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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1810.00013
Sheppard et al. (2018)
A New High Perihelion Inner Oort Cloud Object
(新しい高近日点の内オールトの雲天体)

概要

内オールトの雲 (inner Oort cloud) の天体は,カイパーベルトよりも遠方に近日点を持ち,軌道長半径は数千 au よりも小さい.これらの天体は既知の惑星の強い重力的な影響を受けていないが,太陽系外部の力はほとんど受けず,重力的に太陽に強く束縛されている.

ここでは,内オールトの雲の天体として,セドナ,2012 VP113 に続く 3 番目の天体 2015 TG387 の発見を報告する.

2015 TG387 の近日点は 65 ± 1 au で,軌道長半径は 1190 ± 70 au である
この天体の近日点経度角はセドナと 2012 VP113 の近日点経度角の間にある.従って,軌道要素が集まっている extreme trans-Neptunian objects (ETNOs) の主要グループに類似した特徴を持つ.これらは,Planet X や Planet 9 と呼ばれる仮説上の重い遠方惑星によって同じ軌道角に導かれている可能性がある天体である.

この新しい天体の軌道は,既知の惑星からの影響と銀河潮汐に対して,太陽系年齢の間に渡って安定である.さらに,過去 40 億年間の太陽に対する恒星遭遇イベントを含めたシミュレーションでも,この天体は大部分の場合で安定であった.しかし軌道の力学的な進化は,恒星遭遇のシナリオとして用いたモデルに依存する.


驚くべきことに,数百 au 離れた離心軌道にあり,大部分の既知の ETNOs と近日点経度が反平行にあると思われる重い Planet X をシミュレーションに含めた場合,その他の ETNOs を安定にするような Planet X の軌道の場合は 2015 TG387 は安定であることを見出した.

実際,最も安定なシミュレーションにおいては,この天体の近日点経度は Planet X の近日点経度から 180 度の位置を秤動する.太陽系の年齢の期間に渡って,この天体は Planet X から反対方向に存在する.


今回の発見を元に,内オールトの雲天体の軌道長半径分布に関して,3 に近い指数の傾きを見出した.直径が 40 km より大きい内オールトの雲天体は 200 万個存在し,総質量は 1022 kg と推定される.
内オールトの雲の天体の軌道傾斜角分布は散乱円盤天体と類似しており,平均は 19 度である.

背景

Extreme trans-Neptunian objects について

Extreme trans-Neptunian objects (ETNOs) は,近日点が海王星軌道よりも十分遠方にあり,大きな軌道長半径 (150 - 250 au) を持つ天体の総称である.ETNOs は既知の巨大惑星とは僅かな相互作用しか起こさず,数百から数千 au 離れた太陽の重力に非常に敏感である.そのため ETNOs はカイパーベルト以遠の太陽系を探査するのに使うことが出来る.

ETNOs は 3 つのサブクラスに分類できる.

Scattered ETNOs は,近日点が 38 - 45 au 以下で,おそらく海王星との重力散乱によって作られ,現在も海王星と一定の相互作用を持つものである (Brasser & Schwamb 2015).
Detached ETNOs は近日点が 40 - 45 au から 50 - 60 au の間にある天体である.巨大惑星とは最小限の相互作用しかしないが,依然として海王星には比較的近いため,既知の巨大惑星とは依然として一定の相互作用があるものである (Gladman et al. 2002,Bannister et al. 2017).

Inner Oort Cloud objects (IOCs,内オールトの雲天体) は近日点が 50 - 60 au より大きく,巨大惑星から強く影響を受けるには遠すぎる位置にある (Gomes et al. 2008).
離心軌道にある IOC の起源はおそらく,外的な恒星潮汐力や外部太陽系からの未知の力など,より効率的に過去に働いたであろうメカニズムを必要とする.そのため IOCs の軌道は,遠方の太陽系がどの様に形成され,現在どの様に周囲と相互作用しているかについての情報を与える.

Detached ETNOs は IOCs と同じ様に進化しているかもしれないし,あるいは scattered ETNOs により類似しているかもしれない.
なお,遠日点が数千 au を超えるすべての天体に対しては,銀河潮汐や通過する恒星が非常に重要になるため,外部オールトの雲の天体とみなされる.

ETNOs の軌道と未知の惑星の可能性

Trujillo and Sheppard (2014) では,ETNOs の近日点引数が似たような値に集まっており,また経度が非対称である可能性を指摘した.これは,スーパーアースより大きな質量の惑星が数百 au の距離にあり,これらの ETNOs を似た軌道にまとめている可能性を示唆するものである.

Batygin & Brown (2016) では,ETNOs の軌道が揃うための未知の惑星軌道を推定した.その結果,未知の惑星軌道は離心軌道である必要があり,軌道面は傾いており軌道長半径は数百 au と推定した.

観測

2015 TG387 は,カイパーベルトの端を超えた領域にある天体のサーベイによって発見された.発見には主に,北半球のハワイ・マウナケア山頂にある 8.2 m すばる望遠鏡の 1.5 平方角 HyperSuprime Camera (HSC) と,4 m Blanco 望遠鏡 (Cerro Tololo Interamerican Observatory) の 2.7 平方角 Dark Energy Camera (DECam) を使用した.

