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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1512.01555
Alexander et al. (2015)
Magnetospheres of hot Jupiters: hydrodynamic models & ultraviolet absorption
(ホットジュピターの磁気圏:流体力学モデルと紫外線吸収)

概要

WASP-12bのようなホットジュピター周辺における、恒星風と惑星磁気圏の相互作用の流体力学シミュレーションを行った

標準的な恒星風に対して、惑星が数 G程度の磁場を持っている場合、典型的には 6 - 9惑星半径程度の磁気圏の空洞を形成することを明らかにした。バウショックは惑星磁気圏の前方に常に形成されるが、ショックの前面のガスはやや超音速な程度 (典型的なマッハ数 M ~ 1.6 - 1.8)であり、ショックは弱い。

このショック構造は紫外線での光度曲線に特徴的なシグナルを示す。軌道位相にして 可視光よりも10 - 20%程度早く始まる、広い吸収の特徴を示す。計算結果を元に再現した光度曲線は、WASP-12bでの観測結果と整合的なものであった。しかし要求される近紫外線領域での光学的深さ (τ ~ 0.1)は、ショックを通過したガスが急速に冷える時のみ実現できることが分かった。

さらにここでは、ショック通過後のガスからの輻射冷却は効率的ではないことを示す。上述の通り冷却が非常に効率的な場合はバウショック構造によるトランジットによって近紫外線領域での光度曲線を説明できるが、そうではないと考えられる。そのため、磁気圏のバウショックは観測されている近紫外線の光度曲線の原因では無いと考えられる

最後に、このモデルをよく知られた別の二つのホットジュピター (WASP-18b、HD 209458b)に適用した。WASP-18bのような、比較的重く短周期の惑星の紫外線でのトランジット観測が、惑星周辺での吸収の原因の異なるモデルを区別するための直接的なテストになり得るという事が示唆された。

モデル

ここでは、ZEUS-2D 流体コード (Stone & Norman 1992)を用いて、恒星風と惑星磁気圏の相互作用を計算している。座標系は動径方向の rと、方位角方向の φの 2次元極座標である。計算グリッドはおおむね各グリッドが四角に近くなるように、すなわち Δr = r Δφ となるように区切っている。

恒星風のモデルとしては、球対称で等温な、いわゆる Parker windモデルを用いている (Parker 1958, Cranmer 2004)。

惑星に関しては、円軌道、一定の公転角速度を仮定している。また ZEUS-2Dの流体の運動量保存の方程式の部分に、惑星の重力と磁場による加速項を追加している。ここでは公転軸と平行な双極子磁場の存在を仮定している。

議論

モデルでの仮定とその妥当性について

計算において、流体力学シミュレーションでの簡単化を行っている。その妥当性について議論する。
恒星の運動・自転
まず、中心星の動きと自転の効果は無視している。惑星の軌道を固定して恒星の動きを無視するという簡単化は悪く無い。WASP-18bは比較的重く、惑星の質量と中心星の質量比が 7.78 × 10-3と大きいため、惑星の公転に伴う中心星の動きも大きくなる。しかしその場合でも恒星の重心周りの軌道長半径は、惑星の磁気圏のサイズより一桁は小さいため、結果を大きく変えることは無いと考えられる。

また Vidotto et al. (2010)では、恒星風の回転の効果は重要だとしているが、かなり速い恒星の自転であっても影響は小さいと考えられる。WASP-12の自転速度は 26 km s-1である。角運動量が保存するという仮定をすれば、WASP-12bの軌道における恒星風の速度の方位角成分は < 10 km s-1である。一方、惑星の軌道速度は 228 km s-1であり、恒星風の回転の影響は十分小さい。
磁場の取り扱い
今回の流体計算では、磁気流体力学 (magnetohydrodynamics, MHD)は直接フルには解かず、惑星の磁場の影響のみを考慮している。ここでの取り扱いは、惑星の磁場が双極子磁場で、公転軸と揃っている場合のみ有効である。しかし興味のある範囲 (5 - 25惑星半径)では双極子成分が卓越すると考えられるため、結果を大きく変えることはないだろう。

また、恒星磁場も無視している。一般に、惑星の磁気圏界面の位置は、

(恒星風の動圧) + (恒星風の熱圧力) + (恒星風の磁気圧) = (惑星磁気圏内のガス圧) + (惑星磁場の磁気圧)

