまでの間に,潮汐進化によって外側へ移動する.その段階で,両方の小衛星はお互いが合体するまで,あるいは衛星系が破壊されるまで潮汐的に進化する.
ここでは,既に存在していた小衛星が次の衝突イベントを生き残る可能性を調査した.また,百万年程度の間隔をおいて形成された 2 つの小衛星を含む,地球-小衛星系の力学を調査した.
その結果,既に存在していた小衛星は潮汐的に外側へ移動可能であり,その次の衝突の間も安定を保つことが分かった.その後,既に存在していた小衛星は新しく形成された小衛星と合体するか,あるいは地球と再衝突を起こす.
従って,いくつかの小衛星の合体による月の形成は,複数衝突を介した地球の進化の自然な副産物として起きる.
さらに,地球が過去に月を持っていたかという可能性とその場合の結果を検証し,引き続く衝突による破壊に対する小衛星の安定性は,複数の大きな衝突は月形成の時期を遅らせた可能性を示唆することを見出した.
月形成を説明するためのあらゆる衝突仮説は,なぜ地球と月は同じ酸素・タングステン・チタンの同位体比を持つのかという疑問を説明できる必要がある (Wiechert et al. 2001など).これらの同位体比は,一般にはそれぞれの planetary embryo で異なる値を示す.
しかし,単一の衝突から必ず月が形成されるのケースは稀であり,N 体シミュレーションでは形成される確率は 2 - 8% と推定されている (Brasser et al. 2013,Elser et al. 2011).この部分的な原因は,衝突の分布が等方的である場合,黄道面に対して小さな傾斜を有する地球-月系を形成できる可能性が低いことにある.
その他には,同程度のサイズの天体同士の衝突が惑星形成段階の後期に起こりづらいことや (Jaxobson & Morbidelli 2014),組成的に類似した天体同士が衝突する可能性はわずか ~ 10% であること (Mastrobuono-Battisti & Perets 2017) などの課題も指摘されている.
スタンダードな hit-and-run 衝突はより可能性があるが,このような衝突がどの程度の頻度で地球に対する最後の巨大衝突になるのかは不明瞭であり,また hit-and-run 衝突になるような,低質量で高衝突速度の天体衝突がどの程度頻繁なのかも不明である (Raymond et al. 2009).
さらに,高角運動量シナリオ (Cuk & Stewart 2012) では初期地球が高速で自転している必要があるが,月形成衝突以前の天体衝突によって角運動量が損失してしまうため,実現が難しい (Rufu et al. 2017).
それぞれの衝突はデブリ円盤を生成して,そこから小衛星が形成される,この小衛星は次の衝突が起きるより前に,潮汐的に外側へ比較的速く移動する,
引き続く衝突で新しい小衛星が形成されると (デブリ円盤からの衛星形成のタイムスケールは 1 - 100 年なので,これは実現可能 (Kokubo et al. 2000など)),古い外側の小衛星と新しい内側の小衛星からなる,2 つの小衛星系が誕生する.この系は力学的に進化し,小衛星同士が合体を起こす可能性がある.新しい小衛星同士の衝突段階とそれに引き続く合体により,最終的に単一の月が形成されると考えられる (Rufu et al. 2017).
この系は様々な進化を辿りうる.
衛星が失われるケースとしては,両方の小衛星が別々に原始地球に落下する進化,あるいは小衛星同士が合体した後に原始地球に落下するシナリオが起こりうる.レアケースとしては,片方の小衛星が系からはじき出されるという進化がある.
