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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1807.00869
Yan & Henning (2018)
An extended hydrogen envelope of the extremely hot giant exoplanet KELT-9b
(極めて高温な巨大系外惑星 KELT-9b の広がった水素エンベロープ)

概要

KELT-9b は早期 A 型星に非常に近接した軌道を公転する惑星であり,昼側の温度は ~ 4600 K と,これまでに知られている系外惑星の中では最も高温である.この独特の惑星の大気組成や力学的な性質はこれまでのところ不明である.

ここでは,この惑星の広がった水素大気の初めての検出について報告する.この検出は,トランジット中のバルマー Hα 線での原子水素吸収の測定によって達成された.この波長では,主に中心星からの高レベルの極端紫外線輻射の影響のため,異常に強い吸収を示す.

また,Hα 線吸収の明確な波長のシフトを検出した.大部分は惑星の軌道運動による影響である.

得られた透過スペクトルは,明確なラインのコントラストが見られた (Hα ラインの中心で 1.15% の超過吸収).

今回の観測結果は,Hα 線の中心波長でのこの惑星の有効半径は惑星半径よりおよそ 1.64 倍大きいことを示唆している.この惑星のロッシュローブ半径は 1.91 惑星半径であり,惑星はロッシュローブのサイズ近くまで大きく広がった水素エンベロープを持っていることを示唆している,また,おそらくは大規模な大気散逸が進行していると考えられる.

観測

観測には,CARMENES 装置を使用した.これは波長分解能が R ~ 94600 の高分散分光器であり,Calar Alto Observatory の 3.5 m 望遠鏡に設置されている.

トランジットは 2017 年 8 月 6 日と 9 月 21 日に観測された.

観測結果のモデリング

観測の結果,トランジット最中の Hα 線の強い吸収が検出された

軌道運動と大気速度

この観測結果のモデル化を行った.ここでは,軌道運動をフリーパラメータとしてモデル化している.

また,惑星の大気風速もパラメータとして取り扱っている.これは,昼側から夜側への高高度での風が,系外惑星の透過光スペクトル観測で検出されている先例があるからである.HD 189733b (Brogi et al. 2016,Wyttenbach et al. 2015,Louden et al. 2015),HD 209458b (Snellen et al. 2010) で,大気の風によると思われる特徴が検出されている.

ロシター効果と CLV 効果

惑星による吸収の他にも,トランジット最中の変動が発生する.その例が,Rossiter-McLaughlin effect (ロシター効果) と Centre-to-Limb Variation (CLV) effect である.

ロシター効果は,恒星の自転の影響で,惑星のトランジット最中に観測される恒星のライン分布が時間と共に変化する現象である.
この惑星系におけるロシター効果は,ドップラートモグラフィー (Dopplar tomography) と共に検出済みであり,中心星が高速で自転しており,自転と公転の軸のずれは -84.8° と,ほぼ極軌道で惑星が公転していることが分かっている (Gaudi et al. 2017).ロシター効果も解析モデルに含める,

CLV 効果は,恒星円盤面の中心部分と外縁領域では恒星のスペクトル線の分布が変化することによるものである.ただし既存のモデルは 1 惑星半径 (通常の観測で得られる惑星の半径) を想定したものであるため,ここではファクター f をかけて Hα 線での大きな有効半径として代用している.MCMC でフィッティングした結果,f は 1.98 と推定される.

フィッティングの結果,惑星の軌道運動速度は 268.7 km/s であり,これはトランジット最中の惑星の視線速度の変化が -91 - 91 km/s の範囲であることに対応している (※注釈:トランジット開始/終了時である軌道位相 ~ 0.055 における惑星の視線速度を意味している).

恒星と惑星質量の直接計算

惑星の軌道速度と中心星の軌道運動を合わせると,ニュートンの重力の法則から,恒星と惑星の質量を直接計算することが可能となる.

中心星が惑星との質量中心 (重心) 周りを公転する速度は過去の観測で測定されており,0.276 km/s である事がわかっている.軌道周期が 1.48112 日,軌道傾斜角が 86.79° であり,軌道離心率 0 を仮定すると,恒星質量が 3.00 ± 0.21 太陽質量,惑星質量は 3.23 ± 0.94 木星質量と推定される.この手法で推定された恒星質量は,恒星のスペクトルモデリングからの推定である 2.52 太陽質量と概ね整合的である.

得られたスペクトルを,惑星の視線速度を補正して計算した.またロシター効果と CLV 効果も補正に加えた.その結果,Hα の吸収スペクトルを 1.15% のコントラストでよく分解することができた.スペクトルの半値全幅は 51.2 km/s である.

スペクトルのドップラーシフトは -1.02 (+0.99, -1.00) km/s であり,誤差を考慮しても惑星の昼側から夜側への有意な風の存在は検出されなかった.また Hα 吸収の等価幅 (equivalent width) の時間変化も検出されなかった.

