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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1603.00414
Matsakos & Königl (2016)
On the origin of the sub-Jovian desert in the orbital-period--planetary-mass plane
(軌道周期-惑星質量平面における木星より軽い天体の欠乏領域の起源について)

概要

系外惑星のトランジット観測と視線速度観測からは,短周期で木星より軽い質量を持つ天体が欠乏していることが示唆されている.この領域は,軌道周期を横軸,惑星質量を縦軸に取った平面 (orbital-period-planetary-mass plane, 以下 P-M 平面) において,反対の傾きを持った異なる 2つの線で囲まれた領域として概ね表現できる.ここでは,この領域の原因として,高軌道離心率での惑星の軌道移動という観点から解釈を行った.

高軌道離心率の惑星移動では,惑星はそのロッシュ限界付近まで移動し,そこで原始惑星系円盤が晴れ上がった後に潮汐作用で円軌道化される.ここでは,惑星欠乏領域の異なる 2つの分割線は,小さい惑星と大きい惑星のそれぞれに対する経験的な質量-半径の異なる依存性の直接的な結果であり,またこの関係性が,2つの線の交点の質量座標 (縦軸) を決めることを示した.

交点の軌道周期座標 (横軸) や,惑星欠乏領域の低質量側の境界の詳細な形状も,基本的な軌道移動モデルの主要パラメータのもっともらしい選択によって再現することが出来る.
一方で,惑星欠乏領域の上端の詳細な形状は,惑星軌道の円軌道化後の恒星との角運動量のやりとりで決まり,恒星の潮汐の Q値が ~ 106 であることを示唆する.

研究背景

"Sub-Jovian desert"

これまでの視線速度法による観測からは,軌道周期が 3日以下のホットジュピターの分布には急激な減少が見られることが分かっている (Cumming et al. 2008など).ホットジュピターの軌道分布としては,軌道周期が 3日の周辺に分布が偏っている (Gaudi et al. 2005など).また短い周期の惑星が欠乏している (Zucker & Mazeh 2002など).
(※ここでのホットジュピターとは,質量が 0.3 - 3木星質量,軌道周期 10日以下のものとする.)

また,トランジット法による観測からも,軌道周期が 3 - 4日未満で,半径が ~ 4 地球半径よりも大きい物は少ないことが分かっている (Howard et al. 2012, Fressin et al. 2013など).これは惑星-惑星相互作用による軌道散乱の結果だと考えられる.

さらに,他にも惑星が欠乏しているパラメータ領域があることが分かってきた.P-M 平面において,軌道周期 2.5日未満,惑星質量 0.02 - 0.8木星質量の領域に明白な欠乏があることが指摘されている (Szabo ́ & Kiss 2011).これは "sub-Jovian desert" (または sub-Jupiter desert) と呼ばれている.

Szabo ́ & Kiss (2011) は,この領域はホットジュピターからなる上方境界と,短周期スーパーアースによる下方境界を持つが,ホットネプチューンが欠乏していると指摘している.同様の指摘は,
Beaug ́e & Nesvorny ́ (2013) と Mazeh et al. (2016) によってもなされている.

sub-Jovian desert の起源

この欠乏領域は観測バイアスによるものでもないとされている.しかしその起源は判明していない.
あるシナリオでは,主星の輻射場と,それによるロッシュローブオーバーフロー (Roche lobe overflow) によって引き起こされると提案されている (Kurokawa & Nakamoto 2014).この過程では,軽いスーパーアースの全てのエンベロープが失われることが示唆されるが,欠乏領域の下方境界は 1.6地球半径よりも大きいものも多く,純粋な岩石惑星とは考えづらい天体も存在する.

その他には,ホットジュピターがロッシュ限界に到達し,ロッシュローブオーバーフローを通じて急速に質量を失い,光蒸発によってエンベロープを除去されたというモデルがある.これは,ホットジュピターをスーパーアースに変化させる機構として提案されている (Velsecchi et al. 2014, 2015).しかしこのシナリオでは,欠乏領域の下方境界が観測されている下方境界の形状と合致するかは自明ではない.