その他には,小衛星同士が一つに合体して安定になり,外側へ潮汐的に移動するという進化が発生しうる,また,内側の小衛星が原始地球に落下する一方で,外側の小衛星が安定に保たれるケースもある.この場合のレアケースとしては,外側の小衛星が落下して内側の小衛星が安定に保たれるという場合がある.
arXiv:1806.00506
Citron et al. (2018)
The role of multiple giant impacts in the formation of the Earth-Moon system
(地球-月系の形成における多重巨大衝突の役割)
概要
地球-月系は 1 回の巨大衝突を経て形成されたことが示唆されている.この過程では,月は衝突で生成されたデブリ円盤の降着によって形成されたと考えられている.しかし,このような巨大衝突が発生する確率は低く,またその進化の間に地球は多数の小さい衝突を経験し,共進化する可能性のある,より小さい衛星を生成する.月形成に関する多数衝突仮説では,現在の月は複数の小さい衛星 (moonlets,小衛星) の合体によって形成されたと考える.これらの小衛星は,連続した大きな衝突によって生成されるデブリ円盤から形成される.
衝突から次の衝突が発生する百万年程度の間に,既に存在していた小衛星は,その後の衝突によって新しい小衛星が形成されるまでの間に,潮汐進化によって外側へ移動する.その段階で,両方の小衛星はお互いが合体するまで,あるいは衛星系が破壊されるまで潮汐的に進化する.
ここでは,既に存在していた小衛星が次の衝突イベントを生き残る可能性を調査した.また,百万年程度の間隔をおいて形成された 2 つの小衛星を含む,地球-小衛星系の力学を調査した.
その結果,既に存在していた小衛星は潮汐的に外側へ移動可能であり,その次の衝突の間も安定を保つことが分かった.その後,既に存在していた小衛星は新しく形成された小衛星と合体するか,あるいは地球と再衝突を起こす.
従って,いくつかの小衛星の合体による月の形成は,複数衝突を介した地球の進化の自然な副産物として起きる.
さらに,地球が過去に月を持っていたかという可能性とその場合の結果を検証し,引き続く衝突による破壊に対する小衛星の安定性は,複数の大きな衝突は月形成の時期を遅らせた可能性を示唆することを見出した.
月形成シナリオについて
ジャイアントインパクト説とその問題点
月の起源を説明する仮説としては,巨大衝突説 (ジャイアントインパクト説) が最も普及したシナリオである.これは,地球-月系の角運動量と,月の鉄と揮発性元素の欠乏を説明できるからである (Canup 2004).月形成を説明するためのあらゆる衝突仮説は,なぜ地球と月は同じ酸素・タングステン・チタンの同位体比を持つのかという疑問を説明できる必要がある (Wiechert et al. 2001など).これらの同位体比は,一般にはそれぞれの planetary embryo で異なる値を示す.
しかし,単一の衝突から必ず月が形成されるのケースは稀であり,N 体シミュレーションでは形成される確率は 2 - 8% と推定されている (Brasser et al. 2013,Elser et al. 2011).この部分的な原因は,衝突の分布が等方的である場合,黄道面に対して小さな傾斜を有する地球-月系を形成できる可能性が低いことにある.
その他には,同程度のサイズの天体同士の衝突が惑星形成段階の後期に起こりづらいことや (Jaxobson & Morbidelli 2014),組成的に類似した天体同士が衝突する可能性はわずか ~ 10% であること (Mastrobuono-Battisti & Perets 2017) などの課題も指摘されている.
スタンダードな hit-and-run 衝突はより可能性があるが,このような衝突がどの程度の頻度で地球に対する最後の巨大衝突になるのかは不明瞭であり,また hit-and-run 衝突になるような,低質量で高衝突速度の天体衝突がどの程度頻繁なのかも不明である (Raymond et al. 2009).
さらに,高角運動量シナリオ (Cuk & Stewart 2012) では初期地球が高速で自転している必要があるが,月形成衝突以前の天体衝突によって角運動量が損失してしまうため,実現が難しい (Rufu et al. 2017).