広がった水素原子大気の検出

これまでの検出例

これまでに,水素原子からなる広がった大気は,いくつかの系外惑星で観測されている.これらは主にハッブル宇宙望遠鏡の STIS を用いて,紫外線波長である Lyα 線で検出されている.しかし KELT-9b は地球から遠いため,星間物質による強い吸収の影響で Lyα では大気を検出することが出来ない.

Hα 線で水素大気を検出するのはより難しい.これは,Hα 線は Lyα 線のような共鳴線ではないことと,惑星大気中に大量の励起された原子が必要だからである.

最も広く研究されている惑星のひとつである HD 189733b ではトランジット中に Hα 線の吸収が検出されているが,この検出は恒星活動に影響され,また異なるトランジット時期で変動する.

Hα での高層大気の検出

理論的には,Hα 線の吸収を生み出すための大量の励起された水素原子を生成するには,極端紫外線 (extreme ultra-violet, EUV)と Lyα 輻射が必要である.HD 189733b の場合,中心星のスペクトル型が K 型であることを考慮すると,おそらくこのような強い極端紫外線での輻射をもたらす恒星活動を起こしていると考えられる.

KELT-9 の場合はスペクトル型は A 型であり (B9.5 - A0),明確な恒星活動がなくても EUV は強い.そのため今回観測された Hα の強い吸収は,強い EUV 放射の影響であると考えられる.

その他に Hα に影響を及ぼしうるものには,恒星活動がある.恒星と惑星の相互作用によって恒星の彩層活動が増幅される場合もあり,これも Hα に影響を及ぼす恒星活動に含まれる.CARMENES は Ca II H&K 線の波長をカバーしていないため,恒星活動度は測定できていない.
しかし KELT-9 のような早期 A 型星はほとんどが彩層もコロナも持たないため,一般には強い恒星活動を伴わない.またドップラー観測からは変動は惑星の軌道運動に伴っており,これも検出を確実なものにしている.

KELT-9b の水素原子大気の特性

Hα 線波長での大きな有効半径と原子層の特徴

今回検出された Hα 線のトランジット深さは 1.15% なのに対し,連続光でのトランジット深さは 0.68% である.このことは,Hα 線の中心波長で見た時の惑星の有効半径が 1.64 惑星半径であることに相当する.

理論計算では,Hα 吸収は惑星大気中の水素原子層に起源を持ち,この原子層では n=2 にいる励起された水素原子の数密度は概ね一定である.そのため,原子層は 1 - 1.64 惑星半径まで広がっていることが示唆される,この層の温度範囲は 4600 - 10000 K 程度である.

Hα 吸収線は原子層の低層領域を通過するものに対しては光学的に深く,従ってラインの形状は thermal broadening (ドップラー幅) と maximum line centre の光学的深さによって決まる.観測されたラインの形状は 21.7 km/s であり,thermal broadening velocity である 10.8 km/s (平均温度 7000 K を仮定) よりもずっと大きい.このことは,吸収が光学的に厚いことを意味している.

解析モデルを用いると,n=2 に励起された原子の数密度は n2 = 2.7 × 103 cm-3 と推定され,これはスペクトル線のコア部分での光学的深さが 57 であることに相当する.

なお,惑星の自転による線幅の広がりと,存在する可能性がある大気の流体力学的散逸による広がりは比較的小さいため,ここでは無視している.

ロッシュローブと大気散逸

KELT-9b は重い中心星の非常に近くを公転しているため,惑星のロッシュローブは比較的小さい.

惑星の明暗境界 (ここでトランジット吸収が起きる) でのロッシュ半径は,恒星に向かう方向へのロッシュ半径よりも小さい (Lecavelier des Etangs 2007).従って,明暗境界での近似値として有効ロッシュ半径を使用した (Ehrenreich et al. 2010).

その結果,ロッシュ半径は 1.91 (+0.22, -0.26) 惑星半径と推定される.
今回観測された Hα ラインコアでの惑星の有効半径はこれに近い.そのため,水素大気はロッシュローブをほぼ満たしており,大気が惑星から散逸している可能性もある.

大気粒子が十分大きな運動エネルギーを持ってロッシュローブに到達した場合,1.64 惑星半径での水素粒子は惑星から散逸できると仮定して,質量放出率を計算した.原子層境界で,先程の n2 とn2/nH = 10-6 を仮定した結果,質量放出率として ~ 1012 g/s という値を得た.

しかし,惑星質量が精度良く決定されていないためロッシュ半径の推定にも大きな誤差があり (1σ で 1.65 - 2.13 惑星半径),この質量放出率の推定値には 1 桁程度の誤差がある.なおこの推定値は,発見論文の値 1010 - 1013 g/s と概ね整合的である,こちらの値は EUV 輻射水準からの推定値である.

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