2015 年 10 月 13 日に,すばる望遠鏡による観測で太陽から 80 au の距離に発見された.
この時の r バンドでの等級は 24.0 であった.すばるを用いた観測では一般に 25.5 等級までの深い探査が可能であり,この天体は今回の発見の限界等級よりも 1.5 等級明るい天体である.

80 au の距離で,天体のアルベドの値を中間的な値である 15% と仮定すると,2015 TG387 の直径は 300 km と推定される

この天体は,2015 年 12 月,2016 年 7 月,10 月,11 月,12 月,2017 年 9 月, 12 月,2018 年 5 月にも観測された.
軌道要素は,軌道長半径 1190 ± 70 au,軌道離心率 0.945 ± 0.003,軌道傾斜角 11.669 ± 0.001 度.昇交点黄経 300.97 ± 0.01 度,近日点経度 118.2 ± 0.1 度である.

この天体の近日点引数は 0 度よりも 180 度に近く,これはセドナ,2012 VP113 やその他の大部分の ETNOs とは異なる特徴である.実際,2015 TG387 は近日点引数が 180 度に近い detached ETNOs や内オールトの雲としては初めての発見例である

まとめ

内オールトの雲に属する新しい天体 2015 TG387 を発見した.2015 TG387 の近日点はこれまでで 3 番目に遠い.新しい発見の詳細は以下の通り.

1) 2015 TG387 の近日点経度は 59 度で,セドナや 2012 VP113,その他の ETNOs と類似している.近日点経度のクラスタリングは 2 - 2.5σ の有意性を示すのみである.既知の 8 個の内オールトの雲天体と detached ETNOs をサンプルに加えた場合は近日点経度のクラスタリングの有意性は ~ 4σ に上がるが,これはこれらの天体の発見にかかる経度のバイアスを無視している.より多くの内オールトの雲と detached ETNOs の一様なサーベイによる発見が,近日点経度のクラスタリングにおける良い統計的な解析をするために必要である.

2) 2015 TG387 を加えた解析の結果,内オールトの雲の天体の軌道長半径分布は a2.7 に従っていることを見出した.もし軌道長半径分布の指数がここで示唆されるように 3 である場合,空間の体積は距離の 3 乗で大きくなるため,内オールトの雲の天体の空間密度は太陽からの距離によらずに一定であることを意味する

3) 直径が 40 km より大きな内オールトの雲天体の個数は 2 × 106 個と推定される.また総質量は 1022 kg と推定される.従って内オールトの雲の集団は,カイパーベルト天体の集団と似た質量を持つと考えられる.

4) 内オールトの雲天体と detached ETNOs は,太陽系外縁天体 (trans-Neptunian objects, TNOs) のうち散乱円盤 (scattered disk) の天体と似た軌道傾斜角を持っているように思われる.平均的な軌道傾斜角は 19 度である.内オールトの雲は,古典的な KBOs のような狭い傾斜角分布や,MMR-KR TNOs (海王星との mean motion resonance と Kozai resonance にある天体) のような,非常に厚い傾斜角分布を持っていないように見える.

5) シミュレーションから,2015 TG387 は太陽系内の惑星の影響を含めても軌道は安定であることが判明した.また銀河潮汐を含めても安定である.恒星の近接遭遇に対しても大部分のケースで安定だが,これは近接遭遇に用いたモデルに依存する.大部分の恒星遭遇シナリオでは,95% のケースでは太陽系年齢の間安定である.しかし最も強い恒星遭遇シナリオを用いた場合は,太陽系年齢のうちに 65% が失われる.総合すると,この天体は太陽系年齢の間に渡って現在の軌道パラメータで概ね安定と言える.

6) 銀河潮汐の外部からの力と,太陽系の四重極モーメントの内部からの力が,この天体の軌道に同時に影響を及ぼす.銀河潮汐の影響は距離が 1000 au を超えると重要になる.これはセドナの軌道進化にも見られる.太陽系の四重極モーメントは,天体の軌道の近日点引数の角度の歳差運動が,天体の近日点が 60 au 付近の内部まで押し込まれるまで,銀河潮汐の擾乱が継続的に増加するほどに十分遅い時に重要になる.いったん天体が近日点を ~ 60 au より内側に持つと,既知の巨大惑星からの大きなエネルギーキックが天体の軌道長半径を変える原因になる.この軌道長半径の変化は,天体が巨大惑星とより強い相互作用を始めるまでの間,この天体の近日点をさらに小さくするような巨大惑星からのエネルギーキックを増加させることが出来る.天体の近日点が 30 - 35 au かそれ以下になると,天体は巨大惑星からの重力散乱に対して不安定になるだろう.

7) 仮説上の天体である Planet X を数百 au に置いてシミュレーションをした場合,2015 TG387 は,Planet X が内オールトの雲や ETNOs を安定に保つ軌道である場合は安定であることを見出した.この場合の大部分のシミュレーションで,2015 TG387 は経度か近日点が秤動し,太陽系年齢に渡って Planet X とは反対の状態で安定であった.この近日点経度の秤動は,Planet X を含めないシミュレーションでは見られなかった.

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