多重衝突仮説
多重衝突仮説の概要
巨大衝突説には上記のような問題点があり,月形成に関する多重衝突モデルも提案されている (Ringwood 1989,Rufu et al. 2017).これは,月は原始地球への多数回の大きな衝突の自然な帰結として形成されたと考えるものである.それぞれの衝突はデブリ円盤を生成して,そこから小衛星が形成される,この小衛星は次の衝突が起きるより前に,潮汐的に外側へ比較的速く移動する,
引き続く衝突で新しい小衛星が形成されると (デブリ円盤からの衛星形成のタイムスケールは 1 - 100 年なので,これは実現可能 (Kokubo et al. 2000など)),古い外側の小衛星と新しい内側の小衛星からなる,2 つの小衛星系が誕生する.この系は力学的に進化し,小衛星同士が合体を起こす可能性がある.新しい小衛星同士の衝突段階とそれに引き続く合体により,最終的に単一の月が形成されると考えられる (Rufu et al. 2017).
複数小衛星の進化
例えば,過去の衝突や合体によって生成され外側に移動した古い小衛星と,最近の衝突によってロッシュ限界あたりで形成された内側の新しい小衛星の進化を考える.この系は様々な進化を辿りうる.
衛星が失われるケースとしては,両方の小衛星が別々に原始地球に落下する進化,あるいは小衛星同士が合体した後に原始地球に落下するシナリオが起こりうる.レアケースとしては,片方の小衛星が系からはじき出されるという進化がある.
その他には,小衛星同士が一つに合体して安定になり,外側へ潮汐的に移動するという進化が発生しうる,また,内側の小衛星が原始地球に落下する一方で,外側の小衛星が安定に保たれるケースもある.この場合のレアケースとしては,外側の小衛星が落下して内側の小衛星が安定に保たれるという場合がある.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1806.01181
Diez Alonso et al. (2018)
Two planetary systems with transiting Earth-size and super-Earth planets orbiting late-type dwarf stars
(晩期型矮星を公転するトランジット地球サイズとスーパーアース惑星の 2 惑星系)
1 つ目は EPIC 248545986 (以下 K2-XX1 とする) であり,スペクトル型は M3.0V である.K2 の Campaign 14 で観測された.3 個の地球サイズ惑星が検出された.これらはコンパクトな軌道配置にあり,軌道周期比が 2:3:4 軌道共鳴に近い.
2 つ目は EPIC 249801827 (以下 K2-XX2 とする) であり,スペクトル型は M0.5V である.こちらは Campaign 15 で観測された.2 個のスーパーアース惑星が検出された.
これらの惑星の大気の平衡温度は 380 - 600 K の範囲内と推定され,大気の透過光分光のシグナル強度は ~ 10 ppm と推定される.
フォローアップ観測は,K2-XX1 はスペイン・カナリア諸島の La Palma にある, Observatorio Roque de los Muchachos の 10.4m Gran Telescopio Canarias (GTC) を使用して分光観測を行い.恒星の特徴付けを行った.また恒星の視線速度も測定した.その結果,この恒星は銀河系の薄い円盤に属する恒星だと推定される.
K2-XX2 は Radial Velocity Experiment (RAVE) で観測され.同じく銀河系の薄い円盤に属する恒星と推定される.
有効温度:3420 K
金属量:[Fe/H] = -0.1
半径:0.36 太陽半径
質量:0.40 太陽質量
光度:0.016 太陽光度
距離:49 pc
軌道長半径:0.0441 AU
半径:1.1 地球半径
平衡温度:502 K
軌道長半径:0.0576 AU
半径:1.0 地球半径
平衡温度:427 K
軌道長半径:0.0685 AU
半径:1.1 地球半径
平衡温度:399 K
K2-XX1b, c, d の質量推定値から想定される視線速度の振幅の大きさは,軌道が円軌道だと仮定すると,それぞれ 0.9, 0.5, 0.7 m/s となる.これらは,ESPRESSO のような極めて安定した分光装置を用いた視線速度測定で観測可能であると考えられる.