その他,ホットジュピターの,スーパーアースへのガス降着によるその場形成に起因しているという説もあるが (Boley et al. 2016, Batygin et al. 2016),これらのモデルにも問題点がある (Inamder & Schlichting 2015など).

モデル

ここではまず,惑星半径と惑星質量の関係を,~ 150 地球質量で分割した.小さい方の惑星は,惑星半径は質量の 1/2 乗に比例するとし,大きい方は 0 乗に依存するとした.これは Weiss et al. (2013) による経験則であり,また惑星が受ける輻射は 8.6 × 108 erg s-1 cm-2 を仮定している.

高軌道離心率の軌道から円軌道化された後の軌道長半径について,一つ目は惑星-惑星散乱と古在機構によってロッシュ限界に到達したというモデル (RL) を考える.ロッシュ限界は,
aRoche = q (M*/Mp)1/3 Rp
で与えられる.係数の q は惑星の構造や軌道特性によって変化する.最も有名なものは,q = 2.16 (Paczyn ́ski 1971),q = 2.7 (Guillochon et al, 2011) である.しかしこれらよりさらに大きな値,~ 3.6 - 3.8 となるという研究もある (Velsecchi & Rasio 2014など).

ロッシュ限界に到達した初期の軌道長半径がほぼ 1 とすると,円軌道化されたあとの軌道長半径は ~ 2 aRoche であり,q = 3,主星質量が太陽質量,惑星が木星質量・木星半径であった場合は ~ 0.03 AU となる.(q の 1乗,主星質量の 1/3乗,惑星質量の -1/3乗,惑星半径の 1乗に比例)

永年カオス (secular chaos, SC) モデルでは,軌道長半径は Wu & Lithwick (2011) で推定されている.この場合軌道長半径は,2惑星の軌道長半径の比率 α = 1/6,主星質量が太陽質量,擾乱を起こす天体の質量が木星質量,惑星が木星質量・木星半径の場合,~ 0.03 AU となる.(α の -3/5乗,主星質量の 2/5乗,擾乱を起こす天体の質量の -1/5乗,惑星質量の -1/5乗,惑星半径の 1乗に比例)

これらの関係式から,軌道周期と惑星質量の関係を出すと,RL モデルの場合,大きい惑星では軌道周期は惑星質量の -1/2乗に比例,小さい惑星では 1/4乗に比例する.SC モデルでは,それぞれ -3/5乗,3/20乗に比例する.どちらの場合も,上方境界は負の傾きを持ち,下方境界は正の傾きを持つ.これは観測されている sub-Jovian desert の傾向と同じである.

結果

様々な惑星のモンテカルロ計算の結果と,上記の関係式を比較した.また観測結果との比較も行った.

RL でも SC でも,パラメータを選べば欠乏領域の形状を再現できる.RL の場合は,q = 3.46,SC の場合は擾乱を起こす天体の質量が惑星質量と同程度の時に上手く説明できる.特に欠乏領域の下方境界はよく一致する.

上方境界の形状は,初期の惑星の分布とは独立な結果となり,惑星の軌道進化に依存している.平衡潮汐 Q ~ 106 でよく再現できる.

議論

ここでは,sub-Jovian desert の起源について,主星付近に大きな軌道離心率で移動してきた惑星の軌道の,円軌道化による自然な帰結によるものであると提案している.このモデルは,巨大惑星の軌道離心率は,軌道周期が大きくなるほど分散が大きくなることと整合的である (Winn & Fabrycky 2015など).従って,ホットジュピターは原始惑星系円盤内の軌道移動とするよりも,後期に主星近傍にやって来たものが起源であると示唆する.

惑星は重力相互作用によって高軌道離心率の軌道に移行したと考えられる.その原因としては,惑星-惑星の軌道散乱,古在機構,永年カオスが考えられるが,原理的にはどれもあり得るシナリオである.どれが最も重要かについては今後の詳細な研究が必要である.例として,ホットジュピターが軌道周期 3日周辺に偏っている現象は,突然の惑星の軌道散乱よりも,古在機構や永年カオスのようなゆっくりとしたプロセスによって起こしやすいと考えられる (Wu & Lithwick 2011).

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