の釣り合いから決まる。この中で、恒星風の動圧、恒星風の熱圧力、惑星磁場の磁気圧はシミュレーションの中にあらわに含まれている。惑星磁気圏内のガス圧はシミュレーションでは無視している。しかし興味のある範囲 > 5 - 10惑星半径では、通常はガス圧が影響をおよぼすほど大きくなることはない。惑星がロッシュローブオーバーフロー (Roche lobe overflow)を起こしていて大気散逸率が非常に大きい場合や、磁気圏内に衛星やリングなどの他のプラズマ源が存在する場合は影響を及ぼすほど大きくなる場合はある。

恒星風の磁気圧はあらわには含まれていない。しかし恒星風の磁気圧の部分は、恒星風磁場の微分値が重要であり、ほぼ一定の磁気圧の場合はスケーリングのオフセットを引き起こすだけであり全体の結果を大きく変える可能性は無いと考えられる。

先行研究との比較

今回得られた恒星風や磁気圏の状態の結果や光度曲線は、先行研究 (Vidotto et al. 2010, 2011, Llama et al. 2011, 2013)とは大きく異なる。これは、先行研究ではショック構造を陽に解いていないことが原因である。先行研究では代わりに極超音速 (hypersonic)、マッハ数 M >> 1というショックを仮定し、磁気圏半径においてランキン=ユゴニオの関係式を用いて計算を行っている。

これらの仮定では、ショック領域は狭いとしている。しかし今回の流体力学シミュレーションでは、マッハ数は M ~ 1.6 - 1.8とわずかに超音速であった。極超音速の条件をみたすためには、音速が 50 km s-1程度と非現実的なほど小さい値である必要がある。今回の計算では、ショック領域の幅は先行研究の仮定よりも 10 - 100倍広いものになった。

また、先行研究とは紫外線の吸収の取り扱いも異なっている。先行研究では、ショックを通過したガスは ~ 104 Kにまで冷却するとしているが、これは Lai et al. (2010)における "最も楽観的なケース" である。しかし Vidotto et al. (2010, 2011), Llama et al. (2011, 2013)では、冷却の機構については議論されていない。今回のモデルでは、輻射冷却は効率的ではない事が示された。従って ~ 104 Kへの冷却という仮定は正当ではないと考えられる。

ショックを通過したガスが、~ 106 Kから ~ 104 Kまで、105秒以下のタイムスケールで冷えるためのメカニズムが無い場合は、WASP-12bの近紫外線での強い吸収の特徴は説明出来ない

磁気圏のバウショック以外での近紫外線領域での強い吸収の説明としては、ロッシュローブオーバーフローが挙げられる (Lai et al. 2010, Bisikalo et al. 2013)。ロッシュローブオーバーフローを起こしている段階の惑星の光度曲線の詳細は不明であり、現時点ではロッシュローブオーバーフローによるものと磁気圏でのバウショックによるものの区別は不可能である。しかし WASP-18bのような重い短周期惑星の場合は、ロッシュローブオーバーフロー説と磁気圏バウショック説の直接的な検証が可能であると考えられる。

WASP-12bとWASP-18bの比較

今回の計算結果は、WASP-12bでの近紫外線での強い吸収は ~ 106 Kのマグネトシースによるものよりも、冷たい (~ 104 K)のロッシュローブオーバーフローによるという説を支持する。しかし現在のデータでは 2つの説を区別することは出来ない。

WASP-18bは中心星 WASP-18が WASP-12と類似しており、惑星の軌道長半径と惑星半径も似ている。磁気圏でのバクショックによるという説の場合は、バウショックの影響は惑星質量には依存せず、近紫外線での光度曲線は恒星風の音速と惑星磁気圏の空間的広がりに依存する。従って、シミュレーションの結果とも合わせると、2つの説の区別は出来ない。

しかし WASP-18bは WASP-12bよりも 7.2倍も重く、ロッシュローブはその分大きいため、大量の大気散逸は起こすことが難しい。従って、WASP-12bと WASP-18bが同様の近紫外線での観測結果を示した場合は、ロッシュローブオーバーフローによるモデルでは説明が出来ない。なぜなら、WASP-18bからは WASP-12bほどの大量のロッシュローブオーバーフローを期待できないからである。そのためこの場合は磁気圏でのバウショックが原因だと推測できる。逆に、WASP-18bで近紫外線での吸収が無い場合は、磁気圏でのバウショックの影響は重要でないと推測できる。

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