惑星大気による透過スペクトルの振幅は,透過スペクトルの有効大気スケールハイトが大気スケールハイトの 7 倍 (Miller-Ricci & Fortney 2010),透過性の揮発性物質主体の大気で平均分子量が 20 で,ボンドアルベドが 0.3 の場合,それぞれ 12, 11, 10 ppm と推定される.
Mercury パッケージを用いて系の進化を計算した結果,大きな離心率や傾斜角変化は見られなかった,従ってこの系は力学的に安定と結論付けられる.
有効温度:3810 K
金属量:[Fe/H] = -0.1
半径:0.54 太陽半径
質量:0.58 太陽質量
光度:0.053 太陽光度
自転周期:10.8 日
距離:70 pc
軌道長半径:0.0513 AU
半径:2.0 地球半径
平衡温度:586 K
軌道長半径:0.1159 AU
半径:1.8 地球半径
平衡温度:389 K
K2-XX2b, c の質量推定値から想定される視線速度の振幅の大きさは,軌道が円軌道だと仮定すると,それぞれ 2.5, 1.5 m/s となる.
惑星大気による透過スペクトルの振幅は,同様にそれぞれ 12, 66 ppm と推定される.
Mercury パッケージを用いて系の進化を計算した結果,大きな離心率や傾斜角変化は見られなかった,従ってこの系は力学的に安定と結論付けられる.
arXiv:1806.01181
Diez Alonso et al. (2018)
Two planetary systems with transiting Earth-size and super-Earth planets orbiting late-type dwarf stars
(晩期型矮星を公転するトランジット地球サイズとスーパーアース惑星の 2 惑星系)
概要
ケプラーの K2 ミッションの観測データから,低温の矮星の周りに新しい 2 つの惑星系を発見した.1 つ目は EPIC 248545986 (以下 K2-XX1 とする) であり,スペクトル型は M3.0V である.K2 の Campaign 14 で観測された.3 個の地球サイズ惑星が検出された.これらはコンパクトな軌道配置にあり,軌道周期比が 2:3:4 軌道共鳴に近い.
2 つ目は EPIC 249801827 (以下 K2-XX2 とする) であり,スペクトル型は M0.5V である.こちらは Campaign 15 で観測された.2 個のスーパーアース惑星が検出された.
これらの惑星の大気の平衡温度は 380 - 600 K の範囲内と推定され,大気の透過光分光のシグナル強度は ~ 10 ppm と推定される.
フォローアップ観測は,K2-XX1 はスペイン・カナリア諸島の La Palma にある, Observatorio Roque de los Muchachos の 10.4m Gran Telescopio Canarias (GTC) を使用して分光観測を行い.恒星の特徴付けを行った.また恒星の視線速度も測定した.その結果,この恒星は銀河系の薄い円盤に属する恒星だと推定される.
K2-XX2 は Radial Velocity Experiment (RAVE) で観測され.同じく銀河系の薄い円盤に属する恒星と推定される.
パラメータ
K2-XX1 系
K2-XX1
等級:V = 14.549有効温度:3420 K
金属量:[Fe/H] = -0.1
半径:0.36 太陽半径
質量:0.40 太陽質量
光度:0.016 太陽光度
距離:49 pc
K2-XX1b
軌道周期:5.240 日軌道長半径:0.0441 AU
半径:1.1 地球半径
平衡温度:502 K
K2-XX1c
軌道周期:7.775 日軌道長半径:0.0576 AU
半径:1.0 地球半径
平衡温度:427 K
K2-XX1d
軌道周期:10.115 日軌道長半径:0.0685 AU
半径:1.1 地球半径
平衡温度:399 K
K2-XX1 系について
Weiss & Marcy (2014) の,1.5 地球半径以下の惑星に対する質量と半径の関係性を用いると,それぞれの惑星質量は K2-XX1b が 1.4 地球質量,c が 0.9 地球質量,d が 1.3 地球質量と推定される.K2-XX1b, c, d の質量推定値から想定される視線速度の振幅の大きさは,軌道が円軌道だと仮定すると,それぞれ 0.9, 0.5, 0.7 m/s となる.これらは,ESPRESSO のような極めて安定した分光装置を用いた視線速度測定で観測可能であると考えられる.
