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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1908.00619
Sing et al. (2019)
The HST PanCET Program: Exospheric Mg II and Fe II in the Near-UV transmission spectrum of WASP-121b using Jitter Decorrelation
(The HST PanCET Program:Jitter Decorrelation を用いた WASP-121b の近紫外線透過スペクトル中の外気圏 Mg II と Fe II)

概要

ホットジュピター WASP-121b の,ハッブル宇宙望遠鏡を用いた近紫外線 (NUV) トランジット観測について報告する.これは PanCET プログラムの一環として行われた観測である.

2280-3070 Å の波長での透過スペクトルを分解能 30000 で取得した.ハッブルの 61 回の STIS を用いた観測のデータを元に,ハッブルの Pointing Control System からのデータが,機器の系統誤差の相関を失わせるのに使えることを示す (Jitter Decorrelation).これをこの惑星の光度曲線のフィットに使用した.

解析の結果,NUV スペクトルは非常に強い吸収特徴を示した.NUV での白色光度曲線は,可視光と近赤外線での光度曲線の深さより 6σ の信頼度で深いものであった.

スペクトル中に,分光学的に分解された Mg II (マグネシウムイオン) 二重項の吸収を,惑星の外気圏中で 5.9σ の信頼度で検出した.Mg II 二重項はそれぞれ,Rplanet/Rstar = 0.284 ± 0.037 (2796Å),および 0.242 ± 0.0431 (2804Å) の高度での吸収に相当する.これはトランジットの配置から見たときの惑星のロッシュローブの大きさを超える (ReqRL/Rstar = 0.158).

また,Fe II UV1 と UV2 の強い特徴を検出し分解した.こちらは Rplanet/Rstar ~ 0.3 に相当する.

これらの高高度では,この惑星大気の Mg II と Fe II は惑星に重力的に束縛されておらず,これらの電離された粒子は流体力学的に散逸するか,惑星磁場に磁気的に束縛されるだろう.難揮発性の Mg と Fe 原子が高高度にあることは,これらの核種は大気の深い高度にある雲に捕獲されていないことを示唆しており,大気深層部での温度への制約を与える.

ホットジュピターの高層大気観測

過去の観測例

中心星に近接する系外惑星は,恒星からの強い X 線と極端紫外線を受ける.これらの放射は大気を電離し,電子衝突を介して大気が加熱され,高層大気を大きく拡大させ流体力学的流出と質量放出を駆動する (Yelle 2004など).

このような高層大気は,Lyα 波長では H I (中性水素原子),遠紫外線波長では O I (中性酸素原子),C II (炭素イオン),近紫外線波長では Mg I で検出されている.HD 209458b の場合,紫外線で 10% 程度の深さのトランジットが検出されており,H I,O I,C II,Mg I を含む広がった外気圏の存在が示唆されている (Vidal-Madjar et al. 2003など).また,H I と O I は HD 189733b で検出が報告されている (Lecavelier des Etangs et al. 2010など).

その他の良い例としてはウォームネプチューン質量惑星があり,GJ 436b では H I が検出され,広がった彗星のような尾が存在することが示唆されている (Ehrenreich et al. 2015).Lyα 波長でのトランジット深さは ~50% で,中性水素がロッシュローブを超えて存在しており,これは光電離から免れている.
同様にウォームネプチューン GJ 3470b でも広がった H I 大気が検出されており,トランジット深さは 35% である (Bourrier et al. 2018).

ウルトラホットジュピターでの高層大気観測

非常に強い輻射を受けているホットジュピターは,大量の大気散逸を起こしていると考えられる.これらの系外惑星は,大気の蒸発と光電離を探査する良い対象である.これは,大気中の Fe や Mg などの金属が雲として凝集していないためである (Visscher et al. 2010など).凝集してしまうと,これらの原子が大気低層に捕獲されてしまう.

中性,あるいは電離した Fe と Ti は,ウルトラホットジュピター KELT-9b の大気から検出されている (Hoeijmakers et al. 2018).また Mg I と,Hα での H I 検出も報告されている (Yan & Henning 2018; Cauley et al. 2019; Hoeijmakers et al. 2019).

ウルトラホットジュピターは希少な存在であり,しばしば太陽系から遠い位置にあるため,現在知られているウルトラホットジュピターは遠紫外線では観測できない.これは星間物質による遠紫外線の吸収が大きいためである.
しかしこれらの非常に高温な系外惑星は,近紫外線では観測可能である.この波長域には多数の原子のスペクトル線が存在し,また星間物質による吸収は大きな問題をもたらさない.

ウルトラホットジュピター WASP-12b は平衡温度 2580 K で,ハッブル宇宙望遠鏡の Cosmic Origins Spectrograph を用いた近紫外線分光測光観測で,2539-2811Å での広い吸収の特徴が検出されている.これらは金属による吸収と解釈されている (Fossati et al. 2010など),また Mg II と Fe II の波長で超過トランジット吸収が見られている.

さらに可視光の波長では,Hα と Na の波長で早いトランジットへの入り (ingress) の可能性がある特徴も報告されている (Jensen et al. 2018).加えて,early ingress も検出されており,L1 ラグランジュ点でのロッシュローブを通過する物質か,磁気圏のバウショックの特徴である可能性がある (Lai et al. 2010など).
しかし Mg II と Fe II は恒星風やコロナには存在しておらず,バウショックであるとする解釈には問題点も指摘されている (Ben-Jaffel & Ballester 2014).

これらの観測のフォローアップも行われており,NUV で大きな吸収があることが報告されているが,過去に主張があった early ingress の証拠は発見されていない (Nichols et al. 2015,Turner et al. 2016).

WASP-121b の観測

WASP-121b はウルトラホットジュピターであり (Delrez et al. 2016),昼側の平衡温度は 2400 K 以上である.質量は 1.18 木星質量で,1.7 木星半径と大きく膨張した半径を持っている.V = 10.5 と明るい F6V 恒星である WASP-121 を短周期で公転している.

この惑星の昼側の放射スペクトルがハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 を用いて近赤外線で測定されており,惑星大気における成層圏の存在と,H2O の放射特徴が分光学的に分解されている (Evans et al. 2017).

ハッブル宇宙望遠鏡の STIS と WFC3 で得られた透過スペクトルでは,H2O の吸収と,おそらく VO と思われる吸収が検出されている.さらに STIS G430L での 3000 - 4500 Å のデータでは,SH かその他の吸収と解釈される特徴が報告されている (Evans et al. 2018).
NUV 観測は Swift を用いても行われており,暫定的な超過吸収の特徴も報告されている.

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