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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2002.08379
Chen et al. (2020)
Detection of Na, K, and Hα absorption in the atmosphere of WASP-52b using ESPRESSO
(ESPRESSO を用いた WASP-52b の大気中の Na,K,Hα 吸収の検出)
ここでは,WASP-52b の大気中からのナトリウム二重項,Hα 線,カリウム D 1 線の超過吸収の検出を報告する.この惑星の 3 回のトランジット観測から,高分散透過スペクトルが得られた.観測は,VLT に設置されている極めて安定な高分散分光器 ESPRESSO を用いた.
Na D1 線のトランジット深さは 1.09%,D2 線は 1.31%,Hα 線は 0.86%,K D1 線は 0.46% であり,スペクトル線の半値全幅は 11 - 22 km s-1 である.また,トランジット中にこれらの検出したスペクトル線の速度シフトを検出し,これは惑星の軌道運動と整合的であった.そのため,これらのスペクトル線が惑星起源であることを確認した.
惑星大気中の風による,スペクトル線の合計での青方偏移や赤方偏移に関しては,有意な検出は得られなかった.
恒星の活動度の指標となるスペクトル線をコントロールとして用いたが,超過吸収は見られなかった.しかし,Center-to-Limb variation (CLV) に起因する特徴と,Rossiter-McLaughlin 効果 (ロシター・マクローリン効果) によるスペクトルの特徴には注意が必要である.今回の観測では,大気の透過スペクトルを導出する際に CLV と RM を正しく補正することの重要性が認識された.これらの影響が補正されていない場合,特定の状況において惑星大気による吸収を模擬してしまったり,あるいは消してしまったりすることが分かった.
WASP-52b は,ウルトラホットジュピターではない惑星としては,HD 189733b に次いで 2 番目に Hα 線での超過吸収を示す惑星となった.ウルトラホットジュピターではない惑星を対象とした将来の観測で,Hα 線は恒星活動と惑星の高層大気における加熱プロセスの関係を明らかにするだろう.
105 程度の分解能を実現できる地上観測のおかげで,圧力が 10-4 - 10-11 bar の高層大気の探査が可能となった.
地上観測での初めての Na I 検出は,HD 189733b (Redfield et al. 2008) と HD 209458b (Snellen et al. 2008) で報告された.一方で高分散観測で K I が検出されたのはつい最近のことである (HD 189733b, Keles et al. 2019).しかし Casasayas-Barris et al. (2020) では,HD 209458b での Na I 吸収が検出できなかったと報告している.これは HARPS-N と CARMENES 分光器を用いた観測を素にした報告であり,Center-to-Limb (CLV) 効果およびロシター効果が,惑星大気での吸収の探査に大きく影響を及ぼしうることが指摘された.
惑星大気中の Hα 線は,古典的なホットジュピター HD 189733b で初めて検出された (Jensen et al. 2012).最近では,ウルトラホットジュピターと呼ばれる,昼側の温度が典型的には 2200 K を超えるようなタイプの惑星で Hα 線の吸収が検出されている.例えば,KELT-20b (Casasayas-Barris et al. 2018, 2019),KELT-9b (Yan & Henning 2018など),WASP-12b (Jensen et al. 2018),WASP-121b (Cabot et al. 2020) の 4 つのウルトラホットジュピターで,恒星活動の変動を伴わない Hα 線の吸収が発見されている.
Na と Hα 線が大気中から同時に検出されているのは,HD 189733b と 4 つのウルトラホットジュピターの計 5 つである.しかし,Hα 吸収が Na 吸収よりも浅いのは,この惑星が初めてである.また,ウルトラホットジュピターではない惑星としては,Hα 線の超過吸収が発見されたのは HD 189733b に次いで 2 番目である.
HD 189733 も活発な K 型星で,惑星の平衡温度も WASP-52b と同程度である.Hα 線が惑星大気中に検出されたことは,探査された大気層が非常に高温であることを示唆している.これらの惑星の平衡温度が比較的低いことを考えると,高層大気を加熱するためには中心星からの強い XUV フラックスが必要で,おそらく恒星の活動度に関連しているだろうと考えられる.
arXiv:2002.08379
Chen et al. (2020)
Detection of Na, K, and Hα absorption in the atmosphere of WASP-52b using ESPRESSO
(ESPRESSO を用いた WASP-52b の大気中の Na,K,Hα 吸収の検出)
概要
WASP-52b は,やや活発な K2V 星を公転する低密度なホットジュピターである.過去の低分散分光観測では,雲の多い大気と,雲層の上のナトリウム原子の検出が報告されている.ここでは,WASP-52b の大気中からのナトリウム二重項,Hα 線,カリウム D 1 線の超過吸収の検出を報告する.この惑星の 3 回のトランジット観測から,高分散透過スペクトルが得られた.観測は,VLT に設置されている極めて安定な高分散分光器 ESPRESSO を用いた.