惑星大気による透過スペクトルの振幅は,透過スペクトルの有効大気スケールハイトが大気スケールハイトの 7 倍 (Miller-Ricci & Fortney 2010),透過性の揮発性物質主体の大気で平均分子量が 20 で,ボンドアルベドが 0.3 の場合,それぞれ 12, 11, 10 ppm と推定される.
Mercury パッケージを用いて系の進化を計算した結果,大きな離心率や傾斜角変化は見られなかった,従ってこの系は力学的に安定と結論付けられる.
K2-XX2 系
K2-XX2
等級:V = 13.392有効温度:3810 K
金属量:[Fe/H] = -0.1
半径:0.54 太陽半径
質量:0.58 太陽質量
光度:0.053 太陽光度
自転周期:10.8 日
距離:70 pc
K2-XX2b
軌道周期:6.034 日軌道長半径:0.0513 AU
半径:2.0 地球半径
平衡温度:586 K
K2-XX2c
軌道周期:20.523 日軌道長半径:0.1159 AU
半径:1.8 地球半径
平衡温度:389 K
K2-XX2 系について
Weiss & Marcy (2014) の,1.5 地球半径以下の惑星に対する質量と半径の関係性を用いると,それぞれの惑星質量は K2-XX2b が 5.0 地球質量,c が 4.6 地球質量と推定される.K2-XX2b, c の質量推定値から想定される視線速度の振幅の大きさは,軌道が円軌道だと仮定すると,それぞれ 2.5, 1.5 m/s となる.
惑星大気による透過スペクトルの振幅は,同様にそれぞれ 12, 66 ppm と推定される.
Mercury パッケージを用いて系の進化を計算した結果,大きな離心率や傾斜角変化は見られなかった,従ってこの系は力学的に安定と結論付けられる.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1805.12520
Almenara et al. (2018)
Absolute densities in exoplanetary systems: photodynamical modelling of Kepler-138
(系外惑星系での絶対的な密度:ケプラー138 の光力学的モデリング)
この手法を,ケプラー138 系に適用した.その結果,導出した惑星の密度は過去の推定よりも精度がファクター 2 ほど改善され,以前の研究と比較して恒星の密度の推定に相違があることを見出した.こ恒星密度の推定値の違いは,恒星と惑星の質量・半径を決定する際の不一致を引き起こす.
特に,内側の惑星 ケプラー138b は,サイズが火星から地球の間であることが判明した.
新しく得られた質量と密度の推定値から,一般化されたベイズ推定モデルを用いて,惑星の内部構造の特徴付けを行った.このモデルは,惑星内部の縮退を定量化し,コア,マントル,海洋とガス層の厚さなどの内部パラメータの信頼領域を計算することができる.
その結果,ケプラー138b と ケプラー138d は有意な厚い揮発性の層を持ち,ケプラー138b のガス層は成分が濃縮されている可能性が高いと推定される.一方で ケプラー138c は純粋な岩石組成だろうと推定される.
多くの場合,得られた半径比の情報と恒星進化モデルおよび分光観測解析とを合わせることで,惑星と恒星の質量比の力学的な測定を行い,それを元に惑星密度の測定が達成される.
これまでに数百ものトランジット巨大惑星の質量測定が,正確なドップラー速度測定を用いて得られている.これらの測定が行われている惑星の大部分は,地上からの広視野サーベイ,例えば SuperWASP や HATNet などでトランジットが観測されたものであり,その後高精度視線速度観測によって惑星質量が測定されている.
