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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1609.02767
Hartmann et al. (2016)
HAT-P-65b and HAT-P-66b: Two Transiting Inflated Hot Jupiters and Observational Evidence for the Re-Inflation of Close-In Giant Planets
(HAT-P-65b と HAT-P-66b:2 つのトランジットする膨張したホットジュピターと近接ガス惑星の再膨張の観測的証拠)

概要

HAT-P-65bHAT-P-66b の 2 つのトランジット惑星の発見を報告する.軌道周期はそれぞれ 2.6055 日,2.9721 日,質量は 0.527 木星質量と 0.783 木星質量である.半径は 1.89 木星半径と 1.59 木星半径と,大きく膨張した半径を持つ惑星である.
それぞれの中心星は主系列の転回点 (turnoff) にいる.


また,ガス惑星の半径が惑星の平衡温度との相関を持つのは有名だが,中心星が進化して明るくなるのに従って惑星半径が大きくなるか否かは未解決の問題である.ここでは,多数の近接惑星のサンプルの分析を行い,惑星半径と中心星の fractional age との間に統計的な有意な相関があることを発見した.この相関の誤検出確率はわずか 0.0041%である.

この相関は,これまでに知られている惑星半径と現在の惑星の平衡温度の相関によって説明することが出来る.しかし,仮に中心星が主系列星になったばかりの時 (zero age main sequence, ZAMS) の惑星の平衡温度を現在の平衡温度の代わりに用いるのであれば,惑星半径を説明するためには系の年齢との相関も含まれなければいけない.

この結果は,中心星が前主系列段階の期間に惑星が収縮した後,近接ガス惑星は中心星から受ける輻射の増大に従って再膨張することを示唆する

先行理論研究では,そのような中心星からの輻射への動的応答を起こすためには,惑星が受け取るエネルギーのうちの一定の割合が惑星内部の (浅い領域ではなく) 深い領域に注入される必要があることが示されている.

研究背景

初めてトランジットが検出された惑星は HD 209458b である (Henry et al. 2000, Charbonneau et al. 2000).この惑星の半径は理論が予測する半径よりも大きく,惑星科学のコミュニティに驚きをもたらした (Burrows et al. 2000など).

これ以降,多くの膨張した半径を持つ惑星が発見された.最大は WASP-79b の 2.09 木星半径である (Smalley et al. 2012).また,膨張の度合いは惑星の中心星に対する位置との相関があることも明らかになってきた (Fortney et al. 2007など).

理論的には,惑星内部への追加のエネルギー注入が膨張半径の要因だと考えられている.しかし多くの理論的試みにも関わらず,惑星内部にどのようにエネルギーが運ばれているのか,エネルギーの輸送が存在しているのかは不明である (Spiegel & Burrows 2013, レビュー論文).

膨張半径の問題は本質的に難しい.何桁にもわたる圧力・密度・温度・長さスケールにおいて,分子科学・輻射輸送・(磁気)流体力学を同時に扱う必要があるからである.従って,しばしば値の不明な,あるいはあまり分かっていないパラメータを導入してモデルを構築する必要がある.


最近,Lopez & Fortney (2016) では,膨張半径を説明するための大きな 2 つの枠組み間を比較するためのための観測を提案した.
軌道周期が数十日の惑星は,中心星が主系列段階から離れた後は,主系列星まわりの短周期惑星が受ける輻射と同程度の輻射を受けることになる.そのため,巨星まわりにある軌道周期が数十日程度以上の膨張した惑星が存在するかどうかの調査を提案したのである.

軌道周期が数十日程度の軌道を回る惑星は,中心星が主系列段階では膨張半径を持たない (Demory & Seager 2011).そのためそのような惑星で膨張半径を持つものが発見されれば,増加した輻射によって惑星は直接再膨張させられたという証拠になる.

この場合,惑星を再膨張させるためにはエネルギーは惑星内部の深い領域に注入される必要がある.そのため,外部のみにエネルギーを与えて惑星の収縮を遅らせることで膨張半径を説明しようというモデルは棄却されることになる.