Na D1 線のトランジット深さは 1.09%,D2 線は 1.31%,Hα 線は 0.86%,K D1 線は 0.46% であり,スペクトル線の半値全幅は 11 - 22 km s-1 である.また,トランジット中にこれらの検出したスペクトル線の速度シフトを検出し,これは惑星の軌道運動と整合的であった.そのため,これらのスペクトル線が惑星起源であることを確認した.
惑星大気中の風による,スペクトル線の合計での青方偏移や赤方偏移に関しては,有意な検出は得られなかった.
恒星の活動度の指標となるスペクトル線をコントロールとして用いたが,超過吸収は見られなかった.しかし,Center-to-Limb variation (CLV) に起因する特徴と,Rossiter-McLaughlin 効果 (ロシター・マクローリン効果) によるスペクトルの特徴には注意が必要である.今回の観測では,大気の透過スペクトルを導出する際に CLV と RM を正しく補正することの重要性が認識された.これらの影響が補正されていない場合,特定の状況において惑星大気による吸収を模擬してしまったり,あるいは消してしまったりすることが分かった.
WASP-52b は,ウルトラホットジュピターではない惑星としては,HD 189733b に次いで 2 番目に Hα 線での超過吸収を示す惑星となった.ウルトラホットジュピターではない惑星を対象とした将来の観測で,Hα 線は恒星活動と惑星の高層大気における加熱プロセスの関係を明らかにするだろう.
ホットジュピターの透過スペクトル
中性アルカリ金属原子の検出
系外惑星の大気成分として初めて検出されたのは,Na I (中性ナトリウム原子) のスペクトル線であり (Charbonneau et al. 2002),巨大惑星の大気成分としてはこの中性ナトリウム原子が最も頻繁に検出されている (Madhusudhan 2019).Na I や K I (中性カリウム原子) のようなアルカリ金属のスペクトル線は,高層大気の冷却過程に関与している.105 程度の分解能を実現できる地上観測のおかげで,圧力が 10-4 - 10-11 bar の高層大気の探査が可能となった.
地上観測での初めての Na I 検出は,HD 189733b (Redfield et al. 2008) と HD 209458b (Snellen et al. 2008) で報告された.一方で高分散観測で K I が検出されたのはつい最近のことである (HD 189733b, Keles et al. 2019).しかし Casasayas-Barris et al. (2020) では,HD 209458b での Na I 吸収が検出できなかったと報告している.これは HARPS-N と CARMENES 分光器を用いた観測を素にした報告であり,Center-to-Limb (CLV) 効果およびロシター効果が,惑星大気での吸収の探査に大きく影響を及ぼしうることが指摘された.
Hα 線の検出
一方で Hα 線は,惑星大気内での吸収が発生するためには厳密な局所条件 (局所粒子密度,温度,輻射場) を要求するため,大気加熱の敏感な探査ツールとして用いることができる.惑星大気中の Hα 線は,古典的なホットジュピター HD 189733b で初めて検出された (Jensen et al. 2012).最近では,ウルトラホットジュピターと呼ばれる,昼側の温度が典型的には 2200 K を超えるようなタイプの惑星で Hα 線の吸収が検出されている.例えば,KELT-20b (Casasayas-Barris et al. 2018, 2019),KELT-9b (Yan & Henning 2018など),WASP-12b (Jensen et al. 2018),WASP-121b (Cabot et al. 2020) の 4 つのウルトラホットジュピターで,恒星活動の変動を伴わない Hα 線の吸収が発見されている.
※関連記事
天文・宇宙物理関連メモ vol.895 Casasayas-Barris et al. (2018) MASCARA-2b/KELT-20b の大気中の Na I と Hα 吸収の特徴
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天文・宇宙物理関連メモ vol.1319 Cabot et al. (2020) ウルトラホットジュピター WASP-121b での Hα,Fe I,Na I の検出
結果と議論
今回の観測対象である WASP-52b は,ウルトラホットジュピターではないホットジュピターである.Na と Hα 線が大気中から同時に検出されているのは,HD 189733b と 4 つのウルトラホットジュピターの計 5 つである.しかし,Hα 吸収が Na 吸収よりも浅いのは,この惑星が初めてである.また,ウルトラホットジュピターではない惑星としては,Hα 線の超過吸収が発見されたのは HD 189733b に次いで 2 番目である.
HD 189733 も活発な K 型星で,惑星の平衡温度も WASP-52b と同程度である.Hα 線が惑星大気中に検出されたことは,探査された大気層が非常に高温であることを示唆している.これらの惑星の平衡温度が比較的低いことを考えると,高層大気を加熱するためには中心星からの強い XUV フラックスが必要で,おそらく恒星の活動度に関連しているだろうと考えられる.
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