対照的にに,海王星より小さいサイズのトランジット惑星は,一握りのものしか視線速度で質量が測定されていない.また小さい惑星は観測コストが高く,望遠鏡の観測時間を多く必要とする.
ケプラーミッションでは,数千個もの海王星サイズやそれより小さい惑星候補が検出されているが,これらの中心星は暗く,質量測定に必要な精密な視線速度測定を行うことが難しい.視線速度で質量が得られているいくつかの天体では,惑星の密度はだいたい 20% より良い精度で求められているが,その決定は依然として恒星モデルに依存している.この恒星モデルの系統的誤差については完全には分かっていない.
惑星間の相互作用は惑星の軌道をケプラー運動からずれさせ,この影響はトランジット時刻変動 (transit timing variation, TTV) として現れる.これは,トランジット時刻の厳密な周期性からのずれを測定することによって得られる.
TTV は,惑星の物理特性を得るための実り多い代替技術として最近盛んに使用されている.しかしこれらの解析もまた,必ず恒星の大気と進化モデルに依存している.さらに,この方法で測定された惑星質量と半径の組み合わせによる密度推定は,多くの場合は推定の不定性が大きい.
この系では,全ての惑星が TTV を示す.一番内側の火星サイズ惑星の質量は,Jontof-Hutter et al. (2015) で TTV を用いて初めて測定された.この惑星の公転によって恒星に引き起こされる視線速度の変動は数 cm/s のレベルであり,これは現在の装置では明るい恒星に対しても検出できない大きさである.そのため TTV を用いてこの惑星の質量を測定したこの結果は注目すべきものである.
しかし,惑星の質量と半径の決定精度はそれぞれ 62-68% と 6% であり,従って導出される密度の精度も 62-65% 程度と不定性が大きい.そのため,この惑星の組成を区別することはできない.
それぞれの天体を球形だと仮定すると,
\[
\rho_{\rm p}=\rho_{\star}\left(\frac{M_{\rm p}}{M_{\star}}\right)\left(\frac{R_{\rm p}}{R_{\star}}\right)^{-3}
\]
という関係が成り立つ.ここで,\(M\),\(R\),\(\rho\) は質量,半径,平均密度であり,添字の \({\rm p}\) と \(\star\) はそれぞれ惑星と恒星を表す.
半径比 \(R_{\rm p}/R_{\star}\) は,トランジット光度曲線の形状から,\(M_{\rm p}/M_{\star}\) は重力相互作用から制約することができる.
もし惑星の軌道離心率と近点引数が既知である場合,恒星の平均密度はケプラーの第三法則を用いて惑星のトランジット光度曲線の形状から推定可能であることはよく知られている.軌道の幾何学及び配置に関する制約は,例えば視線速度測定や惑星間の重力的相互作用の光度曲線のモデリングから直接得られる.
従って,複数トランジット系での惑星間の重力相互作用が検出された場合,光度曲線の情報のみから惑星の平均密度が示唆可能である.
この推定は恒星モデルに依存しない.ただし恒星が球状であるという仮定と,恒星の周辺減光のモデルは必要である.これらの仮定のもとでは,密度の決定は依然として検出されていない混入した伴星によってバイアスされ,恒星黒点は考慮されない.
相対フラックスは無次元量であり,光度曲線は天体の動きの時間的なマッピングに関する情報しか提供しない.言い換えれば,重力相互作用を含む光度曲線モデルは,長さを定数倍スケーリングすることに対して不変であり,また質量を同じ定数の 3 乗でスケーリングすることに対して不変である.これは,ニュートン力学の \(MR^{-3}\) 縮退と呼ばれる.