パラメータ

HAT-P-65 系

HAT-P-65
等級:13.145
有効温度:5835 K
金属量:[Fe/H] = 0.100
質量:1.212 太陽質量
半径:1.860 太陽半径
光度:3.59 太陽光度
年齢:5.46 Gyr
距離:841 pc
HAT-P-65b
軌道周期:2.6054552 日
軌道長半径:0.03951 AU
質量:0.527 木星質量
半径:1.89 木星半径
平均密度:0.096 g cm-3
平衡温度:1930 K

HAT-P-66 系

HAT-P-66
等級:12.993
有効温度:6002 K
金属量:[Fe/H] = 0.035
質量:1.255 太陽質量
半径:1.881 太陽半径
光度:4.12 太陽光度
年齢:4.66 Gyr
距離:927 pc
HAT-P-66b
軌道周期:2.9820860 日
軌道長半径:0.04363 AU
質量:0.783 木星質量
半径:1.59 木星半径
平均密度:0.242 g cm-3
平衡温度:1896 K

議論・考察

HAT-P-65b の 1.89 木星半径, HAT-P-66b の 1.59 木星半径という値は,膨張した半径を持つ惑星の名化でも最も大きな部類である.また,どちらも主系列段階の終わりに近づいた恒星の周囲にある.中心星の HAT-P-65 の年齢は 5.46 Gyr であり寿命の ~ 84%,HAT-P-66 は 4.66 Gyr で寿命の ~ 83%である.


これまでに発見された短周期ガス惑星のデータの分析からは,大きな半径の惑星は,より進化した恒星のまわりにはより普遍的に発見される,という傾向が見られた.ここで解析に用いたのは,HAT (HATNet, HATSouth 両方), WASP, ケプラー, TrES, KELT の各プロジェクトで発見された惑星のデータである.

まず,短周期惑星を持つ中心星の有効温度と (中心星の) 平均密度をプロットした場合,年老いた恒星はグラフ上で上の方に位置することになるが,1.5 木星半径以上の半径の惑星を持つ恒星の場合は,比較的グラフの上の方に集まっている (比較的年老いている).

次に,惑星の質量-半径と fractional age の関係をプロットする.
ここで,fractional age は

と定義される量である.ただし,t は中心星の有効温度・平均密度・金属量を元に,YY isochrone から求めた年齢,ttot は同じ質量・金属量を持つ恒星の YY model での最大年齢である.

半径が 0.5 木星半径,軌道周期が 10 日未満の惑星で,ttot が 10 Gyr 未満のものをピックアップしてプロットした.10 Gyr 以上のものは除外してある.これは,銀河年齢は有限であり,ttot が 10 Gyr 以上の恒星は主系列の寿命に達していないためである.

プロットは,fractional age が 1 に近いほど (最大年齢に近い年齢を持つ年老いた系ほど) 質量-半径の図において上の方に位置することを示している.またこのプロットは,中心星の質量と惑星の軌道長半径別に分けて考えた場合も,fractional age が大きい方が惑星半径は大きくなる傾向にある.

まとめ

やや進化した恒星の周りに,大きく膨らんだ半径を持つ惑星を 2 つ発見した.

また,1.5 木星半径より大きい惑星は,やや進化した恒星の周りに多いという傾向を発見した.この傾向は,HAT, WASP, ケプラー, TrES と KELT のデータに対してそれぞれ独立に見られるものである.これは,観測の選択バイアスでもなく,惑星や恒星の系統誤差に起因するものでもない.

この傾向は,よく知られている惑星半径と惑星の平衡温度の相関に由来するものである.また,惑星半径を予想するための因子としては,ZAMS の時の惑星の平衡温度より,中心星の進化に伴って上昇する現在の惑星の平衡温度のほうが適している.

これらの結果は,前主系列段階で惑星が収縮したのち,中心星の進化に従って再膨張したことを示唆するものである.

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