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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1702.00106
Zhou et al. (2017)
HAT-P-67b: An Extremely Low Density Saturn Transiting an F-Subgiant Confirmed via Doppler Tomography
(HAT-P-67b:ドップラートモグラフィーで確認された F 型準巨星をトランジットする超低密度土星型惑星)

概要

高速で自転する F 型準巨星をトランジットする,高温の土星型惑星 HAT-P-67b の発見を報告する.

HAT-P-67b は半径が 2.085 木星半径で,中心星 HAT-P-67 は質量が 1.642 太陽質量,半径が 2.546 太陽半径である.惑星は ~ 4.81 日周期で公転している.

視線速度観測から,この惑星の質量の上限値は 0.59 木星質量という制限をつけた.また,この惑星の質量の理論上の下限値は 0.056 木星質量であり,これはロッシュローブオーバーフローを起こして質量を急速に失わないために必要な質量である.

中心星は準巨星であるにも関わらず,中心星の自転は比較的速い状態のままである.射影した自転速度は 35.8 km/s であった.そのため,視線速度観測を用いた惑星質量の精密な決定が難しくなっている.

HAT-P-67b を惑星と確定させるために,惑星トランジットの 2 種類のドップラートモグラフィー (Dopplar tomography) における検出を行った.この手法により,食連星が視野に混ざっているために偽のトランジットシグナルを生成しているという可能性を排除した.
またドップラートモグラフィー観測から,この惑星の公転軸は中心星の自転軸に対して揃っていることが分かった.

この惑星は半径が大きく,質量は小さいため,HAT-P-67b はこれまでに知られている中で最も低密度な巨大ガス惑星の一つである.

研究背景

質量の大きな恒星の周りにある惑星は,大きな質量を持つ原始惑星系円盤の中で誕生したと考えられる (Muzerolle et al. 2003など).このような環境では,太陽型星よりも惑星の存在頻度が上がると考えられ (Jhonson et al. 2010など),また大きな質量の惑星の存在も期待される (Lovis & Mayor 2007など).早期型星周りの惑星はその一生の間に大きな日射を受けるので,惑星の質量-半径-平衡温度関係において基準点となりうる.

しかし,これまでに知られているトランジット惑星のうち,1.5 太陽質量より重い恒星の周りにあるのは全体の 1%のみである.
早期型星は半径が大きく,結果として惑星がトランジットした時のトランジット深さが浅くなる.また主系列段階における磁気的ブレーキが弱いため,恒星のスペクトル線が速い自転によって混合してしまいやすくなる (rotatilnally blended spectral lines).このことが,一般的な視線速度観測技術での惑星の確定を難しくしていた.

これまで,’retired A-stars’ の視線速度サーベイを行ってきた.これは,主系列段階から進化した恒星は膨張して自転速度が遅くなり,視線速度による精密な測定が可能なまでにスペクトル線がシャープになるため,その観測を行うというものである.

また,進化した恒星周りの惑星については,トランジット観測でも最近成功を収めている.その中には,ケプラーで浅いトランジットが同定されている準巨星や巨星周りの惑星を含む.例えば,ケプラー 56b, c (Huber et al. 2013),ケプラー96b (Lillo-Box et al. 2014),ケプラー432b (Quinn et al. 2015),KOI-206b, KOI-689b (Almenara et al. 2015),K2-39b (Van Eylen et al. 2016) である.その他には,主系列星の A 型星まわりにドップラートモグラフィーを用いて確認されたホットジュピター,WASP-33b (Collier Cameron et al. 2010),KOI-13b (Szabo et al. 2011など),HAT-P-57b (Hartman et al. 2015),KELT-17b (Zhou et al. 2016) などがある.

ここでは HATNet サーベイ (Bakos et al. 2004) による HAT-P-67b の発見を報告する.
中心星の HAT-P-67 は進化した星であるにも関わらず,射影速度 35.8 km/s の速い自転速度を持っており,精密な視線速度を得るのが難しい.そのため,シグナルを惑星と確定するために,ドップラートモグラフィーにおけるトランジット中の惑星の影の検出を行った.

惑星が高速自転星をトランジットする時,惑星は自転する恒星の円盤面の一部を連続して隠すことになる.これにより,恒星のスペクトル線の形状に非対称性が生じる.自転速度が遅い場合はこの非対称性は Rossiter-McLaughlin 効果 (ロシター効果) によって測定することが出来る (Rossiter 1924, McLaughlin 1924).
自転速度が速い場合,惑星の影は広がった恒星のスペクトル線中に同定することが出来る (Collier Cameron et al. 2010など).ドップラートモグラフィーのシグナルの検出が,測光観測でのトランジットでの幅と深さと一致していた場合,トランジットの偽の検出の原因となりうる食連星の混入の可能性を排除することが出来る.
また,視線速度観測からの質量の制限から,その天体の質量が褐色矮星質量より小さい場合は,その天体が惑星であるということが分かる.

パラメータ

HAT-P-67
表面温度:6408 K
金属量:[Fe/H] = -0.08
質量:1.642 太陽質量
半径:2.546 太陽半径
光度:8.68 太陽光度
年齢:1.24 Gyr
距離:320 pc
HAT-P-67b
軌道周期:4.8101025 日
質量:0.34 (+0.25, -0.19) 木星質量,1 σ の上限値は 0.59 木星質量
半径:2.085 木星半径
平均密度:0.052 g/cm3 (質量を 0.34 木星質量とした場合)
軌道長半径:0.06505 AU
平衡温度:1903 K

議論

HAT-P-67b は,これまで発見されている中で最も大きい惑星の一つである.また最も低密度の惑星の一つでもある.

この惑星の他にも,準巨星の周りで膨張した惑星が発見されている.KOI-680b (Almenara et al. 2015),EPIC 206247743b (Van Eylen et al. 2016),KELT-8b (Fulton et el. 2015),KELT-11b (Pepper et al. 2016),HAT-P-65b,HAT-P-66b (Hartman et al. 2016) である.
また巨星の周りにも,EPIC 211351816b (Grunblatt et al. 2016) が発見されている.

一つの仮説として,これらのガス惑星は進化した中心星の影響によって再膨張したという可能性がある (Lopez & Fortney 2016).このシナリオでは,中心星が主系列を離れて進化するに連れ,’warm Jupiter’ は強い中心星の輻射とより強い潮汐加熱にさらされる (初期の軌道離心率がゼロでないと仮定した場合).この加熱が,惑星を再膨張させるのに十分なほど深い領域に届き,惑星半径を増大させるというものである.

Hartman et al. (2016) では,惑星の膨張度合いは中心星の fractional age と相関しているという経験的な証拠を発見した.このアイデアも,進化した中心星による惑星の再膨張を支持するものである.
惑星大気のスケールハイトは ~ 500 km と大きく (水素分子大気を仮定した場合),これは透過光分光観測と紫外線による大気蒸発のフォローアップ観測に適している.
また,有意なトランジット時刻の変動は検出されなかった.

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