光時間か相対論効果が測定されるか,あるいは恒星の視線速度が得られた場合にこの不変性は破れ,絶対的な質量と半径が測定可能となる.
arXiv:1805.12520
Almenara et al. (2018)
Absolute densities in exoplanetary systems: photodynamical modelling of Kepler-138
(系外惑星系での絶対的な密度:ケプラー138 の光力学的モデリング)
概要
理想的な条件では,複数惑星系でのトランジット惑星の密度は,測光データのみから決定できる.力学的な情報は光度曲線から抽出でき,モデリングは自己一貫して行われる.つまり,光力学モデルを使用する.これは,より一般的に使用されるトランジット時刻の情報ではなく,個々の測光観測データをシミュレートするものである.この手法を,ケプラー138 系に適用した.その結果,導出した惑星の密度は過去の推定よりも精度がファクター 2 ほど改善され,以前の研究と比較して恒星の密度の推定に相違があることを見出した.こ恒星密度の推定値の違いは,恒星と惑星の質量・半径を決定する際の不一致を引き起こす.
特に,内側の惑星 ケプラー138b は,サイズが火星から地球の間であることが判明した.
新しく得られた質量と密度の推定値から,一般化されたベイズ推定モデルを用いて,惑星の内部構造の特徴付けを行った.このモデルは,惑星内部の縮退を定量化し,コア,マントル,海洋とガス層の厚さなどの内部パラメータの信頼領域を計算することができる.
その結果,ケプラー138b と ケプラー138d は有意な厚い揮発性の層を持ち,ケプラー138b のガス層は成分が濃縮されている可能性が高いと推定される.一方で ケプラー138c は純粋な岩石組成だろうと推定される.
背景
トランジット惑星の視線速度による質量・密度推定
系外惑星が中心星の手前を通過することで食 (トランジット) が発生し,周回している惑星と中心星に関する情報を得ることが出来る.例えば食の深さからは惑星と恒星のサイズ比が得られ,また惑星の運動に関するケプラーの第三法則を元にして恒星の平均密度がおおよそ推定できる (Seager & Mallen-Ornelas 2003).光度曲線からの惑星・恒星の半径比の推定は,惑星の組成やこれらの惑星の多様性に関する研究の第一歩となる.多くの場合,得られた半径比の情報と恒星進化モデルおよび分光観測解析とを合わせることで,惑星と恒星の質量比の力学的な測定を行い,それを元に惑星密度の測定が達成される.
これまでに数百ものトランジット巨大惑星の質量測定が,正確なドップラー速度測定を用いて得られている.これらの測定が行われている惑星の大部分は,地上からの広視野サーベイ,例えば SuperWASP や HATNet などでトランジットが観測されたものであり,その後高精度視線速度観測によって惑星質量が測定されている.
対照的にに,海王星より小さいサイズのトランジット惑星は,一握りのものしか視線速度で質量が測定されていない.また小さい惑星は観測コストが高く,望遠鏡の観測時間を多く必要とする.
ケプラーミッションでは,数千個もの海王星サイズやそれより小さい惑星候補が検出されているが,これらの中心星は暗く,質量測定に必要な精密な視線速度測定を行うことが難しい.視線速度で質量が得られているいくつかの天体では,惑星の密度はだいたい 20% より良い精度で求められているが,その決定は依然として恒星モデルに依存している.この恒星モデルの系統的誤差については完全には分かっていない.
視線速度や恒星モデルに依存しない質量・密度推定
一方で,複数の惑星が存在する系では,惑星同士の重力的相互作用から,恒星に対するそれぞれの惑星の質量比が視線速度観測によらず得られる.惑星間の相互作用は惑星の軌道をケプラー運動からずれさせ,この影響はトランジット時刻変動 (transit timing variation, TTV) として現れる.これは,トランジット時刻の厳密な周期性からのずれを測定することによって得られる.
TTV は,惑星の物理特性を得るための実り多い代替技術として最近盛んに使用されている.しかしこれらの解析もまた,必ず恒星の大気と進化モデルに依存している.さらに,この方法で測定された惑星質量と半径の組み合わせによる密度推定は,多くの場合は推定の不定性が大きい.
ケプラー138 系の惑星
このような系の例がケプラー138 系である.ケプラー138 は 3 つのトランジット惑星ケプラー138b, c, d を持つ M1 型恒星であり,惑星の軌道周期はそれぞれ 10.3,13.8,23.1 日である.興味深いのは,ケプラー138b は火星サイズの惑星であるという点である.また,ケプラー138b, c は軌道周期の比が 4:3 の 1 次の平均運動共鳴に近く,ケプラー138c, d は 5:3 の 2 次の平均運動共鳴に近い.この系では,全ての惑星が TTV を示す.一番内側の火星サイズ惑星の質量は,Jontof-Hutter et al. (2015) で TTV を用いて初めて測定された.この惑星の公転によって恒星に引き起こされる視線速度の変動は数 cm/s のレベルであり,これは現在の装置では明るい恒星に対しても検出できない大きさである.そのため TTV を用いてこの惑星の質量を測定したこの結果は注目すべきものである.
しかし,惑星の質量と半径の決定精度はそれぞれ 62-68% と 6% であり,従って導出される密度の精度も 62-65% 程度と不定性が大きい.そのため,この惑星の組成を区別することはできない.
手法
光力学的モデリング
通常は,惑星の密度の正確な推定値を得るためには,惑星質量と半径の両方を測定する必要がある.これは単独の惑星しか存在しない系では正しいが,複数トランジット惑星系では,系内の天体の密度を,質量と半径の独立した測定なしに測定出来る可能性がある (なお短周期惑星の場合は,もし惑星の潮汐による恒星の楕円体変動が検出できれば,\(M_{\rm p}/M_{\star}\) が決定可能である).それぞれの天体を球形だと仮定すると,
\[
\rho_{\rm p}=\rho_{\star}\left(\frac{M_{\rm p}}{M_{\star}}\right)\left(\frac{R_{\rm p}}{R_{\star}}\right)^{-3}
\]
という関係が成り立つ.ここで,\(M\),\(R\),\(\rho\) は質量,半径,平均密度であり,添字の \({\rm p}\) と \(\star\) はそれぞれ惑星と恒星を表す.
半径比 \(R_{\rm p}/R_{\star}\) は,トランジット光度曲線の形状から,\(M_{\rm p}/M_{\star}\) は重力相互作用から制約することができる.
もし惑星の軌道離心率と近点引数が既知である場合,恒星の平均密度はケプラーの第三法則を用いて惑星のトランジット光度曲線の形状から推定可能であることはよく知られている.軌道の幾何学及び配置に関する制約は,例えば視線速度測定や惑星間の重力的相互作用の光度曲線のモデリングから直接得られる.
従って,複数トランジット系での惑星間の重力相互作用が検出された場合,光度曲線の情報のみから惑星の平均密度が示唆可能である.
この推定は恒星モデルに依存しない.ただし恒星が球状であるという仮定と,恒星の周辺減光のモデルは必要である.これらの仮定のもとでは,密度の決定は依然として検出されていない混入した伴星によってバイアスされ,恒星黒点は考慮されない.
光度曲線からの物理量の推定
興味深いことに,密度は光度曲線の解析から得られる唯一の無次元量でない物理量である.これの究極的な理由は,重力定数 G は密度の逆数を時間の二乗で割った次元を持っているからである.相対フラックスは無次元量であり,光度曲線は天体の動きの時間的なマッピングに関する情報しか提供しない.言い換えれば,重力相互作用を含む光度曲線モデルは,長さを定数倍スケーリングすることに対して不変であり,また質量を同じ定数の 3 乗でスケーリングすることに対して不変である.これは,ニュートン力学の \(MR^{-3}\) 縮退と呼ばれる.
光時間か相対論効果が測定されるか,あるいは恒星の視線速度が得られた場合にこの不変性は破れ,絶対的な質量と半径が測定可能となる.